コテージの外、MycroftとSherlockが退屈そうに家の前にある庭を門の方へ向かって散歩していた。それぞれ火の点いた煙草を手にしている。

MH: Magnussenの件を諦めてくれて良かったよ。

SH: ほんとか?

MH: (立ち止まりながら)まだ興味はあるが。あいつはお前がいつも扱う類の「パズル」ではないだろう。どうしてそんなに…嫌う?

SH: (振り返って兄の方を向き)あいつは様々な人間を攻撃して、人の秘密を食い物にするからだ。おかしいか?

MH: 然程甚大なダメージを引き起こしはしない、どの重要な人物に対しても。そこに関して十分過ぎるほど抜け目がない。ビジネスマン、それがすべてだ。場合によっては我々の役にも立つ。必要悪だよ-お前が退治するドラゴン(dragon)ではない。

そう言って煙草を吸い込むMycroftのそばへ、先に進んでいたSherlockが笑みを浮かべて戻ってくる。

SH: ドラゴン(dragon)退治ね。僕のことをそんな風に思ってるのか?

兄が見ているのと同じ方向へ向いて煙草を吸い込む。二人はコテージに背を向けて並んで立っていた。

MH: (微笑んで)いや。(弟へ顔を向けて)お前が自分でそう思ってるんだ。

すると彼らの背後でコテージのドアが開き、Holmes夫人が顔を出した。

Holmes夫人: (不機嫌に)あなたたち煙草吸ってるの?

息子たちはあわてて煙草を持つ手を背中に隠し、素早く母へと振り返って子供のように同時に叫んだ。

MH: 違う!

SH: Mycroftだ!

夫人は疑わしそうな眼差しを二人に向けながら中に戻ってドアを閉じた。うまくごまかせたことに安堵した様子の不良息子Sherlockはドアを眺めながら肺に溜め込んでいた煙を長く吐き出した。少しドアの方へと進んでいたMycroftはゆっくりと彼の方へ振り返って話を切り出した。

MH: ところでだな、ある仕事の申し出があるのだが、お前には辞退してもらいたい。

SH: あんたの 「親切な申し出」はお断りだ。

MH: 私から遺憾の旨を伝えよう。

SH: どんな内容だったんだ?

MH: MI6は-お前に東ヨーロッパへ戻ってもらいたいそうだ。予想では生命にかかわることになるであろう、潜入捜査の任務だ。およそ半年。

煙草を口元へ近付けていたSherlockは手を下ろして少し驚いた様子を見せた。

SH: それでなぜ僕にやらせたくないんだ?

MH: (振り返って弟を見て)耳寄りな申し出だ…だが考慮したところ、お前は家のそばにいる方が有益性がある。

SH: 有益性(!) 僕にどんな有益性がある?

そう言ってSherlockは煙草を吸い込んだ。Mycroftはわずかに肩をすくめる。

MH: “Here be dragons”。(※)

吸い込んだ煙草を掲げて眺め、顔をしかめて咳き込む。

MH: これは私の口には合わない。中に戻る。

煙草を道端に落として足で揉み消し、コテージへ戻る道を進み出す。

SH: タールの低いのがいいんだろ。初心者みたいな吸い方して。

Mycroftは歩く速度を落とし、ドアに辿り着く前に立ち止まった。少し間を置いて振り返らずに告げる。

MH: それに、お前を失えば、私も心を傷めるだろうから。

煙草を口にして吸い込んでいたSherlockはその言葉を聞くと喉を詰まらせて咳き込み、振り返らないままでいる兄の方へ向き直った。

SH: それに対して一体何て返せばいいっていうんだ?!

MH: (振り返り、わずかに両腕を広げて)「メリー・クリスマス」?

SH: クリスマスは嫌いなんだろ。

MH: (混乱した風を装い)そうだった。(小さく笑みを浮かべ)恐らくパンチに何か入ってたんだろうな。

SH: 間違いない。もっと「おかわり」しに行けよ。

Mycroftは振り返って玄関の階段を上り、ドアを開ける。Sherlockは視線を逸らした。

 

※Here be dragons

…「未知の(危険な)領域」を指す言葉。中世ヨーロッパの地図における、危険な土地もしくは未開の地にドラゴンや神話に登場する生き物などを描いていた風習から。参照: Wikipedia「Here be dragons(英語版)

 

 

コテージの居間-JohnとMaryは少し左右に揺れながら固く抱き合っている。

MW: ねえ気付いた?Sherlockが私たちをここに呼び出して、お母様とお父様に会わせたのは、考えがあってのことだったのね。

JW: (微笑んで)すてきなお母さんとお父さん。結婚生活の良いお手本。そうだよな。

Johnの肩に顔を乗せていたMaryは少し具合が悪そうに眉をひそめて額に手を当てた。

JW: (Maryの様子に気付かず)そういう奴なんだよな、Sherlockって-いつも予測不能で。

立っていられなくなってきたMaryはJohnの身体に寄り掛かる。

JW: おい。(眉をひそめて身体を離し、Maryの顔を覗きこもうとする)おい。

そっとうめき声を出しながら崩れ落ちるMaryの腕がJohnの身体から離れる。目を閉じて床に崩れ落ちようとする彼女の身体をJohnがあわてて支える。

JW: Mary?どうしたんだ。Mary?

Maryの身体をそばにある肘掛け椅子へ寄せる。

JW: 座って。

椅子に身体を預けたMaryは意識を失っている。Johnは彼女の顔に手を当てる。

JW: Mary、聞こえるか?

するとドアを開けたSherlockが大股で部屋の中へ一歩入り、顔を覗かせた。

SH: Maryのお茶を飲むなよ。

そう言ってさっさと部屋を出ると、コート掛けからマフラーを掴んで先に進んでいってしまった。Johnは呆然とそれを眺め、振り返って妻の様子を窺う。

SH: (大きな声で)ああ、あとパンチもな。

隣にある別の部屋ではテーブルの上にグラスがひっくり返っていて、Holmes氏が目を閉じてソファに仰向けになっていた。Sherlockは父親の鼻に手を掲げて呼吸の状態を確認して先に進む。キッチンに入る彼をJohnが追っていくと、Holmes夫人が先程Sherlockが座っていた肘掛け椅子の上で眠っていた。ダイニングチェアに座っているMycroftは目を閉じてテーブルの上に顔を伏せている。ドアの上に掛けてある時計を見ると先程のキッチンの場面から約七分が経過していて、Sherlockのカウントダウンに狂いが無かったことがわかった。

JW: Sherlock?

手の甲を母親の鼻に近付けて呼吸を確認したSherlockはそばに立っているBillの前を通り過ぎてキッチン・テーブルに歩み寄った。

JW: (キッチンへ入りながら)身籠ってる僕の妻に薬を盛ったのか?

SH: (Mycroftの呼吸を確認しながら)心配するな。Wigginsは優秀な化学者だ。

Bill: 奥さんの服用量は俺が計算した。赤ん坊には影響しないよ。俺が看ててやるからさ。

SH: (マフラーを巻きながら)回復するまで見届ける。こいつの仕事はそういったところだ。

JW: (彼を凝視して)一体何てことをしてくれたんだ?

Sherlockは黙想的にうつむき、間を置いてから告げた。

SH: …「悪魔との取引」(※)。

 

-ある小さなレストランのドアを開けて入っていくひとりの男の姿がぼんやりと映し出される。男はドアを閉めて中へ進んでいく。その先には赤いテーブルクロスを引いた小さなテーブルに向かって座るSherlockの姿がある。入院患者用のガウンを着ている彼の横にはモルヒネの投薬器が取り付けられたスタンドが立っている。彼の前には食べかけの料理があり、ペンネやチェリートマトのようなものが皿に乗っている。テーブルの上には水の入ったグラスも置かれていた。Sherlockは近寄ってくる男の方を見ないままで口に入れていた食べ物を噛んで呑み込む。やって来たのはMagnussenだった。

CAM: 病院にいなくていいのかい?

SH: (顔を上げず)僕は病院にいる。ここは食堂だ。

カメラの視点がより明瞭になる。今回は衣服を替えることが面倒だったのか、不可能だったかのか、Sherlockはどうやら再び病院を抜け出したようだ。明らかに病院の食堂ではない小さなレストランには他の客の姿は見えず、離れたドアのそばには店員しかいない。Magnussenは「食堂」を見渡す。

CAM: そうかな?

SH: 僕の見解では、そうだ。

テーブルの向かいにある椅子をフォークで示す。

SH: どうぞ。

CAM: どうも。

Sherlockは皿にフォークを置き、腰を下ろすMagnussenに目を向ける。

SH: あんたのことをずっと考えてたんだ。

CAM: 君のことをずっと考えていたよ。

SH: ほんとか?

そこで少し苦しそうな様子を見せ、モルヒネの投薬器に手を伸ばして三回ボタンを押した。

SH: (Magnussenへ顔を戻して)アップルドーを見せてもらいたい。秘密、書類、人々についてあんたが手に入れたすべてを保管している場所。招待してもらいたいんだ。

二人は目を合わせる。

CAM: 私がそんなうかつなマネをすると、何が君に思わせたのかな?

SH: (そっと、だが熱を込めて)おや、あんたは漏らしている以上に、より大いに「うかつ」だと僕は思ってるよ。

CAM: (前に寄りながら、そっと)そうかな?

Sherlockはテーブルに両肘をついて両手を合わせると、前に寄ってMagnussenの目を見据えながら笑みを浮かべた。

SH: その「死んだ目」での凝視、そこから漏れている。

Magnussenは瞬きをせずに彼を見返していた。Sherlockは合わせていた手を離し、ゆっくりと向かい合っている男へと近づける。

SH: ただしそれは「死んだ目」ではないんだよな?

Magnussenの顔へと手を伸ばす。ゆっくりと、相手が何をされているか把握出来るように。Sherlockはたじろぎながら鋭く息を呑み込んで腕を伸ばし、慎重にMagnussenの顔から眼鏡を外した。Magnussenの目は顔から離れる眼鏡へ動いたが、やがてSherlockへ視線を戻した。

SH: あんたは読んでいる。

かすかに微笑みながら眼鏡を自分のもとへ寄せて見下ろす。

SH: 「ポータブル・アップルドー」。(わずかに鼻で笑ってMagnussenに視線を向ける)どうやって機能してる?

Magnussenは眼鏡を眺めている。

SH: フラッシュ・ドライブ内蔵?(自分の顔に眼鏡を近づける)4G ワイヤレス?

そう言って眼鏡を掛けたSherlockは顔を上げてレンズの状態を見る。しばらくすると首をかしげながら眉をひそめ、ゆっくりと眼鏡を外した。困惑しているかのように瞬きをし、手で持った眼鏡を眺めながらひっくり返してみる。

SH: 極普通の眼鏡だな。

CAM: はい-そうですよ。

Sherlockはわずかに顔をしかめながら、まだ眼鏡を見下ろしている。Magnussenは彼の様子を見ている。眼鏡がないために少しぼやけているが、視界に赤い文字が表示された。

PRESSURE POINT: > MORPHINE (ADD TO FILE)

[急所: > モルヒネ (ファイルに追加)]

視線を落として笑みを浮かべると、Magnussenは片手を伸ばしてSherlockの前にある皿のパスタを指で掻き分け、ブラックオリーブを発掘した。Sherlockは眼鏡を見つめたままでいる。

CAM: 見くびってくれたもんだね、Holmesくん。

Sherlockは尚も信じられない様子で眼鏡を見つめながら椅子に寄り掛かる。Magnussenは発掘したオリーブを皿から摘んで口にいれた。そのまま舐めた親指と人差し指をグラスの水で洗う。もう片方の手を伸ばしてSherlockから眼鏡を取り戻し、洗った指の水気を払って眼鏡を掛け直した。Sherlockはまだショックを受けている様子でゆっくりとテーブルに手を置く。

SH: (静かに)なら思い知らせてみろ。見せてくれ、アップルドーを。

CAM: (オリーブを噛みながら)それなりのものを払えば何でも手に入る。

Sherlockは視線を上げて相手を目を合わせる。

CAM: 私に注文をするのかな?

SH: クリスマス・プレゼントを。

CAM: それでクリスマスに君は何を私にくれるのかな、Holmesくん?

SH: 僕の兄を。

そう言ってSherlockが笑みを浮かべたところで場面は暗転した。

 

現在。Holmes家のコテージのキッチンでSherlockは黙想的にうつむいている。Johnは彼から顔を背ける。

JW: (そっと)もう、何なんだよ。

意識を失った兄を見下ろしているSherlockをキッチンに残してJohnは隣の部屋へ行く。ソファに横たわっているHolmes氏へ目を向けてから立ち止まり、顔をしかめて拳を握り締めた。

JW: Sherlock…

キッチンにいるSherlockは手袋を嵌めている。

JW: (隣の部屋から)…頼むから、気が触れたんじゃないって言ってくれ。

Sherlockはテーブルに寄り、Mycroftの手の下からシルバー・グレーのラップトップを抜き取る。

SH: 気を揉んでいてもらおう。

JohnがMaryのいる部屋へ行こうとするとヘリコプターの近づいてくる音が聞こえ出した。キッチンにいるSherlockが上を見上げる。

SH: ああ。(笑みを浮かべ)僕らの「リフト(※)」だ。

 

 

それから間もなく、ヘリコプターはコテージの前を過ぎたあたりに下りようとしていた。右腕にJohnのコート、左腕にラップトップを抱えたSherlockが先に外に出ていたJohnの後からコテージを出る。門を通ったところでヘリコプターがコテージの前に着陸した。

SH: (Johnの横へ歩み寄りながら)来るか?

JW: どこに?

SH: 君は妻を安全な状態にしたいか?

JW: ああ、当たり前だろ。

二人は振り返ってヘリコプターを眺める。

SH: 良し。これはとんでもなく危険なことになるだろうだからな。(矢継ぎ早で一息に)ひとつでも誤った動きをすれば僕らは英国の安全保障に背くこととなり大逆罪で刑務所行きだ。Magnussenはこれまで遭遇してきた中で極めてもっとも危険な男、そして包括的に僕らは非常に不利な立場にある。

JW: (憤然として)クリスマスだぞ。

するとSherlockは楽しそうに笑みを浮かべた。

SH: 僕も同感だ。

しかしJohnの表情から彼の心境を悟ると笑みは消えた。

SH: ああ、「実際の」クリスマスのことか。提案通りに銃を持ってきたか?

JW: 僕が君のご両親のクリスマス・ディナーに銃を持ってくるとでも?!

SH: (右腕に持っているコートを差し出して)コートの中か?

JW: (舌打ちしながらコートを受け取り)そうだよ!

SH: じゃあ行くぞ。

二人はヘリコプターへ向かっていく。

JW: どこに行くんだ?

SH: アップルドー。

 

※悪魔との取引

…“A deal with the devil”。キリスト教圏の国々の民話には、“A deal with the Devil”もしくは“A pact with the Devil”という「魂と引き換えに望み(若返り、富、権力など)を叶えてもらうよう悪魔と取引をする」というモチーフが多く使われている。有名なゲーテの戯曲「ファウスト」はドイツに実在した、悪魔と契約したという風聞がささやかれていたドクトル・ファウストゥスの伝説をもとにしたもの。-Wikipedia「Deal with the Devil(英語版)」「ファウスト

 

※リフト

…エレベーター、昇降機 / 空輸、輸送 / 歩行者を乗り物に乗せること / 手助け、手伝い / 揚力 / 精神の高揚、感情の高潮

 

 

アップルドー。広大な居間、一方の壁は前面ガラス張りで外が見渡せるようになっている。Magnussenは近づいてくるヘリコプターの音を耳にしてウイスキーのグラスを下ろした。「CAM」というロゴの入ったヘリコプターは下を見下ろすSherlockとJohnを乗せて降下する。邸宅からそれ程離れていない芝生の上に着陸するが、湾曲している長く白い革張りのソファに座ったMagnussenは彼らの到着の様子へ顔を向けることはなかった。ボディガードのひとりがヘリコプターへ向かい、別のひとりは外に設けられているテラスで立っている。SherlockとJohnを降ろしたヘリコプターは飛び去っていった。

間もなくボディガードが二人を邸宅の中へ案内していった。大きな南国風の観葉植物が並ぶエリアを進み、後ろからもうひとりのボディガードがついていく。Sherlockはソファから数歩離れたあたりで立ち止まり、Johnはその少し後ろで並ぶように立った。Magnussenがボディガードたちにうなずいて見せると彼らは立ち去っていった。

CAM: (グラスを持ち上げて)一杯勧めてもいいんだが、これは非常に稀少で高価なもんでね。

そう言ってウイスキーを飲む。SherlockはMagnussenの右側の少し離れたあたりに座った。満足そうに音を出してため息をつき、Magnussenとの間にラップトップを置いてソファの上で身体の左右に手を下ろす。それから脚を組むと両手で腿を叩き、前方を眺めた。

SH: (穏やかに)ああ。あんただったんだ。

彼らに向かい合っているガラスの壁には、篝火からJohnを助け出すSherlockの映像が投影されていた。映像はループしながら繰り返す。

CAM: そう、もちろん。

Johnは肩越しに後ろを一瞥して、前を二度見する。

CAM: 君の急所を突き止めるのは困難を極めたよ。

SH: ふむ。

Johnは映像が映し出されている壁へ歩み寄る。

CAM: ドラッグの件は一瞬足りとも真に受けなかったよ。

壁に近付いたJohnは呆然と口を開けて映像を凝視する。

CAM: どうあれ君はそれがバレたところで構いはしなかったんだろう?

Sherlockは首をかしげ、口を「への字」に曲げて肩をすくめた。

CAM: (スクリーンを眺めながら)でもほら、John Watsonのことはこんなに気に掛けてる。

スローモーションの映像の中、Sherlockは篝火からJohnを引きずり出している。

CAM: 君の「囚われの姫君(※)」。

Johnが振り向く。

JW: お前が…(Magnussenに歩み寄り、怒りを込めた絞り出すような声で)…僕を火に入れたのか?…影響力を示すために。

CAM: おや、私は君を燃やそうとなんてしてないよ、Watson先生。(座り直して前にあるテーブルにグラスを置き、Johnの方へ顔を上げる)人を待機させただけ。

Sherlockは考えを巡らせながら、立ち上がるMagnussenの姿を見上げる。

CAM: 私は殺人鬼ではないんでね…君の奥さんと違って。

Johnは険しい顔でMagnussenを見つめた。しばらくにらみつけた後でSherlockの方を一瞥する。Magnussenは映像が投影される壁へ歩み寄る。

CAM: 私の「影響力」がどの程度のものなのか説明しよう、Watson先生。

するとMagnussenは壁へ手を伸ばし、投影されている映像の片側の端に一本の指を当てた。ビープ音が鳴ると横に指を滑らせる。それに従って映像はスライドして画面から消えた。

CAM: (二人の方へ振り返り)こうした事情通にとって、Mycroft Holmesはこの国でもっとも力を持った人物だね。まあ…私を別として。

Johnは不審そうに首をかしげて見せる。Sherlockは口の端に小さく笑みを浮かべた。

CAM: Mycroftの急所は薬中の探偵、弟のSherlock。

話しながらソファの方へと戻っていく。

CAM: そしてSherlockの急所は親友のJohn Watson。John Watsonの急所は妻。John Watsonの妻は私の手中にある…(Sherlockへ顔を向け)…Mycroftも手中にある。(ソファに腰を下ろす)私がクリスマスに手に入れようとしているのは彼だ。

ラップトップは手の届く位置にあるにも関わらず、MagnussenはSherlockに向かって手を差し出す。Sherlockはソファの上でラップトップをMagnussenの方へ押し出した。

SH: 交換条件だ、「ギフト」ではない。

Magnussenが眉を上げてみせるとSherlockは立ち上がって少し前に進んでから振り返った。Magnussenはラップトップを手に取る。

CAM: 勘弁してくれるかな…(胸に抱え込んだラップトップの背面を指で撫でる)…既に私の物のようだ。

SH: パスワードで保護されている。

Magnussenはそれでもラップトップを撫でている。

SH: パスワードの見返りとして、Mary Watsonとして僕が知っている女性に関する、あんたが所有しているものをすべて寄越してほしい。

CAM: ああ、悪い娘だね、あの娘は。たくさん人を殺して。私が見たものを君たちも見た方がいい。

JW: 僕には見る必要はない。

CAM: 君も楽しめると思うけどね。

Johnはつばを呑み込むが、視線は外さなかった。

CAM: 私は楽しんでるよ。

Johnは驚きもしないという様子でうなずいた。

SH: (何気ない様子で)なら僕らにも見せてくれないか?

CAM: アップルドーを見せろと?

ラップトップをソファの上に置き、Sherlockを見上げる。

CAM: 秘密の保管室?それが君の望みかい?

SH: (熱を込めて)Maryについてあんたが持っているものすべてだ。

Magnussenは噴き出して首を少し振りながら笑い出した。うつむいて後頭部を掻きながらしばらくクスクスと笑う。Johnは口を歪ませてSherlockへ視線を投げる。やがてMagnussenは含み笑いを止めるとラップトップを見ながら軽く叩き、少し顔をしかめた。

CAM: なあ、私は本当に「良いもの」を期待してたんだよ。

SH: ああ、あんたはそのラップトップにあるコンテンツから…

CAM: …GPSの探知器入りのね。今頃、君の兄さんは盗みに気付いていて、その内セキュリティ・サービスがこの家に押し寄せてくるだろう。到着したら…(ラップトップを見下ろし)…極秘機密が私の手の中にあるのを目の当たりにする…(手を伸ばしてテーブルからグラスを取る)…そして私の保管室を捜索するのに十分に正当化された口実を得るわけだ。更なる情報が発見され、私は投獄される。無罪放免となった君はあの臭くて狭いアパートに戻り、また事件を解決していくんだ。ミスター・アンド・ミセス・サイコパスと一緒にね。

Magnussenが目を向けると、彼へと視線を固定したままでいたJohnは歯を食いしばっている様子で頬が少し動いた。Magnussenが再び話し出すと、彼は一度だけ素早い視線をSherlockに投げた。

CAM: (グラスを口元に近づけながら)Mycroftはこの機会を長いこと待ちわびていたんだよ。(グラスを覗きこんで更に近づける)とても、とても誇らしい兄貴になることだろうね。

ウイスキーを飲み干す。

SH: これから起こるだろうとあんたが把握している事実は、もう阻止出来ない。

画面外でMagnussenはグラスをテーブルに置く。

CAM: ではどうして私は笑っていられるんだろうね?

Sherlockを見上げて小さく笑みを浮かべる。Sherlockは考え込みながら彼を見る。

CAM: 訊いてくれるかね。

JW: (一歩近付いて)どうして笑っていられる?

CAM: (少し視線を落として)Sherlock Holmesはひとつ、途方もなく大きな間違いを犯している。愛するすべての人々の人生を破綻させてしまうような…(視線をSherlockに戻す)…大事にしているすべてのものまでも。

ゆっくりと立ち上がる。

CAM: 見せてあげよう、アップルドーの保管室を。

 

※囚われの姫君

…Damsel in distress。「映画・小説などで多用されるキャラクター類型・モチーフである。複数形で表記する場合もある。略称はDID。意味は「危機に陥る女性」、いわゆる「囚われの姫君」のこと。なお、英語の damsel は a young unmarried woman の意」「英雄が救出する対象としてのモチーフであり、有名な例としては、アンドロメダ(ギリシア神話)、クシナダヒメ(日本神話/ヤマタノオロチ退治)などがある」「こうした女性は若く魅力的で、悪漢・怪物・異星人などにさらわれ危機に陥ることが多い。多くはその際に縄や拘束具で縛られ、あるいは檻に入れられ、または監視付きの軟禁状態で自由を奪われていることがほとんどである。救出された場合に主人公と恋に落ちることも少なくない」-Wikipedia「Damsel in distress

His Last Vow 5