Henryの家。Henryはキッチンの端にあるソファで眠っていた。ふとんをかぶり、頭の下には枕がある-Johnが睡眠薬を与えた後に渡したのかもしれない。彼は起き上がると座って手で顔をこすり、ため息をついた。立ち上がって床から天井まであるガラス張りのドアへ近寄り、暗い庭を覗く。まだ半分寝ているのか、突然心にあの縫い込まれた『Liberty』の言葉がよぎった-『In』も付いている。記憶から逃れようと手で顔を覆い、苦しげにため息をついた。
荒野。懐中電灯で道を照らし、Johnは丘の上で点滅する光に向かって歩いていた。丘の上に着くとリズミカルに何かがきしむ音が聞こえた。ライトで周りを照らすといくつかの車がそこに止まっていることがわかった。運転手たちはたじろいでJohnのライトが発する光を遮ろうと顔に手を掲げていた。しかし同時に彼らは自分たちが何をしているのかをわかってもらおうともしていた。そして左右に揺れる少し曇った窓をした車を明かりを動かして見ていたJohnはようやく事情がわかった。その車のヘッドライトは断続的にオンとオフを繰り返し点滅していた。女性の声が車の中から聞こえてくる。
女の声: ああ!Seldonさん!あなたったら!
男の声: ああ、ベルトで…
車はきしんで、続けた…作業を。Johnはライトを下ろした。
JW: なんてこった。
Johnは躊躇しつつも再びライトを車に向けたが、昨日書いたモールス信号のメッセージは性的な行為が行われている間に車が発した乱雑な点滅でしかなかったという事実が彼を打ちのめした。そしてとうとう振り返り、パブへ向かって戻った。
JW: Sh…
丘から歩いていると電話がメールの受信を知らせた。電話を取りメッセージを見る。
Henry’s therapist currently in Cross Keys Pub
S
[Henryのセラピストが今、クロス・キーズのパブにいる S]
Johnはそっけなく返信を書いた、声に出して読みながら。
JW: So(それで)?
返事はほぼ直後にきた。
Interview her?
[彼女に事情を訊く?]
Johnは答えた。
WHY SHOULD I?
[な ん で 僕 が ?]
少しして別の知らせが届く。
Downloading image ...
[画像をダウンロード中…]
少し経って届いた画像を開いて見てみた。それはLouise Mortimerがパブに立っているところを隠し撮りしたものだった。彼女はかわいくて、Johnと同じくらいの年齢だ。Johnはしばらく写真を見た後に歩き出した。
JW: ああ、悪い男だ。
それは自分自身へ言った言葉なのか、それともSherlockへ向けたものなのかはわからない。
Henryの家。Henryはふとんにくるまってソファに座っていた。テレビが近くにあるが彼はうとうとしていてそれに注意を払っていなかった。わずかに顔を上げて暗い庭を眺めたが、目は疲れて目蓋は重そうだった。そしてまたテレビに視線を戻す。モノクロの古い映画が映っていて、数匹の犬が暗く不気味な場所をうろついていた。Henryはすばやくチャンネルを変えた。今度は不吉な印象を与えない1940年代の田舎の村のようだ。すると突然、家の外のセキュリティー・ライトが点いた。Henryは不安げに庭を見たが、明るい光の中に何も動くものは見えなかった。少ししてライトはまた消えた。Henryが顔を背けると、すぐに-彼からは見えない-後ろの柵で何かが庭を横切った。Henryがまたテレビのチャンネルを変えると最悪な選択だった-狼がカメラに向かって吠えている。そして画面には映っていないが、女性が恐怖で叫んでいた。イライラした挙句の失敗で嫌気が差し、Henryはテレビを消した。すぐにセキュリティー・ライトがまた点いた。外にはまだ何も現れていなかったが、Henryは立ち上がってガラス戸の近くへ歩み寄った。またライトが消え始めると、巨大な影が庭の遠くの端を通り過ぎた。動きが早くて地面のかなり低いところに現れたということ以外は何なのか見定めることができなかった。Henryは恐怖に包まれ、部屋の向かい側にある小さな棚を見た。怖くて躊躇していたが、やっとの思いで棚の方へ飛び出してピストルを手にした。恐怖にあえぎながら彼はまた暗い庭の方へ振り返り、ゆっくりとガラス戸へ近づいてみる。ほとんど鼻をガラスに付けるようにするとライトが再び灯り、彼の目の前で巨大な形、巨大な犬の頭のようなものがガラスの向こう側を叩くといなやまた消えた。パニックに陥り、泣き叫びながらHenryはよろよろと後ずさりしてピストルでガラスを狙った。ライトはまた消えた。Henryはすすり泣いた。数秒の後またライトは点いていた。彼は庭を念入りに見た、しかし何も見えなかった。ライトはもう一度点いた。今はもうHenryは床に座り込み、絶対的な恐怖に襲われ、泣きながら手で顔を覆っていた。
クロス・キーズ荘。JohnはLouise Mortimerと一緒にパブで座っていた。二人は笑いながら楽しそうに話している。
LM: (くすくす笑って)ひどいわね!
Johnはテーブルから半分空になったワインのボトルを手に取った。
JW: もっとワインは、先生?
LM: 酔わそうとしているわね、先生?
JW: とんでもない!(彼女のグラスに注いだ)
LM: だってさっきはあなたが口説いてると思ったんだもの。
JW: (自分のグラスに注ぎながら)おや!どこで道を誤ったかな?
LM: わたしの患者について訊き始めたとき。
JW: ええと、ほら、僕はHenryの古い友人のひとりなんだ。
LM: ええ、そしてわたしの患者のひとり、だから彼のことは話せないの。
JW: むむ。
LM: 古い友人みんなをわたしに話していたけどね。(じっと彼を見つめた)あなたはそのひとりかしら?
JW: (期待するように)新しい、かな?
彼女はちょっとばかにしたように笑った。
JW: よし、父親については?君の患者じゃなかったね。危険な行いをする人間の類じゃなかったか…変わり者、(すばやく訂正し)…理論家?
LM: あなたが間違ってるとしたら、ただの変わり者ってことになるわね。
JW: むむ。それで彼は間違ってた?
LM: 私はそう思うんでしょうね!
JW: でも彼はバスカヴィルに執着してたんじゃなかったのか?そこで行われていることに…Henryは同じ道を辿れなかった、猛犬を思い描いたから?
LouiseはあてつけがましくJohnを見た。
LM: わたしがこの話をすると思う?!
JW: (彼女が自分を見通していることを認めて笑いながら)それは君が彼を心配してると思うから、僕だって医者だし…
彼の顔はより真剣になった。
JW: …それに僕には同じ問題を抱えているらしい友人がいるんだ。
彼らは長い間目を合わせた。とうとうLouiseはため息をついた。彼女は本来決まっていること以上のことを彼に話そうと決めたようだった…しかし彼女が話し始めようとする前にJohnの背後から誰かが肩を叩いた。Johnが周りを見るとBob Franklandがくすくす笑っていた。
BF: Watson先生!
JW: (うれしくなさそうに)どうも。
BF: (Louiseに)どうも。(Johnに)調査はどうですかな?
Johnはまずいことになったと思い、なんとか挽回しようとしたが、うろたえているのを隠せなかった。
JW: まあね。
LM: 何?調査?
BF: 知らないのかい?ブログを見ていない?Sherlock Holmes!
JW: それは…
LM: Sherlock、誰?
JW: いや、それは…
BF: 私立探偵ですよ!(またJohnの肩を叩いた)こちらは彼のP.A.(アシスタント)!
JW: P.A.?
BF: ええ、住み込みのP.A.。
JW: 完璧だ(!)
LM: 住み込みの。
JW: こちらはMortimer先生、Henryのセラピストです。
BF: おお、どうも。(彼女と握手をし)Bob Franklandです。
FranklandがJohnの方を向いて話し出すと、Louiseは背もたれからコートを取るため椅子を回した。
BF: あのね、私がStapletonに目をつけていたとSherlockさんに伝えてくださいよ。話したいときはいつでも…ね?
JW: うん。
Franklandは元気よく笑って、Johnの肩をまた叩くと去っていった。JohnがLouiseを見ると、彼女がコートを手にしていることに気付いた。
JW: ああ。
LM: 飲み物を奢ってあげたら?あなたに好意があるみたいよ。
彼女は立ち上がって去っていった。Johnはため息をついた。
翌朝。荒野。Sherlockは露出する巨大な岩に戻り、その上に立ってバスカヴィルの方を見つめていた。彼の視線は施設からDewer's Hollowへと動いた-昨晩何が起こったかを感じ取ろうとして。そして振り返り、グリンペン村を眺めた。
Henryの家。Henryはノックの音がするドアへ向かった。開けるとすぐにSherlockが押し寄せるように入ってきて大声で快活に挨拶をした。
SH: おはよう!
そのままキッチンへ入ろうとしたが、不意に振り返ってHenryの肩を叩いた。
SH: おお、気分はどうだ?
Henryは怖がっているようだった。Sherlockは首をかしげて彼の顔を覗き込む。
HK: (疲れきって)僕は…僕はよく眠れませんでした。
SH: それは良くない。コーヒーを淹れてやろうか?(ドアの上の天井を見上げて指を指す)見ろ、湿っぽいな!
SherlockはHenryが顔を上げるまで偽りの笑顔を作っていたが、振り返るとすぐに険しい顔をしてキッチンへ向かった。中へ入ると食器棚へ急ぎ、すばやく戸を開けたり閉じたりし始める。ついに探していた金属の缶を見つけ取り出し、肘で扉を閉めながら中を物色した。何かを気付かれないようにコートのポケットへ押し込むとシンクへ行きマグを一組取り上げ、Henryが疲れて不思議そうにしながら立っているカウンターへ持ってきた。
HK: 聞いてください…昨日の夜。
Sherlockは再びわざとらしい親しげな笑みを浮かべながら、缶の蓋を開けた。
HK: どうして何も見なかったなんて言ったんです?その、僕だけが猛犬(hound)を見たなんて、でも…
Sherlockは手元を見ずにコーヒーをスプーンですくってマグに入れていた。その目はHenryを見ていたが、コーヒーの缶を台の上に置くとHenryへ歩み寄った。表情からは笑みが消え、通常の彼に変わっていた。
SH: 猛犬(hound)。
HK: え?
SH: なんで猛犬(hound)と呼ぶ?なぜ猛犬(hound)?
HK: なぜ-どういう意味ですか?
SH: おかしくないか?奇妙な言葉のチョイスだ-古風だ。それが事件を扱う理由だ。『Holmesさん、巨大な猛犬(hound)の足跡がありました』なぜ「猛犬(hound)」と言う?
HK: わかりません!僕は…
SH: コーヒーはやめておく。
Sherlockは足早にキッチンから出ていった。Henryは疲れきってため息をついた。
その後、Sherlockは村へ戻ろうと歩いていたが、教会の墓地にJohnがいるのを見て立ち止まった。Johnは戦争の記念碑に座って手帳を見ている。Sherlockが入っていって歩み寄るとJohnは近付いて来る足音を聞いて顔を上げ、不快そうな表情で手帳をポケットにしまった。Sherlockは気まずそうに彼の前に立ち止まる。
SH: 君は、ええ、モールス信号を手に入れたのか?
JW: (階段を下りながら)いや。
Johnは歩き出した。
SH: U、M、Q、R、A、だったかな?
Johnは歩き続け、Sherlockもついていく。彼はその文字列を単語として発音してみた。
SH: UMQRA。
JW: なんでもない。
Sherlockは心の中で文字を区切ろうとしたが、言葉として口にした。
SH: U.M.Q…
JW: あのさ、それは忘れろ。それは…何かと通信してると思ってた。でもそうじゃなかった。
SH: たしかか?
JW: ああ。
SH: Louise Mortimerはどうだ?彼女から何か得られたか?
JW: いや。
SH: 残念。何か情報は手に入れたか?
Johnはちょっと笑って彼の肩あたりを見たがまだ歩き続けた。
JW: ふん。今は気分がいいのか?
SH: 話しやすくなるかと思ったんだ。
JW: 楽しそうなのは君には似合わないよ。それは僕の役目だ。
SherlockはJohnの去っていく背中を見る、その顔は苦痛に満ちていた。
SH: John…
JW: 結構だ。
SH: いや、待てよ。昨日の夜何が起こったのか…僕に何か起こった、本当に経験したことのない何かが…
JW: ああ、言ってた、『怖い。Sherlock Holmesは怯えています』、そう言った。
SherlockはJohnを捕まえ、腕を掴んで顔を向けさせた。
SH: いやいや違う。それ以上だ。不信感だ。僕は自分を疑った。いつも自分の感覚を、自分の目で見たものを信じることができていたのに、昨日の夜までは。
JW: モンスターを見たのを信じられないんだろう。
SH: ああ、信じられないね。(苦々しそうにちょっと笑って)でも僕は見たんだ、そして問題なのは、どうやって?どうやって、だ?
JW: うん、ああ、わかった、そうか。君はそれを手に入れようとしているんだろ?うまくいきますように。
Johnは振り返ってまた歩き出した。Sherlockは振り返って後ろから呼んだ。
SH: 聞けよ、昨日、僕が言ったこと、John。それはつまり。
Johnは立ち止まって顔を向けた。
SH: 僕に友達はいない。
Sherlockは言葉を続ける前に少し唇を噛んだ。
SH: ひとりだけは特別だ。
Johnは言われたことを受けて少しの間視線を外し、しばらくうなずくとSherlockを一瞥した。
JW: そうか。
彼は振り返ってまた歩き出した。Sherlockは下を見て、すぐまた顔を上げる。その目は起こったことを受け入れようとしていた。
SH: John?John!
Sherlockは後を追い始めた。
SH: 君は魅力的だ!君はすばらしい!
それはかつてJohnが彼へ贈った称賛の言葉だった。しかしJohnは立ち止まらなかった。
JW: もう、わかったから!大げさにしなくてもいいよ。
SH: (追いつき追い越し、彼の前を後ろ歩きしながら)君は最も光り輝くような人間じゃない、だがすばらしい光の案内人だ。(※)
JW: 良かったね…え?
Sherlockは振り返ってJohnのそばを歩きながら自分の手帳を取り出し、それに書き始めた。
SH: 才能のない人間の中には、他人を刺激する素晴らしい能力を持っている奴もいる。(※)
JW: ちょっと待てよ-さっきは謝ってたのに。台無しにするなよな。それで、いったい何の刺激とやらをしたって?
Sherlockはパブの外のドアで立ち止まり、Johnへ振り返ると、手帳に書いたものを見せた。
HOUND
JW: うん?
SH: (手帳を戻しまた書いている)しかしそれが言葉じゃなかったら?単体の文字だとしたら?
彼は手帳のページをまた見せた。
H.O.U.N.D.
JW: 頭文字だと思ってるのか?
SH: (手帳をしまって)全然わからない、でも…
彼はパブのドアへ向かった、そしてバーに立っている親しみのある姿へ視線向けた。グレーのズボンとグレーのシャツ、上に明るいベージュのジャケットを着て、かなり日に焼けてサングラスをしている。Lestrade警部は手をズボンのポケットに入れて立っていた。普段着で見ると印象が変わる、立派な典型に見えた。Sherlockはすぐに気付いて足早に歩み寄り、イライラした様子で声を掛けた。
SH: なんであんたがここにいる?
GL: 会えてうれしいな(!)休暇だよ、信じてくれるよな?
SH: いや、信じない。
GL: (Johnがバーへ入ってくるとサングラスを外しながら)やあ、John。
JW: Greg!
GL: ここらへんにいると聞いてね。何をしようとしてるんだ?テレビで猛犬地獄を見たからか?
SH: 説明を待ってる、警部。なぜここにいる?
GL: 言っただろ、休暇なんだ。
SH: ナッツみたいに茶色いな。あきらかに『休暇』から戻ったところだ。
GL: (何気ないフリをしながら)ああ、それはまた別のだ。
SH: ああ、Mycroftだな?
GL: いや、ほら…
SH: 当然だろ!バスカヴィルのことで口出しして、そして寄越した…お忍びで僕をスパイする人間を。どうして自分のことをGregというんだ?
JW: それが名前だからだよ。
SH: (ムスッとして)名前?
Sherlockは兄の手出しに加え、自分の知らない間にJohnと警部が親しくなっていることを知り、ますます機嫌を損ねたようだった。
GL: ああ-もし敢えて知りたいっていうなら。なあ、俺はスパイじゃないよ…(振り返って自分のグラスを手に取った)…君の兄貴が言ってきたことをただやるわけじゃないんだし。
JW: 実際のところ、僕らが求めていた人だろうな。
SH: どうして?
JW: ええと、僕だって怠けてたわけじゃないんだ、Sherlock。(ズボンのポケットを探った)たぶん何かを見つけたと思う。
そしてJohnはSherlockに、チェックインしたときにバーから盗ったアンダーショウ精肉店からの売上請求書を見せた。
JW: ここ。関係があるかわからなかったけど、そんな風に思えてきた。ベジタリアンレストランへすさまじい量の肉の納品。
SH: すばらしい。
JW: (Gregを見て)スコットランド・ヤードのコワモテ警部ならちょっとした取り調べも出来る、役に立つかもしれないぞ。
SherlockとGregが視線を交えると、Johnはバーの上にあるベルを叩いた。
JW: 店員!
※君は最も光り輝くような人間じゃない、だがすばらしい光の案内人だ / 才能のない人間の中には、他人を刺激する素晴らしい能力を持っている奴もいる
…原作「バスカヴィル家の犬」でのHolmesの言葉。「どう考えても君がいい線をついているのは認めざるを得ないな。君は僕のちょっとした成功を誉めるのに忙しくて、いつも自分の能力を過小評価してきた。もしかすると、君は自分自身が輝くのでなくとも、光を導き出す人物かも知れない。才能がない人間の中にも、才能を刺激する驚くべき能力を持った者もいる。実は、ワトソン、僕は君がいてくれて非常に助かっている」
その後、バーの奥の小さな部屋でGregはテーブルに向かって座り、書類を見ていた。アンダーショウからの最近の売上請求書と思われる-その間責任者のGaryとシェフのBillyはテーブルの向かい側に座り、不安気にその様子を見ていた。近くにいるSherlockはコーヒーをカップに注いで中をかき混ぜるとこれ見よがしにカップの縁でスプーンをコツコツ叩いてしずくを落とした。それを手に取るとJohnへ持っていき、彼に勧める。
JW: 何だこれ?
SH: コーヒー。コーヒーを淹れた。
JW: 君はコーヒーなんか淹れないだろ。
SH: でも淹れた。要らないのか?
JW: もう謝るのはいいって…
するとSherlockは傷ついたような顔をして目を逸らした。Johnは不憫に思い、カップを受け取った。
JW: ありがとう。
Sherlockはうれしそうに微笑んで、Johnが飲む様子をじっと見ている。一口すするとJohnは顔をしかめた。
JW: むむ。僕は砂糖を入れないのに…
Sherlockがまた悲しそうな顔をしてうつむいたので、Johnは選ぶ余地がないと感じ、また一口飲んだ。
GL: この記録は直近二ヶ月前までだな。
味に顔をしかめながら、Johnはカップを皿に戻しSherlockを見た。Sherlockはその様子を観察していた。
JW: いいね。おいしいよ。
Johnはカップを後ろのマントルピースの上に置いた。GregはGaryとBillyへの取り調べを続ける。
GL: いつ思い付いたんだ、TV番組が放送された後か?
Billy: 私です。私でした。(パートナーの方を見て)ごめんよ、Gary-やめられなかったんだ。Carolさんの結婚式でベーコン・サンドイッチを出して、他にも出しました…
Sherlockは後ろでニヤニヤしていた。Gregも同様に信じていない。
GL: いい試みだ。
Gary: ねえ、我々は売上を増やそうと努力していたんです、わかるでしょう?とんでもなく大きな犬が荒野を荒々しく走っている-天の贈り物です。ネッシーを飼っているようなもんです。
GL: どこに飼ってるんだ?
Gary: 古い採掘場に。そんなに遠くないです。そこならだいじょうぶだったんで。
SH: 『だった』?
Gary: (ため息をついて)残虐で手に負えませんでした。危険で。(またため息をつき)それで一ヶ月前、Billyが獣医に連れて行きました、それで…ええ、わかるでしょう。
JW: 死んだのか?
Gary: 安楽死です。
Billy: ええ。他に選択肢はなかった。そんで終わったんです。
Gary: ちょっとした冗談だったんですよ、ね?
GL: ああ、おもしろいね(!)
Gregは立ち上がって怒りながら彼らを見下ろした。
GL: お前らは一人の男を狂わせるところだったんだぞ。
彼は部屋から出ていき、Johnもついていった。Sherlockはついていく前にJohnのコーヒーカップを覗きこんで、ちゃんと飲んだかを確認してから出て行った。GaryとBillyは意味ありげに視線を交わした。
※「お前らは一人の男を狂わせるところだったんだぞ」
…原作「ノーウッドの建築業者」でHolmesの活躍により罪を暴かれた犯人が「実害はなかった」と発言すると、Lestrade警部は「無実の男が絞首刑になるところだったんだぞ」と憤る。
JohnはGregに続いてバーを離れ、パブの外へ出た。
JW: あいつ実は、あなたが来たことを喜んでるんですよ。
Gregは信じられないという顔でJohnを見た。
JW: 内緒ですよ。
GL: あいつが?そりゃいいね(!)馴染みの顔が揃うのが好きなんだろう。受け入れてもらえるからな…あいつの…
彼は正しい言葉を探して言葉に詰まった。Johnは適した提案をした。
JW: …アスペルガー?
Sherlockはパブの外へやってきてJohnをにらんだ-最後の言葉を聞いていたようだった。
GL: それで、犬はもういなくなったと思うのか?
SH: そうでない理由はない。
GL: ああ、幸い、何も危害は起こってない。俺が何かしらであいつを告発するかは定かでないがね。地方の責任者と話をしよう。
そしてGregは二人にうなずきながら、快活にその場を後にし始めた。
GL: わかった、はいはい、では。後で連絡する。(微笑んで)俺も楽しんでるよ!ロンドンで汚れた肺をきれいにするといい!(※)
Johnは彼が去っていくのを見届けて、Sherlockへ顔を向けた。
JW: じゃあ、みんなが荒野で見たのはあいつらの犬だったのかな?
SH: そのようだな。
JW: でも君が見たものじゃない。普通の犬じゃなかったんだろ。
SH: 違う。(遠くを見つめ)巨大で、燃える赤い目をして光っていた、John。全身が光っていたんだよ。
彼は身震いをして記憶を振り払い、駐車場の方へ歩き出した。
SH: 仮説がある、でもそれをテストするためにバスカヴィルへ戻る必要がある。
JW: どうやって?またIDトリックはできないだろ。
SH: たぶんその必要はない。
そう言うと電話を取り出してスピードダイアルを押し、耳に当てた。
SH: (電話へ向かって偽善的に)やあ、頼もしい兄さん。調子はどうだい?
※「ロンドンで汚れた肺をきれいにするといい」
…原作「バスカヴィル家の犬」でのHolmesの言葉。「ここ数年で一番大きな事件だ」ホームズは言った。「出かける準備をするまでにまだ二時間ある。その間に夕食をとろうと思う。その後で、レストレード、君にはダートムーアの新鮮な夜の空気で、ロンドンの霧を喉から追い払ってもらおうと思っている。まだ行った事がない?じゃあ、君の最初の訪問は忘れられないものになりそうだ」