病院の屋上、陽が差していた。Jim Moriartyはスマートな黒いスーツの上に黒いコートを羽織り、髪をきちんと後ろになでつけているいつもの姿で、屋上の端の高くなっている部分に少し怠そうに腰掛けていた。手にしている携帯電話の音楽プレイヤーからThe Bee Geesの「Stayin' Alive」が流れている。Sherlockが屋上に上がり、歩み寄ってきても彼は顔を向けなかった。話し出したその声は楽しげで自信に満ちている。

JM: ああ。とうとうやってきたね-君と僕、Sherlock、それに僕らの問題-最後の問題(the final problem)。

手にしていた電話を高く掲げる。

JM: 生き続ける(Stayin' Alive)!そんなの退屈だよなぁ?

怒ったように言って、電話の音楽再生を止め、目の高さで掌を下にして水平にゆっくりと前へスライドさせた。

JM: それはただの…維持(staying)だ。

Jimは手を戻して少し顔を覆った。Sherlockは屋上を歩き回っている。

JM: 僕は気晴らしを探すことに人生を費やしてたんだよ。君は最高の気晴らしだったけど、もういいや。だって君は負けたからさ。

Sherlockは顔を鋭くJimへ向けたが歩き回り続けた。

JM: わかってるのかな?結局は簡単なことだ。

Sherlockは立ち止まり、手を後ろで組んだ。Jimはがっかりしながらボヤいた。

JM: 他愛もない。これでまた僕は凡人たちと遊ばなきゃならない。つまり君もそういう奴らと同じだってことだ。

そして手を下ろし、顔を拭ってSherlockを見た。

JM: ああ、そうだな。

Jimは立ち上がってSherlockへ近寄り、周りを歩き始めた。

JM: 「僕」が本物かもしれないって思い始めてた?もうちょっとだった?

SH: Richard Brookか。

JM: 冗談が通じる奴はいないみたいだったけど、君は別だよな。

SH: 当然。

JM: さすがだなぁ。

SH: Rich Brookはドイツ語でRichen Bach(ライヘンバッハ)-僕の評判を上げた事件だ。

JM: (アメリカのアクセントを真似て)楽しくやりたいからね。

Jimは歩きながらSherlockの手を見下ろし、その指がリズムをとっているのに気付いた。

JM: いいね。それもわかったんだな。

SH: ビートに数字を当てていた。

-Jimが221Bで座っていて、膝を指で叩いている。

SH: 叩くのは1、休みは0。二進コード。だから殺し屋たちは皆、僕の命を守ろうとした。僕にそれが隠されていたからだ、頭の中に-どんなシステムにも侵入できる数行のパソコンのコードが。

JM: 僕の客に言ってやったよ、最後の奴は弱虫だってね。

SH: (手で頭を差しながら)ああ、だが今はここにある。すべての記録を変えるために使う。Rich Brookを抹殺してJim Moriartyを復活させてやる。

JimはしばらくSherlockを見つめ、がっかりした表情をして顔を背けた。

JM: いや、いや、いや、いや、いや、こんなの簡単だろ。(手に顔を埋めて)簡単過ぎるじゃないか。

そしてうなだれて、またSherlockの方を向くと怒りながら叫んだ。

JM: 鍵なんかないよ、ばかやろう!!!!

Sherlockの顔に浴びせかけるように言ってしまうと、また少し離れた。

JM: あの数字に意味なんかない。全然意味なんかないんだよ。

Sherlockは混乱した表情を隠しきれなかった。

JM: たった数行のパソコンのコードが僕らを取り巻く世界を崩壊させるだなんて、ほんとに思ってないよな?がっかりだ。ああ、君にはがっかりだよ、『凡人』Sherlock。

Jimは背を向け、“まぬけな人間”を表現するかのように腕をダラリと下ろし肩をすくめ、ドシドシと足を踏み鳴らしながら鈍い声をして言ったが、すぐにまたイライラし始めた。

SH: だがリズムは…

JM: 「パルティータ第一番」。ありがとう、Johann Sebastian Bach。(※)

SH: でもどうやって…

JM: (被せるようにさらに声を張り上げ)ではどうやって銀行とタワーと刑務所に侵入したのか?

Jimは振り返って腕を広げた。

JM: 白昼の強盗。利用したのは協力的な参加者。

-ホワイトタワー。Jimは電話のアプリの中から王冠のアイコンを選んだ。警備室の監視モニターの前に残ってお茶を待っている方の警備員へメッセージが自動的に送られた。警備員は電話のメッセージを見た-「ショータイム!」-そして彼がモニターの前のキーボードを叩くとモニターの映像が消え、警報が鳴り出した。警備員はあわてて席から立ち上がり保護扉を閉めるために飛び出していったが、展示室にいるJimが中からそれを閉めることになるのだった。

JM: 君が落ちるとわかってたよ。君の弱点だ-いつもすべてにおいて賢くあろうとする。さて、ゲームを終わらせようか?最後の一幕だ。高い建物を選んでくれてうれしいよ-やるには絶好の舞台だ。

Sherlockは遠くをぼんやりと眺めたまま混乱して言葉を発した。

SH: やる?やるって何を?

そしてそれが彼の中で明らかになると瞬きをしてJimの方を向いた。

SH: ああ、そうか、僕は自殺するのか。

JM: 「天才探偵が詐欺師であることが判明した」って新聞で読んだよ、だから本当なんだろう。僕は新聞が好きなんだ。お伽話がね。

Sherlockは屋上の端に歩み寄り、前へ屈んで地面を覗き込んだ。Jimは彼のそばに歩み寄り眺めた。

JM: あと無邪気なグリム(童話)もね。

Jimは不気味にSherlockを見つめた。

 

※「パルティータ第一番」、Johann Sebastian Bach

…Jimが221Bを訪れたときにSherlockがヴァイオリンで弾いていたのはバッハのソナタ 第一番 ト短調。バッハの別のヴァイオリン独奏の楽曲として「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」という名作がある。

 

 

221B。タクシーが外に乗り付けるとJohnは飛び降りて、鍵を探しながら玄関へ駆け寄った。急いで中へ入ると男が階段の前で脚立の上に立ち、壁にドリルで穴を開けていた。Hudson夫人は近くに立ってそれを見ている。その騒音で他の音が聞き取り辛かったので駆け寄ってきたJohnを見て驚いた。

MrsH: あらまあ、John!びっくりした!

JW: (混乱して彼女を見つめ)でも…

MrsH: 警察はもうだいじょうぶになったの?その、ああ、Sherlockが解決したのね?

Johnはしばらく呆然として、突然悟り、恐怖に包まれていった。

JW: (小声で)ああ、まずいぞ。

Johnは振り返ってまた外へ飛び出し、イライラしながら通りをキョロキョロ見渡した。幸いすぐに必要なものが見つかった。

JW: タクシー!

しかし、先にひとりの男性が道路の端にいて同じようにタクシーを捕まえていた。彼が運転手に行き先を告げるために屈み込むとJohnはそのタクシーに駆け寄り、後部座席のドアを強引に開いて中に入り込んだ。

JW: いやいやだめだめ、警察!…みたいなもんだ。

男: (怒って立ち去りながら)ああ、それはどうも-ご苦労様(!)

 

 

BARTSの屋上。二人の男はお互い向き合って屋上の端にいた。

SH: 君が完全に身分を詐称したことを証明できる。

JM: (イライラしてだるそうに)ああ、ただ死ねばいいんだよ。無駄な努力だ。

Sherlockは取り乱しながら歩き回った。

JM: やれって。僕のために。

そしてJimは金切り声で叫んだ。

JM: プリーーズ?!

すると突然Sherlockは両手でJimのコートの襟を掴むと彼を振り回して背中から落ちるような格好にさせ、顔をにらみつけながら屋上の縁に押し上げた。Jimは興味深く彼を見返し、Sherlockの呼吸は浅くなった。

SH: お前は狂ってる。

Jimは瞬きをし、バカにするように言った。

JM: 今頃わかったの?

SherlockはさらにJimを先に押しやり、縁を超えるくらいになった。Jimは呼吸を荒くしていたが恐れず得意気にSherlockを見つめ返し、掴まれているのにまかせて腕を広げた。

JM: わかった、特別にちょっとご褒美をあげるよ。

Sherlockは顔をしかめた。Jimの声はさらに残忍さを増した。

JM: 君がやらないなら、友達が死ぬんだよ。

Sherlockの目に怖れが現れ始めた。

SH: Johnか。

JM: Johnだけじゃない。(ささやきで)みんなだよ。

SH: Hudsonさん。

JM: (ささやき声で、うれしそうに微笑みながら)みんなだって。

SH: Lestrade。

JM: 三発の銃弾、三人の狙撃手、三人の被害者。もう止めることはできないよ。

荒々しくSherlockはJimを安全な位置に引き戻した。Jimは彼を見つめた。

JM: 君が飛ぶのを僕の大衆たちが見ないことにはね。

Sherlockは遠くを見つめ、呼吸を荒くしていた。恐怖で我を失っているようだった。Jimは自由になった身体を揺さぶって意気揚々と微笑んだ。

JM: 君は僕を捕まえることができる、拷問することもできるし、僕に対してやりたいことができる、でも引き金が引かれるのを阻止することはできないんだ。世界で三人だけの友達が死ぬ…やらない限り…

SH: …僕が死なない限り-君の筋書きは完成しない。

Jimはうなずいて有頂天になって微笑んだ。

JM: 刺激的にしてもらわないとね。

SH: (呆然と遠くを見つめ)そして僕は不名誉に死ぬ。

JM: もちろん。それが大事なところなんだ。

Jimは下を覗き込んでバス停の近くに立ち止まっている人を見た。

JM: おい、今なら観客がいるぞ。やっちゃえよ。

Jimはだるそうに左右に首を回した。

JM: やれって。

Sherlockはゆっくりと彼の前を通り、縁に上がった。

JM: どうしたら終わりにできるか言っただろ。

Sherlockは下を眺め、呼吸がさらに荒くなった。Jimはそれを見もせずに話し続けた。

JM: 友達が殺されるのを阻止するには君が死ぬしかないんだ。僕がちゃんとやめさせるからさ。

Jimは期待しながら顔を上げた。Sherlockは不安気に瞬きをした。

SH: ちょっと時間を…くれないか、頼む、ちょっとひとりにしてくれないか?

SherlockはJimをちらっと見た。

SH: 頼むよ。

JimはSherlockがとても「普通」なのでがっかりしたようだった。

JM: もちろん。

Jimは離れた。Sherlockは不安気に少し浅い呼吸をしていたが、ちょっと息を止め、頭をまた働かせ始めた。そしていつもの彼の表情を取り戻し、思慮に富んだ目付きに変わった。段々と微笑みが顔に広がり、クスクス笑い出す。その背後でゆっくり屋上を歩いていたJimは立ち止まり、Sherlockが声を上げて笑い出したのに気付いて青ざめ、怒りながら振り向いた。

JM: 何だ?

Sherlockは答えずに笑い続けた。

JM: (怒って)何なんだよ?

Jimがにらみ返すとSherlockは笑いかけながら少し彼の方を向いた。Jimは怒りながらも不安気に問いかけた。

JM: 何かミスしたか?

Sherlockは縁から内側へ飛び降りるとJimに歩み寄った。

SH: 「僕がやめさせる」-殺しをやめさせることができるということは-中止の暗号、言葉か番号があるはずだ。

Sherlockは餌食となったJimを囲うように歩いた。完全に自信を取り戻したSherlockに対してJimは狼狽し、混乱を隠しきれなかった。

SH: 僕は死ぬ必要ない…(歌うように)…君を捕らえれば。

JM: おい!(安心して笑った)命令を中止させることができると思ってるのか?そんなことができると思ってるの?

SH: (まだ周りを囲みながら)ああ。君がやれば。

JM: Sherlock、お前の兄貴も王室の馬どもも、僕のやりたくないことはやらせることができなかったんだぞ。

Sherlockは立ち止まってJimの顔を覗きこんだ。

SH: そうだ、でも僕は兄貴じゃない、忘れたのか?僕は君だ-どんなことも取り計らった、燃やす(burn)ことだって、『凡人』がやらないようなことだってな。地獄で僕と握手したいんだろう?期待に応えようじゃないか。

Jimはゆっくりと首を振った。

JM: いいや。ハッタリだろ。いいや。お前なんか凡人だ。ありふれてる-正義の側の人間(angel)なんだ。

SH: (さらに険悪な声で)ああ、僕は正義の側の人間(angel)かもしれない、だがその一員だとは一瞬たりとも思わないね。

長い間見つめ合い、JimはSherlockが“どれくらい先へ行けるか”推理しようとした。

JM: 違う、君は違う。

Jimは瞬きをしてちょっと目を閉じた。Sherlockは何気なく同じ動作をした。Jimは微笑んでまた目を開いた。

JM: (小声で気違いじみて)わかったよ。君は普通の奴じゃない。違う。君は僕だ。

Jimはうれしそうに笑い出し、より声を高めた。

JM: 君は僕だ!ありがとう!

そしてSherlockを抱きしめるかのように手を掲げたが、やはり握手をすることにしようと手を差し出した。

JM: Sherlock Holmes。

彼らはJimが差し出した手を見下ろし、Sherlockもゆっくりと手を差し出して、二人は握手を交わした。Jimは熱狂的な眼差しでSherlockを見上げ、うなずきながら穏やかな声で再び礼を述べた。

JM: ありがとう。祝福するよ。

瞬きをして涙をこらえるようにうつむいた。

JM: 僕が生きている分だけ友達を守ることができる、逃げ道がある。

彼はうつむいたまま瞬きをした。

JM: ああ、うまくいくといいね。

そう言った途端、Jimは目をSherlockに向けると病的にニヤリと笑い、すばやく片手でピストルを取り出し、もう片方の手でSherlockの腰を掴んで近くに引き寄せて大きく開けた口に銃口を向けた。Sherlockが驚いて叫びながら本能的に身を引くと銃口をさらに口に押し込んで引き金を引いた。即座にJimは地面に崩れ落ちた。Sherlockが怯えながら見下ろしていると仰向けに倒れたJimの頭の下から血が流れだした。彼の目は開かれたままで勝利の笑みを浮かべている。Sherlockは背を向け、半狂乱で荒く呼吸をし、怯えながら頭を抱え込んだ。

 

 

遠く離れていない、当然Sherlockからは見えない場所で、ひとりの暗殺者が階段を上り、そこに座ってライフルを組立て始めた。一方JohnはBartsに戻るタクシーにイライラしながら乗っていた。

 

221Bで、Hudson夫人は玄関に屈んでいる作業人にお茶を出した。男は受け取り、感謝して微笑んだ。そして道具を取って、箱に戻した。道具の一番上にあるのは小さな消音器のついたピストルだった。男は221Aに戻っていくHudson夫人の方へ不気味に目を向けた。

 

階段にいる暗殺者はライフルを組み立て続けている。

 

スコットランド・ヤードではオフィスで机に向かっているひとりの警官がGregの部屋を目を細めながら見回していた。警部は電話で話している。

GL: (電話に)はい。ありがとうございました。失礼します。

 

階段の上、暗殺者は組立を終えると近くの窓を開け、Bartsへ近づくタクシーに乗るJohnに狙いをつけた。

 

 

屋上、Sherlockは荒く早い呼吸をしながら怯え、手で口を覆い、Jimの固まった笑顔を再び眺めた。半狂乱の状態で考えながら、ゆっくりと縁に向かう。上に立つと呼吸はゆっくりになり、息を吐くと地面を覗き込んだ。下の通りにはJohnのタクシーが到着していた。Sherlockは電話を取り出し、スピードダイヤルを押した。電話は呼び出しを始め、タクシーから降りたJohnは電話を耳にあてながら病院へ歩き出した。

JW: もしもし?

SH: John。

JW: おい、Sherlock、だいじょうぶか?

SH: 方向を変えて、来た道を戻れ。

JW: いやだ、行くよ。

SH: (半狂乱で)言った通りにするんだ。頼むから。

JW: (向きを変えあわただしく周りを見渡しながら)どこだ?

SherlockはJohnが道沿いに歩くと少し間を置き、それから急に言った。

SH: そこで止まれ。

JW: (止まって)Sherlock?

SH: よし、上を見ろ。屋上にいる。

Johnは振り返って屋上を見上げ、そこにSherlockの姿を発見すると、恐怖に襲われた。

JW: どうして。

SH: その…ぼ…僕は降りていけないんだ、だから…こんな風にするしかない。

JW: (不安気に)どうしたんだよ?

SH: 謝罪だ。みんな本当なんだ。

JW: な-何が?

SH: 僕についてあいつらが言っていたことみんなだ。僕はMoriartyをでっち上げたんだ。

Sherlockは背後にいる微笑んだままのJimの遺体を一瞥した。地上では、Johnは信じられない様子で友達を見上げている。

JW: 何でそんなこと言うんだ?

Sherlockは振り返ってJohnを見下ろした。そして涙声になりながら話し出した。

SH: 僕は詐欺師だったんだ。

JW: Sherlock…

SH: 新聞はみんな正しかったんだ。Lestradeに伝えてくれ、Hudsonさんにも、それからMollyにも…君に聞く人なら誰でもいい、僕は自分の目的のためにMoriartyを創り上げたんだ。

JW: わかった、黙れ、Sherlock、黙るんだ。僕達が最初に会ったとき…初めて会ったとき、君は妹のことをみんな知ってた、そうだろ?

SH: そんな賢い奴なんていない。

JW: 君はそうだ。

Sherlockは笑って友達を見下ろした。涙が頬を伝って、顎から落ちる。

SH: 身辺調査をしたんだよ。出会う前に、君に印象付けるようなことをみんな調べておいたんだ。(静かに鼻をすすり)トリックだよ。まやかしのトリックなんだよ。

Johnは目を閉じて繰り返し頭を振った。

JW: いいや。いいんだ、やめてくれ。

そしてJohnが病院の入口へ歩き始めるとSherlockはすぐにそれを制した。

SH: だめだ、ちゃんとそこにいろ。動くな。

Johnは立ち止まって戻り、従うことを示してSherlockに向かって手を掲げた。

JW: わかった。

呼吸を早め、Sherlockは無意識に友達へ手を伸ばしていた。

SH: 僕から目を離さないでくれ。(すがるように)なあ、頼みをきいてくれるか?

JW: 何だ?

SH: この電話は…これは、ええと…遺しておくものだ。みんなそうじゃないか-遺すだろう?

Johnは頭を振り、しばらく電話を耳から離し、Sherlockが何をしようとしているか悟り始めると、また電話を持ち、動揺した声で話した。

JW: 遺すって、何を?

SH: さようなら、John。

JW: (首を振りながら)いやだ、やめろ。

Sherlockは数秒間友達を見つめてから腕を下ろして電話を屋上へ放り投げ、前方を眺めた。Johnは電話を下ろし、上へ向かって叫ぶ。

JW: やめろ、Sherlock!

Sherlockは腕を左右に広げ、ためらわずに屋上の縁から前に飛び降りて地面に落ちていった。Johnは完全な恐怖に包まれながらそれを見ていた。

JW: Sher…

 

 

数秒後にSherlockの身体は地面に叩きつけられた。Johnはできるだけ早くSherlockへ向かうことに集中したために、周囲の音を何も聞くことができなくなっていった。Sherlockが落ちる様子の最後の部分は、途中に建物があったために視界から消えた。建物の角へ向かって走りだしたJohnが速度を落として道の真ん中に立ち止ると、濡れた歩道の上にまだ横たわっているSherlockの姿が垣間見えた。下半身は停車しているトラックのせいであまり見えなかった。すると背後から若者が自転車で走ってきて彼にぶつかり、Johnは地面に叩きつけられた。頭がアスファルトに強く当たった。うめき声をあげながら意識を保とうともがいていると、人々が歩道の遺体の周りに駆け寄り始めた。トラックは走り去り、病院から救急救命士が駆け出してきて近くに居過ぎる見物人を離そうとし始めた。痛みで顔をしかめながらJohnは身体を起こして歩道の方を見た。Sherlockは頭の下から大量の血を流して横たわっていた。ゆっくりと足を引きずりながらJohnがよろよろと彼に近寄ると、見物人がさらに集まってきて見たものについて興奮しながら話していた。Johnは前に行こうとする。

JW: (ささやきで)Sherlock、Sherlock…

やっとJohnは集団にたどり着いた。

JW: 僕は医者です、通してください。通してください、お願いです。

何人かが彼を後ろへ追いやろうとしたが、それでも割って入ろうとした。

JW: いや、その人は友達なんだ。僕の友達なんだ。お願いだ。

Johnは脈をとろうとSherlockの手首に手を伸ばした。しかし女性が彼の指を離し、別の人物も加わって彼を引き離した。Johnがそれでもまた友達へ手を伸ばすと、救急救命士がストレッチャーを持って現れた。

JW: (半狂乱で)頼むよ、僕に…

精神的なショックと頭を打った衝撃に同時に襲われ、Johnは膝から崩れ落ちた。見物人に支えられながら地面に倒れこむと二人の人物がSherlockをそっと仰向けにしたので、血がこびりついた顔と大きく見開かれたままの目が見えた。Johnは絶望に陥って、うめき声をあげる。

JW: うわああ、なんで、いやだ。

Johnは立とうとしたが、また崩れ落ちた。

JW: なんでだよ、いやだよ。

見物人がJohnを支えている間に四人がSherlockの遺体をストレッチャーに乗せてすばやく病院へ運んでいった。Johnはその後ろ姿を見て、状況を理解できずに表情を失った。とうとう立ち上がるために力を振り絞り、助けを断りながら友達が運ばれていった方向を呆然と見つめた。

 

 

近くの建物から、ライフルの照準がJohnの頭に向けられていた。Johnは狙撃手に横顔を向けて立ち尽くしている完璧なターゲットだったが、暗殺者はライフルを戻し、解体し始めた。そしてバッグにそれをしまうと立ち上がって去っていった。

 

 

ディオゲネスクラブ。MycroftはThe Sun誌を手にしていた。ヘッドラインは「偽わりの神、自殺」と題され、サブタイトルは「スーパー探偵死す」「詐欺探偵は自ら命を経った」。新聞をたたみ、そばにあるテーブルに置いた。そしてMycroftは遠くを呆然と眺め、祈るように顔を手に埋めた。

 

 

221B。Johnは肘掛け椅子に腰掛けていた。ちゃんと服を着ているが、靴を履かずに裸足のままの足をくっつけるようにして座っている。片方の手で頬杖をついて、物思いに耽りながら遠くを見つめていた。彼はひとりぼっちだった。

ライヘンバッハ・ヒーロー 8