スコットランド・ヤード。GregはSherlockに紙を渡し、Johnと共にメインオフィスへ連れていった。

GL: このファックスが一時間前に届いた。

大きな手書きの文字が紙にあった。

急げ

子供たちは

死にそうだぞ!

Sherlockは紙をJohnに渡した。

GL: 何がわかったんだ?

SH: 市内で五つの条件が合致する場所を見つけなきゃならない。

紙を渡されたGregは声を出してそれを読み上げた。

GL: チョーク、アスファルト、土埃、植物…いったい何だ、こりゃ?チョコレート?

SH: 使われてない菓子工場を捜索するんだ。

GL: 絞り込んでくれよ。アスファルトがある菓子工場だって?

SH: 違う。いやいやいや。一般的過ぎる。もっと具体的な何かが要る。チョークは白亜質の粘土-地質学的には非常に狭い範囲だ。

Sherlockは頭の中でロンドンの地図を呼び出し、街の名前がかぶさると様々な場所を拡大したり縮小したりした。

GL: 土埃は?

SH: 建設現場だ。1950年代のレンガ。

GL: (絶望して顔をこすり)ロンドンには何千もの建設現場があるぞ。

Sherlockは気を散らされて憤慨したようだった。

SH: 人員を探しに出させた。

GL: 俺もだ。

SH: ホームレス・ネットワークだ-警察より早い(嘲笑って)、賄賂も少なくて済むしな。

近くの机に向かっていたAndersonは顔を上げて目を回した。するとSherlockの電話がいくつものメールを受信して鳴り出した。誇らしげにGregへ電話を見せびらかす。メールの受信が続く中、満足して笑みを浮かべると、電話を高く掲げながら心の中でロンドンの地図を広げた。送られてきた写真を見るために電話へ目をやりながら情報を地図に落とし込んでいく。ひとつの写真が特に彼の注意を惹き、紫の花の画像が拡大された。

SH: John。

写真を表示させてJohnに見せる。

SH: 西洋シャクナゲ。一致する。

心の地図に戻り、その植物がある場所をチェックすると、他の条件も含むひとつの場所を見つけた。

SH: アドルストン(※イングランド南東部のサリー州にある町)。

GL: え?

SH: 川と公園から1マイル離れたところに廃棄された工場がある。すべてに合致する。

Sherlockは向きを変え、追跡に熱中してJohnと共にオフィスを駆け出した。Gregは班の方を向いた。

GL: よし、行くぞ。

しかしSallyはためらった。

GL: 行くんだ!

Sallyは飛び上がって急いでGregの後を追った。

 

 

アドルストン。数台のパトカーが廃棄工場に急行し、警察官たちとともにSherlockとJohnが暗い建物に駆け込んだ。全員懐中電灯を点け、Sallyはすべての方角を探すように命じた。

SD: あなた、そっちを見てきて。全部の場所を探して。距離を取って。散らばって。

GregはSherlockとJohnを含む他の団体を率いて工場の他の部分へ入っていった。警察官たちに指示を出す。

GL: (小声で)そっちを探せ。落ち着いて。落ち着いて。

工場の奥へ進んでいくと、Sherlockは床に散らばる大量のお菓子の包み紙とロウソクを発見した。ロウソクの芯に触れてみる。

SH: さっきまで点いてたな。

そして大声で呼びかけた。

SH: まだここにいるぞ。

捜索はすべての場所で続けられた。

SH: お菓子の包み紙。あいつは君たちに何を与えた?

Sherlockは包み紙のひとつを取り、間近に眺めた。

SH: ヘンゼルとグレーテル。

懐中電灯の灯りに包み紙を近づけ、匂いを嗅いでから舌で舐めて味を確かめると、驚いて包み紙を眺めた。

SH: 水銀。

GL: 何だって?

SH: 包み紙。犯人は水銀を塗りつけた。

Johnはうめき声を上げた。

SH: 致命的だ。たくさん食べた跡がある…

JW: 子供たちを殺そうと。

SH: だがそれで死に至るには充分ではない。大量に摂取すれば、やがて死ぬだろうが。

警官が建物を捜索し続けていたがSherlockは思考をMoriartyへ向けた。

SH: あいつは実行するのにそこにいる必要はなかった。…遠隔操作の殺人だ。数千マイル離れたところにいたんだろう。

近くでSallyはライトの灯りの下に何かを見つけた。その近くへ寄ると少女が地面に座り、弟の頭を抱いているのを見つけた。少年の目は閉じている。少女はSallyの方を見た。

SH: (小声で、自分に)飢えさせた、もっと食べるように…より早く死に至るように。

そしてSherlockはニヤリとした。

SH: やるな。

JW: Sherlock。

SD: (皆へ呼びかけ)ここです!

みんなは彼女の声の方角へ駆け寄った。Sallyと他の警察官が子供たちへ手を伸ばした。

SD: 見つけた。もうだいじょうぶよ。

 

 

スコットランド・ヤード。Sherlockはオフィスの外を歩きまわり、Johnは近くに座っていた。オフィスへのドアが開き、SallyとGregが出てきた。

SD: (Sherlockへ皮肉を込めて)さて、と。プロの仕事は終わり。アマチュアさんが話をしたいなら…

Johnは立ち上がって他の者へ歩み寄った。GregはSherlockへまじめに言った。

GL: さて、忘れるな、あの子はショック状態でたったの七歳だ、だからお前ができることは…

SH: …自分のやり方を捨てろ。

GL: ああ。そうだと助かるな。

SherlockはJohnの方を見ると目を回して見せ、コートの襟を立たないように直し、Johnと他の者を連れて部屋に入った。幼い少女が足元を見ながらテーブルに向かって座っていた。女性の警官が隣に座って安心させるように腕をなでている。

SH: Claudette、僕は…

Sherlockが近寄る前に少女は顔を上げ、彼を見ると怯えて叫びだした。

SH: いやいや、辛かったんだろうね。

少女は叫び続け彼を指さして出ていくように求めながら暴れだした。

SH: Claudette、話を聞いて…

GL: 出るんだ。外に出ろ!

少女が叫び続ける中、GregはSherlockの腕を掴んで部屋からつまみ出した。

 

 

しばらくして、Sherlockは別のオフィスの窓際に立ち、ブラインド越しに夜の街を眺めていた。Sallyは少し離れたところに立ち、考え込みながらそれを見ている。

JW: わけがわからないな。

GL: あの子はトラウマを抱えている。Sherlockの何かが誘拐犯を思い出させるんだろう。

JW: で、あの子は何て言ったんです?

SD: 一言も無し。

JW: じゃ男の子は?

GL: いや、意識不明だ、まだ集中治療室にいる。

スコットランド・ヤードの向かいのビルで、オフィスの照明がすべて点灯した。すると二階のオフィスの窓にスプレーで書かれた三つの文字が表れた。Sherlockはその大きな文字を凝視する。

I O U

数秒後、その階の照明は消えた。Sherlockの背後にいる他の者はブラインドがあるので彼が見たものに気付いていなかった。

GL: ええと、行かせることはできないな。お前が入ってくるとき俺だっていつも叫びだしたい気分だ!実際、多くの人間がそうだ。

それはきっと、Gregなりの励まし方だった。彼はSallyとJohnの方を見た。

GL: 行こう。

GregとJohnは部屋を出た。後ろに残っていたSallyはSherlockが窓から振り向くとドアへ向かった。

SD: あなたの仕事はすばらしいわね、ただの足跡から子供たちを見つけた。ほんとすごい。

SH: どうも。

SD: (あてつけがましく)信じられない。

Sherlockは少しためらい、続いて部屋を出た。彼女は思慮深げな表情で彼が出ていくのを眺めた。

 

 

少しして外に出たJohnはSherlockを待ち、通りを見下ろした。

JW: ああ。

Johnは近付いてくるタクシーを捕まえようと手を上げる。道の端へと歩きながらJohnはSherlockの方を向いた。

JW: だいじょうぶか?

SH: 考え事。

一台のタクシーが道端に止まった。

SH: これは僕が乗る。君は次のにしてくれ。

JW: なんでだよ?

SH: 君は話したがるだろ。

Sherlockは乗り込んでドアを閉め、タクシーは走り去った。Johnは信じられずに車が去っていった後を見つめ、ため息をついた。

 

 

スコットランド・ヤードでは、Sallyが大きなオフィスで警官が撮影した写真と他の証拠を長机に広げていた。すべてを思慮に入れながらそれらを眺めて立っている。外の廊下を歩いていたGregが立ち止まって部屋を覗き込むと、Sallyは先程のことを思い返していた。

GL: こりゃいったい何なんだ?チョコレート?

SH: 使用されてない菓子工場を捜索するんだ。

(Claudetteは彼を見て恐がり叫んだ)

GL: 外に出ろ!

そしてGregは部屋に入ってきてSallyに歩み寄った、Claudetteの叫び声は彼女の頭から消えた。

GL: どうした?

SallyはGregの方を見て、また証拠を眺めた。

 

 

タクシー。Sherlockは後部座席に座り、考え込んでいた。道すがら運転手席の後ろにあるTVがついてCMが流れ始める。ロンドン・タクシー・ショッピングは宝石の宣伝をしていた。

音声: ロンドン・タクシー・ショッピングからすてきなイブニングセットをご案内します…

SH: (運転手へ)消してくれないか?

運転手は応えず、CMは続いた。

音声: ご覧ください、美しいセット…

SH: (声を大きくしてイライラと)消してくれ…

TVの画像は他のチャンネルが割り込んできているように乱れ始めた。そして画面にJim Moriartyがニヤついている様子が混じった。とうとうCMは消え、Jimが楽しそうに微笑んでいる映像が映し出された。背後には青空を模した水色の壁にふわふわの雲が浮かんでいる。Jimの声は歌声のようだった、まるで子供に語りかけるように。

Jim: やあ。お話を聞く準備はできているかな?これはSir Boast-a-lotのお話だよ。 (※Boast-a-lot=大法螺吹き)

Sherlockは食い入るように画面を見つめた。

 

スコットランド・ヤード。SallyはGregに一枚の写真を見せた。

SD: 足跡。みんなあいつが見つけました。足跡を。

GL: ああ、ええと、あいつがどんな奴だか知ってるだろ、ベイカーストリートのCSI。

SD: ええ、我々の人員ではできなかったでしょう。

GL: ああ、だからあいつが必要だ。あいつは出来るからな。

SD: それがひとつの説明です。

GL: で、他に何が?

 

タクシー。引き続きTV画面ではJimが微笑んでいた。

JM: Sir Boast-a-lotは騎士たちの中でいちばん勇敢で賢い騎士でした。でも他の騎士たちはすぐに、彼がどれだけ勇敢でたくさんのドラゴンを倒したかという話がつまらなくなりました…

Jimの背後の空は暗くなり、白い雲は灰色になって不吉な感じを帯び始めた。

JM: …「Sir Boast-a-lotの話は本当なのかな?」

 

スコットランド・ヤード(画面には映らない)

SD: (音声)あいつだけが証拠を見つけることができた。

 

タクシー。Jimは頭を振った。

JM: おお、なんと。

 

スコットランド・ヤード。

SD: それからあの子はあいつを見たときに叫び出しました-今まで会ったことがない男に…前に見たことがあるなら別ですが。

GL: な、君は何が言いたいんだ?

SD: おわかりでしょう?そう考えたくないだけなんじゃないですか。

 

タクシーのTV画面でJimは語り続けている。

JM: そして騎士のひとりがKing Arthurのところへ行って言いました…(ささやき声で)…「私はSir Boast-a-lotの話を信用することができません。出来事を大げさに言って自分をよく見せようとしているただの年取った嘘つきです。」

 

Gregの部屋にAndersonも入ってきた。Sallyは机の前に立ち、Gregは座って彼らに向かって話していた。

GL: あいつが事件に関係あるなんて本気で言ってるんじゃないよな?

Anderson: 可能性を考慮すべきだと思います。

Gregは困りきってAndersonを見上げた。

 

お話はまだ続く。

JM: そしてとうとう王様も考え始めました…

Jimは顔をしかめ、顎に手を当てて考えるような表情をした。

 

スコットランド・ヤードでは、Gregが手に顔を埋め、部下たちが言うことに頭を悩ませた。

 

タクシーのTV画面では、Jimが考えこんで顔をしかめると、背後の雲から雷のイラストが表れた。

JM: (繰り返し首を振って)でもそれはSir Boast-a-lotの問題の終わりではありませんでした。違います。

少し頭を下げ、再びカメラを見た。

JM: それは最後の問題(the final problem)ではありませんでした。

Sherlockが画面へと歯軋りしていると、カメラは引きになってJimが本を手にして座っている様子を映した。彼はカメラを見上げ、より歌うような声で締めくくった。

JM: おしまい。

Jimの背後で、劇場のステージを覆うかのように赤いベルベットのカーテンが落とされた。場面はJimがより至近距離で歯をみせてニヤニヤしている様子に変わった。そして画面は数秒間乱れ、ようやく宝石のCMに戻った。

SH: 車を止めろ!止めるんだ!

タクシーは近くの道端へ近づいた。

SH: 何なんだ?!

Sherlockは右のドアから飛び降り、運転席に駆け寄った。

SH: 何だったんだ?!

タクシー運転手は「A Study in Pink」に登場した男を連想させるような帽子を被っていた。Sherlockの方を向くとそれはJim Moriartyであることがわかった…ロンドン訛りで彼は言った。

JM: タダでいいよ(No Charge)。

JimはSherlockがドアを掴んで開けようとするとすぐに車を発進させた。勢いに乗ってSherlockはタクシーを追いかけようとしたが、車はすぐに走り去ってしまった。道の真ん中に立ち尽くし、車が去った後をにらみつけていたSherlockは別の車が背後に走ってきたのに気付かなかった。クラクションが鳴らされるとひとりの男が道路に駆け寄り、Sherlockを掴んで危ない場所から引き離した。

男: 気を付けろよ!

男がしたことをとっさに理解できず、Sherlockは彼に歯向かったが車が音を立てて通り過ぎると動きを止め、何が起きたのか気付くと男を離した。呼吸を荒くしながらSherlockを警戒しているその男はSulejmaniで、ベイカーストリートに住んでいるアルバニアの殺し屋だった。

SH: (呼吸を整えながら)ありがとう。

Sherlockは握手しようと手を差し出した。Sulejmaniがいくらか不本意ながらも手を取ったと同時に、Sherlockの背後のどこかからすばやく三発の銃弾が放たれた。Sulejmaniは地面に倒れ、Sherlockは銃撃がどこから発せられたのか見つけようと慌ててあたりを見回した。そこへ別のタクシーがやってきて少し離れたところで止まった。Johnが飛び降りて駆け寄ってくる。

JW: Sherlock!

 

 

しばらくした後にSherlockは腕を組み、苛立った様子で指を小刻みに動かしながら立っていた。救急隊員がSulejmaniの体を運んでいった。

JW: あれは…あいつだ。あいつだよ。Sulejmaniだか何だか。Mycroftがファイルを見せてくれた。あいつはアルバニアの有名なギャングで僕達の二つ隣に住んでるんだ。

SH: あいつは僕と握手したから死んだんだ。

JW: どういうこと?

SH: あいつは僕の命を守ったが僕に触れることはできなかった。なぜだ?

そしてSherlockは飛び出して行った。Johnは後を追った。

ライヘンバッハ・ヒーロー 5