-口いっぱいに百本近くの煙草をくわえたSherlockが221Bのリビングを歩いていく。ダイニングテーブルに向かって腰を掛け、ラップトップに入力しているJohnの横を通り過ぎた。Sherlockはその画面を見ると顔をしかめて煙草を口から抜き取る。歩を進めながら背を向けたのでJohnは煙草を目にしなかった。

SH: (Johnのブログの一番上にあるものを復唱して)『John H. Watson』?

JW: (わずかに彼の方を一瞥して)うん。

Johnは入力を続け、Sherlockはソファに腰を下ろす。Johnが振り返った場合に備えて油断のない視線を向けながらペルシャスリッパに煙草を詰める。(※)作業を終えるとソファに寝転がってスリッパをその下に仕舞い込んだ。

 

※ペルシャスリッパ

…原作でHolmesはペルシャスリッパの中に煙草を仕舞っていた。

 

別の日。二人はキッチンでテーブルに向かって座っている。Johnは新聞を読んでいた。

SH: Henry?

JW: (視線を向けず)うるさい。

Sherlockはトーストにかぶりついた。

 

別の日。キッチンのテーブルで顕微鏡を覗き込んでいたSherlockは、肘掛け椅子に座っているJohnへ顔を向けた。

SH: Humphrey?

JW: (苛立たしげに)うるさい。

 

別の日。ジャケットを整えながら寝室を出てきたSherlockは浴室の前で足を止めた。中からシャワーを浴びている音が聞こえる。

SH: (大声で)Higgins?

JW: (浴室から大声で)あっち、行け。

しかめっ面をしてSherlockは立ち去った。

 

現在、会議場。

SH: 聞き出すのに何年も掛かった。

 

-Johnが買い物袋を提げて221の階段を上がってくる。疲れて溜め息をこぼしながらリビングへ入るとSherlockが書類を手にしてドアの左手に立っていた。Johnは一瞥しながら通り過ぎたが、立ち止まって戻ってきた。

JW: それ僕の出生証明書。

SH: うん(Yep)。

‘p’を強調して言い終えると立ち去っていく。Johnはその姿を見つめていた。

 

現在、会議場。Sherlockは訳の分からない様子でTessaを見ると、振り返って演壇に向かって進んだ。

SH: そしてあの女も-知ることになった。

 

-「ベルグレビアの醜聞」での場面、221BのリビングでIrene AdlerとSherlockが熱烈に視線を絡み合わせている。

JW: (出し抜けに)Hamish。

二人はJohnへ顔を向ける。

JW: John Hamish Watson-もし赤ん坊の名前を探してるんだったら。

 

会議場。

SH: (演壇に向かいながら)彼女がどこにいるかは神のみぞ知る。

すると目の前に彼女が現れた。一糸纏わぬ姿で彼をじっと見つめている。Sherlockは立ち止まり、邪魔が入って溜め息をこぼした。彼女は手を伸ばして彼の頬を撫でる。

SH: (苛立って)僕の頭から出て行け。忙しいんだ。

彼女が手を引くとSherlockは他の女性たちに向き直った。Ireneは姿を消す。

SH: (Tessaに)その名前が公にされたのはたった一度だけだ。

 

-ラップトップに結婚式の招待状の見本が表示されている。

Dr John Hamish WATSON & Miss Mary Elizabeth MORSTAN

Request the pleasure of your company

at their marriage

[Dr John Hamish WATSON & Miss Mary Elizabeth MORSTAN / 結婚式にどうぞお越しください]

Johnは画面を指差した。

JW: それも招待状に載せなきゃいけないの?

MM: あなたの名前でしょ。

MaryとJohn、Sherlockは221Bのリビングでラップトップの画面を見ている。

MM: 伝統に則って。

SH: (同時に)おもしろいから。

JohnがSherlockに顔を向ける横でMaryは笑いを噛み殺した。

 

Tessa(声): 楽しい結婚式を。

 

披露宴会場、Sherlockのグラスはゆっくりと床に向かって落ちていく。

 

会議場。TessaはSherlockににこやかな笑みを向ける。

Tessa: 楽しい結婚式を。

SH: (彼女を指して)結婚式。結婚式のことを知っていた、さらに重要なのは、結婚式の招待状を目にしていたことだ。せいぜい100人ほどの人物しかあの招待状を目にしていない。カゲロウ男が会ったのは五人の女性だけ。ひとりの人物が両方のグループに属する…(後方と前方に手を掲げる)…偶然の一致かもしれない。

MH: (画面の外から非難がましく)おい、Sherlock。

Sherlockは振り返った。Mycroftが演壇で議長の椅子の前に立っている。女性たちは姿を消した。

MH: 偶然の一致について我々ならどう述べる?

SH: (ゆっくりと歩み寄りながら)万物は滅多にそう怠惰なものとなり得ない。

MH: では、蓋然性として優位なのは…?

SH: 何者かが労を惜しまずこの結婚式に何かを見出した。

MH: 労を惜しまず、とは?

SH: (兄を鋭く見据えながら立ち止まり)嘘をつき、身分を偽った。

MH: それが示唆するのは…?

SH: 犯罪の意図。

MH: そしてまた…?

SH: 知能がある、計画を立てて。

MH: 明らかに。だがさらに重要なのは…?

 

グラスは落ちていく。

 

SH(会議場で): カゲロウ男。

 

グラスは落ちていく。

 

SH(会議場で): カゲロウ男は…

 

SH(披露宴会場で): …今日ここにいる。

足元でグラスが床に落ちて割れた。ようやく気付いて視線を落とす。

SH: (顔を上げて)ああ、失礼。私は…

床を見下ろし、苛立った声を出しながら咳払いをした。司会者/ウェイター長が彼に駆け寄る。

司会者: 新しいグラスをどうぞ。

SH: (グラスを受け取りながら)はい、ありがとう。はい、ありがとう。

客たちへ顔を向ける。

MH(会議場で): 何かが起ころうとしている-まさにここで。

披露宴会場でSherlockは半狂乱で考えを巡らせながらあたりを見渡した。背後にある会議場と前方にある披露宴会場を交互に振り返るが、客席へ顔を向ける。

SH: さて、何をしているところでしたっけ?

MH(会議場で): 一刻を争うかもしれない。

グラスを手にしながらHudson夫人とGregは不安そうに立っていた。Gregは夫人を見て眉をひそめる。

MH(会議場で): 部屋はお前の指揮下にある。

SH: (披露宴会場で少し首を振って)ああ、そうでした。グラスを持って立ち上がる。非常に結構。どうも。

MH(会議場で、厳しく): それを放すな。

披露宴会場、Sherlockは両手を掲げてからそれを下ろす仕草をした。

SH: ではご着席ください。

混乱しながら客たちは着席し、互いに文句を言い合った。Sherlockはしばらく客たちを見るとグラスをテーブルに置き、姿勢を正した。

SH: 紳士淑女の皆さん、良いスピーチを絞り出そうとするなと人は言うでしょう-さっさと離れろ、笑いを残して。私が胸に刻むことを試みるであろう賢明なアドバイスです。ですがここからは…

そこでSherlockは片手をテーブルについて前に飛び、ひらりとテーブルを乗り越えた。客たちは驚いて息を呑む。

SH: …第二部です。

客席の中央にある、通路になった空間へ進んでいく。

SH: 第二部にはより動作を取り入れていきます。私は…歩き回り、ちょっと物事を整理します。

歩を進めながらひとりひとりに視線を向ける。男性たちのそばには『MAYFLY MAN?(カゲロウ男?)』という言葉が表示されている。男性客で唯一Archie少年には文字がふられていなかった。

SH: どんな人物が結婚式に行くでしょう?それが質問です。どんな人物が面倒なことに煩わされてまで結婚式へと足を運ぶのでしょう?

三分の二ほど進んだところで周りを振り返る。

SH: ねえ、みなさん。

手を一度叩く。

SH: 結婚式は素晴らしいですね!好きですよ、結婚式。

MM: (小声でJohnに)あの人何をしてるの?

JW: (不安気に友人を見つめながら)何か悪いことが。

SH: (前へ戻りながらJohnを指して)そしてJohnも素晴らしいんです!それをまだ言い足りません。表面をなぞったに過ぎないのです。私は一晩中でも彼の衣服の深みと複雑性について語ることが出来るかもしれません…

Johnは信じられない思いで目を閉じた。Sherlockは前後を行きつ戻りつしながら男性客たちと心の眼に浮かぶタグを凝視する。

SH: …それに彼は料理も出来ますからね。…たしか…あ…そうだ…そうだ、豆(peas)で…

JohnとMaryは混乱しながら視線を交わした。Sherlockは歩きながら客たちを観察する。

SH: …一度。たぶん豆(peas)じゃない。たぶんそいつ(him)じゃない。ですが素晴らしい歌声を持ってましてね…もしくは他の奴だな。

苛立たしげに溜め息をこぼし、歯を食いしばる。

SH: あー、多過ぎる、多過ぎる、多過ぎる、多過ぎる!

怒りを露わにして顔をしかめると『MAYFLY MAN?』のタグはさらに大きくなって彼に迫ってくる。立ち止まって息を吸い込むとタグは消えていった。

SH: 失礼しました。Johnについて多過ぎるほどのジョークが!さて、ええと…

意識の中、Sherlockは会議場の中でMycroftをじっと見上げながらゆっくりと歩み寄っていく。

MH: 犯罪の意図。

SH(披露宴会場で): 何でしたっけ?ああ、そうです…

MH(会議場で): 尋常ではない手間を掛けて。

SH(披露宴会場で): スピーチ!(客たちに笑みを向けながら上座の席を指して)スピーチでしたね。(もう一度手を叩いて)お話しましょう…

MH(会議場で): それらすべてが示唆するのは…?

SH(披露宴会場で): …殺人(murder)。

Johnは溜め息をついてうなだれ、Maryは眉をひそめた。

SH: 失礼しました、「殺人(murder)」と言いましたか?「結婚(marriage)」と言うつもりで-ですが、ほら、考えてみるとそれらは似通った手順を踏むものでしょう。参加者は互いを知りたがり、そして終わりを迎えるのは片方が死ぬ(dead)とき。

‘d’を強調して言い終える。再びJohnは溜め息をこぼしてうなだれた。

SH: 公平を期せば、殺人の方がより速く進行しますがね。Janine!

Janineは少し目を見開いて顔を上げた。

SH: (ひとりの男性客へ歩み寄りながら)こいつはどうだ?満足出来る魅力があるか?(Janineにニヤついた笑みを向け、男性客の隣に座る女性へ視線を向ける)もっと大事なのは、ガールフレンドが着心地の悪い新しい下着を身に着けていること…(女性の上半身に注目するとブラジャー、もしくは何か身に着けている下着が窮屈そうなのがドレスの上から見て取れた。男性に目を向けるとジャケットに糸くずが付いている)…そして彼のジャケットにある糸くずを取ってやろうとしていない…(男性の首元にある汚れに目を向ける)…それから首の後ろにある汚れを指摘することも。現状、彼はひとりで家に帰っている。

Sherlockは背中に回した手に電話を持ち、親指で素早く入力をしていた。

SH: そして、彼はマンガとSFのオタクでもある。それらは常に凄まじく有難いもので-本当に何時間もつぎ込んでしまう。

含み笑いをする。

SH: Geoff、手洗いに。

Gregに顔を向けるとドアの方向を顎で示す。

SH: 用を足しに、すぐに。頼むから。

GL: Gregだ。

SH: 用を足しに、頼む。

Gregの電話がメールを受信して音を鳴らす。

GL: (ポケットを探りながら)何でだよ?

SH: さあ、知らないね。君の番なのかも。

顔をしかめながら再度ドアへ向けてしつこく頭を振って見せる。Gregは電話へ届いたメッセージを確認する。

Lock this place down.

[この場所を封鎖しろ。]

GL: ああ、実は、お前がそう言うもんだから…

Gregは立ち上がった。Sherlockは電話をポケットにしまう。

JW: Sherlock、いつになったら-このスピーチは終わりを迎えるのかな?ケーキを切らないと。

Gregがドアへ向かう間、Sherlockは満面の笑みを浮かべて踊るように歩いていく。

SH: ああ!紳士淑女の皆さん、口にする機会を私がようやく得るという、その時だけは抑えることが出来ません、『ヴァチカンのカメオ』。

あたかも自然な発言の流れであるかのようにして、最後の言葉をJohnに向けて放った。Johnは自分の席で姿勢を正す。

MM: 何て言ったの?どういう意味なの?

JW: (上着を下に引いて整えながら小声で)闘いの場だ。誰かが死のうとしている。

MM: 何ですって?!

JohnはMaryに向かって手を掲げ、静かにするように示した。Sherlockが客たちへ向き直ると、男性客のそばに再び『MAYFLY MAN?』のタグが浮かんでいた。

MH(会議場で): 絞り込め。

披露宴会場、Sherlockは顔をしかめてキツく目を閉じる。

MH(会議場で): 絞り込め。

披露宴会場、Sherlockはうつむいて再び目をキツく閉じる。

MH(会議場で): 絞、り、込め。

演壇の前に立つSherlockは苛立ち、怒り狂って叫び声を上げながら右の頬を強く平手打ちした。披露宴会場にいる彼も同様に平手打ちをする。

SH: (怒りながら大声で)違う!

それぞれの場所で左の頬を平手打ちする。

SH: (披露宴会場で怒りながら大声で)違う!

男性客たちの頭上からタグが消える。Sherlockは怒りながら両手それぞれの人差し指で指していく。

SH: お前じゃない!お前じゃない!

意識の中にいたMycroftの姿はどこかへ消えていった。Sherlockは落ち着きを取り戻すと掲げていた手を一旦下ろし、今度は上座のテーブルに向けて手を掲げる。

SH: (先ほどより抑えた声で)君だ。

Johnは姿勢を正して彼を見つめた。

SH: (片手をJohnに向かって掲げながら歩み寄っていく)いつも君なんだ。John Watson、君が僕を正しい場所に。

歩み寄ってくるのを見ながらJohnは立ち上がる。

JW: どうすればいい?

SH: うむ、君はもういい。謎を解くな。(鋭く)命を救え。

鼻から鋭く息を吸い込むとSherlockは客たちへ躁状態のような笑みを見せながら向き直った。

SH: 失礼。少し脱線してしまって。戻りましょう。(高い調子で)ふう!

手を叩いて床を見下ろす。

SH: ゲームをしましょう。

更に顎を引きながら目線だけを上げ、前方をじっと見据える。

SH: 殺人というゲームを。

背後にある上座で立っていたJohnは呆然として腰を下ろした。Sherlockは客たちを睨めつけながらうろつき始める。

MrsH: (非難がましく)Sherlock。

SH: (前へ進みながら顎の前で両手を合わせ)想像してください、誰かが結婚式で殺されようとしている。あなたなら誰を選びますか?

MrsH: 今あなたが一番人気なんじゃないかと思うわ、わたし。

SH: (背後に手を伸ばして)どなたかHudsonさんからグラスを少し遠ざけていただければ有難いんですが。更に重要なのは、結婚式という場においてのみ殺せるのは誰か?

振り返って男性、女性両方の客たちに添えられた『TARGET(標的)?』というタグを見る。それぞれ関係する人物たちが線で繋がれ、線の到達した身体の上にターゲットマークがある。

SH: たいていの人間はいつものどんな場所でも殺すことが出来ます。精神の鍛錬として、私は頻繁に友人や仕事仲間の殺害を計画してきました。

悪魔的な仕草で両手をこすり合わせながら上座へ戻っていき、Johnへ向かって手を掲げる。

SH: さて、Johnを毒殺するとします。

Maryは緊張した面持ちで夫を見やる。

SH: 食べ方がだらしない-簡単に死に至る。私は彼に化学物質や化合物を与えたことがあります-そのやり方に気付きやしませんでした。彼はかつてある水曜の一日をふいにしたこともあるんですよ、心当り無しで。Lestradeを殺すのなんて楽なもんです、その誘惑に誰も屈していないだなんて奇跡ですね。(振り返って部屋の後方に向かう)私は兄の家の鍵も持っているんです-簡単に侵入して窒息させられるでしょう。

Sherlockは首を締める仕草をしてみせたが、そこで自分は先に進み過ぎてしまったかもしれないと気付いたようだった。

SH: …もし、もしその気になれば。

Tom: (Mollyに小声で)あの人酔っ払ってんじゃないの?

するとMollyは彼の方を振り返ることなく、彼の手の甲にフォークを突き刺した。

Tom: (手を握り締めて)痛!

SH: では、もう一度、ここだけで殺すことが出来るのは誰ですか?

振り返って客たちに顔を向ける。すると彼のそばにあるいくつかの席から客がいなくなっていた。Sherlockが手で払うとそこに残っていたままの『TARGET?』タグも消える。

SH: 明らかに稀な機会、ですからあまり外に出ない誰かです。

視点が変わると更に客たちと添えられていたタグが消えていた。

SH: 計画的な社交上の遭遇が数ヶ月に渡って知られている人物は除外です。他に無い機会のはずです。

振り返ると客たちが更に姿を消している。

SH: そして公の場で殺害するのは困難ですから…

再び振り返ると更に客たちが減っている。

SH: …私的な場での殺害は選択肢に無いのです。寄り付きにくい、もしくは知られていない場所に住む誰か、なのでしょう。

そして振り返ると視界にある席はすべて空席になっていた。

SH: 非社交的、恐らく、個人の身辺警護に熱心な人物。

前方に進むと最後の『TARGET?』タグが視界に入ってきた。タグは部屋に残された唯一の人物を指している。Sherlockはその人物に向き合う。それはSholto少佐だった。

SH: ことによると脅迫を受けている人物。

タグにある疑問符が消え、そしてタグそのものが消えた。Sholtoの身体に重ねられていたターゲットマークはしばし赤く点滅して消えた。視線を感じたのか、Sholtoは顔を上げてSherlockを見た。Sherlockも彼を見つめる。

 

-221Bのリビング。

SH: James Sholto少佐。誰だ?

MM: わたしは来ないと思うけど。

JW: きっと来てくれる。

 

-少し前の披露宴会場。

JW: ここ最近はどちらにお住まいなんです?

Sholto: ああ、遠く人里離れたところだよ。

 

-兵舎の近くにある公園のベンチ。

JW: (Sherlockに)マスコミと親族たちに地獄を見せられてね。死の脅迫を受けることになってしまったんだ、君よりもっと。

 

披露宴会場、客たちは戻ってきていた。Sherlockは何気ないフリを装って近くにあるテーブルへ歩み寄る。ベストに装着しているチェーンに繋がったペンを取り出しながら、席札のひとつを手に取った。

SH: ああ!世捨て人、王室仕えのスタッフ。

-会議場。

SH: 仕事は。

Gail: 庭師。

Charlotte: コック。

Tessa: 付添看護婦。

Vicky: メイド。

SH: (披露宴会場で、手にした席札に文字を書き込みながら)追加警備のための高い転職率。

-会議場。

Robyn: 警備をやってます。

SH: (Sholtoに歩み寄り何気なく席札を彼の前に落として離れる)恐らく皆、秘密保持の契約書に署名をしたのでしょう。

-会議場。

SH: 誰にも明かしたことのない秘密はあるか?

女性全員: (同時に)いいえ。

SH: (披露宴会場で)残された疑問がもうひとつ、しかしながら-大きな疑問、絶大な疑問です。どのようにして行うのだろうか?どのようにして公の場で人を殺すのだろうか?

Sholtoは席札を手に取り、書かれている文字を読んだ。

IT'S YOU

[それはあなた]

SH: 経緯があるはず。これは計画されていたのです。

Archie: (座っていた椅子から飛び上がって)Holmesさん!Holmesさん!

SH: (立ち止まって彼の方へ振り返り)ああ、また会ったね、Archie。(Archieの視線の高さに合わせるために前に身体を傾ける)君の仮説は何だい?これがわかったら『首無しの修道女』(※)をあげよう。

Archie: 透明人間ならできるんじゃないかな。

SH: (非常に早口に)誰が、何を、何故、いつ、どこで?

Archie: 透明のナイフを持ってる透明人間だよ。衛兵を殺そうとした奴。

Sherlockは息を呑んで起き上がり、目を見開いた。意識の中の彼は221Bのリビングに立ち、ソファ後ろの壁に貼られたウェディング・プランの書類を見ている。壁にピンで留めてある結婚式の招待状に注目する。『サットンマレット St Mary教会 5月18日 日曜日 12時』

TO DOリストに移動し“Venue(会場)”という言葉に注目する。そこには外から披露宴会場を写した写真がある。再び“Venue”に目を向けると今度は兵舎の外で行進している兵士たちの姿が見えた。

視線を “Plan(計画)”という言葉に向けると兵舎の外で警備をしているBainbridge隊員のクローズアップが見え、彼が注視していた道の向こうにいる三人の観光客が立ち去るとストーカーの姿が現れた。

“Rehearsal(リハーサル)”という言葉に目を向ける。フラッシュバックの中で監督軍曹がシャワー室へ入っていきBainbridgeの名を呼びながら個室のドアを叩くが、そこで目にしたのはぐったりした彼の身体と血の混じったシャワーの湯だった。“Rehearsal”に視線を戻し、顔をしかめる。

披露宴会場、Sholto少佐が立ち上がり、窓辺に立てかけてあった儀刀を手に取ると出入口の扉へ向かう。Sherlockは顔を背けていったん目を閉じてから再び開いた。

SH: (そっと)ああ、計画しただけじゃない。計画し、リハーサルを行ったんだ。

振り向くとSholto少佐は扉を開け始めていた。Sherlockは振り返って急いで上座へ向かう。通り過ぎる途中で近くのテーブルにあった誰かのグラスを勝手に取って持っていく。

SH: 紳士淑女の皆さん、ここで短い休憩を挟みます。

上座のテーブルの前へ滑り込み、客たちへ向き直って手にしていたグラスを掲げる。

SH: 新郎新婦に!

少しあやふやながらも客たちは立ち上がってグラスを掲げた。

客たち: 新郎新婦に!

するとSherlockは素早く後ろにいるJohnへ顔を寄せて告げた。

SH: Sholto少佐は殺されようとしている。どうやってなのか誰によるものなのかわからない、でもそれは起ころうとしている。

振り返ったSherlockは進路を妨げる客たちを掻き分けながら出入口へと向かう。

SH: 失礼、通ります!

Johnはそれを見て直ちにMaryの方を向き、彼女の頭に片手を添えてキスをした。

SH: (客たちを押し退けながら)話がある!

JW: (Maryに)ここにいて。

MM: 気をつけてね。

Johnは立ち上がり、客たちの間を通り抜けてSherlockの後を追っていく。

JW: 失礼します。通ります!失礼。

Maryはほんのわずかの間だけ躊躇ったが、席を飛び出して二人の後を追った。

MM: (客たちに)すみません、もうひとり。おおっと!ごめんなさいね!どうも!

客たちは文句を言い出し始め、戸惑いながら言葉を交わした。

 

※首無しの修道女

…headless nun。このドラマシリーズが放送される前に製作された未放送パイロット版(unaired pilot)のA Study in Pink(ピンク色の研究)では同じ言葉が『合言葉』として使われている。パイロット版ではSherlockがタクシー運転手を罠にかけるためにレストランのオーナーAngeloに協力を依頼する。それはSherlockが“headless nun”という言葉を発したらAngeloが酔っ払いのフリをした彼を店から追い出すというものだった。

 

 

Sholto少佐は上の階にある彼が使っている寝室へドアを開けて入った。ベッドの上に儀刀を置いてスーツケースのジッパーを下ろす。蓋になっている方を持ち上げて後ろに倒し、一番上にあった畳んであるシャツを倒した蓋の内側に置く。そして残された荷物の一番上にある大きなピストルを手に取った。

 

下の階、階段半ばにある踊り場でSherlockはキツく目を閉じながら両手の指先を左右のこめかみに当てて考え込んでいる。Johnは彼のそばで苛々しながら歩き回る。

JW: 何でどの部屋か憶えてないんだよ?君は何でも記憶してるじゃないか。

SH: (苛立ちながら)何か削除しないと!

するとドレスの裾を踏んでしまわないように片方の手で持ち上げながら走ってきたMaryが二人の間を通って階段を駆け上がっていった。

MM: 207。

二人はMaryの後に続き、Sherlockはすぐに彼女を追い越した。MaryはJohnの手を取って一緒に先を急ぐ。

 

二階に辿り着いたSherlockは207のドアをノックしながらドアハンドルを動かしてみた。

SH: (ドアハンドルを必死に動かしながら)Sholto少佐?Sholto少佐!

右の手の平で繰り返しドアを叩く。

SH: Sholto少佐!

Sholto: (ベッドのそばにある椅子に腰掛け、ドアの外に聞こえるように大きな声で)誰かが私の命を奪おうとしているなら、それは初めてのことではない。覚悟は出来ている。

ドアへ歩み寄るJohnのために一歩引いたSherlockは、痺れる右手を開いたり握ったりしていた。

JW: 少佐、中に入れてください。

MM: ドアを蹴破ったら。

Sholto: 応じられない。私の手には銃がある、そして不運が災いした人生。

SH: (再びドアに歩み寄り)そこにいても安全ではない。追ってくるのが誰であろうと、部屋に鍵を掛けても阻止出来ないのはわかってる。

Sholto: 「透明のナイフを持った透明人間」。

SH: どうやってやるのかはわからない、だから阻止出来ない、再びそいつはやるということだ。

Sholto: (鋭く)ならば謎を解け。

SH: な-何と?

Sholto: 有名なHolmesさんなんだろう、事件を解決する。やり給え。

Sherlockは姿勢を正しながら目を泳がせた。

Sholto: そいつがどうやってやったのか言えばドアを開けよう。

Johnは再び前へ進み出る。

JW: お願いです、ゲームをしている場合ではありません。中へ入れてください!危険に晒されてるんですよ!

Sholto: では君たちもだ、ここにいる限り。

ドアの前にあるスペースで前後に歩き回るSherlockをMaryが見つめている。

Sholto: 頼むから放っておいてくれ。世間ではあのように言われているが、私は本当に道連れを良しとしないのだ。

MM: (Sherlockに)謎を解いて。

Sherlockは立ち止まりMaryを見る。

SH: 何て?

MM: 謎を解いて。そしたらドアを開けてくれる。そう言ったでしょ。

SH: さっきまで解けなかったのに、どうやって今それが出来ると?

MM: 今それが重要だからよ。

SH: 何を言ってるんだ?(Johnを見て)君の妻は何を言ってるんだ?ちゃんと管理しろよ。

JW: 彼女が正しい。

SH: おい、君は変わったな!

JW: いや、正しい。(身体を向けてSherlockを指差し)黙れ。君は謎解き男じゃない-今までだってそうだ。君はドラマ・クイーンだ。

(※ドラマ・クイーン…何でもかんでも大げさに騒いだり、過剰に反応する人。劇的な振る舞いを好み、自分が中心でないと気が済まない人)

Sherlockはポカンと口を開けてJohnを呆然と見つめた。

JW: (声を荒らげて)ほら、そこに死にかかってる人間がいるぞ。(皮肉を込めて)『ゲームが始まる』。(怒りを込めてドアを指差し)解決しろ!

SherlockはJohnに向かって歯軋りをすると突如、視線をパッと上に向けた。意識の中で彼が見ているのは白い背景の中、衛兵の制服姿で気をつけの姿勢をして立っているBainbridge隊員の姿だった。Bainbridgeの身体は透明のターンテーブルに乗っているかのように回転し、Sherlockは彼が装着している白いベルトに注目する。意識の中の映像は同様に透明のターンテーブルに乗っている儀式用の軍服に身を包んだSholto少佐の姿に変わり、やはり胴体の白いベルトにクローズアップしていった。それからSherlockは下の階にあるキッチンで牛肉の塊に刺さった串へ手を伸ばすウェイターの姿を思い起こした。兵舎のシャワー室でBainbridgeはベルトを緩める。ウェイターはゆっくりと肉塊から串を引き抜いていく。Bainbridgeは腰からベルトを外す。串が抜かれると肉塊に空いた穴から血と肉汁が溢れ出す。Bainbridgeは具合の悪そうな様子で少しよろめく。肉塊の穴から血が流れ出てくる。監督軍曹がBainbridgeの名を呼びながらシャワー個室の扉を叩く。Bainbridgeは個室の中で床に崩れ落ち、扉の下から血の混じったシャワーの湯が流れ出す。

Sholtoの部屋の前にいるSherlockは意識を集中させている間に閉じていた目を開いた。Maryに歩み寄り、両手で彼女の頭を包んで額にキスをする。

SH: (Maryを放し、Johnを指差して)公平を期せばだが、こいつだってドラマ・クイーンだ。

MM: ええ、知ってる。

Johnは眉をひそめる。Sherlockはドアへ歩み寄り、大声で呼びかけた。

SH: Sholto少佐、誰もあなたを殺しにやって来ない。申し訳ないがあなたは既に何時間も前に殺されていた。

Sholto: 何と言った?

SH: ベルトを外してはいけない。

Sholto: ベルト?

SH: (振り返って他の二人に)ベルト、そうだ。Bainbridgeは僕らが目にする何時間も前に刺されていた、だがそれはベルト越しにだったんだ。

-結婚式に向けて服装を整えるSholto少佐がベルトを装着している。

SH: キツいベルト、腰の上に高く装着される。素材を通して小さな刃物を刺し込むのは至極容易、刺されたことを感じない。

Johnは理解しながら頷いた。

JW: そ、そのベルトがキツく締められていれば傷口は塞がれた状態のまま…

SH: その通り。

JW: …そしてそれを外したとき…

SH: 刺された反応が遅れて現れる。いくらでもアリバイを工作することが出来る。

そしてドアハンドルを必死に動かす。

SH: Sholto少佐?

Sholto: では-私は自分の制服で殺されるところだったのだな。なんと相応しい。

少佐は立ち上がり、壁にある鏡で自分の姿を見つめた。

MM: 事件の謎を解きました、少佐。今ならドアを開けていただけますよね。約束は約束です。

Sholto: 私はこれ以上このままにしておくわけにはいかない。彼らは特別猶予を与えてくれたのだ。この制服無しでの人生など想像出来なかった。私は-その事実を知らされては-そうする必要はない。

ピストルをベッドに投げ出し、再び鏡を眺める。

JW: そこで何をなさろうとも、James、止してください、今すぐ。このドアを蹴破ります。

Sholto: Holmesさん、あなたと私は似ていると私は思う。

Johnがドアから振り返るとSherlockが歩み寄った。

SH: はい、僕もそう思います。

Sholto: 常に死に備えているのではないかね?

SH: もちろんそうです。

Sholto: そしてそれが訪れた時には迎え入れるべきなのだ-兵士のように。

SH: (断固として)当然そうです、だがJohnの結婚式においてではない。我々はそんなことしないでしょう?-あなたも僕も。我々はJohn Watsonに対して決してそんなことをしない。

Sholtoは目を閉じた。Sherlockはドアから離れ、代わりに歩み寄ったJohnがドアに耳を近付けて何か物音がしないか確かめるとジャケットを脱いだ。

JW: 壊して入る。

MM: だめ、待って、待って、そうしなくても。

JW: んん?

するとドアが開かれた。SholtoはSherlockを一瞥し、視線を落としてからJohnへ顔を向けた。

Sholto: 私は医療の助けを必要としているように思う。

JW: 私はあなたの医者であると思います。

Johnは少佐の後に続いて部屋に入っていった。MaryはSherlockに素早く笑みを向けてついていく。Sherlockはしばし目を閉じた後で部屋に入った。

 

The Sign of Three 6