バスカヴィルの中心部へ向かい、車を止めてSherlockとJohnが降りると、別の兵士がメイン・ビルの入口へ案内した。歩きながらSherlockがエリアをパトロールしている兵士たちを見ると、彼らの多くは武装していた。研究所の職員たちさえも護衛されている。エントランスに着くと軍用Jeepがそばで停まり、若い伍長が降りた。

Lyons: 何だ、何か用なのか?

SH: (厳しく)『何か御用でしょうか』

Lyons: はい、失礼しました。

それでも彼は前に進み、エントランスに近づけまいと手で阻んだ。

SH: 我々が来ると知っていたのか?

Lyons: IDをすぐに照会させていただきました、Holmes様。Lyons伍長、警備です。何か問題でもございましたか?

SH: ああ、そうじゃない、伍長。そうであってほしくない。

Lyons: こちらでは査察を受けておりません、ご存知でらっしゃいますよね。ありえないのです。

JW: 抜き打ち検査もか?

そう言うとJohnはポケットから財布を取り出し、中のIDを伍長に見せた。

JW: John Watson大尉だ。第五ノーサンバーランド歩兵連隊の。

Johnが話し終わらない内から伍長は気が付いて直ちに敬礼をした。Johnもきびきびと敬礼を返す。

Lyons: Barrymore少佐はお気に召さないでしょう。あなた方に面会を希望されます。

JW: 悪いが我々にはそんな時間はない。すぐに巡回しなければならないんだ、通してくれ。

伍長は躊躇した。

JW: (イライラして)命令だ、伍長。

Lyons: かしこまりました。

彼は向きを変えてエントランスへ案内した。ついていきながらSherlockは誇らしげな笑みを浮かべてJohnを一瞥する。『Automatic Security Door』と書かれた入口でLyonsは認証機に通行証をスライドして読み取らせ、Sherlockが同じ行動をするのを待った。認証機に『通行許可』のメッセージが表示される。Lyonsがボタンを押すとドアが開放された。Sherlockは腕時計を確認する。そしてどこか他の場所にあるセキュリティシステムの画面にバスカヴィルから送信されたメッセージが表示された。

CCV1 • security authorization requested •

holmes, mycroft • priority ultra

processing CCV1 •

5555*0000*x1 //5894)

[CCV1 • セキュリティ承認申請 • holmes, mycroft • 最優先 進行中 CCV1 • 5555*0000*x1 //5894)]

セキュリティー要請が開始された。

 

 

バスカヴィルではドアを開けてLyonsが二人を招き入れ、ベレー帽を脱いで中へ進んだ。次のセキュリティー・ドアへ誘導される間、SherlockとJohnは小声で話した。

SH: 見事だな。

JW: 伊達に年は取ってない。

SH: 楽しんでる?

JW: ああ、まあね。

ドアに着くとLyonsは通行証を通して一歩下がった。Sherlockが同様に行うと別の『通行許可』のメッセージが現れ、自動要請が送信される。ドアがスライドして開き、エレベーターが現れた。Lyonsは中へ誘導した。Sherlockは壁のパネルを見る。エレベーターは今、地上階にいて下に降りるのみ、-1、-2、-3、-4、そしてB。Lyonsは-1を押しドアが閉まった。少し経つと次の階へ降りてドアが開いた。Lyonsは明るい照明で白いタイル張りの研究所へと招き入れた。前へ進むと様々な研究職員たちがいて、マスクの付いた白いカバーオールに身を包んでいるか、もしくは顔にマスクをして白衣姿で歩き回っていた。エレベーターの右側には大きな檻があり、Lyonsが通り過ぎながら二人を案内すると中にいる猿が吠え、彼らに向かって飛びかかった。Sherlockは檻の方を向いて首輪の付いた猿を眺めた。

SH: どれくらいの数の動物をここに飼ってるんだ?

Lyons: たくさんです。

研究所の遠くの別室からマスクの付いたカバーオールを来た男が来てマスクを外した。別の研究員がビーグル犬をリードにつないで通り過ぎる。

SH: 逃げ出したことは?

Lyons: エレベーターの使い方を知らないと。我々はそのように賢くは教育しておりません。

SH: 助けがない限りは。

ちょうどそこへマスクを外した男が彼らの方へやってきた。(以下セリフ“BF”)

BF: ああ、どちら様で?

Lyons: 申し訳ありません、Frankland博士。こちらの方々を案内しているところです。

BF: (彼らへ微笑んで)ああ、新顔だな?いいね。だが、ここで深みにはまらないように気をつけろ。忠告をしに来ただけだ!

Johnが慇懃に微笑むとFranklandはエレベーターへ行った。JohnはLyonsの方を向いた。

JW: エレベーターはどれくらい下まで?

Lyons: かなりです。

JW: ふむ。下には何がある?

Lyons: その、我々はゴミ捨場をどこかに確保する必要がありますから。こちらです。

Sherlockがエレベーターへ目をやると、Franklandは新たな訪問者に興味があるのか、まだ彼らの方を見ている。LyonsがJohnを誘導するとSherlockは前を進む二人の後ろをついて歩いた。

JW: で、実際ここで君たちは何をしてるんだ?

Lyons: ご存知かと思いますが。これは視察ですよね。

Sherlockは部屋にいる研究者たちを見た。ガラスの檻に入れたネズミを見ている二人組、紐につながれ鉄の作業台に座る猿の脚に何かをしている人物。近くには別の研究員がガラス容器に入った血清のようなものを不気味な様子で眺めていた。

JW: その、僕は専門家でないんでね。

Lyons: 幹細胞が感冒を治癒しようとする全貌の研究です。

JW: でも主に兵器だろ?

Lyons: その一部、またはそれ以外もありますので。

研究所の端のドアの認証機にカードを通すと、LyonsはSherlockが同様にするために居場所を空けた。

JW: 生物学、化学…?

Lyons: ひとつの戦争が終わり、また別のものが始まります。戦わなければならない新しい敵。我々は備えなければなりません。

ドアから離れるとSherlockは腕時計を確認した。セキュリティーの認可メッセージが送信されたが、メッセージは少し変わっている。

CCV1 • security authorization //5894

• query • query • query

CCV1 • 5555*0000*x1)

[CCV1 • セキュリティ承認 //5894 • 照会 • 照会 • 照会 CCV1 • 5555*0000*x1)]

 

 

Lyonは別の研究室へと誘導した。後ろ足で立っている猿が空中へ片手を伸ばして金属の台に座る前に金切り声を上げる。女性研究員がその様子を見て同僚の方を向いた。

Stapleton: いいわ、Michael、次はHarlow Threeを試してみましょう。

彼女がテーブルを離れるとLyonsが近づいた。

Lyons: Stapleton博士。

SH: (考え深げに)Stapleton。

Stapleton: はい?(SherlockとJohnを見て)こちらはどなた?

Lyons: 最優先です。上からの指令です。監査です。

Stapleton: ほんとに?

SH: 我々は権限を与えられていてね、Stapleton博士。バスカヴィルでの役職は?

Stapletonは彼を見て疑わしげな顔をしながら鼻で笑った。

JW: ええ、すべてに対して、ね?

Stapleton: 自由に発言できないの。公的機密だから。

SH: (微笑みながら)おや、あなたは自由だ、間違いなくね…そうあるべきだと思う。

Sherlockの顔から笑みは消え、険しい顔つきになった。彼女は考えながら彼をしばらく見ていた。

Stapleton: 私は多くのことに関わっていて。たいていは混合を-遺伝子のを好んでやっているけど、実際はあちこちに手を広げているの。

Sherlockは彼女が「遺伝子」という言葉を発した時にひらめいて、彼女が話し終わる前にポケットを探っていた。

SH: Stapleton。その名前を知ってる、知っていたよ。

Stapleton: そんなことは。

SH: みんなそんな偶然はないと言う。つまらない人生を過ごしているんだな。

そして彼は何かを大きく手帳に書き込んで、よく見えるように彼女の顔の前へ突きつけた。その言葉は『Bluebell(ブルーベル)』だった。Sherlockが手帳の後ろから反応を窺っていると、彼女はそれをおもしろそうに眺めた。

Stapleton: 娘の話をあなたにしたかしら?

SH: (手帳を下ろして)ブルーベルはなぜ死なねばならなかったんだ、Stapleton博士?

JW: うさぎ?

Johnはすっかり混乱していたが、Sherlockは彼を無視してまだ態度を崩さないStapletonへ話を続けた。

SH: 鍵のかかった檻から消えた、それは常に何かを暗示する。

JW: うさぎ?

SH: 明らかに内部の人間の犯行だ。

Stapleton: あら、そうなの?

SH: なぜかって?それが闇の中で光ったからだ。

Stapleton: あなたが何のことを言ってるのかさっぱりわからないわ。何者なの?

彼女が話している間も時間の経過を意識し続けていたSherlockは再び腕時計を確認した。

 

 

その頃、セキュリティーシステムの認可申請に変化があった。

CCV1 • security authorization

•• alert •• alert ••

[CCV1 • セキュリティ承認 •• 警報 •• 警報 •• ]

画面を見ていた係が電話を取り、受話器を耳に当てる。バスカヴィルではSherlockが腕を下ろしてLyonsの方へ向いた。

SH: うむ、我々は充分見たようだ、伍長。どうもありがとう。

Lyons: (驚いて)これが?

SH: そうだ。(振り返ってさっさとドアへ向かう。Johnは後へついていき、Lyonsは彼らの後を追った)こっちだったよな?

Stapleton: ちょっと待って!

Johnは友人を捕らえ、Lyonsに聞こえないように小声で話した。その様子は喜ばしくないようだった。

JW: うさぎのために軍事基地を調査しに来たのか?

Sherlockはドアへ着くとカードを通し、Lyonsが彼らに追いついて同じ事をするのを待った。

 

 

英国政府かそれに近い場所で、セキュリティーが侵害された可能性があるという連絡がいくつもの部署を通過し、とうとうメッセージが届けられた:

• URGENT • URGENT • URGENT •

refer holmes, mycroft

[• 緊急 • 緊急 • 緊急 • 問合せ holmes, mycroft]

ディオゲネスクラブ(※)らしき場所でコーヒーをそばのテーブルに置いて座っていたMycroftは携帯電話を取った。メッセージを見ると腹立たしげに目を回し、「おいおい、何だ?」という表情を一瞬見せるとメールを打ち始めた。

 

※ディオゲネスクラブについては第三話ライヘンバッハ・ヒーローで。

 

 

バスカヴィルで足早にセキュリティー・ドアへ向かっているSherlockは電話がメールを受信しても立ち止まらずにポケットから取り出してメッセージを読んだ。

What are you

doing?

M

[何をしている? M]

彼は皮肉な様子で笑った。

SH: 23分。Mycroftも遅くなったもんだな。

エレベーターのドアに着くとカードを通し、Lyonsも同様にした。ドアが開くとFrankland博士が中に立っているのが見えた-彼らと会ってからそこで待ち続けていたかのように。博士は笑いかけてきた。

BF: やあ…まただね。

訝しげに目を細め、Sherlockたちはエレベーターに入る。すぐに一つ上の階へ行き、またドアが開いた。すると目の前に髭を生やし、軍服を着た男が立ちはだった。不機嫌そうな様子だ。

Lyons: ええと、あの、少佐…

Barrymore: まったくけしからんことだ。言っておいただろう?

JW: Barrymore少佐ですね?(彼の方へ向かってエレベーターを降り)ああ、どうも、どうも。(握手しようと手を差し出し)感激だね、なあ、Holmesさん?

BarrymoreはJohnの握手を拒んだ。Sherlockは電話がまたメールを受信したのでポケットから取り出した。

SH: 徹底してるな、ほんとに。

彼はBarrymoreの顔をほとんど見ずに横を通り抜けながら新しいメッセージを確認した。

What’s going on

Sherlock?

M

[何が起きている、Sherlock? M]

少佐は出口に急ぐSherlockたちへついてきた。

Barrymore: バスカヴィルのすべての地点はこんなばかげた官僚主義からは除外されていた…

SH: すまないね、少佐。

Barrymore: 監査か?!

SH: 新しい方針だ。いつまでも監視を逃れることはできない。良心は君等がやろうとしていることを知っている。(すばやくそっとJohnへ)歩き続けろ。

Lyonsは一瞬、脇の部屋へ入ったがまた急いで出てきた。

Lyons: 失礼!

彼は壁の非常ボタンを叩いた。アラームが鳴り響き、赤いライトが点滅してセキュリティードアが自動で閉まった。みなは驚いて彼の方へ振り返った。

Lyons: IDは認められません。

Barrymore: なんだと?

Lyons: 連絡を受けました。

Barrymore: 間違いないのか?

彼はSherlockとJohnの方へ向き直った。

Barrymore: 何者だ?

JW: あの、明らかに何かの間違いだ。

さらに続いてFranklandがゆっくりと近付いてきた、考えがありそうに。BarrymoreはSherlockのIDカードを受け取ろうと手を差し出した。彼はカードを見てSherlockへ顔を向ける。

Barrymore: 明らかにMycroft Holmesではないな。

JW: (手帳を取り出し書きこみながら)コンピューターのエラーですね、少佐。すべて報告しなければ。

Barrymore: いったい何が起きてるんだ?!

するとそばで見ていたFranklandが話に割って入ってきた。 

BF: だいじょうぶ、少佐。私はこの方々をちゃんと知っているよ。

Barrymore: あなたが?

BF: ええ。気付くのが遅れたがね、Holmesさんとここでお会いするとは思わなかったので。

SH: ああ、ええ…

BF: (握手をしようと手を差し出しながら)またお会いできて良かった、Mycroftさん。

Johnは驚きを隠そうとした。偽りの笑みを浮かべながらSherlockはFranklandの手を握る。

BF: WHOの会議でお会いできて光栄でした、Holmesさん…(考えるフリをして)…ブリュッセルでしたか?

SH: …ウィーン。

BF: ウィーン、そうでしたね。

そして博士はBarrymoreへ言った。

BF: こちらはMycroft Holmesさんだよ、少佐。明らかにミスだ。

Barrymoreが振り向いてLyonsへうなずくと、Lyonsは戻ってアラームのスイッチをオフにした。点滅は止み、警報は静かになった。少し経って入口のドアが音を立ててロックを解除した。

Barrymore: (Franklandの方へ向いて)責任を取ってもらいますよ、Frankland博士。

BF: (Lyons伍長へ笑いながら)私が送り出すよ、伍長。

Lyons: 承知いたしました。

Sherlockは踵を返して今開けられたドアを出て行った。JohnとFranklandは彼についていく。Barrymoreは不快そうにそれを見ていた。

 

 

外に出るとJohnは不安そうにしかめ面をした。Franklandはせかせかと彼らの後をついて歩く。

SH: どうも。

BF: Henry Knightについてだろう、ね?

二人は答えなかったが、Franklandはそれを合意と受け取った。

BF: そうだろうと思った。彼が助けを求めていると知っていたが、Sherlock Holmesに会おうとしていたとは気付かなかった!

Sherlockは渋い顔をした。

BF: ああ、ご心配なく。本当は誰か知ってるよ。あなたのWebサイトは欠かさず見てるんだ。帽子をかぶっていたと思ったんだが。

SH: あれは僕の帽子じゃない。

BF: (Johnへ)帽子がないんで気付くのが遅れたよ!

Johnはうまく微笑み返すことができなかった。

SH: (怒りながらhatの“t”を強調して)僕の帽子じゃない。(It wasn’t my hat)

BF: あなたのブログも好きでね、Watson先生。

JW: ああ。良かった。

BF: ええと、ピンクのやつと…

JW: あ、うん。

BF: …アルミの杖のやつ!

JW: ああ。

そこでSherlockは立ち止まってFranklandへ尋ねた。

SH: Henry Knightを知ってるのか?

BF: ああ、父親の方がよく知ってるね。あいつはこの場所についておかしな持論があった。それでも良い友人だったよ。

わずかに振り返ってBarrymore少佐が少し離れたところでこちらを見ているのを確認し、Sherlockへ再び顔を向けた。

BF: だが、今は話せないんだ。

博士は上着のポケットから名刺を取り出し手渡した。

BF: 私の、ええと、携帯電話の番号(cell number)だ。Henryの手助けができるなら連絡をくれたまえ。

SH: そんなことは頼んでない、Frankland博士。実際ここであんたは何をしてるんだ?

BF: ああ、Holmesさん、教えたいのはやまやまだけどね、そうなればもちろん、あんたを殺さねばならなくなるな!

彼は楽しげに笑ったが、Sherlockは真面目な表情で言葉を返した。

SH: あんたが熱意を注いでいるのはそれなんだろう。

Franklandの顔から笑みが消え、きまり悪く肩をすくめた。

SH: Stapleton博士について教えてくれ。

BF: 同僚の悪口は言わないよ。

SH: まだほめてもいない。明らかに省いたな。

BF: そう見えたかね?(肩をすくめた)

SH: (Franklandから受け取った名刺を掲げて)連絡する。

BF: いつでも。

SherlockとJohnはその場を離れ、Land Roverに向かった。

JW: それで?

SH: それで?

JW: うさぎについては何だったんだ?

少し微笑んでSherlockはコートをたぐり寄せ、車に歩み寄りながら襟を立てる。Johnは目を回して彼の方を向いた。

JW: おい頼むよ、できるわけないよな、今回は?

SH: 何を?

JW: …謎めいた雰囲気だな、その頬骨にコートの襟を立てちゃってさ。かっこいいよな。

そう言って車のドアへ向かうJohnにSherlockは何か言おうと口を開いたが狼狽して言葉が見つからないようだった。

SH: …そんなつもりは。

JW: いや、そうさ。

二人は車に乗り込んだ。

 

 

その後、Sherlockは荒野に車を走らせていた。 

JW: それで、Kirstyからのメール、ええと、消えた光るうさぎだっけ。

SH: Kirsty Stapleton、母親は遺伝子操作の専門家だ。

JW: 娘のうさぎを闇で光るようにした。

SH: 恐らく蛍光性の遺伝子を取り出して試験体に接合したんだろう。今どき簡単なことだ。

JW: それじゃ…

Sherlockを見て、続く言葉を待つ。

SH: Stapleton博士が動物を使って秘密の遺伝子実験をしていることがわかった。問題は、うさぎより命取りとなるものに対して行なわれていたかだ。

Johnは窓の外の景色へ目をやった。

JW: フェアに見てさ、随分広いもんだよな。

Sherlockは、それが実験に対してのコメントなのか、目の前の景色についてなのかわからずにJohnの方を見やった。

バスカヴィルの犬 4