ライヘンバッハ・ヒーロー 1

John Watsonは椅子に座っていた。221Bではない。窓の外では雨が激しく降り、雷が轟いている。彼は疲れているようでその表情は苦痛に満ちていた。悩みを抱え、再びセラピストのもとを訪れていたのだった。

Ella: (画面の外で)今日はどうしたの?

Johnは詮索しながら顔をしかめる。セラピストは彼と向かい合って座っていた。

JW: それを僕に訊くんですか?

Ella: 最後に会ったのは18ヶ月も前よ。

要領を得ない様子のセラピストにJohnは苛立ち始めた。

JW: 新聞を読むでしょう?

Ella: 時々は。

JW: テレビを見るでしょう?なぜ来たかわかってるはず…

言葉の終わりには苦痛のうめきが伴っていた。

JW: ここにきたのは…

そう言いかけたが、声が詰まり、先を続けることができなくなった。うつむいて、苦しみを抑え、泣き出さないようにこらえている。Ellaは同情を示して前に屈みこんで語りかけた。

Ella: 何があったの、John?

Johnは目を閉じて苦しみをこらえてから、再びセラピストを見上げた。その顔は喪失感に溢れていた。咳払いをして深呼吸し、話をしようとしたが、声を保っていられなかった。

JW: Sher…

また咳払いをし、懸命に苦しみを抑えようとするJohnに、セラピストはやさしく語りかけた。

Ella: それを吐き出さないと。

Johnは話そうとしたが、声は弱く、痛みに満ちて涙声だった。

JW: 僕の親友の…Sherlock Holmesが…

そこで鼻をすすり、声はいっそう苦痛を伴った。

JW: 死んでしまった。

とうとうJohnはこらえきれず、泣き崩れた。

 

 

----------オープニング----------

 

 

三ヶ月前。アートギャラリーで支配人が絵の近くに立ち、スピーチをしていた。

支配人: ありがたいことに、この度ターナーの名作「ライヘンバッハの滝」を無事取り戻すことが出来たのは、Sherlock Holmes氏の驚異的な才能のおかげであります。

ギャラリーの得意客たちは拍手喝采した。SherlockとJohnは近くに立っている。支配人は小さな贈り物をSherlockに渡した。

支配人: わたくしどものささやかな感謝のしるしです。

Sherlockは受け取りそれを眺めた。

SH: ダイヤモンドのカフスボタンか。僕のシャツの袖口はみんなボタンがある。

JW: (支配人に)彼は感謝を述べています。

SH: 僕が?

JW: そう言っとけ。

SH: ありがとうございます。

気持ちを込めずにそう告げてSherlockはその場を去ろうとしたが、Johnが背中を引っ張った。

JW: おい。

Sherlockがいやいや立ち止まると記者たちが写真を撮り始めた。その後、写真の一枚が新聞に掲載された。

タイトル: ライヘンバッハのヒーロー

サブタイトル: ターナーの名作は『一般人』によって取り戻された / スコットランド・ヤード、手がかりを見落とす失態

本文: 十日前にオークションハウスから盗まれた170万ポンド(※約二億円)の価値があるターナーの名作は、一般人の探偵によりロンドン北部より取り戻された。ベイカーストリートのSherlock Holmes氏は趣味で美術品犯罪を調査しており、すばらしい成果へ繋がる手がかりを追うことができた-スコットランド・ヤードが完全に見落とした手がかりを。Sherlock Holmes氏のWebサイトは熱狂的な支持を獲得している-「The Sci…

そこで文章は画面から消えた。

新しい新聞の記事: 銀行頭取誘拐

本文: Sherlock Holmes氏は男性誘拐事件に偉大な知能を駆使して立向かい、昨晩またもやヒーローと讃えられた。// スコットランド・ヤードは再び(Holmes氏という)秘密兵器に密かに依頼をした。事件は国民から多大な関心を引いており、国民は誘拐事件の結末に意見が分かれた。銀行団はもはや国民の恋人ではない、だがHolmes氏は確かにそのようだ。大観衆は記者会見に集まり、Holmes氏は贈呈された…

そして文章は画面から消えた。

 

 

銀行家の家の外では救出された男性が妻と幼い息子に腕を回して立っていて、記者たちは写真を撮っていた。その間SherlockとJohnはきまり悪そうにそばに立っている。

父親: 家族とともに恐ろしい体験から戻ってくることができました、そして救出してくれたひとりの男性に感謝します-Sherlock Holmesさんです。

観衆が拍手喝采すると男の子は微笑んで小さな贈り物をSherlockに差し出した。箱を受け取ってカタカタと振ってみる。

SH: (Johnに)ピンだ、ネクタイはしないのに。

JW: シー。

その場面の写真が新聞の次の号に掲載された。

タイトル: ライヘンバッハのヒーローが誘拐事件の被害者を探し当てた

 

 

スコットランド・ヤードでGreg Lestrade警部が記者会見の対応をしていた。SherlockとJohnはそばに立っていて、Sally DonovanとAndersonが部屋の後方でその様子を眺めている。

GL: Peter Ricoletti、1982年からインターポールの指名手配リストのトップに挙げられていた男です。しかし我々は捕まえることができた。決定的な誘導をしてくれたひとりの人物に感謝せねばなりません…その巧みな交渉術と機転に(!)

SherlockはGregに偽善的に微笑み、JohnはSherlockの方に身体を寄せて小声で話しかけた。

JW: いやみだな。

SH: だな。

記者たちが拍手喝采すると、GregはSherlockへ歩み寄り、楽しげに微笑みながら贈り物を渡した。

GL: みんなで出し合ったんだ。

Sherlockが包み紙を破るのを見ながらSallyとAndersonは何かを期待してニヤニヤ笑っている。中から現れたのは鹿撃ち帽だった。

SH: (微笑もうとしながら)おお!

最初のリポーター: 帽子を被ってください!

二番目のリポーター: 帽子を被って!

GL: ああ、Sherlock、被ってくれよ。

Sherlockは彼らを殺してやりたいと思っているかのような顔をしてにらみつけた。Johnはきまり悪そうに咳払いをする。

JW: ちょっと我慢しろ。

JohnをにらみながらSherlockは包み紙を手に握り締めると不快そうに帽子を頭に載せた。フラッシュが激しくなりみんなは拍手喝采する。部屋の後方ではSallyが嘲笑いながら楽しそうに手を叩き、Andersonは満足気にニヤリと笑った。Sherlockは記者へ歯を見せながら微笑み、後で痛い目に合わせてやるというかのようにGregをちらりと見た。

 

 

しばらくして、「Daily Star」はトップページに世界独占記事を掲載した。

タイトル: “Boffin”Sherlockが別の事件を解決する

サブタイトル: ヒーロー探偵“お手上げ”事件を解決

 

※Boffin

…Boffinは科学者、利口だが人気のない人物、マッド・サイエンティストのような人物を表す言葉。また、Martin Freemanが出演する映画The Hobbitに同名のキャラクターが登場する。(The Hobbitの世界では独自の言語が使われているため、英語の場合のような意味はない。)

 

 

ベイカーストリート221B。Johnはソファに座って新聞を読んでいた。前にあるコーヒーテーブルの上には他にも各社の新聞や雑誌が積み上げられている。シャツとズボンの上に青いガウンを羽織り、足を踏み鳴らして部屋を歩いていたSherlockは新聞の山にDaily Star誌を投げ込んだ。

SH: (腹を立てながら)「Boffin」。「Boffin Sherlock Holmes」。

JW: みんなつけられるもんなんだよ。

SH: 何を?

JW: 大衆向けのあだ名、「SuBo(※Susan Boyle)」「Nasty Nick(※Nick Batemanというタレント)」とかさ。気にするな、僕もすぐつけられるだろう。

SH: 五ページ、六段目、最初の行。

Johnは言われたページをめくった。Sherlockは暖炉へ歩み寄り、鹿撃ち帽を取ると怒りながらそれにパンチした。

SH: なんでいつも帽子の写真なんだ?

JW: (新聞の記事を見ながら)「Bachelor(※独身)John Watson」?

SH: だいたいこの帽子の形は何だ?

JW: 「Bachelor」?いったいこいつらは何が言いたいんだ?

SH: (帽子を持ち前後に繰り返しひねりながら)キャップか?なんで二つも前がある?

JW: (ちょっと見上げて)鹿撃ち帽だよ。(さらに記事を読み)「頻繁に同席するBachelor John Watsonは…」

SH: 帽子を被って鹿を追うのか?何に使うんだ-投げるのか?

JW: (記事の別の部分を見ながら)「…confirmed bachelor John Watson」!(※)

SH: 死のフリスビーってやつか?

JW: わかった、これは過剰だな。もっと用心しないと。

SH: 覆いがあるよ…耳の覆い。こりゃ『耳帽子』だ、John。

Sherlockが帽子をフリスビーのようにJohnの方へ水平に投げたので、Johnはそれを受け取った。

SH: どういう意味だ、「もっと用心する」って?

JW: つまりこれは鹿撃ち帽じゃなくて今やSherlock Holmes帽だってことだよ。要するに君はもう正確には私立探偵じゃない。(親指を上げ、人差し指と1インチ開けた)あとちょっとで有名人だ。

SH: ああ、すぐ飽きるだろ。

Sherlockは肘掛け椅子にドスンと座り、口の前で祈りの形に手を合わせた。

JW: 飽きるだけならいいさ。豹変するぞ、Sherlock。マスコミはいつもそうだ、きっと君を攻撃し始める。

Sherlockは手を下ろすと、あらためてJohnへ目を向けた。

SH: 本当に迷惑そうだな。

JW: え?

SH: みんなが言ってることでさ。

JW: ああ。

SH: 僕のことだろ?理解できないな-なぜ君がうろたえる?

Johnは少しの間、視線を受け止めていたが、目を逸した。

JW: ちょっと露出は控えるようにしないと。今週は小さい事件に費やすんだな。…ニュースとは距離を置こう。

 

※confirmed bachelor

…『がんこな独身』、同性愛者の婉曲的表現。

 

※Sherlock Holmesと帽子

…原作の本文中に「鹿撃ち帽」という描写は一切なく、該当するのは「旅行帽」という表現のみ。挿絵を手掛けたシドニー・パジェットが初めて挿絵でHolmesに鹿撃ち帽をかぶせたのはThe Boscombe Valley Mystery(ボスコム谷の惨劇)。旅行帽として鹿撃ち帽を選んだのは、シドニー・パジェットが鹿撃ち帽のかぶり心地を気に入っていたからと言われている。いずれにしても紳士階級であるHolmesがこのような帽子を身につけるのは田舎に出掛けるときのみで、普段ロンドンにいるときは身だしなみとして(本文、挿絵どちらでも)きちんとシルクハットをかぶっている。また、Holmesの魅力的なアイテムのひとつと思われている『曲がった』パイプも原作には出てこない。当時そのタイプのものはロンドンには存在せず、柄がまっすぐな形のものが主流で、Holmesが使用していたのもそのタイプのもの。これは後にアメリカ人俳優のウィリアム・ジレットが理想的なSherlock Holmes像として舞台で曲がったパイプを使ったためと言われている。なぜ曲がったパイプかというと、その方が顔立ちを良く見せ、声がよく通るかららしい。この姿を元にフレデリック・ドア・スティールが後期のホームズの挿絵を描いたためこのような印象が人々に埋め込まれたとされている。

 

 

ロンドン塔 11:00

観光客たちがあたりを見ながら広場を歩き、守衛と話したり、写真を撮ったりしていた。ジーンズとトレーナーに明るいグレーの上着、そしてユニオン・ジャックと共に「London」とプリントされた、いかにも観光客向け土産の帽子を被っているひとりの男が携帯電話のカメラであたりを見て他のみんなのように写真を撮っていたが、他の物よりセキュリティースタッフに関心を寄せていた。他に彼の興味をそそったのはイギリス王室祭具への道を示した標識だった。カメラを下ろし何気なくガムを噛んでいたのは他ならぬJim Moriartyだった。

 

 

221Bでリビングにある電話がメールを受信した。Sherlockはキッチンにあるテーブルの前に座っていて、顕微鏡を覗き込んでいる。JohnがSherlockの寝室がある方の廊下から入ってきた。シャワーを浴びた後らしく髪は濡れていて、バスローブ姿でタオルを肩にかけている。

JW: 君の電話だぞ。

SH: (無関心に)うん。そのままにしといてくれ。

Johnは天井から吊るされているスーツを着た『身体』を通り過ぎてリビングに入ると自分の椅子に座り、新聞を取った。ぶら下がった『身体』は風にそっと揺れた。

JW: で、ほんとにずっとそいつと話してたのか?

Sherlockは顔を上げ、ぶら下がった『身体』をちらっと見た。それは本物の人間でなくただのマネキンだった。

SH: ああ、Henry Fishgardは自殺しようとなんてしてなかった。

Sherlockは古いハードカバーの本を取り、埃を立てながらそれをバタンと閉じて顕微鏡をまた覗きこんだ。

SH: Bow Street Runnersはすべて見失った。(※)

JW: それは緊急事態じゃないか?(!)

SH: みんな緊急だ、解決するまでは。

 

※Bow Street Runners

…1749年にHenry Fieldingが設立したロンドンで最初の警察組織。この場面でSherlockとJohnが話している内容の詳細は不明だが、Sherlockが古い本に載っている事件について考察しているのか、もしくは現在発生している事件について何か調査していて(現在の)警察を"Bow Street Runners"と喩えたのかもしれない。そして「自殺しようとなんてしてなかった」という言葉は彼に振りかかる運命を暗示しているようでもある…

 

 

その間、ロンドン塔のホワイト・タワーでは旅行者たちがイギリス王室祭具の展示を見るために金属探知機で検査を受けていた。警備員が観光客から預かった物を返している。

警備員: これはバッグにしまってください。

順番がやってきたのでJimが探知機を通ると、警告音が鳴った。

警備員: すみません、お客さん。

まだガムを噛みながら、Jimは立ち止まって数歩戻った。

警備員: 金属製の物は何か-鍵とか携帯電話とか?

謝罪するように笑みを浮かべると、Jimはポケットから携帯電話を取り出して探知機の脇の机にあるトレーに置いた。

警備員: 通ってください。

再び探知機を通ってみると今回は警告音は鳴らなかった。警備員が探知機の向こうへトレーをずらし、Jimは電話を受け取った。

警備員: ありがとうございます。

Jimは歩き出し、先へ進んだ。部屋の中ほどにある大きな展示ケースで立ち止まり、ケースの中の王座を眺める。王座の上には赤いベルベットのクッションが敷かれ、豪華な大英帝国王冠がその上に鎮座していた。同様に豪華な宝珠が王座の片方の肘部分にもたれるように置かれ、王笏(おうしゃく)がもう片方の肘部分へと立てかけられていた。他の観光客たちがケースの周りを歩く中、Jimはポケットからイヤフォンを取り出して耳に差し込んだ。首を伸ばして頭を左右にねじり、携帯電話の音楽再生スイッチを入れて至福の表情で目を閉じる。序曲が流れだすとJimは腕を広げてからゆっくりと下ろした。その曲はロッシーニの「泥棒カササギ」だった。

 

※宝珠

…十字架が上に付いた球体。キリスト教の権威の象徴で、それを手に持つことで、支配権を表す。

 

※王笏

…王(または君主)が持つ装飾的な杖。宝珠と共に手にすることで支配を表す。

※王室祭具

…レガリア (ラテン語 regalia)、リゲイリア(英語 regalia) とは、王権などを象徴し、それを持つことによって正統な王であると認めさせる象徴となる。西欧諸国においては王冠・王笏・宝珠の3種がよくみられる。これらのイギリス王室祭具は式典や議会などで使用されていないときはロンドン塔にあり、観光客向けに展示されている。-Wikipedia「レガリア」より

 

 

監視室には二人の警備員がいた。塔のすべての様子を監視するカメラの映像を見ていた一人が仲間の方を向いた。

監視人1: お茶飲むか、なあ?

監視人2: ああ、もらうよ。

男は立ち上がって監視モニターの前から離れた。

 

 

イギリス銀行 11:00

ひとりの男性がトレイにカップとミルクポットを載せ、銀行頭取のオフィスに入った。頭取はパソコンの画面に向かっている。

銀行頭取: 七時の時点での国債、Dutch telecomsは大暴落か。…ありがとう、Harvey。

Harveyはトレイをテーブルに置き、再び部屋を去った。

 

 

ペンタルヴィル刑務所 11:00

刑務所長は机に「Keep calm and carry on(落ち着いて続けろ)」という大きな文字の入ったマグを置き、ファイルを机にドスンと置いた。そばには数人の看守が座っているか、もしくは立っていた。

刑務所長: 君らは何と言うかな。仮釈放はすべて拒否し、また縄に繋げ(!) さあ始めろ。

 

 

塔では、腕を下ろし終えたJimが電話を持ち上げてアプリのアイコンをスクロールした。縞々の囚人服を着た囚人が檻の中にいるイラストのアイコン、イギリス国旗と一緒になった豚の貯金箱のアイコンを過ぎ、王冠のアイコンを選択した。南京錠が外されるように王冠のアイコンは展開し、デジタル信号が空中に流れ出すと(現実世界の)監視室の警報が鳴り始め、監視モニターのいくつかが空白になった。自動音声がホワイト・タワーにいる者たちへ繰り返し警告を発した。

音声: 非常事態です。建物を離れてください。

観光客たちは急いで部屋を離れ始める。警備員はJimがイヤフォンをしているので警報が聞こえないのだと思い、注意をしようと彼の肩に手を置いた。

警備員: すみません、出て頂くようお願いしているのですが。

振り返ったJimに何かのスプレーを顔に向けて噴射され、警備員はすぐに気を失って倒れた。防護ドアが閉じられ鍵がかかり、Jimは帽子を脱いで髪を整えた。

 

 

監視室では警備員が持ってきたお茶のカップを倒し、あわてて電話を掴んでダイヤルし始めた。

 

 

スコットランド・ヤード、Sally Donovanがオフィスを駆け抜け、Gregのオフィスのドアを開けた。

SD: 不法侵入が発生しました。

Gregは机に足を載せ、パンを食べながらコーヒーを飲んでいた。

GL: (口がいっぱいの状態で)俺たちの管轄じゃない。

SD: それはどうだか。

 

 

ホワイト・タワー。Jimは電話のアプリをスクロールしてイギリスの豚の貯金箱を選んだ。豚の貯金箱は割れて大量の金貨が飛び出し、デジタル信号が流れ出した。

 

 

イギリス銀行にいる頭取は手にしているお茶のカップを見下ろした。建物がわずかに振動するのに合わせて中のお茶が揺れている。

銀行頭取: 金庫!

警報が響き、パソコンの画面には「金庫が開いています」という警告が点滅し、ゆっくりと金庫の扉が開く画像が表示された。頭取は顎を落とし、信じられずにただ呆然と画面を見つめる。傾けられた茶碗の中身がゆっくりと腿に注がれていった。

 

 

Gregはパトカーのサイレンを鳴らしながらSallyを乗せて川を渡っていた。Sallyは電話で続報を受け取った。

GL: あのロンドン塔のセキュリティーがハックされただと?!どうやって?!

Sallyの電話が鳴り、彼女はそれに応えた。

GL: もう向かってると言っとけ。

SD: また別件です、新たな侵入が。

Gregは彼女が話を聞いている様子を見つめた。

SD: イギリス銀行が!

 

 

ホワイト・タワー。Jimはガムをクチャクチャと噛みながらガラスの展示ケースに大胆にメッセージを書いた。メッセージを書き終え-それは我々にはちゃんと見ることができない-「O」の文字の中に”笑顔”を描いている。再び電話を取り、刑務所のアプリを選択した。刑務所の檻の棒は取り払われ、アイコンの縞々服は黒の服に替えられ、画像は鍵穴に変わった。デジタル信号が空中に流れ出した。

 

 

ペンタルヴィル刑務所では刑務所長がマグを口に運んでいるところで警報が鳴り始め、看守が部屋に飛び込んできた。

看守: セキュリティーがダウンしています。作動しません!

刑務所長は立ち上がり、マグが床へと落ちていった。

 

 

道中で、Sallyはまた別の連絡を受けた。Gregへ視線を向ける。

GL: 今度は何だ?

SD: ペンタルヴィル刑務所です!

Gregは信じられずに彼女を見つめた。

GL: うそだろ!

 

 

ホワイト・タワー、Jimは歯の間からガムを引っ張り出すと、その端をケースのガラスにくっつけた。そして小さなダイアモンドを箱から出し、熱狂的にニヤつくと、注意深くそれをガムに押し付けた。ケースに背を向けると上着を脱いで床に落とし、VネックTシャツ姿になった。そして腕をそれぞれ頭上に上げ、まるでバレーを踊るようなポーズをとった。

外では、パトカーや警察車両がタワーの広場に駆けつけている。

黒い革の手袋をしたJimは壁に歩み寄り、置いてあった火災消火器を持ち上げた。

外では武装した警官が車両から飛び出し、タワーの中へ駆け込んでいく。

Jimはクライマックスに向けて盛り上がっていく音楽に合わせ、踊るようにステップをしながら展示ケースに近寄った。火災消火器の底をガラスに向けて掲げると幸せそうに含み笑いをし、それをガムとダイヤモンド目掛けてぶつけた。ガラスは衝撃を受けて粉々に割れた。ちょうど曲はクライマックスを迎えていた。

武装した警官たちが金属探知機を通り抜け、繰り返し警告音を鳴らす。

Jimは何度かさらに消火器をガラスに打ち込み、やがて一枚全部が割れて床へと落ちていった。

Gregの車がようやく広場に到着し、Sallyと共に飛び降りてホワイト・タワーへと走った。中では武装した警官がドアのロックを外して開けたところだった。中へ突撃した彼らを展示ケースの中で王座に座っているJim Moriartyが迎えた。毛皮で縁取られた王のローブを着て、頭には王冠、宝珠は膝にあり、王笏を腿の上に置いて、まだイヤホンを耳にしている。彼は音楽が終わりを迎えるのを聴きながら、幸福に包まれて目を閉じていた。そして目を開くと新しくやってきた者たちへ向かって、まるで王のように落ち着き払った態度で気高く微笑んだ。

JM: あわてるな(No rush)。