忌まわしき花嫁 6

JohnとMaryがパトカーから降りる。コートとマフラーを身に付けたSherlockは既に降りていて、別のパトカーのトランクからシャベルを取り出し、墓地の中へ向かっていった。MycroftとLestrade警部も後に続く。制服姿の警官たちも立ち会っている。

JW: 訳わからん。何か関係あるのか?

SH: 自分は正しかったということがわかれば、確信できる。

MW: Moriartyがどうやり遂げたかって?

SH: そうだ。

JW: でも本当に起こったことじゃないのに。頭の中の出来事だろ。

SH: 調査は空想だったが、事件は実際にあった、僕が説明したとおりに。

MW: 墓碑は友人たちによって建てられたんですって。

MH: 私にはわからないな、お前はここで何を見つけ出そうと考えているのか。

SH: やらねばならないんだ!

彼らが探している墓碑には、こう刻まれていた。

EMELIA RICOLETTI

BELOVED SISTER

FAITHFUL BEYOND DEATH

DIED DECEMBER 18 1894

AGED 26 

[EMELIA RICOLETTI / 愛される女性 / 死して尚、誠実に / 1894年12月18日没 / 享年26]

 

※Emeliaの墓碑に刻まれた言葉…SISTER、FAITHFULには別の意味もある。

   SISTER…姉、妹、女の親友、女性会員、(女性解放運動などの)女性の同志

   FAITHFUL…(友人に対して)誠実、(夫、妻に対して)貞節、忠実な信者・会員

 

 

Sherlockがシャベルを手にしてEmeliaの墓碑のそばに立っている。他の者たちは墓に面して設けれた歩道に集まっていて、その内のひとりの警察官もシャベルを持っていた。

SH: Ricoletti夫人はここに埋葬された。だがもうひとつの、「偽の自殺」の後で代わりに用いられた遺体はどうなったのか?

JW: 処分したんだろ。当たり前じゃないか。

SH: だが、どこへ?

JW: さあな、ここ以外だろ!

SH: だが、それこそ…それこそが、行われたことなんだ。共謀者が内部にいた。遺体を用意したんだ、Molly Hooperがあの時、僕に遺体を用意してくれたように…

Johnは険悪な視線を彼に向け、Maryは少し呆れた顔をする。Sherlockはきまり悪そうに言葉を切る。

SH: そうだな、うん、もうそのことに関して繰り返す必要はないよな?

そう言うとSherlockはシャベルの柄を掴んで地面を掘り返す姿勢をとった。

JW: 本気でやるつもりじゃないよな?

SH: そのためにここへ来たんだ!どうしてもやらねば。

地面を掘る態勢に入るSherlockからJohnは顔を背けた。

JW: ヤク中の戯言だ。

SH: 僕は真剣なんだ!

JW: (向き直って)いいや-君は注射が必要なんだろ。

SH: John…

JW: Moriartyが戻ってきた。事件なんだぞ!今まさに現実で取り組むべき問題がある。

SH: 取り組んでいる!リストの次の項目にしてある!今はこれをやらせてくれよ。

再び掘る態勢に入る。

JW: (声を荒げて)なあ、君がやりたいようにやってるのは、いつもみんなのおかげだろ。だからこんな羽目に陥ってる。

SH: (起き上がって)John、頼むよ…

JW: (怒って)今度は付き合ってられない、Sherlock、お断りだ。

左手を握り直しながら少し後ろに下がり、声を抑えて続ける。

JW: 仕事をする用意ができたら、連絡してくれ。

Maryの腕を取る。

JW: Maryを連れて帰る。

MW: (直ちに)何ですって?

JW: Maryに連れて帰ってもらう。

MW: そうね。

二人は去っていった。Mycroftが前に進み出る。

MH: 彼の言う通りだろう。

SH: (声を荒げて)だから何なんだ?いつだってそうだ。つまらん。

うつむいて少し間を空けてから言い添える。

SH: (声を落として)手伝ってくれるのか?

GregとMycroftを見やると、二人は視線を交わした。Mycroftは肩をすくめて墓碑を示す。

MH: 『女を探せ』か。(※)

Sherlockはシャベルを持ち上げ、地面に突き刺した。

 

※女を探せ

…元のセリフはフランス語の“Cherchez la femme”。直訳すると「女を探せ」となるが、「事件の陰に女あり」などと訳されることもある。「三銃士」を代表作に持つAlexandre Dumasの小説「パリのモヒカン族」(1854年)に登場する有名なセリフ。その後、小説や演劇など様々な作品に使われている。

 

 

夜になっていた。野外照明が設置され、発掘現場を照らしている。シャツとズボン姿で軍手をしたSherlockは首から下が埋まるくらいまで地面を掘り進めていて、今もまだ土を地上に放り出している。傍らでは同様にシャツの袖をまくり、軍手をしたGregが発掘作業を手伝っていた。Mycroftは墓碑のそばに立って懐中電灯を持ち、穴の中を照らしている。黙々と作業が続く中、Sherlockの刺したシャベルが何かに当たった。ようやく棺を見つけ、Sherlockはゆっくりと身体を起こした。

 

 

重労働にうめき声を上げるGregとSherlockは地面の上に上がっていた。Gregが足元にある棺の蓋の端へバールを差し込んで持ち上げると、Sherlockも彼からバールを受け取って、もう一方の端を持ち上げる。二人が蓋を外して棺の傍らに置き、Mycroftが中を懐中電灯で照らす。棺の中には肉体が腐食してほとんど骸骨となった遺体があり、眼窩には蛆が這っていた。かつて花嫁衣装だったと思われる残骸もある。Gregは後ろに下がり、Sherlockは棺の中を覗き込んだが、すぐに手で鼻と口を押さえた。凄まじい臭いに悲鳴を上げる。

SH: うわ!

Mycroftが棺に灯りを近づける。棺の脇にひざまずいたSherlockは呼吸を乱しながらも「もうひとつの遺体」を見つけ出すために中を漁り始める。

MH: やれやれ。「戸棚は空だ」(※)。

Sherlockは立ち上がって穴の中を見下ろす。

SH: 下に埋めたに違いない。棺の下に埋めたに違いない。

そう言って棺を飛び越えると、穴の中へ下りて手で土を掴み、上へ放り出していく。他の二人は穴の縁に歩み寄って彼を見下ろしたが、起き上がって視線を交わした。Gregがため息をこぼす。二人が再び穴の中を見下ろすと、Sherlockは懸命になって土を掘り返していた。

GL: 残念だったな、Sherlock。

Sherlockは半狂乱になって掘り返し続ける。

GL: 他の方法で始末したのかもしれないぞ。

MH: きっとそうだろう。そうでなくても、大昔のことだしな。我々はもう少し差し迫った問題を抱えているんじゃないか、弟よ。Moriartyが、死からよみがえったんだろう?

狂ったように土を掘り返していたSherlockは、不意に女性の歌うような声を聞いて手を止めた。

声: ♪わたしを忘れないで…

Sherlockは顔を上げて振り返る。GregとMycroftもその声を聞いたようで、棺に視線を向ける。かすれた声で女性は歌い続ける。

声: ♪わたしを忘れないで…

Mycroftが棺の中へ灯りを向ける。胸の上に置かれていた遺体の右手が動き出す様子に、Gregは顎を落とし、Mycroftは目を見張る。遺体の腕が持ち上がる。その骨がきしむ音にSherlockが眉をひそめていると棺が震え出し、遺体の頭が持ち上がり始めた。そこで女性の悲鳴が響き渡り、骸骨は目を見開くSherlockへ跳びかかった…

 

※戸棚は空だ

…元のセリフは“the cupboard is bare”。棚の中に食べ物がない、家族を養う金がない状態を指し、しばしば「助けてやりたいが、手立てがない」という意で用いられる。

 

 

…悪夢に飛び起きたように意識を戻したヴィクトリア時代のHolmesは、薄暗い断崖絶壁にある狭い岩棚に横たわっていた。激しい雨が降っているかのように水が彼の身体に降り注いでいる。肘で起き上がりながら苛立ったように言葉を吐き出す。

SH: なるほどね。まだ目を覚ましていないんだな?

あたりを見渡すと、岩棚の先には巨大な滝があり、凄い轟音を立てて水が流れ落ちていっていた。反対側へ視線を向けると、少し離れたところにMoriarty教授が立ち、彼を見ていた。空の上から月が二人を照らしている。Holmesは降り注ぐ水でびしょ濡れになり、顔をしかめながら鹿撃ち帽を深く被り直した。

JM: こんなに、Sherlock。こんなに深いところまで。

Holmesはよろめきながら立ち上がる。

JM: おめでとう。君は自らの精神の館に骨を埋める、最初の人物となる。

滝を眺めていたSherlockは彼の方へ顔を向ける。

SH: (背後の滝を示しながら)舞台設定がメロドラマ気味だと思わないか?

JM: 僕と君にとって?(降り注ぐ水しぶきを見上げて)全然。

SH: お前は何者だ?

JM: 知っているだろう。Moriartyだよ。(厭味な口調で)「犯罪のナポレオン」。

SH: (断固として)Moriartyは死んだ。

JM: 君の心の中では違う。(首を振って)そこで僕が死ぬことはない。頭脳をハードディスクと呼んでたね。(前に歩き出す)さあ、ウイルスに挨拶したまえ。こうやって終わるんだ、君と僕は。必ずここで、必ず一緒に。

立ち止まった彼に向かってHolmesがゆっくりと歩み寄る。

SH: 君は見事な頭脳を持っている、Moriarty。感心するよ。

Moriartyはわずかに笑みを浮かべる。

SH: 僕の頭脳と同等だと認めてもいいかもしれない。

Moriartyの顔に笑みが広がる。

JM: 感激だな。光栄だよ。

SH: だが断崖絶壁における、素手の闘いとなると…

Moriartyの笑みが消える。

SH: …君は滝の底へ落ちるんだ…

わずかに間を置いて。

SH: …阿呆め。

Moriartyは声を上げて彼に襲いかかり、両手で首を締めようとする。Holmesはその手を引き剥がそうとしながら後ろによろめき、鹿撃ち帽を頭から落とした。Moriartyの手がHolmesの耳を掴んで岩肌に彼の身体を押し付ける。Holmesは懸命にMoriartyを押し退け、顔面にパンチを食らわせる。荒く呼吸を乱す二人、Moriartyが相手に向かって喚き出す。

JM: おい、自分は立派で強いと思ってるんだろう、Sherlock!僕がいなければ!

Moriartyに顔面を殴られ、Holmesは地面に倒れ込む。立ち上がって反撃を試みるがMoriartyはそれを避けて彼の腕を掴み、再び地面へ叩きつけ、彼は危うく崖の縁から落ちそうになってしまう。何とか反対側へ身体を転がして墜落を免れるHolmesへMoriartyが歩み寄り、上から見下ろしながら怒鳴りつける。

JM: 僕は君の弱点だ!

地面に転がっているHolmesの頭を蹴って叫ぶ。

JM: 屈するがいい!

身体を蹴りつけられ、Holmesはうめき声を上げる。Moriartyはひざまずいて彼の顔を覗き込みながら怒鳴りつける。

JM: 足元をすくわれる度、よろめく度、弱っているとき…

Holmesは罵倒の猛攻撃に顔を歪める。Moriartyは彼の胸を殴りつけて立ち上がる。

JM: …そこに…いるのは…僕だ!

再びHolmesの胸を殴る。彼が起き上がろうとするとひざまずいて彼の胸倉を掴んだ。Holmesはされるがままになっている。

JM: やめとけ。歯向かおうとするな。おとなしく敗北しろ!

MoriartyはHolmesの身体を引きずりながら立ち上がる。二人はしばし揉み合いになるが、優勢にあるMoriartyがHolmesの身体を振り切ると片方の手で彼の腕を、もう片方の手で彼の首を掴み上げて押さえ込む。Holmesの顔を覗き込みながら狂ったように言葉を浴びせかける。

JM: 一緒に逝こうじゃないか?そうあるべきだよな?最後は必ず一緒だろ、君と…僕は!

すると二人から少し離れた場所で、誰かが聞こえよがしに咳払いをした。Moriartyが振り返ると、そこにはWatsonがわずかに笑みを浮べて立っていた。上に向けていた銃の打ち金を起こし、彼に狙いを定める。

JW: 教授、よろしければ僕の友人から離れていただけませんか。あなたの求愛行動をちょっと鬱陶しく感じているようなんでね。

Holmesは微かに安心した表情を見せ、Moriartyは苛立ちながら彼を解放する。

JM: ずるいじゃないか。二人組みだなんて!

JW: 僕らはいつも二人組みだよ。ストランドを読んでないのか?

Holmesへ向けて鹿撃ち帽を投げてやる。彼はそれを受け取り、何でもなかったかのような態度で頭に被る。WatsonがMoriartyへ銃を示して命令する。

JW: ひざをついて、教授。

二人を不平そうに見やりながら、滝の底を臨む、岩棚の縁にMoriartyがひざまずく。

JW: 両手を頭の後ろに。

Holmesを一瞥し、Moriartyは指示に従う。

SH: ありがとう、John。

JW: いつの間にJohnと呼ぶことになった?

SH: 知ったら驚くよ。(笑みを浮かべる)

JW: そんなことないね。(わずかに微笑みを返してからMoriartyへ視線を戻す)目覚める時だぞ、Sherlock。

再びHolmesに視線を向けると、顔を背けていた彼は向き直った。

JW: 僕は作家だ。自分が「その中」にいれば気付く。

SH: そうだろう。そうだろうな、John。(再び笑みを浮かべる)

JW: で、どんななんだ?そっちの僕は、そっちの世界では?

SH: 見た目より頭が良い。

JW: なら、とびきり頭が良いんだろうな。

SH: (ニヤリとして)とびきり頭が良い。

二人が笑い合うと、Moriartyは不平な声を立てる。

JM: ああ、もう。さっさと二人で駆け落ちしたらどうなんだ?

JW: 失敬だな!

SH: 無礼だな。

JW: さて…(銃を下げる)…構わないかな?

SH: もちろん。

WatsonはMoriartyの背後に歩み寄り、彼の背中を右脚で蹴り、滝の底へ突き落とす。Moriartyは叫び声を上げながら落ちていった。WatsonとHolmesは崖の縁から遥か下を見下ろす。Moriartyの声が聞こえなくなると、Watsonは起き上がってHolmesに顔を向けた。

JW: 僕の出番かと思ってね。

SH: たしかにな。

JW: で、どうやって目を覚ますつもりなんだ?

SH: (しばしあたりを見渡して)ああ、こうするしかないだろう。

そう言うとHolmesは崖の縁に立った。

JW: 本気か?

Holmesは振り返って言う。

SH: 君と僕の間では、John、僕は落ちても必ず復活する。

JW: だが、どうやって?

Holmesは前方を向いた。

SH: 初歩だよ、Watson君。(※)

鹿撃ち帽を滝の底に投げ捨てて、両腕を広げる。そしてそのまま下へ飛び降りた。鳥のように腕を広げたまま水平姿勢になった彼の顔には笑みが浮かんでいる。落ちるに従って、その笑みは大きく顔に広がっていった。

 

※「初歩だよ、Watson君」

… "Elementary, my dear Watson"。原作「背中の曲がった男」で当時別に生活していたWatsonのもとを久しぶりに訪れたHolmesが最近の彼の様子を推理してみせ、それに感嘆したWatsonに対して“Elementary(初歩だよ)”と言う。しばしば「初歩だよ、親愛なるWatson ("Elementary, my dear Watson")」と引用されることもあるが、若干違っている。

 

 

…Sherlockはジェット機のシートの中で身体を痙攣させ、目を覚ます。ぼんやりとした瞳の中、瞳孔が拡張している。頭を乗せているヘッドレストに誰かの手が置かれていた。混乱してあたりを見渡していたSherlockはようやくそばにいる存在に気づいて笑みを浮かべ、声をかけた。

SH: 「会いたかった?」

問い掛けられたのは彼の様子を窺っていたJohnだった。Maryは向かいの席に座り、心配そうに彼の方へ身を乗り出している。Mycroftは彼女から少し離れたあたりの通路に立っていた。

JW: Sherlock?だいじょうぶか?

SH: ああ、だいじょうぶだ。当たり前だろ?

MW: ちょっとオーバードーズだったのね。病院に行きましょう。

SH: そんな暇はない。(立ち上がろうとする)すぐにベイカー・ストリートへ戻らなくては。Moriartyがよみがえったんだ。

通路へ進もうとするが身体がよろめき、首をゆっくりと振ってバランスを取ろうとする。

MH: その方が良いとさえ思いかけた。こんなものからお前を守るためならば。

Mycroftは「リスト」を掲げて見せた。Sherlockは苛立ちながらそれを引ったくり、半分に切り裂き、それをまた半分に切り裂いた。

SH: 今はもう必要ない。(紙片を床に捨てる)「本物」がある。やるべきことがある。

そう言って出て行こうとするが、兄の声に足を止めた。

MH: (そっと)Sherlock。

Sherlockは視線を向ける。

MH: (そっと)約束してくれるな?

Sherlockはしばし機内を見渡し、再びMycroftへ顔を向けた。

SH: ここで何をやっているんだ?僕に恩赦か何かを与えるために動いてくれるんじゃないのか?いつもの兄さんだったらさ?

そして兄を肩で押し退けて出口へと向かっていった。Mycroftは観念しながら目を閉じる。MaryとJohnも彼を置いて出口へ向かおうとする。

MH: Watson先生?

Johnは足を止めて振り返った。

JW: あいつのことを…頼むよ。

Mycroftは微笑みかける。それは微かな笑みだったが、心から現れたものだった。Johnはうなずき、飛行機から出ていった。Mycroftは片膝をついて屈み込み、胸ポケットから手帳を取り出した。ブックマークの挟んであるページを開き、通路から切り裂かれた紙片を拾い、中に挟み込む。開かれていた左側のページには、ある言葉が四角く囲まれて書いてあった。

REDBEARD

その下に別の書き込み。

611174

Vernet?

その右側には対角行列のような記述がある。その二つの下に、二重線が引かれて強調された書き込みの一部が見える。

Scarlet Roll M(…)

その下には何やら数式のような、マクスウェルの方程式のような記述がある。
Mycroftは手帳を閉じた。
 

 

飛行機から降りたSherlockはコートを着ながら近くに停めてある車に向かっていた。

JW: Sherlock。待てって。説明しろ。Moriartyは生きているってことか?

Sherlockは車の少し前で足を止め、ポケットから手袋を取り出す。

SH: 生きているとは言っていない。よみがえったと言ったんだ。

MW: じゃあ死んでるの。

SH: 当然、死んでいる。頭を撃ち抜いたんだぞ。そんなことをして生きていられるわけがない。それを確証するためにわざわざオーバードーズをしてやったんだ。

Johnへきまり悪そうな視線を向け、下を向く。

SH: Moriartyは死んだ、疑問の余地は無い。もっと大事なのは…

顔を上げる。

SH: …あいつの次の手を、しっかりと把握することだ。

友に微笑みかけ、再び車へ向かい出す。Johnは困惑しながらMaryを見やった。


そして彼らを乗せた車は飛行場を去っていった。
テーマソングが流れ、画面が暗くなるが…

 

 

…Watsonの声が聞こえる。

JW: 空飛ぶ鉄の塊だとか、変な電話の機械だとか…

画面はヴィクトリア時代のWatsonとHolmesを映し出す。二人は221Bの居間で向い合って肘掛け椅子に座り、パイプを吸っていた。

JW: そんな頭のおかしな空想ってあるか?

SH: 未来がどの様になるかという僕の予想だよ、そして君や僕がどんな風に適応しているか、とね。

Watsonはうなずく。

SH: 一滴の水から、論理家は大西洋やナイアガラ瀑布が存在し得ることを推察するのだ。(※)

JW: ライヘンバッハの滝も、ね。

SH: 事件についてもう書き上げたのか?

JW: ああ。

SH: ふむ。僕の稀な失態のひとつとしておいてくれたんだろうね?

JW: もちろん。

Holmesはしばし考え込んで言葉を止める。

SH: 「見えざる…軍隊」…

Watsonは上を仰いで思案する。

SH: 「復讐の女神たち」?(笑みを浮かべながら前に身を乗り出す)「化け物連隊」。

JW: 僕はこれにした…「忌まわしき花嫁」。

SH: (後ろに座り直して)ちょっとあくどいな。

JW: それが売れるんだよ。実際の殺人事件が元になってるんだし、な。

SH: (パイプで彼を指して)君は流石だな。

JW: 君自身の話だが、使っているのは本当に7%の水溶液なんだろうな?量を増やしていたんじゃないか。

SH: たしかにちょっと空想的過ぎたかな…

考え込んで視線を落す。

SH: …だが、得てしてそういうこともあるだろう。

椅子から立ち上がる。

SH: どうあれ、僕はそんな世界でだってくつろいでいられるさ。

Watsonは含み笑いをする。Holmesは右手の窓へ歩み寄っていく。

JW: 僕を含めないでくれよ。

SH: 同意しかねる。

窓の外を眺める。

SH: とは言え、僕は自分が時代を超越した人間だということは承知している。

パイプをくわえて、窓から外の通りを眺める。隣の建物の一階には“SPEEDY'S Sandwich Bar & Cafe”がある。通りを歩いていくのは「現代」の人々。221Bの前を通る道路は車で混み合っており、ベイカー・ストリート行きのバスが走っていた。

 

※「一滴の水から、論理家は大西洋やナイアガラ瀑布が存在し得ることを推察する」

…原作「緋色の研究」に登場する、Holmesが著述した「生命の書」に記されている言葉。「一滴の水から、論理家は大西洋やナイアガラ瀑布が存在し得ることを、実際に見聞きすることもなく推察できる」