バスカヴィル。施設で様々な化学的な実験が行われている様子。Stapleton博士は大きなプラスチックドームの中のふわふわした白いウサギを手にとっていた。エントランス・ゲートにLand Roverが接近して止まる。武装した警備係がSherlockの方へ歩み寄り、犬を扱っている係と匂いを嗅ぐ犬も近づいた。

警備: どうも。エンジンを止めていただけますか。

SherlockはIDを渡し、エンジンを止めた。

警備: ありがとうございます。

警備係はゲート・ルームに行くとカードを通し、別の兵士が外から乗り物を調べた。Sherlockは小声でJohnに話しかけた。

SH: 僕は中に入ったらできるだけ早くBarrymore少佐に会う必要がある。

JW: わかった。

SH: つまり君が猛犬を探し始めなきゃならないということだ。

JW: わかった。

SH: 研究室ではStapletonをまず初めに。

警備係はIDを持ってきて手渡した。

SH: (小声でJohnへ)危険を伴うだろう。

Johnはほんの少し微笑んだ。ゲートはスライドして開き、Sherlockは車を走らせ基地の中へ入っていった。

 

 

その後。Barrymore少佐のオフィス。少佐は鼻息荒くSherlockに話している。

Barrymore: ああ、やることはわかってるんだろう。この場所への無制限アクセスを与える、よかろう(!)

SH: 簡単な要求だろう、少佐。

Barrymore: こんな異例は聞いたことがない。

SH: 24時間もらった。それは…(一瞬止まった)…交渉して。

Barrymore: (厳しく)二度はないぞ。応じるが、それを好む義務はない。

少佐は背後にある机のコンピューターの前へ戻った、Sherlockはオフィスを去ろうとした。

Barrymore: ここでいったい何を見つけるつもりなのか俺にはわからん。

SH: (振り返って)たぶん真実だ。

Barrymore: (また顔を向けて)何の?ああ、そうか。大きなコートが俺に話すべきだったのにな。

Sherlockは顔をしかめた。

Barrymore: お前は陰謀を企んでるんだろう?

少佐はニヤリと笑い、Sherlockは目を回した。

Barrymore: ああ、それじゃ行けよ。探せ、モンスターを、殺人光線やエイリアンをな。

SH: (落ち着いて何気なく)そういう類があるのか?

今度はBarrymoreが目を回す番だった。

SH: ああ、ちょっと気になっただけだ。

Barrymore: (前に寄りかかり、こそこそと)一組ね。60年代にここに不時着陸した。我々はAbbottとCostelloと呼んでいるよ。(※)

少佐は起き直り、またコンピューターの方へ向いた。

Barrymore: 幸運を祈るよ、Holmesさん。

 

※Abbott and Costello

…1940、50年代のアメリカの人気コメディ。AbbottとCostelloという男性二人組がおもしろおかしく不思議な体験をする。フランケンシュタインやミイラ、透明人間なども題材として扱われた。

 

 

Henryの家。Henryは居間にいて、色褪せた写真を持っていた。彼が五歳のときで両親の間に立っている。写真を握りしめると表情を失った顔で遠くを見つめた。しかし疲労が押し寄せ、まぶたは重く垂れていた。やがて彼は目を完全に閉じた。-するとすぐに彼の心に猛犬の赤く光る目がよぎった。恐怖にあえぎながらHenryは目をまた開き、苦悩して嘆いた。

HK: ああ、もう!ああ、ああ…

泣きながら震え、手を握りしめ、その手で顔を覆い、絶望して涙を流した。

 

 

バスカヴィル。エレベーターのドアが開き、最初に来たときに訪れた研究室に今回はJohnだけが中に入った。前へ進むとそこには二人だけ科学者がいたが、脇にあるドアへ去っていった。二人目の人物が出るときにメインの照明を消し、コンピューターの画面と点在している照明スタンドのライトがかすかに光っているだけになった。Johnは少し不安気にあたりを見渡して、そこが静かで気味の悪い場所であることに気付いた。そして研究室の遠く端のドアへ向かう-それは最初にFrankland博士と会ったとき彼がやってきたドアだった。持っていたセキュリティーパスをポケットから取り出して認証機に通す。これはSherlockが前回使ったカードより強力らしく、ドアをアンロックするのに二番目のカードを必要としなかった。Johnはドアを引いて開けると中へ入った。無視している-もしくは気をつけるのがばかばかしいのか-手書きの注意が外にあった。

KEEP OUT

UNLESS YOU WANT

A COLD!

[風邪をひきたくなかったら近づかないこと!]

汚染除去エリア端まで歩き、ドアのガラス窓を指で叩いた。誰の応答もないのでドアを押し開けて中へ入ると、部屋の左側にはガラス製の壁で区切られた部分があった。そのスペースの中には小さな箱のような檻があったが、中には何もいないようだった。前方には道具、書類置きや電話などの様々な物を置いた机があり、その上の壁には細いプラスチックの管が伸びていて、目盛盤はこれらのチューブが様々なガスを分配していることを示していた。Johnは机のカップボードの小さな扉を開けたが興味を引くものはなく、周囲の観察に戻った。部屋の右側には大きな金属製のパイプがあり、それもガスを運ぶものと思われた。ひとつはわずかに漏れている。Johnはあたりをしばらく眺めてから部屋を出て汚染除去エリアに戻り、研究室の中に入った。右側には九つの大きな丸い電球をつけたライト・スタンドがあり、Johnが後ろのドアを閉めるために右側を向くと突然それが点灯し、強烈な光が彼の目をまっすぐに照らした。Johnは驚いて目を閉じてしゃがみ、顔を背けながら衝撃にうめいた。

JW: おお、なんだよ!ああ!

少し開けた目を凝らして部屋の中を見ようとする。部屋の中の他のすべてのライトが現れた。彼の視界はライトの光によって閉ざされていた-白い壁が彼の周りを囲っている。その上さらに大きくしつこい警報が部屋中に響き渡った。Johnはうめいて耳を覆う。明るいライトに完全にたじろぎ、視覚を失っていて、そして騒音までもが彼を苦しめた。顔をしかめて、視覚を奪われている目を手で覆いながら研究室からエレベーターへ進もうとした。やっと研究室の端に着いて認証機にIDカードを通す。それは音を立てて『ACCESS DENIED(アクセス拒否)』と彼に伝えた。信じられずにそれを見つめ、またカードを通したが同じメッセージが発せられた。アラームがまだ鳴り響いているので片手で耳を押さえながらもう一度試してみる。

JW: 頼むよ。

同じメッセージが繰り返された。Johnは激高して顔をしかめた-そのときすべてのライトが消え、警報も止んで静かになった。部屋は今や非常灯だけになった。暗く赤い光でかろうじてあたりを照らしている。

JW: (小声で)何なんだ…?

ポケットを探り、懐中電灯を取り出してスイッチをオンにする。網膜にはまだライトの残像が続いていたので、その光線はあまり助けにならなかった。不安になって呼びかけてみる。

JW: 誰か?

残像から逃れようと少しの間目を回してみる。また目を開けてまぶしい点の向こうをじっと見ると、少し離れたところを影が横切ったようだった。手の中に顔を埋め、数秒間目をこすって再び顔を上げると今や研究室は不気味な静けさであることがわかった。しかし何かが彼の右側を駆け抜けるまでそう長くはなかった。Johnは少し不安気に大きな檻を見ながら用心して前へ進む。そしてそれらがすべて中身がわからないようにシートで覆われているのに気付いた。また横切る音が聞こえる。Johnはゆっくりと最初の檻に歩み寄り、背後を確かめるためにもう一度振り返ってみた。シートをつかんで引き上げてみると、中は空だった。シートを再び戻して次の檻へ行くとエレベーターのドアの近くでカチンと何かが鳴った。振り返ってその方角をライトで照らしたが何も見えない。また向きを戻して二番目の檻を包むシートを取り払った。またしても檻は空だったが、扉が開いていた。三番目の檻へ行きシートを取り去ると、中の猿が飛びかかってきて柵をつかんで叫んだ。Johnはシートを落とし、わずかに後退りすると荒い息をした。最後の檻へ行ってみるとシートが少しめくれているところへゆっくりと視線を落とした。檻の扉はわずかに開いていて、下の部分が非常に強い何かの力によって曲げられていた。Johnが信じられない気持ちで曲げられた棒を見つめていると、低い獰猛なうなり声が背後から聞こえた。振り返って大きく見開いた目をしながらライトであたりを照らしたが、何も見えない。そばの冷蔵研究室へのドアを見て足早に歩み寄るとIDカードを取り出して通した。認証機はアクセス拒否の警報を示す。

JW: いや、頼む、頼むよ。

Johnはまたカードを通した。再びドアを開くことを拒否された。彼は苦悩して見つめ、部屋の周りをライトで照らしながらポケットから携帯電話を取り出す。スピードダイアルを押して呼び出しを始めると耳に当てた。まだ呼び出しが続いている。

JW: (小声で)だめだよ…ばかなことしないで、出てくれ。

やがて諦めて通話を切った。

JW: (ささやき声で)ああ、くそ!

ポケットに電話を戻し、決然と部屋を見渡す。

JW: (小声で)よし。

すべての方角をライトで照らしながら用心深く仕事場と作業台の周りへ歩を進め、さっき科学者たちが去ったドアへ早く辿り着こうと急いだ。進んでいると爪のある足が床の上を歩きまわっている特徴的な音が聞こえた。

JW: (小声で)ああ…

低くかがんで、ドアへ急ぐと再びカードを取り出した。

JW: (ささやき声で)よし…

認証機に辿り着くと彼の右側を何かが爪のある足で素早く通り過ぎ、うなり声を上げた。Johnが振り返ってあたりを見つめ、激しく呼吸をすると近くでさらに音がした-床の上の爪の音。道具を押しのけ、不気味にうなる声。Johnはカードをポケットに押し込み、うなる声に反応して混乱する息を抑えようと口に手を押し付けた。うなり声はついに止み、Johnは一息ついて部屋を走った。檻が並ぶ場所へ向かい、空になっている檻の扉を開けると這って中へ入り、扉を急いで閉めて錠を下し、柵の間から手を出してシートを檻に被せる。研究室のどこかで何かわからないものがうなり、Johnは扉から離れた。そして柵へ寄り添ってしゃがみ込み、手で口を覆って泣き出さないようにしようとしていた。生き物がまたうなり声を上げる。すると突然、携帯電話が鳴り出した。はっと息を呑んでポケットから取り出し、二回目の呼び出しに応じて口に当てた。彼はできる限り声を抑えようとしたので明らかに低かった。

JW: (小声で)ここだ。あれが僕のところにいる。

SH: (電話の向こうから)どこにいるんだ?

JW: (小声で)外に出してくれ、Sherlock。僕を出してくれ。大きい研究室、最初に見た研究室。

彼の息は荒かった。外では生き物がうなっている。Johnは恐怖で泣き叫びそうになり、手でまた口を覆った。

SH: (電話の向こうから)John?John?

JW: (手を口から離し、声が弱くならないようにしながら)今すぐ、Sherlock、頼む。

SH: (電話の向こうから)わかった、見つけるから。話し続けるんだ。

JW: (小声で)無理だ。僕の声を聞いてる。

SH: (電話の向こうから)話し続けるんだ。何が見える?

会話から意識が離れ、Johnはシートが少しはだけているところを見ていた。しかし部屋はかすかにしか照らされておらず「何か」を見ることはできなかった。

SH: (電話の向こうから)John?

生き物がまたうなった。

JW: (小声で)ああ、ここにいる。

SH: (電話の向こうからしつこく)何か見えるのか?

膝で立ってJohnはシートがはだけているところへ這った、怯えた呼吸を抑えようとしている。

JW: (小声で)わからない。わからないよ。でも聞こえるんだ。

生き物は荒々しくうなり声を上げた。

JW: (怯えながら)あれを聞いたのか?

SH: (電話の向こうから)落ち着け、落ち着くんだ。見えるのか?

Johnは暗がりを見つめた。

SH: (電話の向こうから)見えるのか?

JW: (小声で)いや、僕は…

後退りしてゆっくり起き直り、後ろの棒へ寄りかかった。顔は確かな恐怖で満ちている。

JW: (ささやき声で)見える。

顔を上げ、恐怖で満ちた目で見つめていると、影はシートで覆われているところへ近づいてきた。

JW: (気が抜けて)ここに。

影は近づき、またうなり声をあげた。

JW: (気が抜けて)ここにきた。

影は近づいた…さっとシートが取り払われて研究室の明かりが差すと、檻の向こうにSherlockの顔が現れた。心配そうにJohnを見下ろし、扉を開けて中に入る。

SH: (心配そうに)だいじょうぶか?

Johnは混乱して目を大きく見開いていた。Sherlockは屈みこんで肩に手を置いた。

SH: John…

JW: ああ、うそだろ、犬が…

Johnは柵を握って脚を引きずるようにしながら急いで檻を出て、電話をしまうと友人の方を向いた。

JW: (まだ息荒くパニック状態で)猛犬だった、Sherlock。ここにいた。断言する、Sherlock。それは…

彼は研究室を見渡した-今はすべて照らされていた-大きなモンスターが隠れるところなどないことを表していた。

JW: それは…

Johnは興奮して声が高くなっていった。

JW: 君は…君は…見たのか?そうなんだろう!

Sherlockはなだめようと彼に手を差し伸べた。

SH: わかったよ。もういいから。

JW: (ヒステリックに大声で)いいや、よくない!!よくなんかない!!見たんだ、僕は間違っていた!

SherlockはJohnのヒステリックに肩をすくめた。彼は落ち着いていた。

SH: そう、結論を急ぐなよ。

JW: え?

SH: 何を見たんだ?

JW: 言っただろ。猛犬を見たんだ。

SH: 巨大な、赤い目の?

JW: ああ。

SH: 光っている?

JW: ああ。

SH: 違う。

JW: 何?

SH: 光っているのは僕がちょっとでっち上げたんだ。君は「見ると予期していたもの」を見た、僕が話したからだ。薬に影響されていたんだよ。僕たちはみんな薬に惑わされていたんだ。

JW: 薬?

SH: 歩けるか?

JW: (震えた声で)もちろん歩けるさ。

SH: じゃあ来い。この亡霊を退散させる時がきた。

そう言うとSherlockは振り返ってドアへ向かった。息を鎮めようとしながらJohnは研究室を再び見渡し、よろよろとSherlockの後を追った。

 

 

檻がいっぱい置かれた小さな部屋、Stapleton博士は金属台の上に乗せたうさぎを検査していた。Sherlockがドアから入ってきたので顔を上げる。Johnもついてきていた。 

Stapleton: あら、戻ってきたの?今度は何が気になるのかしら?

SH: 殺人だ、Stapleton博士。巧妙で冷血な殺人。

するとSherlockはドアのそばにあるスイッチを押して照明を消した。窓からの限られた灯りの部屋では、うさぎが緑色に光ることを示すのに充分だった。再び灯りを点ける。

SH: 幼いKirstyへブルーベルに何が起きているか話すかい、それとも僕が?

不快そうに微笑む。Stapletonはため息をついた。

Stapleton: わかったわ。何が欲しいの?

SH: 顕微鏡を貸してくれないか?

 

 

その後。大きな研究室。Sherlockは顕微鏡の中を覗きこんでいる。見ている物に不満で、目を逸らすと小さなハンマーで結晶のような物を叩き潰した。

時間は過ぎ、彼は座り位置を変え、顕微鏡へ背を向けて手を祈りの形にして考えたり、また顕微鏡を覗き込んだり、もしくは机の上へ様々な色のマーカーペンで化学式を走り書きしたりしていた。傍らではJohnが椅子に座って頬杖をつき、何もない空中を見つめていた。Stapleton博士がそばに立っている。

Stapleton: ほんとうにだいじょうぶ?

Johnはまばたきして彼女を見上げた。

Stapleton: とても具合が悪そうよ。

JW: いえ、だいじょうぶです。

Stapleton: GFP遺伝子をクラゲから採取したの。もし興味があるなら。

JW: 何ですか?

Stapleton: うさぎの中に。

JW: むむ、なるほど、はい。

Stapleton: (誇らしげに)Aequoria Victoriaよ、もし本当に知りたいなら。

Johnは彼女を見上げた。

JW: なぜです?

Stapleton: あらどうして?わたしたちそんな質問はしない。されないし。

彼らから少し離れたところにいるSherlockはますますイライラしていた。別のスライドを取り上げて顕微鏡の下へ置く。

Stapleton: 混合を行ったの、とにかく。娘は研究の対象を終えた、だからかわいそうなブルーベルと離れることになったの。

JW: (皮肉に)同情することができなかったんですね。

Stapleton: (あざけるように)わかってる。時々自分が嫌になるの。

JW: それで、続きを。信用できるはずです-僕だって医者だ。他に何を隠しているんです?

満足する結果が得られず不満を募らせ、Sherlockはまた別のスライドを手にした。Stapletonはため息をついた。

Stapleton: ねえ、あなたが想像できることは、たぶんどこかで誰かがやっているの。もちろんアレだって。

JW: クローンを?

Stapleton: そう、当然。羊のドリー、覚えてる?

JW: 人体のクローンも?

Stapleton: いけない?

JW: 動物はどうなんです?羊、じゃなくて…大きな動物。

Stapleton: 大きさは問題じゃないのよ。制限してるのは倫理と法律だけ、どちらも可能…言いなりよ。ここでは違う-バスカヴィルでは。

突然、怒り狂ったSherlockは顕微鏡の下にあったスライドをひったくり、近くの壁に投げつけた。

SH: 見つからない!

JW: びっくりした!

SH: 何もない!判断できない。

Stapleton: 何を見つけようとしていたの?

SH: (歩き回りながら)ドラッグだ、もちろん。ドラッグがあるはずだ。-幻覚誘発性かもしくはある種のせん妄発生薬。砂糖の中にその形跡が無い。

JW: 砂糖?

SH: 砂糖だ、そう。単純な消去法だ。僕は猛犬を見た-見ようと期待していたイメージだ。遺伝子を操作されたモンスター。だが僕は自分の目で見た「証拠」を信じることが出来ないと知っていた、だから七つの可能性があった、一番可能性が高いのは麻薬だ。Henry Knight-彼も見たが、君は見なかった、John。君はそれを見なかった。僕たちはグリンペンに着いてから正確に同じ物を食べて飲んだ、ひとつを除いて。君はコーヒーに砂糖を入れない。

JW: なるほど。それで…

SH: Henryのキッチンから持ってきた-彼の家の砂糖だ。(顕微鏡へ向けて)完璧なはずなんだ。

JW: でもドラッグじゃないかもしれない。

SH: いや、ドラッグでなきゃいけない。

彼は椅子に座って手に頭を埋めた。やがて手だけを少し下げ、頭は垂れたままで目を閉じた。

SH: でもどうやって僕たちの身体に入った?どうやって?

ゆっくりと手を掲げたが、目はまだ閉じている。

SH: 何かあるはずだ…

『hound』という言葉が心の眼で見る世界に滑り込んできた。彼は繰り返しその言葉の持つ「何か」を掴もうとしていた。

SH: …何か…ああ、何か…

やがてSherlockは目を開けた。

SH: …何か深く埋もれている…

鼻から鋭い息をすると振り返ってJohnとStapletonを横柄に指さした。

SH: 出て行け。

Stapleton: え?

SH: 出て行ってくれ。精神の館へ行かなきゃいけない。

Johnは『ああ、またか』という顔をして、椅子へ寄りかかった。

Stapleton: どこへ行くって?

Sherlockは既に顔を背け、前方を見つめていた。Johnは椅子から降りた。

JW: 彼はしばらく話に応じないでしょう。僕らは行った方がいいです。

Sherlockは深く息をして、思考に集中していた。StapletonはJohnへついていきドアへ向かった。

Stapleton: どこって言った?

JW:ああ、精神の館。記憶の技術-精神の地図です。そこに場所を設定できるんです。-それは現実の場所でなくていい-それからそこに記憶を預ける…理論的には忘れることはなくて、あとはそこへ戻る道を見つければいい。

Stapleton: それでその想像上の場所は何でもいいのね-家とか通りとか。

JW: ええ。

Stapleton: でも彼は『館』と言った、それを『館』と言ったわよ。

JW: (しばらくSherlockの方を見て)ええ、そうなんでしょうね。

JohnとStapletonは部屋の外へ出て行った。

 

 

Sherlockは前方を凝視していた、意識は内部へ向かい、地面のない記憶を歩いている。そこで彼は『Liberty』という言葉と繋がるすべてのことを自分の記憶の中から呼び起こしていた。言葉の色々な用例にアクセスし、適していないとわかると肉体的に手でそれを滑らせ新しい候補を引き寄せる。『hound』という言葉が心に入ってきて、滑っていった。一時的に『Liberty』を諦め『In』へと移行し、様々な文字を組み合わせた。『Inn』『India』『Ingolstadt(※ドイツの都市)』や『Indium atomic number = 49(※インジウム、原子番号49)』など。その列を滑らせると、大きな犬のイメージを呼び出し始めた、様々なものが通り過ぎ、一時的にElvis Presleyになり『Hound Dog』を歌い出した。イライラしてそれを脇へ払い、三つの言葉を全て引き出した-Liberty、In、Hound。-そして目を見開いたSherlockは三回大きな衝撃を受けた。繰り返し雷に打たれると、求めていた言葉がやっと現れた。

Liberty,

Indiana

H.O.U.N.D.

そしてSherlockは立ち上がり、研究室を後にした。

 

                                                 

夜。荒野。猛犬がうなりHenryは草原を駆け抜けていた。手にはピストル、後ろでうなる猛犬に怯えている。Henryは”追跡者”が彼を捕らえようとしている気配を感じ、繰り返し背後を振り返りながら走った。周りを見る度に赤く光る目が闇の中にぼんやりと浮かぶ。不意に彼は銃を持っていることを思い出し、振り返ってその目を目掛けて撃った。するとガラスが割れ、Louise Mortimerが叫び声を上げてHenryの家の居間にある椅子から床へ転げ落ちた。彼女の椅子のそばにある壁の鏡はHenryが撃った弾を受けて割れていた。泣きながら身を縮こませ、Louiseは鏡を狙い続けるHenryを見上げた。彼の顔は表情を失っていた。しかし今は自分を取り戻し、恐怖に包まれながらピストルを見た。

HK: なんてことを。

Louiseは泣き続けている。

HK: なんてことだ。なんてことを。僕は…ごめんなさい。ごめんなさい。

Henryは振り返って部屋から逃げ出した。

バスカヴィルの犬 7