His Last Vow 6

Magnussenは二人を連れて、ガラスのドアから書斎の中に入った。奥にある木製の扉へ向かい、扉に手を掛けて二人の方へ振り返る。

CAM: 保管室の入り口だ。ここに君たちみんなを保管している。

前へ向き直り、取っ手を掴んで扉を開いた。カメラの視点は扉の中からMagnussenと二人を見る方向へと切り替わる。Magnussenはゆっくりと中へ進み、まだ画面に映されていないものを見渡す。SherlockとJohnは自分たちが見ているものが何なのかわかっていない様子だった。そしてMagnussenがゆっくりと向き直ると、カメラの視点は二人の背後からの方向へ変わった。扉の中は白く彩られた小さな部屋でしかなく、照明が眩しく中を照らしているだけだった。奥行きは数歩程度、高さも2.5メートルほどしかない。棚もなく、書架もなく、書類の入ったキャビネットもなく、グロテスクな人形や動物の剥製、彫像などもない。中に置かれているのは金属製で革張りのシートを持つ、低い背もたれの高価そうな椅子のみだった。Magnussenがゆっくりと振り返ってくる間、白い部屋の中をザッと見渡したSherlockはMagnussenに視線を戻した。

JW: そうか-で、保管室はどこなんだ?

CAM: (彼を見ながら)保管室?保管室って何だ?この建物の下には保管室なんて無い。

椅子に座り、部屋の中を示す。

CAM: すべてここにある。

Johnは眉をひそめて目を瞬く。真実を悟り始めたSherlockは目を見開いた。Magnussenは前に屈み込んで、ゆっくりと右手を上げてこめかみに指を当てた。

CAM: アップルドーの保管室とは、私の「精神の館」のことなんだ。君は「精神の館」を知ってるよな?Sherlock。

Sherlockはつばを呑み込んで少し口を開く。

CAM: 如何に情報を蓄えておくか。決して忘れないんだ-心に焼き付けることで。私はただここに座り、目を閉じる…(目を閉じ、ゆっくりと頭を下げる)…そして「私の保管室」へと下りていくんだ。

Magnussenは意識の中で、目を開いて木製の螺旋階段を下りていく。

CAM: (白い部屋で目を閉じて椅子に座っている)どこにでも行くことが出来る、私の「保管室」…

意識の中で、図書館のような保管室の中を歩きながら通り過ぎる棚に手を掲げる。

CAM: …私の記憶。

意識の中、精神の館の奥にある暗く不気味な場所に辿り着く。白い部屋にいるMagnussenは目を閉じたまま頭をわずかに左右に傾ける。精神の館で不気味な装飾品のそばを通り過ぎる。白い部屋で右手を持ち上げて前に伸ばす。

CAM: Watson夫人のファイルを見ようかな。

精神の館、書類がしまわれているキャビネットに右手を伸ばす。引き出しを引く音が聞こえる。白い部屋の外に立つSherlockは目を閉じて唇を噛み締めながら微かに首を振った。JohnはMagnussenを見つめている。Magnussenは両手を掲げ、前にある引き出しの中を探るように指を動かしている。彼には動かされる書類の音が聞こえていた。Johnは咳払いをし、Magnussenの精神がどのように働いているかを理解し始めたかのように、うつむいて強張った笑みを浮かべた。書類を探る指の動きを続けながらMagnussenは微かに鼻歌を歌い、精神の館にいる彼は書類を探している。

CAM: うーん、ああ。(白い部屋でフォルダを持ち上げるように右手を掲げる)これはお気に入りのひとつなんだよ。(椅子に寄り掛かる間、意識の中ではMaryの写真がクリップで挟まれた書類を眺めている)うん、わくわくするねえ。

白い部屋で目を閉じたまま頭を下げ、ファイルの中の書類をめくるように手を動かす。彼が静かに含み笑いをするのを聞きながらSherlockはショックを隠し切れない様子でうなだれる。Magnussenは意識の中で、カメラに残忍そうな顔を向けているMaryの写真が留められている書類を眺めている。他にも写真があるが不明瞭だった。

CAM: あの血なまぐさい仕事はみんなCIAのためだったんだな。おお!

白い部屋で想像上の書類を指差す。

CAM: 今は足を洗って…フリーランスってとこか。悪い娘だね。

想像上の書類をめくって鼻で笑う。精神の館でも再び忍び笑いをしながら「おお!」と愉快そうな声を出した。白い部屋では指を立てて更に含み笑いをし、楽しそうに想像上の書類をめくる。

CAM: ああ、まったく性悪な女だ。

精神の館でファイルを表紙に戻すと、白い部屋で右手を掲げ、閉じたファイルをキャビネットにしまう仕草をする。

CAM: 君がどうして彼女のことが好きなのかよくわかるよ。

両手を使って引き出しを閉める動作をする。精神の館でも同様に、そこにある引き出しを閉める。白い部屋で両手の手の平を掲げて見せ、目を開いてSherlockを見る。

CAM: わかったかい?

Johnは咳払いをする。

JW: 文書は何にも無いってことだな。実際にはここに何も保管してないんだ。

CAM: ああ、時々は何かを送り付けたりするけどね…(左手を掲げて腕時計を眺める)…本当に必要であれば…

Sherlockはわずかに目を閉じて、少し視線を逸した。

CAM: …でも大抵はみんな記憶してしまうんだよ。

JW: (首を振り)理解できない。

CAM: それをTシャツにしたらいい。

JW: みんな記憶してしまう、だと?

CAM: (Sherlockに視線を向け)知識ということなんだよ。「すべて」はね。知ることは所有すること。

JW: でもただ知ってるだけなら、証拠は無いってことだろ。

CAM: 証拠?何のために証拠が要る?私は報道の世界にいるんだよ、間抜けな奴だな。証明する必要などない-紙面にしてしまえばいい。

下に向けられたままでいる視線、そして表情から、ひどい計算間違いを仕出かしてしまったことをSherlockが痛感しているのが見て取れた。

CAM: (立ち上がり、ジャケットのボタンを留めながら)ニュースに関して言えば、明日、君たち二人は大々的に取り上げられることになるだろう-国家の機密を私に売ろうとしたとしてね。

残念そうに何度か舌を鳴らし、再び腕時計を眺める。

CAM: 外に出ようか。間もなくここに到着するだろう。

白い部屋を出て、ガラスのドアに向かう。

CAM: 君たちが逮捕されるのが待ち切れないよ。

Johnは出ていくMagnussenを見届け、友人に歩み寄る。

JW: (小声で)Sherlock、作戦はあるのか?

Sherlockはその場で固まったまま、焦点の定まらない目で白い部屋の床を見つめている。

JW: (キツく)Sherlock。

動かないままでいるSherlockを残してJohnは出ていった。Sherlockは絶望に陥りながら目を閉じる。

 

 

Magnussenは居間を進み、テラスへと出るガラスのドアへ向かう。外に出るとあたりを見渡した。空は暗くなっていて、夜に入ったところのようだった。Johnが続いてテラスに出る。

CAM: ちょっと遅れているようだねえ?

Johnは彼を見ずに傍に立った。

JW: まだ僕には理解できない。

CAM: (空を見上げながら)それはTシャツのバック(背面)だね。

ようやく書斎を出てきたSherlockがゆっくりとテラスのドアに向かっていく。

JW: (顔を向けてMagnussenを見る)あんたは知ってるだけだろ。それで一体どうするんだ?

MagnussenがJohnへ向き合うと、Sherlockがテラスのドアを出たすぐの場所に立ち止まった。

CAM: (Johnに)私はね、君の兵士ぶった顔が好きなんだよ。殴ってみたいもんだね。

Johnは目を大きく開けたまま、Magnussenを見つめ返している。

CAM: ちょっとここでやってみてくれるかな。

JohnはSherlockへ視線を投げる。

CAM: さあ。

やむを得ない様子でSherlockは目を合わせずに、そうしなければならない苦痛を堪えながらJohnに少しうなずいて見せる。

CAM: (Johnに)Maryのためだろ。顔を出し給えよ。

Johnが視線を返すとMagnussenはわずかにうなずいた。咳払いをしながらJohnはゆっくりと二歩だけ近付いた。Magnussenは彼に向き合い、顔の高さを合わせるために中腰になる。(Magnussenは非常に背の高い男だった)

CAM: ちょっと前のめりになって、顔を突き出してみて。

Johnは再び咳払いをしながら立っている位置を直す。

CAM: (ニヤニヤしながら)出来るかな?

含み笑いをしながら更に近くに身を屈める。Johnは目を合わせたまま指示通りにする。

CAM: さて、弾(はじ)いてみていいかな?

Johnは信じられずに鼻を鳴らし、うなだれて首を振ると再び顔を上げた。

CAM: 顔を弾かせてもらっていいかい?

唇をすぼめて再び相手の顔を見ながら挑戦的にJohnは自分の顔を差し出す。Magnussenは右手の甲をJohnに向けて掲げ、中指を丸めて親指で押さえた。その手をJohnの顔に近付けると中指で強く左の頬を弾いた。Johnは反射的に瞬きをすると、再び視線を合わせて首をかしげて見せた。Magnussenはもう一度彼の頬を弾き、クスクス笑った。

CAM: 私はこれが大好きでね。

Sherlockを見ると、彼は悲痛な面持ちで視線を落としていた。

CAM: 一日中やってられるな。

そう言って含み笑いをし、Johnに向き直る。

CAM: こういう風にするんだよ、John。私はMaryが痛めつけ、殺した人間を知ってる。

再び頬を弾く。視線を上げてMagnussenを見るSherlockの顔が険しくなっていく。

CAM: (Johnに)私は彼女を恨んでいる人間をどこで探せばいいかも知ってる。

まだ頬を弾く。繰り返し、弾く。兵士は為す術がなく、じっと耐えながら相手を見据えている。

CAM: その人間の居場所も知ってる、電話番号も知ってる。

二回、更に弾く。

CAM: みんな「精神の館」に-そのすべてが。

Magnussenへ向けるSherlockの眼差しがより鋭くなっていく。

CAM: (Johnに)今ここでそいつらに電話を掛けて、君の人生を崩壊させてしまうことだって可能だよ-もし君が…

Sherlockは苦悩の末に何かを決意したような表情を見せ始める。

CAM: (Johnに)…顔を弾かせてくれなければね。

そう言って三回顔を弾く。SherlockはMagnussenを見ながら微かに不敵な表情を浮かべる。

CAM: (Johnに)これが私の人に対するやり方だよ。これをすべての国々に対して行う…

再び顔を弾いて起き上がる。

CAM: …私は「知っている」からね。

Johnに向かって再び身を屈める。

CAM: 目にもやってみていいかな?

Johnは少し顔を背けて視線を外す。

CAM: 目を開けたままでいられるか見せてごらん、うん?

Johnが顔を向けるその前にMagnussenは彼の左の眉を弾いた。Johnは反射的に怯んで目を閉じる。Magnussenは鼻で笑って再び眉を弾いた。

CAM: ほら。Maryのためだろ。開けたままにして。

中指を丸めて親指で押さえる。

JW: Sherlock?

SH: (申し訳無さそうに小さく)言う通りに。すまない。

Magnussenはしばし彼の方に顔を向ける。

SH: 言う通りに…するんだ。

Johnは少し顔をしかめる。

CAM: (Johnの方へ向き直り)ほら。目を開けて。

没頭した表情でMagnussenはJohnの眉を弾き、繰り返し弾いた。Johnは目を瞬間的に閉じ、鼻で笑いながら顔を弾くMagnussenをにらみつける。彼が笑い出すとJohnは苛立たしげに呼吸した。

CAM: (愉快そうに)難しいだろう?(起き上がる)Janineは一回だけ成功したよ。(Sherlockへ視線を向けて)あの女はおもしろい音を出すね。

するとヘリコプターの近づいてくる音が聞こえ出した。屋根の上をヘリコプターが飛び、武装した警察の狙撃隊がテラスへ駆け寄っていく。ヘリコプターは数メートル離れた空中へ降下して留まり、スポットライトでテラスにいる男たちを照らし出した。彼らがプロペラの発する強風を浴びていると、ヘリコプターのスピーカーを通じてMycroftの声が響き渡った。

MH(スピーカーからの声): Sherlock Holmes及びJohn Watson。

ヘリコプターに乗っているMycroftはマイク付きのヘッドセットを装着している。

MH(スピーカーからの声): その人物から離れなさい。

Sherlockは視線を外す。Magnussenは彼の様子を見ている。

CAM: さあ行こうか、Holmesくん!

SH: (Johnのそばに進み出て、ヘリコプターの音に負けないよう大声で)確認するが、アップルドーの保管室はあんたの心の中だけにあるんだよな。他のどこにもない、そこだけなんだよな。

CAM: (ヘリコプターを見上げ)そんなものは実在しない。これまでも決して。

Sherlockは視線を落としてうなずく。

MH(スピーカーからの声): Sherlock Holmes及びJohn Watson。離れなさい。

Magnussenは緩やかにヘリコプターへ向かって手を振りながら前に少し進み出る。

CAM: (大声で)だいじょうぶ!彼らは無害だよ!

武装警官たちはライフルの狙いをテラスに定めながら配置場所へと近づいていく。

警官: (無線で)目標は武器を所持していない。繰り返す、目標は武器を所持していない。

JW: (友人へ視線を向けながら)Sherlock、どうするんだ?(ヘリコプターを見上げる)

CAM: (肩越しに)何にも!(二人へ顔を向けて)何にも出来なかったな!そう、私は悪党じゃない。悪魔のような策略などない。私は「価値ある資産」を獲得しているビジネスマン。君たちもそのひとつになるとはね!

ヘリコプターを見上げるJohnに顔を向けたSherlockは、彼を真っ直ぐな鋭い眼差しで見つめた。

CAM: すまないね。今回はヒーローになるチャンスは無いんだ、Holmesくん。

SherlockはJohnから外した視線を落としたが、その眼差しには決意が籠もっていた。Magnussenは彼から顔を背ける。

MH(スピーカーからの声): Sherlock Holmes及びJohn Watson、その人物から離れなさい。直ちに。

SH: (顔を上げて大声で)おい、よく調べろよ。

するとJohnのそばに進み出て彼のコートのポケットに手を入れ、再び離れてMagnussenへと歩み寄った。

SH: ヒーローじゃない…

Magnussenは彼に顔を向ける。

SH: …僕は高機能なソシオパスだ。

目を見開いてMagnussenをにらみつける。

SH: メリー・クリスマス!

そう言い放つとSherlockはJohnのピストルを掲げてMagnussenの頭に向け、発砲した。Johnが後退りして、Magnussenの身体が地面に倒れる前に、Sherlockはピストルをテラスに投げ出してから両手を掲げてヘリコプターの方を向いた。

警官: (無線で)男が倒れた、男が倒れた。

SH: (大声で)僕から離れてろ、John!(彼の方に振り返る)もっと離れるんだ!

JW: (絶望的に)何してんだ、Sherlock!(両手を掲げる)

MH: (半狂乱でマイクに)発砲待機!

狙撃隊は彼らへ顔を向けるSherlockにライフルの狙いを定めながらテラスに駆け寄る。

MH(スピーカーからの声): Sherlock Holmesを撃たないように!撃つんじゃない!

狙撃隊は配置に就き、ライフルのレーザー光をSherlockに向ける。

JW: (絶望に陥って)ああ、何てことを、Sherlock。

手を掲げたままSherlockはJohnへ顔を向けて告げる。

SH: Maryによろしく伝えてくれ。

苦悶に満ちた表情でJohnは彼を見つめる。

SH: もう安全だって伝えてやってくれ。

そして最後の一瞥を親友に投げかけると、ゆっくりと狙撃隊とヘリコプターへと向き直り、慎重にひざまずき始めた。Johnは絶望の眼差しのまま手を高く掲げている。同様に手を掲げたままテラスにひざまずくSherlockの顔は苦悶に満ちていた。ライフルから発せられるレーザー光の照準を顔に受けながら呆然と前方を見つめる彼にはわかっていた。誰も擁護出来ないような大変な行為を、大勢の人の前でしてしまったことを。「最後の誓い(His Last Vow)」を守るため、彼は一線を越えた。Sally Donovanの予言は違う形で現実となった。

MH: (そっと、苦悩に満ちて)ああ、Sherlock。何てことをしてしまったんだ。

Mycroftの目に映るSherlockは大人の姿ではなかった。テラスに立っているのは幼い少年時代の弟-怯えた顔をして上を見つめながら手を掲げている。ヘリコプターのプロペラが発する風に巻き毛の髪が乱され、目から涙が溢れて顔を伝う。少年はうつむいてすすり泣いた。

 

 

昼間。Mycroftが大きな会議室のガラス張りの壁に向かって立っている。恐らくエピソードの冒頭で委員会の参考人招致に使われていた部屋と同じものと思われる。外を眺めて立つ彼の右側にスーツ姿の男性が立っていた。

MH: 私の仲間は注釈を好む。この国は時に「鈍器(※)」を必要とする。則ち、時に短剣が必要となる-正確に、無慈悲に振りかざされる刀が。

左の方向へ顔を向ける。

MH: 我々がSherlock Holmesを必要とする事態はこれからも絶えず訪れるだろう。

後ろにあるテーブルに向かって座っている何人かの男性たちは黙ってMycroftを見ていたが、傍に立っている男性が口を開いた。

Edwin氏: もしそれが家族間の感傷ということであれば…

Mycroftは目を回して、ため息をつきながら男性に顔を向ける。

MH: バカなことを。私は兄弟への同情心に駆られているわけではない。

しばし視線を落として再びEdwin氏へ顔を向ける。

MH: 「もうひとり」がどうなったか知っているだろう。

Edwin氏はわずかに顔をしかめて視線を外した。Mycroftは再び窓の外を眺める。

MH: いずれにせよ、日々の暴動を引き起こさずにSherlockを投獄しておけるような刑務所など無い。しかしながら、代わりとしては…

左へ視線を向けるとLady Smallwoodがテーブルに向かって座っていた。

MH: あなたの同意を得られないと。

LS: 酌量の余地はありません、Holmesさん。

MH: 遺憾ながら、Lady Smallwood、私の弟は殺人者です。

Mycroftは再び窓の外を見つめた。

 

※鈍器

…a blunt instrument。個々の言葉の意味として > blunt=(刃先が)鈍い、(人が)無遠慮な、(理解力など)鈍感な / instrument=道具、手段、(人の)手先  > そこから「良心の呵責を感じずに物騒な仕事が出来る人間」を暗示している。

 

 

昼間の飛行場にて。一台の黒い車が滑走路に駐められているプライベート・ジェット機へ向かって走っていく。SherlockとMycroftがひとりの護衛と共にジェット機の鼻先のそばに立ち、車がやって来て停まるのを見ていた。その車のジェット機側の後部座席からMaryが、反対側からJohnが降りる。微笑みながらSherlockへ歩み寄るMaryの後ろからJohnがやってくる。

SH: (Maryに)僕のためにもJohnのことをよろしく頼めるかな?

MW: あら…(両手を彼の左右の肩に置き、互いに頬へキスして抱き合う)…心配しないで。わたしがあの人を守るから。

Sherlockは身体を離したMaryに微笑む。

SH: それこそ僕の(見込んだ)女だ。

だがその後、離れる二人の顔からは笑みが消え、Johnに悟られない程度にわずかに苦い表情になった。Maryは彼から離れてJohnが立っている少し離れた場所へ戻り、彼の手を取る。JohnはSherlockに挨拶するようにうなずいた。Sherlockは兄へと振り返る。

SH: これはJohn Watsonと交わす最後の会話になりそうだから…

Johnは辛そうにため息をこぼす。

SH: …時間をもらっても構わないか?

Mycroftは少し困った様子を見せたが、やがて護衛へ顔を向けて、顎でジェット機のサイド部分を示した。護衛とMycroft、そしてMaryがジェット機の翼があるあたりへ向かうとSherlockは笑みを向けるJohnと向かい合った。

JW: さて、僕らだけだな。

曖昧に飛行場を見渡しながら咳払いをし、近くへ進み出る。するとSherlockが出し抜けに告げた。

SH: William Sherlock Scott Holmes。

JW: 何だって?

SH: それがフルネームなんだ-「もし赤ん坊の名前を探してるんだったら」。

Johnはクスクス笑う。

JW: いや、超音波診断をしたんだ。ほぼ確実に女の子だよ。

SH: (そっと)ああ。(微笑む)そうか。

二人はしばらく気まずそうに、お互いを見ないようにして視線を外した。

JW: (曖昧に飛行場を見渡しながら)うん。(ようやくSherlockへ再び顔を向ける)実はさ、言うことが何ひとつ思いつかないんだよね。

SH: (視線を落として)ああ、僕もなんだ。

Johnが更に歩み寄って静かに告げるとSherlockは顔を上げた。

JW: ゲームは終わった。

SH: (断固として、目を合わせ)ゲームは決して終わらない、John…(声を落ち着かせていく)…でも新たな登場人物が現れたようだ。それでいい。「東風」は僕らを皆、果てまで連れていく。

JW: 何だ、それ?

SH: 子供の頃に兄貴が話してくれた物語。「東風」-その道程にあるものをすべてなぎ倒し、呑み込んでしまう恐ろしい力。

一旦言葉を止めて遠くを見る。

SH: 無価値なものを捜し出し…(Johnと目を合わせる)…大地から引き抜いてしまう。概してそれは僕のことなんだけどね。

JW: いいね(!)

SH: まったくどうしようもない兄貴だったよ。

二人は微笑む。Johnはうつむいて咳払いをした。

JW: で、どういうことなんだ?(顔を上げる)実際これからどこに行くんだよ?

SH: (つまらなそうに)ああ、ちょっと潜入捜査をしに東ヨーロッパへ。

JW: どれくらい?

SH: (Johnの頭上へ視線を上げて目を合わせないようにして)半年、兄貴の見積もりでは。あいつに間違いはないからな。

JW: それから?

「それから」が存在する見込みのないことを、彼は知らない。SherlockはしばしJohnと目を合わせると想いを巡らせながらうつむき、再び顔を上げて遠くへと視線を外した。そして肩をすくめる。

SH: さあね?

Johnはうなずくと視線を逸らし、深く息を吸い込みながら飛行場を眺めた。その様子をじっと見つめていたSherlockは再び彼が顔を向けるとうつむいた。

SH: John、伝えておくことが…あるんだ。ず、ずっと言おうとしてたんだけど、出来なかった。もう再び会うことはなさそうだから、今、言っておいた方がいいかなって。

そして長くためらった後、深く息を吸い込んで顔を上げ、Johnに目を合わせる。

SH: Sherlockって実は女の子の名前なんだ。

Johnは声を出さずに笑いながら顔を背けた。Sherlockは安心したような、穏やかな表情で慈しむようにその笑顔を見つめる。何も知らないJohnは笑みを浮かべたままで向き直る。

JW: 嘘だね。

SH: (肩をすくめ)試しに言ってみた。

JW: 君から娘の名前をもらう気はないよ。

SH: いいと思うんだけどな。

Johnはクスクス笑い、彼と目を合わせた。Sherlockはしばし受け止めた後で視線を落とした。そして手袋を外して右手をJohnに差し出す。

SH: 素晴らしい日々に、John。

長くためらった後でJohnは彼と握手を交わした。二人はそのまましばらく立っていたが、やがてSherlockは握っているJohnの手をもう一度小さく振り下ろし、手を離した。背を向けて手袋を嵌め直しながら去っていく。Johnは彼がジェット機のステップを上がり、中に乗り込む様子を見つめていた。

 

 

間もなくジェット機は滑走路を進み始めた。Sherlockは右側に窓がある席に座り、外を眺めている。MaryとJohnは手を繋いで車のそばに立ち、機体の左側を向けて飛び立つジェット機を見送っている。外を眺め続けるSherlockを乗せてジェット機は飛び去った。

 

 

-そこで暗転し、テーマ曲冒頭のドラムが鳴り始めるが……

 

 

曲が進む前に画面が静止した。間を置いてSPORTS 1チャンネルに変わり、サッカーの試合が映し出される。スコアは「SFC 0 – 0 INTER」。歓声が聞こえ、映像に解説者の声が加わる。

解説者: Smithが内側に。これはいいですね。

映像が少し乱れる。カメラの視点が引くと、それはパブの中にあるテレビで放送されているものだと判明した。

TVの解説者: Cassandraがシュートを打ちに来る…

TVの映像では、ひとりの選手がボールを蹴ったが、ゴールの上に外れていってしまった。選手は顔をしかめる。再び映像が乱れ、パブの男性客が店長に向かって文句を叫ぶ。

客: おい!TVはどうしちまったんだ?なんか壊れちまってるみたいだぞ!

TVの映像は更に乱れる。

別の客: ったく、ふざけんなよ!

パブにいたGregはTVの乱れる映像を見上げていた。しかし徐々に乱れが収まっていく映像の中にひとりの人物の姿が見え始めた。カメラの方を向かずに顔の右側を見せている、誰かの肩から上の様子らしい。カメラの視点は画面を見つめるGregへ向けられ、TVに何が映し出されたのかはわからない。だが鮮明になった映像を目にしたGregは衝撃に陥った。

客: あれ誰だ?

TVのスピーカーから声が発せられた。何かを使って加工されたハイピッチの男性の声。

声: (ハイピッチで)「会いたかった?」

音声は極端に低く歪められる。

声: 「会いたかった?」

 

 

Hudson夫人は221Bのリビングに掃除機をかけていた。点けっぱなしになっているTVからハイピッチの声が聞こえる。

声: (ハイピッチで)「会いたかった?」「会いたかった?」

夫人はTVの画面を見ると驚いて飛び上がり、恐怖の叫び声を上げた。

 

 

Bart's病院。研究室からTVのある部屋へ入っていったMollyは恐怖に包まれながら画面を見つめていた。

声: (ハイピッチで)「会いたかった?」

 

 

会議室にいるLady Smallwoodは椅子に座ったままTV画面を見上げていた。

LS: どうしてこんなことが?

Edwin氏: (そばに立ち、同様にTVを見上げている)不明ですが、国内のあらゆる画面にこの映像が-すべて同時に。

LS: 首相はお聞き及びなの?(Edwin氏へ顔を向けて)Mycroftは?

 

 

Mycroftは停車している車の後部座席に座り、電話で話している。

MH: だがそれは不可能だ。

ドアを開けて車を降りる。

MH: それは事実上不可能だ。

そこはまだ飛行場だった。Mycroftが視線を向けると、車のそばにはJohnとMaryが手を繋いで立っていた。眉をひそめるMycroftへMaryの手を離したJohnが歩み寄る。

JW: どうしました?

 

 

プライベート・ジェット機に乗っているSherlockは依然として窓の外を見つめていた。

男性の声(画面外): 失礼します。

顔を向けるSherlockに男性は電話を差し出す。

男性: お兄様からです。

電話を受け取り、耳に当てるSherlockの目は心なしか赤い。

SH: Mycroft?

MH(電話越しに): やあ、弟よ。亡命はどんな具合だね?

SH: まだたった四分しか経ってないぞ。

MH: (楽しそうな笑みを浮かべ、車の後部座席に座って電話で話している)まあ、さすがにお前も懲りただろうと思ってな。結論から言って、お前が必要となった。

SH: おい、いい加減にしろ。腹を決めたらどうだ。この期に及んで誰が僕を?

Mycroftのいる車内で、あの音声が聞こえる。

声: (ハイピッチで)「会いたかった?」「会いたかった?」

Mycroftの視線の先にはダッシュボードに設置された小さなTVがあった。画面に映し出されているのはカメラに向かって笑みを浮かべるJim Moriartyの写真。口の左あたりにメッセージがある。

MISS ME?

[会いたかった?]

写真に写っているJimの顎がアニメーション化して小さく上下に動き出し、音声が繰り返される。

声: (ハイピッチで)「会いたかった?」「会いたかった?」

 

 

ロンドンのピカデリー・サーカス、通り沿いの建物にある巨大なスクリーン。同様にJimの笑顔とメッセージが映し出され、スピーカーから音声が流れる。

声: (ハイピッチで)「会いたかった?」「会いたかった?」

音声が繰り返される中、ロンドン市内を見下ろすカメラの視点に変わる。

声: (ハイピッチで)「会いたかった?」「会いたかった?」

 

 

音声が流れる車内でMycroftは苛立つようなため息混じりの声で、Sherlockの質問に一言で答える。

MH: イングランド。

車の外、MaryがJohnへ顔を向ける。

MW: でも死んだんでしょ。あなた言ってたわよね、死んだって。Moriarty。

JW: 絶対そうだ。自分で頭を撃ち抜いたんだぞ。

MW: じゃあどうやって生き返るわけ?

JW: (右側へ顔を背けて)さあ、もしそうなら…あいつは「厚着」をした方がいいな。

Maryは彼の視線を追う。

JW: 「東風」がやって来る。

二人が見つめる先では、Sherlockを乗せたジェット機が戻ってきて着陸した。

 

 

再びテーマ曲のドラムが鳴り始め、今度は曲が進んでエンドロールが流された。

 

 

そして…いつものようにBBCのロゴなどが映し出された後で、今度は写真やアニメーションではないJim Moriartyの姿が現れる。顔の右側を向けていたJimは真顔でカメラへ顔を向け、通常の声で一言だけ言った。

JM: 会いたかった?