221B。Sherlockの電話がまた別のメールを受信した。Johnはイライラして新聞を置いた。

JW: 見るぞ、いいな?

立ち上がって電話へ歩み寄り、取り上げてメッセージを確認した。Sherlockは引き続き顕微鏡を覗き込んでいる。Johnの表情はゆっくりと衝撃に包まれていった。そして振り返ってキッチンへ電話を持って行き、Sherlockへ差し出した。

JW: これ。

SH: (顔を上げず)今は無理、手が離せない。

JW: Sherlock…

SH: 今は無理。

JW: (息遣いを荒くして)あいつが戻ってきた。

Sherlockは顔を上げ電話を取った。メッセージは

Come and play.

Tower Hill

Jim Moriarty x

[遊びにおいでよ。タワーヒル(※) Jim Moriarty x]

Sherlockは目を見開き、椅子に寄りかかって宙を見つめた。

 

※タワーヒル

…Tower Hillはロンドン塔があるタワー・ハムレッツ区内の地名、ロンドン塔の裏側に同名の地下鉄の駅がある。

 

 

タワーでは、まだ穏やかな笑みを浮かべているJimがパトカーの後部座席へと引っ張られていった。GregとSallyが建物から出てきてその様子を見ている。Gregは手に持っていたJimの電話を眺めた。

 

 

その後、タワーに到着したSherlockとJohnは、Jimがガムをガラスに貼りつけている監視カメラの映像を見ていた。距離があってガムの上に何を付けたのか見えない。

GL: あのガラスは他のより丈夫なんだ。

SH: 炭素の結晶より丈夫じゃない。あいつはダイヤモンドを使った。

Gregが再生機を操作すると映像は巻き戻され、割られたガラスが元の状態に戻っていった。Jimが消火器を引き、ガラスは元通りになり、描かれていたメッセージが明らかになる。Jimは、監視カメラの映像を見る人間にわかるように、言葉を裏返して慎重に描いていた。「O」に”笑顔”を含んだメッセージは、

GET

SHERLOCK

[SHERLOCKを捕らえろ]

JohnはSherlockに顔を向けたが、彼は画面を見つめたままだった。

 

 

場面が変わり、Nina Simoneの曲「Sinnerman(罪人)」が流れている。

「Daily Express」誌はどこからかガラスに書かれたメッセージの画像を手に入れ、一面トップに掲載していた。

タイトル: 世紀の犯罪?

本文: 議会での質疑。如何にしてロンドン塔、ペンタルヴィル刑務所そしてイギリス銀行が、すべて同じ男によって同時に破られたのか-James Moriartyによって // 未確認の報告、スコットランド・ヤードお気に入りの探偵Sherlock Holmes氏が最も大胆な犯罪の謎をつなぎ合わせるチームを助けるために呼ばれた…五ページへ

 

そしてまた新しい新聞の一面。

タイトル: ベイリーで宝石泥棒の公判

本文: 大英帝国王冠泥棒事件はオールド・ベイリー(※中央刑事裁判所)で審理が行われる、そしてSherlock Holmes氏が検察側の証人に指名された // 犯罪の名人Moriartyが犯行の際にGET SHERLOCKと描き、Holmes氏を嘲った。事件は国際的にも多大な関心を寄せられている // アイルランド出身のMoriarty-住所不定、探偵の名人を嘲っているらしい // Boffin Holmes、confirmed bachelor John Watsonを従えて-コメント拒否 // 観衆は昨日、世紀の公判と評された件に関心を寄せた

「The Guardian」誌。

タイトル: 鑑定人として呼ばれたアマチュア探偵

サブタイトル: スコットランド・ヤードはMoriartyの公判に”国民お気に入りの探偵”を召喚する

スコットランド・ヤードでの記者会見で鹿撃ち帽を被ったSherlockの写真が添えられている。

本文: Conan Doyleの小説作品のひねくれた名士、Sherlock Holmes氏は昨日Jim Moriartyの鑑定証人ということが明らかになった。多くの評論家が世紀の公判について発言した、犯行は大ヒット映画の要素をすべて兼ね備えている。王家、ロンドン警視庁、世界の金融、強欲、そして復讐心にまみれた”下層囚人”たちが50分間の自由を満喫。事件は皮肉と陰謀にまみれているが、恐らくより深い倦怠を社会の中心へもたらすだろう // 寡黙なHolmes氏は事件の掛かり合いについて問われた際にコメントを辞退した。ご存知のとおりスコットランド・ヤードのすっかり使い果たされた…

 

 

221B。Johnはリビングの鏡の前に立っていた。ネクタイを整え、スーツのジャケットを羽織る。その少し後ろから鏡の方へ顔を向け、Sherlockも上着のボタンを留めた。やがてSherlockは先に下に降りて玄関の扉へ行き、立ち止まって脇へ寄りJohnが通れるようにした。

JW: いいか?

SH: ああ。

気を引き締めてJohnはドアを開けた。警察官たちが大勢の報道陣を抑えようとしている。彼らはすぐに二人の写真を撮りだしながら質問を浴びせかけた。警官がなんとか道を空けると二人は待っていたパトカーへ向かった。後部座席に乗り込むと車は動き出し、サイレンを響かせて走っていった。

 

 

オールド・ベイリーにて、Jimは細身の明るいグレーのスーツを着て独房にいた。白いシャツで淡いグレーのネクタイと銀のネクタイピン、胸のポケットにはグレーのハンカチが添えられていた。看守が彼とそばに立つ別の二人の看守を繋ぐ手錠を確認していた。その後、看守に囲まれて法廷へと廊下を歩きながら、Jimはわずかに笑みを浮かべた。

 

 

SherlockとJohnを載せたパトカーはトラファルガー広場を通っているところだった。

JW: 覚えとけ…

SH: (すぐに)ああ。

JW: (しつこく)忘れるな…

SH: (さらに早く)ああ。

Johnは怒って顔を背けたが沈黙を破り、すばやく話し出した。

JW: あいつらが君に言ったことを忘れるな。利口ぶろうとするなよ…

SH: いやだ。

JW: …そんで頼むから、簡潔で、手短に。

SH: 公判のスター証人が知的に振る舞うことが絶対にないように。

JW: 「知的」、そうだ、「賢いバカ」にならないように。

沈黙が挟まれた。

SH: 自分らしくやるよ。

JW: (怒りながら)僕の言ったこと聞いてたか?!

 

 

オールド・ベイリー裁判所。Jimは法廷への階段を上がっている。二人の刑務官が彼の肩を掴んでいた。

 

 

外ではTVのリポーターたちがそれぞれのカメラに向かって話し、その様子は番組の最新レポートで放送された。

ITNリポーター: …ここで今日外に立っているのは…

SKY NEWSリポーター: …これは世紀の公判で…

BBC NEWSリポーター: …James Moriartyの公判は…

SKY NEWSリポーター: …James Moriarty、今朝早く未遂の被告人は…

ITNリポーター: …大英帝国王冠強奪未遂の…

BBC NEWSリポーター: …オールド・ベイリー裁判所において我々はライヘンバッハのヒーロー、Sherlock Holmesを…

 

 

Jimと付き添いの刑務官は階段の頂上に着き、被告席に入った。彼の拘束を確認しにやってきた女性の刑務官にJimは顔を向け、耳元にささやいた。

JM: ポケットから取ってもらいたいんだけどいいかな?

刑務官が傍らの同僚を見ると同意を得られたので、彼女は不安そうにゆっくりと指をJimのズボンのポケットに入れ、何かを取り出した。Jimは彼女の顔の近くで息をして、目を見つめながら舌を出す。彼女はポケットで見つけた物を彼の舌に載せた-それはガムの粒だった-彼は舌をしまって噛み始め、不気味な表情で彼女に微笑んだ。

JM: ありがとう。

 

 

Sherlockはオールド・ベイリーのトイレで手を洗っていた。

館内放送: 王冠対Moriarty事件-10番法廷にお進みください

蛇口をひねると、女性が後ろに立っていた。鹿撃ち帽を被り、尊敬した眼差しで彼を見ている。彼女のバッグは指をすり抜け、床に落ちた。

KR: 彼だわ。

Sherlockは彼女が帽子だけでなく「I(heart)Sherlock」バッジを付けているのに気付いた。

SH: トイレを間違えたか。

KR: とってもあなたのファンなんです。

SH: (彼女の方を向きながら)どうやらそうらしいね。

KR: あなたの事件を読みました、関わるものみんな。(近くへ寄り、憧れの眼差しで彼を見て)シャツにサインしてもらえませんか?

彼女は上着を広げ、谷間が見えるくらいブラウスの胸元が開いているのを見せながら手にしていたペンを差し出した。

SH: ファンには二つのタイプがいる。

KR: へえ?

SH: 「また殺す前に捕まえて」-Type A…

KR: ふうん。Type Bは何?

SH: 「あなたの寝室はまさにタクシーでの移動」

Kittyはニヤリとして、Sherlockを見つめた。

KR: わたしはどっちか当ててみて。

Sherlockは彼女の身体へ目を走らせ、すばやく推理した。

圧迫した跡 / ポケット / インク

そしてすぐに答えた。

SH: どちらでもない。

KR: (少し緊張しながら瞬きをして)ほんとう?

SH: 違う。君はファンなんかじゃない。

Sherlockは彼女の右手首にある圧迫された跡を見た。

SH: その腕にある跡は、机の端だ。急いで文章を入力してたんだろう。締め切り間近のプレッシャーで。

KR: (顔を背け)それだけ?

SH: それから手首にあるインクのシミ、上着の左ポケットのふくらみ。

Kittyのポケットから突き出ているレコーダーは赤いライトが点灯していて、録音中であることを示していた。

KR: ちょっとしたヒントね。

SH: そのシミはわざとだな、僕が評判通りなのか探るために。

SherlockはKittyの手を取り、インクの匂いを嗅いだ。

SH: ふむ。油性、新聞の印刷に使われる、だが人差し指で付けられてる、君の指で。

KR: ふん!

SH: ジャーナリストね。印刷で指を汚すなんてありえない。僕を試すために寄越されたんだな。

KR: まあ、わたしあなたが好きなのに!

SH: それはいい呼び物になるからだろう、「Sherlock Holmes-帽子の下の男」

KR: Kitty…(帽子を取って)…Rileyよ。会えて良かった。(握手をしようと手を差し出す)

SH: 断る。質問の手間を省いてやっているだけだ。だめだ、インタビューには応じない。違う、金が欲しいんじゃない。

Kittyを押しのけてSherlockはドアへ向かい、彼女は追いすがった。

KR: あなたとJohn Watsonは-プラトニックなの?「ノー」という答えでいいのかしら?

Kittyがドアを開けるのを阻止して前に立ち塞がり、至近距離に歩み寄ったのでSherlockは怒って息を荒くした。

KR: あなたの報道にはあらゆるゴシップがある。いずれあなたはそばに誰か必要になる…

そう言いながらポケットから名刺を取り出し、Sherlockの胸ポケットに差し込んだ。

KR: …記録を正す誰かが。

SH: (皮肉を込めて微笑み)で、自分がその役目だと考えてるのか?

KR: わたし頭がいいの、そしてあなたはわたしを信用するはず、完全に。

SH: 頭がいいね、そうか。調査ジャーナリスト。いいね。僕を見て何がわかるか言ってみろ。

KittyはぽかんとSherlockを見ていた。彼が自分の前で静かに揺れているのにたじたじとなっているようだった。

SH: もしスキルがあるなら、インタビューなんか必要ない。必要なものをただ読み取ればいい。

Kittyはぎこちなく彼を眺めたが、視線を合わせ続けることができなかった。

SH: 無理か?よし僕の番だ。

彼は彼女を眺めながら周りを歩いた。

SH: (早口で)君を見てわかるのは編集者の注意を惹くような初めての大きなスクープを待っているということ。いい値段のするスカートを履いてるが二回裾を直していること、持っている唯一の上等なスカートだ。そして爪の手入れをする余裕がない。飢えているようでは頭がいいとは言えない、信用できるなどと思えるわけがない、だがもしお望みであれば格言をやろう-たった三つの言葉だ。

Sherlockが手を伸ばしKittyのポケットからレコーダーを取り上げ、それを口元に近づけたのでKittyは期待をして歩み寄った。Sherlockはゆっくりと慎重にその言葉を発した。

SH: 君は…とても…不愉快だ。

そして向きを変えて出て行ってしまった。

 

 

オールド・ベイリー、10番法廷。Sherlockは証言をするように求められ、証言台に立っていた。Jimは彼と向い合って被告席にいて、まだ無関心そうにガムを噛んでいる。Johnは上段の一般聴衆席から見守っていた。

検察側法廷弁護士: 「犯罪コンサルタント(consulting criminal)」と。

SH: はい。

検察側法廷弁護士: その表現についてですが。詳細にお願いできますか。

SH: James Moriartyは請け負い人です。

検察側法廷弁護士: 職人だと?

SH: はい。

検察側法廷弁護士: しかし暖房を修理するような類の人間じゃないでしょう。

SH: いえ、爆弾を仕掛けるか暗殺を企てる人物です、でもきっとボイラーでちょっとした事件を起こすでしょうね。

法廷の人々の中に押し殺した笑いが起こり、検察側法廷弁護士も笑いをこらえようとした。

検察側法廷弁護士: あなたは彼について…

SH: (遮って)誘導している。

検察側法廷弁護士: 何ですか?

SH: それはできませんね。あなたは証言を誘導している。(被告側法廷弁護士の方を見て)彼は異議を唱え、判事は支持するでしょう。

判事は憤慨したようだった-Sherlockが証言においてこういう言動をしたのは当然これが最初ではなかった。

判事: Holmesさん。

SH: (検察側法廷弁護士に)質問をどうぞ。どう説明しましょうか?彼について如何なる見解を持ったか?彼らはこのことについてあなたに説明しないんですか?

判事: Holmesさん、あなたの助言はいただかなくても結構です。

Kittyが一般聴衆席にやってきた。Johnは彼女が席に着くのを見ていた。

検察側法廷弁護士: この男についてどう説明をしますか、人柄については?

SH: 最初の誤ちですね。(顔を上げ視線をJimに向けた)James Moriartyは“男”なんかではありません-“蜘蛛”です-巣の真ん中にいる蜘蛛-千の糸で形成された犯罪の巣、そしてそれぞれすべての糸がどう躍動するか、完全に把握しているのです。(※)

JimはSherlockの説明を聞きながらわずかにうなずいていた。検察側法廷弁護士はきまり悪そうに咳払いした。

検察側法廷弁護士: それでどのくらいの間…

SH: (怒って目を閉じながら)いや、いや、そんな、そんなのは止してください。それは本当に良くない質問ですよ。

判事: (怒って)Holmesさん。

SH: どのくらいの期間彼を知ってるか?質問の流れとしてはまったく最善とは言えない。我々は二度遭遇しました、全部で五分。私は銃の引き金を引いた、彼は私を爆破しようとした。(皮肉を込めて)我々には特別な何かがあると感じました。

それを聞いてJimは眉を上げ「おお!」という表情をした。

判事: Sorrelさん、この男性が専門家だと真面目に主張するんですか、被告人をたった五分間知っているというだけで?

SH: 二分間でわたしは専門家になれます。五分で充分でした。

判事: Holmesさん、それは陪審員が判断することです。

SH: おお、本当ですか?

Sherlockの視線は陪審員席へ向けられた。Johnはすべてを察知して「ああ、くそ、だめだ!」と思いながら顔に手を当てた。Sherlockは自らのすべての視線を陪審員席に座っている12人に投げかけ、わずかな時間で彼ら全員を推理していた。

SH: 一人の司書、二人の教師、二つの堅実な職業、恐らくシティー(※Greater Londonの中心部で英国の国際的商業/金融の中心地)ですね。

今度は前列の左のあたりに座っている女性に注目した。彼女は前の柵にノートを載せ、速記で書き込んでいる。

SH: 陪審長は医学秘書、速記術は海外で習得したものです。

判事: Homesさん!

SH: (陪審員たちの指輪をざっと見て)七名は既婚者で二名は浮気している-お互いに、たぶんそうだ!ああ、それからお茶とビスケットを口にしたようだ。

Sherlockは判事の方を向いた。

SH: 誰がウエハースを食べたかお知りになりたいですか?

判事: (怒って)Holmesさん。あなたはSorrelさんの質問に答えるためにここへ呼ばれたんですよ、知力の腕前を披露するためではありません。

Sherlockは口をつぐんだが、判事に「知力の腕前」を認められたことについて笑みを浮かべずにはいられなかった。そしてJohnの方を一瞥したが、諭すような厳しい視線を返されたので、説教を受ける生徒のように密かに目を回してみせた。そんな二人をJimはおもしろそうに眺めている。

判事: 答弁は短く要点を絞って。その他のことは侮辱罪とみなします。少しの間誇張を抑えることはできると考えますか?

Sherlockはわずかにその質問について考えてから、口を開いた。

 

 

その後、Sherlockは刑務官に連行され、法廷の下の独房の中へ押し込まれた。判事の意向に添うことができなかったようだ。公判は休会されたらしく、少しして二人の刑務官がJimを連れてきて隣の独房に入れ、鍵を閉めた。お互いを認識しているかのように、二人は振り返って壁に隔てられたお互いを見た。Jimの表情はゆっくりと殺意を帯びていった。

 

 

しばらくしてSherlockは解放された。持ち物の受け取りのため署名をしている傍ら、Johnは腕を組んで机に寄りかかって立っていた。

JW: 僕は何て言った?「利口ぶるな」と言ったんだ。

SH: そんなスイッチみたいにオンとオフを切り替えできないよ。

法務官から持ち物の袋を受け取り、Johnの方を向く。

SH: それで?

JW: それで何だ?

SH: ずっといただろ、聴衆席に、最初から最後まで。

JW: 君が言ってたようなことは…(被告人弁護士について)…奴の後ろに座ってた、身動きせずにね。

SH: Moriartyは弁護など用立てちゃいないさ。

 

※蜘蛛

…原作「最後の事件」でHolmesがMoriarty教授について語った言葉。「(…)彼は巣の中心の蜘蛛のようにじっと座っている。しかしその巣は無数の放射状の糸があり、一本一本の振動をすべて把握している」

 

 

221B。二人はリビングに入ってきた。

JW: イギリス銀行、ロンドン塔、ペンタルヴィル。国でもっとも厳重な場所に六週間前Moriartyは侵入した、誰も手段と動機を把握していない。

Johnが肘掛け椅子に座ると、Sherlockは考えるときのいつものポーズ-祈るように両手を合わせ、歩き回り始めた。

JW: 僕らが把握しているのは…

SH: …あいつが最後には拘留されたことだ。

Sherlockが立ち止まって顔を向けると、Johnは息を呑んだ。

JW: それはやめてくれ。

SH: 何を?

JW: その目付き。

SH: 目付き?

JW: またその目付きをしてる。

SH: ん、僕にはわからないな?

JohnはSherlockが気付かないので壁の鏡を指した。Sherlockは顔を向けて自分の映る姿を眺めた。

SH: 僕の顔だけど。

JW: ああ、してるね。「“僕達”はここで本当に何が起こっているか知っている」っていう顔をしてるよ。

SH: ああ、そうだろう。

JW: 違う。僕はね。だからその顔つきはすごくうっとうしい。

Sherlockはようやく理解して、頭の中にある考えをJohnにもわかるように言葉にした。

SH: Moriartyが宝石を求めてるなら手に入れるだろう。囚人を解放したいなら街に解放するだろう。あいつが今まだ監獄にいるのは、その場所を選んだからだ。

Sherlockはまた歩き回り始めた。

SH: どうやらこれはあいつの作戦なんだ。

 

 

翌日、検察側にはもう証人がいないらしい、オールド・ベイリー。Jimは不気味ににらみつけるように、だが口元には不敵な笑みを浮かべて立っていた。

判事: Crayhillさん、あなたの最初の証言をいただけますか?

すると被告人弁護士であるCrayhillが立ち上がった。(※)

被告人弁護士: 申し上げます、我々は証言を要求致しません。

法廷にいる人々はどよめき、一般聴衆席に座っているJohnは困惑して眉をひそめた。

判事: 理解しかねますね。あなたは無実の嘆願を提起しました。

被告人弁護士: それでも、私の依頼人は証言を求めません。弁護は以上です。

弁護士は腰を下ろした。Jimは判事に向けてわざとらしく残念そうに口を「への字」に歪めた。そして振り返ってJohnを見上げ、再びわざとらしく口を曲げて見せた。

 

※Crayhill

…被告人弁護士を演じる俳優のIan HallardはMark Gatiss(脚本と制作指揮およびMycroft役)のパートナー。

 

 

それほど経たずして…家で待機することを選んでいたSherlockは、窓の側のアーム部分に背中を寄り掛からせてソファに寝そべっていた。服の上に青いガウンを纏った彼は判事が陳述するであろう言葉を暗唱する。その暗唱は判事の実際の言葉とともに散在し、たびたび重複した。それを聞いているJimは余裕の表情で時折ほくそ笑むような様子を見せたが、実際はあまり興味を持っていないようだった。

SH/判事: 陪審の紳士淑女のみなさん。James Moriartyはいくつかの侵入の罪に問われ、被告人席におります、罪状は-もし有罪とされるならば-非常に長期の懲役となるでしょう。それでもなお法廷弁護人は彼らの役に立つどんな嘆願であろうと証言を求めないことを選択しております。わたくしが評決を推奨する異常な立場であることは心から認識しております。…あなた方は彼を有罪であると裁定すべきです。

Sherlockは目を閉じ、ささやいた。

SH: 有罪。

判事: あなた方は彼を有罪とすべきです。

 

 

そして休会となり、10:50にJohnは法廷の外のベンチに座っていた、すると法廷の書記が脇の部屋から駆け出してきた。

書記: みなさん戻っています。

Johnは腕時計を確認した。

JW: 六分しか経ってないですよ。

書記: そんなに長くかかったとは驚きですね、正直言って。トイレ待ちの行列だ。

彼は急いで法廷に入っていった。Johnは立ち上がって、少しの間自分を奮い立たせてから後を追った。

 

 

数分後、書記は法廷で立ち上がり、陪審員席へ顔を向けた。

書記: 完全に同意する評決に辿り着きましたか?

陪審のひとりがうなだれて、絶望的に頭を振った。陪審長は立ち上がって書記を不快そうに見つめた。

ライヘンバッハ・ヒーロー 2