昼間。クロス・キーズ荘。外にあるテーブル席に座っているJohnのもとへSherlockもやってきた。BillyがJohnのために朝食のプレートを持ってきてテーブルに置いた。

JW: うん。ありがとう、Billy。

Billyが去るとSherlockは持っていたマグのひとつをJohnの前に置いた。

SH: やはり殺してなかったんだな、あの-犬(dog)を。

Johnは朝食をせっせと口に運び、Sherlockは横に立ってコーヒーを飲んだ。

JW: 明らかにな。そうする気になれなかったんだろう。

SH: わかるよ。

JW: わかるもんか。

SH: いや、そんなことない。感傷?

JW: 感傷!

SH: (目を回して)ああ。

Sherlockは隣に座った。Johnはとうとう気になっていたことを確かめることにした。

JW: あのさ。研究室で僕に何が起こったんだ?

SherlockはしばらくJohnを見て、視線を逸らし、ソースの袋が入った箱に手を伸ばした。どうやってすべてを説明しようかと悩んでいるようだった。

SH: ソース要るか?

JW: だってさ、Hollowにいなかったのに、どうしてあれが聞こえたんだろう?危険と刺激、君が言った。

SH: (箱を漁りながら)他のどこかで薬を吸ったんだろう、研究室に行ったときにさ、たぶん。管を見ただろ-少し古い、ザルみたいに漏れる、奴らはガスを運んでた、それで…うん。ケチャップとか、ブラウン(ソース)は…?

JW: ちょっと待てよ。砂糖だと思ってたんだろ。

Sherlockはあいまいな表現にしておこうと考えながら憐れむようにJohnを見ていたが、とぼけたように目を逸らした。

SH: そろそろ出発した方がいいんじゃないか、(腕時計を見て)30分で発車する電車がある、だからもし…

Johnは残酷な真実がわかり始めると顔を背けた。

JW: なんだよ。君だったんだな。君があの最悪な研究室に僕を閉じ込めたんだな。

SH: その必要があった。実験だったんだ。

JW: (怒り狂って)実験だと?!

SH: (近くに座っている人々へそっと視線を動かしながら)シー。

JW: (いくらか静かに、でもまだ怒りながら)怖かったんだぞ、Sherlock。死ぬかと思ったんだからな。

SH: ドラッグは砂糖に入ってると考えたんだ、だから君のコーヒーに砂糖を入れた、そしてBarrymore少佐とすべて計画した。

Johnは憤激してため息をついた。

SH: まったく完全に、すべて科学的な状態だったんだ、研究室は-ええと、文字通り。

Sherlockがひとり、研究室をモニターできる部屋にいた。だるそうに椅子に座りテーブルに足を上げ、前にあるスクリーンを見ている。その画面ではJohnが真っ暗な研究室の中を“猛犬”のうなり声を聞いて檻へ向かって駆けていた。Sherlockが足を快適そうに机の上で動かしているとき、Johnはパニックを起こし電話の向こうで荒い息をしていた。もちろん彼は檻の中に隠れているから映像を見せられていない。

JW: あれが僕のところにいる。

SH: (電話へ)わかった。話し続けるんだ。見つけるから。

(少し静寂)

SH: (電話へ)話し続けるんだ!

JW: 無理だ。僕の声を聞いてる。

SH: 何が見えるか言うんだ!

Sherlockは小さなレコーダーのスイッチを入れ、館内放送のマイクに近づけた。レコーダーが再生する獰猛なうなり声が研究室に響いた。

JW: わからないよ。でも聞こえるんだ。

現在に戻って、Sherlockは『説明』を続けた。

SH: ええと、優秀な精神に対してどう作用するかはわかってたから、平均的な場合はどうかを試す必要があったんだ。

Johnは皿から顔を上げた。

SH: 何が言いたいかわかるだろ。

Johnは食事に戻った。

JW: でも砂糖の中じゃなかった。

SH: いや、ええと、既にガスを受けていたとは知らなかったんだ。

JW: だから間違えた。

SH: 違う。

JW: いいや。間違ってた。砂糖じゃなかった。君は間違えたんだ。

SH: ちょっとね。もう起こらないだろう。

ため息をついてJohnは食事に戻ったが、また顔を上げた。

JW: どれくらいなんだ-作用期間は?

SH: もう残ってない。いったん排泄すれば治る。良くなるさ。

JW: それならもう済ませたからだいじょうぶだろうな。

Sherlockは鼻を鳴らして笑い、少し離れたテーブルで二人の客にコーヒーを注いでいるGaryの方に顔を向けた。彼は申し訳なさそうな態度でSherlockを見ている。Sherlockはテーブルにマグを置いて立ち上がった。

JW: どこ行くんだ?

SH: ちょっとね。犬のことで話が。

Johnに微笑んでからSherlockはテーブルを離れ、Garyの方へと歩み寄っていった。

 

 

小さなコンクリートの独房の中、Jim Moriartyは黙って静かに立ち、目を閉じていた。隣の部屋でMycroftはJimが向き合っているマジック・ミラーに歩み寄り、目を細めてJimの様子を眺めている。しばらくして独房の扉の鍵が開けられ、Mycroftが中に入った。Jimは目を開いたが振り返ることはなかった。そしてMycroftは再び独房の出口へ足を向けた。スーツを着た別の男が扉を開け、中に入ってきた。

MH: よろしい。行かせろ。

Jimは振り返ってぶらぶらと何気なく独房の外へ出て行った。彼の背後で男が振り返って独房の中を見渡す。内部の壁に、Jimが何らかの方法である単語を彫っていた。異なった大きさ、角度で単語は独房の壁のコンクリートパネルひとつひとつ、すべてに繰り返し彫られていた-その言葉は「SHERLOCK」。削ったことにより生まれた屑を使って、Sherlockの名前を後ろにある鏡に描いていた。反対側にいる人間が鏡で彼を見るときに、その名前が正しい方向で見えるように反転させて。スーツを着た男は振り返ると部屋を出て、ドアを閉じた。

バスカヴィルの犬 9