221B、電話が鳴り出し、Sherlockはぱっと目を開いた。Johnは裁判所の外で道を急いでいる。

JW: (電話に)無罪だ。陪審はあいつを無罪にした。弁護なしで、Moriartyは釈放だ。

Sherlockは電話を下ろした。

JW: (電話に)Sherlock、聞いてるのか?あいつは外に出た。君は-君はあいつがそっちに行くってわかってるよな。Sher…

Sherlockは通話を切り、ソファから立ち上がった。そしてキッチンで電気ケトルのスイッチを入れると小さなトレイにミルク・ポットと砂糖を並べ、ティーポットと二人分のカップと皿、ティースプーンを置いて向きを整えた。そうしている内にお湯が沸いたので、スイッチをオフにした。ガウンからジャケットに着替えたSherlockはお茶を淹れてテーブルに運ぶ。そして自分の椅子に歩み寄り、バイオリンと弓を手にした。バッハのソナタ 第1番 ト短調を弾き始めると、下の階の玄関のドアが上手に鍵を外され、押し開けられた。影はゆっくりとホールを抜け、階段を上がる。その途中で階段のひとつが音を立てたので男は少し立ち止まり、Sherlockの演奏の手も止まった。数秒後Sherlockは中断したところから再開し、それを聴いて男はまた階段を上り始めた。Sherlockはリビングのドアを背後に立っていて、男がドアを開けるまで弾き続ける。やがて演奏を止めたが、まだ振り返らなかった。

SH: 大抵はノックする。(肩をすくめ)でも君はそういう人間には属さないんだろう。

訪問者のために弓でテーブルを指し、迎える用意が出来ていることを示した。

SH: お茶の支度が出来たところだ。

訪問者、それはもちろんJim Moriartyだった。Jimは部屋へ入り、コーヒーテーブルにあるボウルから林檎を取ろうと屈んだ。

JM: Johann Sebastian(バッハ)も唖然だな。

林檎を投げて受け止め、席を探してリビングを見渡す。

JM: 座っていい?

SH: (顔を向け)どうぞ。

Sherlockは弓の先でJohnの椅子を示したが、Jimは迷いもせずにSherlockの椅子に座った。Sherlockは少し狼狽した。Jimは席に着くと小さなペンナイフを取り出して林檎に切り込みを入れ始めた。Sherlockはバイオリンを置きカップにお茶を注ぎ始める。

JM: 彼が死の床にいたときを知ってるだろ、バッハ。彼は息子が自分の曲をピアノで弾いてるのを聞いた。少年は曲が終わる前に弾くのをやめた…

SH: …そして死んでいた男はベッドの上で飛び起きた、まっすぐピアノに駆け寄り、曲を弾き終えた。

JM: 旋律が途中なのに我慢できなかったんだな。

SH: 君にも言える。だから来たんだろう。

JM: でもほんとはちょっとうれしいんだろ。

SH: 何が、判決が?

カップのひとつにミルクを注いで差し出すと、Jimは姿勢を正して受け取った。

JM: 僕の…(小声で)…復帰だよ。(Sherlockの目を見つめて微笑む)やっぱりお伽話には昔ながらのステキな悪党がいないとね。

Jimはニヤリとした。そしてカップの向きを正しく直した。(彼は“左利き”で、Sherlockがそれを知らないはずはなかった) Sherlockは視線を外し、自分のカップにミルクを注いだ。

JM: 君は僕を必要としてる、でなきゃつまらない。だって僕らは似てるもんな-君と僕は-君が退屈な奴だってこと以外は。(失望したように首を振る)君は正義の側(on the side of the angels)だからなぁ。

Jimはお茶をすすり、Sherlockはカップを持って中身をかき混ぜた。

SH: もちろん陪審側だ。

JM: ロンドン塔にだって侵入したんだ、そんな僕がホテルの部屋に入り込めないと思うかい?

SH: ケーブルネットワーク。

フラッシュバック-陪審長がホテルの部屋でベッドに座り、TVを見ている。

JM: ホテルの寝室はみんな個別のTV画面がある…

ウェストハンプトンホテルの情報サービスがTV画面に映っている、メッセージのトップにあるのは「こんにちはWilliamsさん」インフォメーションの画像はすぐに二人の小さな子供と赤ん坊の写真に変わった、写真の上で赤く表示されているメッセージは「かわいい子供たちをかわいいままにしておきたかったら私の指示に従え」

JM: …そしてすべての人間は急所を持っている、苦しみから守りたい存在だ。

陪審長は怯えながらTV画面を見つめた。221BでJimは再びカップを口に運びながら、そっとつぶやいた。

JM: 他愛もない。

Sherlockはジャケットのボタンを外し、Johnの椅子に座っていた。おそらく向かいに座っている男を無意識に真似て彼もカップを口に運んだ。

SH: で、どうするつもりなんだ…

お茶にそっと息を吹きかけた。

SH: …僕を『燃やす(burn)』のか?

JM: (小声で)ああ、それは問題だな-最後の問題(the final problem)だ。それが何かちゃんと考えたかな?

Sherlockはお茶を少し飲んで相手を見た。

JM: 最後の問題とは何か?

Jimは自分のカップに微笑んだ。

JM: 言ったはずだよ…(小声で歌うように)…でも聞いてたかな?

Jimはまたお茶を少し飲んで皿に置いた。手を下ろし、ぼんやりと指先で膝を叩き始めた。Sherlockは視線を下げその動きを見ている。

JM: (指先で膝を叩きながら)さぞかし辛いだろうね、「わからない」と口にするのは?

Sherlockはカップを皿に置き、肩をすくめ、無関心そうに言った。

SH: わからない。

JM: おお、賢いね、実に賢い、すっごく賢いよ。

Jimは楽しそうにくすくす笑った。Sherlockはトレイにカップを戻しながらつまらなさそうに微笑む。

JM: 賢さを語る…数少ない友人たちにはもう話したのかな?

SH: 何を話すって?

JM: 侵入したのになぜ何も盗らなかったのか。

SH: いや。

JM: でもわかってるだろ。

SH: もちろん。

JM: なら、やりなよ。

Jimは林檎を切り取り、その欠片をペンナイフに乗せて口へ運んだ。

SH: もうわかっていることを言えと?

JM: いいや、君が知っていることを証明してもらいたいんだ。

SH: 何も盗らなかった、必要としてないからだ。

JM: (小声で)いいね。

SH: もう盗る気はないだろう。

JM: すごくいい。なぜなら…?

SH: 何もないからだ…ないんだ、イギリス銀行にもロンドン塔にもペンタルヴィル刑務所にも、そのすべてに合う鍵を手に入れるほど価値があるものは。

JM: パソコンのちょっとしたコードでどこのどんなドアでも開けることができる。今や秘密の銀行アカウントなんか無いね-みんな僕の物だ。秘密などない-僕がそれを持っている。核兵器の暗号-アルファベットの指令でNATOを吹き飛ばすことができるよ。ロックされた部屋で成り立つ世界では、鍵を持った男が権力を握る。なぁハニー、王冠は僕のものになるんだ。

Jimは歌うように言い終えると、喜びながらSherlockに微笑んだ。

SH: 公判を通じてすべてのやり方を宣伝した。君に何ができるかを世界に見せつけていた。

JM: そして君が手伝ってくれた。偉大な依頼人: 汚染された政府、情報機関…テロリストの組織。みんな僕を求めている。

彼はまた林檎の欠片を口に運んだ。

JM: にわかに僕はMr.Sexだ。

SH: どの銀行も破れるなら、なぜ最高入札者に気兼ねする?

JM: しないよ。僕はただすべての競りを見てるのが好きなんだ。「パパは僕のことを一番愛してる!」まったく凡人たちは愛おしいよな?ええと、ほら、君にはJohnがいるだろ。僕にも同居人が必要かもな。

SH: 何故こんなことをしてるんだ?

JM: (まだ同居人について考えながら)おもしろそうだな。

SH: 金も権力も欲しがってない-本当は違う。

Jimは林檎をナイフで掘った。

SH: いったい、何のためなんだ?

JM: (前の方に座り小声で)僕は問題を解決したいんだ-僕らの問題、最後の問題を。

Jimは頭を下げた。

JM: すぐに始まるよ、『Sherlockの転落』。

徐々に床へ視線を落としながらゆっくりと下に落ちていくような音色で口笛を吹いた。

JM: でも怖がらなくていい。転落っていうのは飛ぶことと変わりないさ、到達したら永久に戻ってこられないってこと以外は。

Jimは視線をゆっくり落とし、何かが床へ到達して地面にドンと落ちるような音を鳴らした。そしてまたゆっくりと顔を上げ、Sherlockをにらみつける。Sherlockはわずかに歯を食いしばり、立ち上がってジャケットのボタンを留めた。

SH: なぞなぞは好きになれない。

Jimは立ち上がってSherlockの目に視線を合わせながらジャケットを伸ばした。

JM: 考えとけよ。君を転落させてやる(I owe you a fall)、Sherlock、君は…僕の…手中だ(I owe you)。

数秒ほどSherlockを見つめ続け、約束を封じると、Jimはゆっくりと立ち去った。Sherlockは彼が部屋を去ってもすぐには動かなかったが、やがてJimが残していったまだペンナイフが刺さったままの林檎を手に取り、ナイフの柄を持って抜いた。Jimは林檎に大きな丸い形を彫っていて、その左には「I」、右には「U」の形-それは「I O U」という文字を形作っていた。Sherlockはそのメッセージを眺めると、口元に微かな笑みを浮かべた。

 

 

翌朝、Daily Expressはトップに『Moriarty釈放-オールド・ベイリーで衝撃の判決』という見出しを掲げた。

本文: 判事は唖然として、陪審が ‘Jimbo’ (※Jamesの愛称) Moriartyを無罪とするのをただ眺めるのみであった。陪審が判決を宣言するとそこら中で息を呑む様子が見受けられた。

 

 

The Guardianでは『裁判で衝撃の判決』

本文: 予想外の展開、世紀の裁判と評された公判でMoriartyは弁護を立てず無罪を勝ち取り、本日釈放された。事件の進展が判事の手の及ぶ範囲を離れると『花形』証人のSherlock Holmesは公判には姿を現さなかった。英国議会でも質疑が行われ、首相はこう述べた。「これは屈辱的事態だ。我々が英国は崩壊しているという兆候を求めたかのような…」

 

Daily Starでは『如何にして彼は無罪となったか』……

 

 

しばらく経ってGuardian誌は『Moriarty失踪』と発表し、中のページにはSherlockが占い師のようにクリスタルの玉を抱えている漫画があり、下に説明文が添えられていた。『ライヘンバッハ・ヒーローの今後は?』

 

 

二ヶ月後。Johnは街角にあるNatWest(イギリスの銀行)のATMに行き、カードを入れた。PINコードを入力して処理ボタンを選択した数秒後、画面にメッセージが表示された。

お客様のカードに

問題があります

お待ちください

Johnがしかめっ面をしていると、数秒後に新しいメッセージが表れた。

お待ちいただき

ありがとうございました。

少ししてメッセージが追加された。

John

Johnが眉をひそめていると、背後に黒い車がやってきて道路のへりに止まった。Johnは振り返ってそれを眺め、そしてまたATMの方を見てから、怒りのため息をついた。それでもその奇妙な車におとなしく乗り、優雅な白塗りの建物に連れて行かれた。そこは「THE DIOGENES CLUB(※ディオゲネスクラブ)」という場所だということを真鍮の額で外に表していた。Johnは中に入り、大きな部屋へ進んだ-かつて家として建てられていたらしく、その部屋はおそらく応接間だった。大きな大理石の暖炉には火はついておらず、壁は重厚な木でできていて白い豪華な漆喰がある。部屋には五つの小さなテーブルがあり、それぞれひとつずつ肘掛け椅子が添えられていた。その内の四つの席ではきちんとした身なりをした中年あるいは老年の紳士たちが新聞を読んでいて、誰も新しい訪問者に注意を払っていなかった。Johnはあたりを見ながら部屋の端に座っている男性のひとり(※)に歩み寄った。

JW: ええと、すみません。あの、Mycroft Holmesを探してるんですが。

老人の顔は狼狽した表情になっていったが、それでも顔を上げなかった。

JW: いたらわかるもんなんですかね?

Johnの背後にいる部屋の住人たちは彼の方を見たが、誰も口を開こうとはしなかった。

JW: 僕の話、聞いてます?

老人は彼を見上げ、腹を立てて呼吸を荒くした。Johnはなだめるように手を伸ばした。

JW: ああ、わかりました。

仕方なくJohnは部屋の他の者へと振り返った。

JW: どなたか?

他の者は彼から顔を背けた。

JW: どなたかMycroft Holmesがいったいどこにいるのかご存知ないですかね?ここに会いに来るように頼まれたんですが。

老人が杖を持ち上げ、助けを求めるように近くの壁にあるボタンを繰り返し押すと、遠くでベルが鳴った。Johnが困惑してあたりを見回すと、紳士たちは彼を無視しているか腹を立てて彼を見ていた。

JW: 応じてくれませんか?そうですか。(声を上げた)僕が見えませんか?ほんとに見えないんですか?

するとドレスコートを来た二人の男が部屋に入ってきた。Johnは彼らの方を向いた。

JW: ああ、どうも、君たち。

彼の背後で、年長の紳士が「奴をここから追い出せ!」と言わんばかりに新しく到着した者へ向けて怒りながら手を振った。ドレスコートの男たちは白い手袋をし、足跡を残さないよう白いカバーを足にした姿でそそくさとJohnに歩み寄った。

JW: Mycroft Holmesに来るように言われたんだけど…

すると出し抜けにJohnは左右にいる男たちに口を塞がれ、腕をしっかりと掴まれてしまった。

JW: 何をす…?おい!

男たちはほとんどJohnを持ち上げるようにして、ひとりは黙らせるように彼の口を手で覆った。Johnの聴き取れない抗議は部屋をつまみ出されるまで続いた。

 

※THE DIOGENES CLUB

…原作「ギリシャ語通訳」でHolmesが兄のMycroftについて語る場面で、ディオゲネスクラブについて説明している。「ロンドンには内気だとか人間不信などの理由で人と付き合う気のない男が大勢いる。だからと言って彼らも座り心地の良い椅子や定期刊行物の最新号を避けている訳ではない。ディオゲネスクラブが始まったのは、こうした人たちの利便のためだ。今ではこの街で最も非社交的な人間が大勢加入している。他のメンバーの事をほんの少しでも話題にすることは禁止されている。訪問客の部屋を除き、どんな状況下であっても一切話をする事は許されない。委員会に三度違反が報告されれば、違反者は除名される。兄は創始者の一人だが、僕も非常に落ち着く雰囲気の場所だと思っている」

ディオゲネスは古代ギリシアの哲学者でキュニコス派。「嘲笑する、皮肉屋な、人を信じない」という意味の「シニカル」という語は、キュニコス派を指す英語 cynic を形容詞化した cynical に由来する。-Wikipedia「キュニコス派」より

 

※Johnが話しかけた老紳士

…Douglas Wilmer、1960年代にBBCのドラマシリーズでSherlock Holmesを演じた人物。

 

 

少し経ってJohnは小さな部屋に連れて来られ、背後でドアがしっかりと閉じられた。Mycroftがクリスタルのデキャンタから飲み物を注いでいる。

MH: そういう習わしなんだ、John。習慣が我々を定義するんだよ。

JW: それは完全に沈黙するっていう掟ですか?「砂糖をくれ」ということさえできない。

MH: 四分の三の外交官と最前列席議員連の半数はみなひとつのワゴンのお茶を分けあっている。最善を尽くすためだ、信用したまえ。

MycroftはJohnへ微笑んだが、部屋の中ほどにある肘掛け椅子へ進み始めると険しい顔つきになっていった。

MH: 彼らは1972年(※)を繰り返したくはない。だが我々はここで話すことができる。

Johnは小さなテーブルへ歩み寄ると「The Sun」誌を手に取って、それをMycroftに振ってみせた。

JW: これ読みましたか?

MH: 目を引いたね。

JW: (肘掛け椅子のひとつに座りながら)む、ふむ。

MH: 土曜日に彼らはスクープを出した。

Johnはトップ面にある発表を読んだ。

タイトル: SHERLOCK-衝撃の真実

サブタイトル: 親しい友人Richard Brookがすべてを語る

記事はKitty Rileyによる独占記事だった。

本文: スーパー探偵Sherlock Holmesは本日、詐欺師であることが発覚した。その新たな一面は彼に憧れているファンにショックを与えるだろう // 失業中の俳優Richard BrookはTHE SUNに独占的に告白した。Holmes氏は、並外れた「推理の技術」の持ち主だとイギリス市民に信じこませるという巧妙な詐欺のために彼を雇ったのだ // 十年来Holmes氏を知っており最近まで彼を親しい友人として尊敬していたBrook氏は、最初は金が欲しくてたまらなかったと語った、だがその後…』

JW: 彼女がこの情報をどこで知ったのか知りたいもんですね。

MH: Brookと呼ばれている人物。その名前に心当たりは?

Johnは新聞を下ろし首を振った。

JW: 学生時代の友人、ですかね?

Mycroftは意地悪く笑った。

MH: Sherlockの?(また含み笑いをした)だが君をここに呼んだのはそれが理由ではない。

サイドテーブルに歩み寄り、いくつかのファイルを取った。Johnの方へ戻り、それを手渡す。Johnはファイルを開いて、その一番上にある写真を見た。

JW: 誰ですか?

MH: そいつを知らないのか?

JW: ええ。

MH:前にそいつの顔を見たこともないか?

JW: (また写真を見て)うむむ…

MH: それはベイカーストリートで撮影された。君らの二つ隣の家だ。

JW: ふむ!飲んでる物が隣(※Speedy's cafe)のだと思ったんですよ。

Johnは真顔で自分を見るMycroftに皮肉を込めて微笑んだ。

MH: そうあって欲しくはないだろうな。(ファイルを顎で示し)Sulejmani。アルバニアの殺し屋集団だ。専門的に訓練された殺し屋が君の玄関の20フィート(約6メートル)と離れないところに住んでいる。

JW: すばらしい立地ですからね。ジュビリー線(※ロンドン地下鉄の路線)は便利ですよ。

MH: John…

JW: 僕に何の関係があるんです?

MH: (歩き出し別のファイルを渡しながら)Dyachenko, Ludmila.

Mycroftは向かい合って座った。Johnは長く疲れたうめき声を出してファイルを開き、中の写真を見て顔をちょっとしかめた。

JW: うむ、たぶん、彼女は見たことがあるな。

MH: ロシアの殺し屋だ。それは君らの家の向かいで撮られた。

JW: (今はちょっと緊張した様子で)なるほど…これでパターンが読めた。

MH: (ファイルに手を置き)事実、国際的にトップの暗殺者が四人も221Bの至近距離に引っ越している。何か共有しておきたい気になることはないのかね?

他の暗殺者たちの写真を眺めながら、Johnは含み笑いをし、Mycroftを見た。

JW: 引越ししましょうか?!

Mycroftはつまらなそうに彼を見返し、目を細めた。

MH: 共通項を推測するのは難しいことじゃないだろう?

JW: これはMoriartyの仕業だとでも?

MH: 彼はSherlockに戻ってくると約束した。

JW: もしMoriartyなら、僕らはもう殺されてる。

MH: Moriartyでないなら、誰が?

JW: …なぜSherlockに心配してるって言ってやらないんですか?

Mycroftは視線を外し、そばのテーブルにあるグラスを弄んだ。Johnは目を回した。

JW: ああ、もう、僕に言われても。

MH: 我々の間には多くの歴史があるんだよ、John。古い恨み、怒り。

JW: スマーフを盗んだとか?アクションマンを壊したとか?

MycroftはJohnをにらんだ。Johnはこらえきれずに笑い、気を落ち着かせてテーブルからファイルを取った。

JW: (ささやき声で)もういいですか。

Johnは立ち上がって部屋を出ようと向きを変えた。

MH: 我々は何が起ころうとしているかわかっている、John。

Johnは立ち止まって振り返った。あきらかに今は怒りを抑えようともがいていた。

MH: Moriartyはとりつかれている。奴は唯一のライバルを倒すと宣言していた。

JW: (断固として)そしてあなたは弟が自分の助けを受けないから、僕に見張っていろというんですね。

MH: それほど迷惑でないなら。

MycroftはJohnに微笑んだがすぐにそれは消え、また表情は険悪になっていった。Johnは視線を受け止めた後に目を逸らし、あきらめてうなずきながらドアへ向かおうと振り返った。開けながらもう一度振り返る。Mycroftは同じ表情のままだった。そしてJohnは部屋を後にした。

 

※1972年

…この年、長年におけるイギリスの最大の政治問題と言われていた北アイルランド問題が頂点を迎え、多数の犠牲者が出た。(血の日曜日事件など)北アイルランド政府に解決能力がないと見たイギリス政府は同年ストーモント議会 (北アイルランド議会) を廃止し、北アイルランドはイギリス本国政府の直轄統治下に入れられた。Moriartyはアイルランド出身とされている。

ライヘンバッハ・ヒーロー 3