車の中、Sherlockはまた搭乗券を取り出した。Plummerに何を推理しているかを話す。

SH: 旅客機の爆撃がある予定だった。イギリス政府とアメリカ政府はそれを知っているが情報源を明かすことよりもそれが行われることを選んだ。飛行機は爆発するだろう。コベントリーの再来だ。車輪は回る。何も目新しいことはない。

Plummerも運転手も彼に応じなかった。

 

 

しばらくして車はヒースロー空港に着き、格納庫を過ぎて滑走路に駐められた747ジャンボ機へ向かった。飛行機の近くで車は止まり、Sherlockは入口へ伸びる階段へ向かった。見覚えのある姿が階段の足元に立っている。Neilsonだった。

SH: (わざとアメリカ人のアクセントで)おや、良くなったみたいだね。気分はどうだい?

Neilson: あんたの脳みそに弾を撃ちこんでやりたい気分…ですね。

Sherlockは静かに含み笑いをし、階段を登り始めた。

Neilson: 勲章で俺は止められた、もし…

Sherlockは立ち止まった。

Neilson: (偽善的に)失礼。

Sherlockは半ば彼の方を向いていたが、気にしないことにして階段を登り続けた。

 

 

Sherlockはぼんやりと薄暗い機内のカーテンを引き、客席の通路へ入った。照明は微かでほとんど見えない。ほとんどの席に人が座っていたが動いたり話したり、生きている証を見せる者はいなかった。眉をひそめて彼は前へ進み、近くの旅行者に近寄ってみた。頭上の照明がお互い顔を向けて座っている二人の男をより明らかに見せたが、Sherlockは今、真実に気付いた。彼らは死んでいた。けれども彼らは腐敗した様子を見せなかった、その肌は非常に灰色でしばらく前に死んでいたのは明らかなのに。彼は向きを変え通路の別の側の乗客を眺めた。よく見えるように別の頭上の照明を点けた。男性と女性がそこに座っていてその二人も死んでいた。Sherlockは起き上がるとこの飛行機に乗っている全員が同じ状態であることに既に気付いていた。そこへ兄が区画の別の端から話を始めた。

MH: コベントリーの謎だ。

Sherlockが驚いて振り向くとMycroftがカーテンを閉めてキャビンへ入ってきた。厳かに話す声は前にいる遺体たちに敬意を示しているかのようだった。

MH: 私が採った解決策についてどう考える?

Sherlockはキャビンを見回した、まだじっと見入っている。

MH: 死者の飛行。

SH: 飛行機は中空で爆撃された。テロリストのミッションは成功した。数百人の犠牲者、でも誰も死なない。

MH: 見事だな、そう思わないか?

Sherlockはおもしろくなさそうに微笑んだ。

MH: お前は長いこと初期の段階でつまずいていた-もしくは警告のパターンに飽き飽きしていたのかな?

Sherlockの心の中に二人の少女が彼の部屋で座っている場面が蘇った。

少女: おじいちゃんが死んだときに会わせてくれなかったの。

彼は少し顔を上げ、気味の悪い男が違う場面で同じ椅子に座り、骨壷を抱えているところを思い出した。

気味の悪い男: あの人は私の本当の叔母ではないんです。私は人間の遺灰がどんなものか知ってるんです。

MH: 我々はドイツと共に同じような計画をしばらく前に行った、ひとりは飛行機に乗らなかったようだがな。

Sherlockは車のトランクに置かれた遺体とベルリン空港のスタンプが押されたパスポートを思い出した。

MH: だがお前のための死者だ-故人だ、あらゆる意味において。

SH: どうやって飛行機は飛ぶ予定だったんだ?(直ちに自ら答えた)当然、無人の飛行機。新しくない。

MH: 飛ばない。飛ぶことはない。この完全な計画は中止された。我々が爆撃について把握していることをテロリストの支部に密告されてしまったのだ。今、奴らはバカにできない。我々は全てを失った。メールの断片ひとつが、計画に費やした年月を台無しにしてしまったのだ。

SH: 防衛省の役人。

MH: 得たものは、ある哀れな騙されやすい、目立ちたくてたまらない男、そして彼を特別な気分にさせるのに充分な賢い女、だ。

SH: (眉を曲げ)ふん。あんたはもっと慎重に、守備につく人間を選んだ方がいい。

MH: (大声で、怒りながら)防衛省の役人の話をしているのではない、Sherlock、お前のことを言っているんだ。

Sherlockは顔をしかめ、偽りなく混乱した。Mycroftは先程よりもさらに静かに話を続けた。

MH: 苦しんでいる若い女性。(嘲笑を浮かべ)結局、お前はそんなにわかりやすい奴なのか?これは教科書だったのだ、愛の約束、喪失の痛み、救済の喜び、そして彼にパズルを与える…(いつも持ち歩いている傘を振り、ささやいた)…そして踊らされているのを眺める。

SH: ばかにするな。

MH: ばかにする?どれくらいすばやくあのメールを解読した?一分かかったか、それとも本当に感動させようと熱中したか?

IA: (Sherlockの背後から)五秒もかからなかったと思う。

Sherlockは振り返って彼女がキャビンの端に立っているのを見た-美しく着飾っている。化粧をきちんとして、髪は完璧に結われていた。

MH: (Sherlockへ悲しそうに)お前を彼女の計画に引き入れてしまった。(少し止まって)すまない。(頭を下げて)私は知らなかったんだ。

Sherlockは歩み寄るIreneにまだ目を向けていた。

IA: Holmesさん、話し合いが必要ね。

SH: そうだろうな。まだ明らかになってないことがかなりある。

IA: (彼を通り越し)あなたじゃないの、弟さん。あなたはもう済んだ。

彼女はMycroftの方へ通路を進み続けた。Sherlockは振り返って彼女が進むのを見ていた。彼女は電話を取り出して掲げ、兄に見せる。

IA: もっとあるのよ…悩みの種が。あなたの世界を崩壊させる秘密や写真、スキャンダルがこの電話の中にあるの。どれくらい混乱を招くことになるか、どうすればそれを阻止できるかわからないでしょうね-上司へ報告するなら話は別だけど、重大な機密の漏洩が自分の弟によるものだって。

Mycroftは彼女の視線を受け止めていることができず、黙ってうなだれた。

 

 

しばらくして、MycroftはIreneとSherlockに彼の邸宅・仕事場を提供していた。兄はダイニングテーブルに向かって座り、Ireneはその向かいに座っている。Sherlockは少し離れた暖炉のそばで肘掛け椅子に腰掛け、二人に背を向けていた。右手を繰り返し握ったり開いたりしながら、他の二人の会話を聞いている。Mycroftはテーブルの上に置いてある電話を指した。攻撃性も脅しもその声に出さず、話し出した。

MH: 我々は情報を取り出せる。

IA: その考えをあなたのためにテストしてあげたわよ。六ヶ月間Sherlock Holmesに試させたの。

Sherlockは苦痛を感じてしばらく目を閉じた。

IA: Sherlock、ねえあなた、わたしの電話をレントゲン検査して何を見つけたか教えてあげて。

SH: (抑揚なしに)ケースの中に四つの部品が配線されている、酸化物か微量の爆薬と思われる。

Mycroftは絶望して手に顔を埋めた。

SH: ケースを開けようとすると記録装置を燃やすだろう。

IA: 爆薬。(Mycroftを見て)まさにわたし。

MH: (顔を上げ再び彼女を見ながら)データのいくらかは常に修復できるものだ。

IA: そのリスクを取るの?

MH: 君はこれを開くのにパスコードを持っている。誠に遺憾だがそれを聞き出せる人材がいる。

IA: (静かに)Sherlock?

SH: 二つのパスコードがあるだろう、ひとつは電話を開くもの、ひとつは記憶装置を燃やすもの。脅迫の下では彼女がどちらを教えたか知りようがない、そして二回目の試みには期待できない。

IA: 彼ってすてきよね?紐につないで置くべきね-というか、そうするかも。

Ireneは強い眼差しで彼を見つめたが、Sherlockは彼女に背を向けたままで、彼女の表情を見ることができなかった。

MH: それならこれを破壊する。誰も情報を持たない。

IA: いいわね。いい考えじゃない…あなたが燃やそうとしているこの情報にイギリス国民の命がかかっていなければね。

MH: かかっている?

IA: 公平にプレイしようと言っているのよ。もうお遊びはやめるわ。

彼女は前にあるテーブルに置かれたハンドバッグを探り、封筒を取り出すとMycroftへ向けてテーブルの上を滑らせた。

IA: 要求のリスト。それから承諾してくれるのであればわたしの保護についての案も。

Mycroftは用紙を封筒から取り、広げ始めた。

IA: 国家の財産に大きな穴を開けることはないでしょう-わたしを抱えることになるけど。

MycroftはIreneがリストにした要求を読みながら驚いて眉を上げた。

IA: 一晩それについて考えたいでしょうね。

MH: (まだ読みながら)ありがとう、そうだ。

IA: お気の毒に。

Mycroftは彼女を見た。肘掛け椅子でSherlockは何も言わず鼻で笑った。

IA: (Mycroftに)みんなの前に出ていって話すのよ。

ため息をついて、Mycroftは椅子に沈み込んだ。

MH: 君はとても…徹底しているな。我々の人材も君の半分くらいは優れていればいいんだが。

IA: わたしだけの手柄じゃない。ちょっと助けがあったの。

彼女はSherlockの方を見た。

IA: ああ、Jim Moriartyがよろしくですって。

Sherlockは顔を上げた。

MH: ああ、彼も関わっていた。わたしの配慮を求めているらしい…(声は不吉さを増した)…応じるつもりだ。

他の二人は気付いていないが、Sherlockの視線は鋭くなり始めた。Ireneは立ち上がってテーブルに沿って進み、Mycroftのそばへ行くと端に腰掛けた。

IA: わたしはこの情報のすべてを得た、それが何の役に立つかも知らずに。犯罪コンサルタントに感謝ね。どうやってHolmes家の男たちとプレイすればいいかたくさん教えてくれた。あの人があなたたちを何て呼んでるか知ってる?(小声でそっと)The Ice Man(※冷血な男)…(Sherlockの方を見て)…そしてthe Virgin(※童貞)。

Sherlockは目を動かしたが、それはIreneが言ったことに対してのリアクションなのか、何かひらめいたからなのかは明らかでなかった。

IA: 何も訊かなかった。あの人はただトラブルの原因が好きなのね。そしてそれこそわたしの求める男。

Sherlockは目を閉じ、そっとため息をついた。

MH: そして君は、国家をひざまずかせる女王様か。

Sherlockの目は再び開いた。彼は明らかに何かの作業を終えた。Mycroftは立ち上がりIreneに軽くお辞儀をした。

MH: 見事なプレイだった。

Mycroftは向きを変え、彼女の要求を検討し始めた。Ireneは満足して微笑んで立ち上がり、勝利を確信していた。

SH: 違う。

彼らはSherlockの方を向いた。

IA: え?

Sherlockは彼らの方へ顔を向けた。

SH: 違うと言った。非常に、とても近いが、でも違う。

Sherlockは立ち上がり、Ireneへ歩み寄りはじめた。

SH: 君は夢中になった。ゲームは念入り過ぎた。楽しみ過ぎたんだ。

IA: 過剰なことなんてない。

SH: (歩み寄り彼女を見下ろしながら)ああ、追われるスリルを楽しむのは良いことだ、ゲームの気晴らしを求めることは-完全に同意する-だが感情?感情は敗者側の化学的な欠点だ。

彼は言葉の終わりを少し強調してわずかに歯を見せた。

IA: 感情?何のことを言ってるの?

SH: 君のことだ。

Ireneはまだ余裕を見せて微笑んだ。

IA: ああなんてこと。かわいそうな男をご覧なさい。あなたに興味を持っていたとほんとに思ってるの?なぜ?だってあなたは偉大なSherlock Holmesでしょう?おかしな帽子を被った賢い探偵の。

Sherlockはさらに彼女に近寄った、二人の身体はほとんど触れ合っている。

SH: (そっと)違う。

彼は手を伸ばしゆっくりと右手で彼女の左手首を包んだ、そして前へ屈み彼女の右耳へ口を近付けてささやいた。

SH: だって君の脈を取ったから。

-Ireneが221BでSherlockの前にひざまずき、手を彼の手の上に置いている、彼は手を返し、指先を彼女の手首の下に合わせていた。

そして今、Sherlockは困惑して眉をひそめるIreneの手首をしっかりと握った。

SH: (彼女の耳元へ小声で)脈は上がっていた、瞳孔は開いていた。

-彼女は彼の前にひざまずき、彼の目を見つめていた。

今、彼は彼女の手を離し、彼女に寄りかかるようにしてテーブルから電話を取り上げた。

SH: (普通の声に戻しながら)John Watsonは、僕にとって愛とは不可解なものだと考えているようだが、化学は非常に単純だ、そしてとても破壊的だ。

Sherlockは向きを変え、Ireneから少し離れた。彼女は彼がまた自分の方を向くまで彼を追った。

SH: 初めて会ったとき、変装は常に自画像だと君は言った。いかにも君の真実だ、金庫の暗証番号-身体のサイズ、だがこれは…(空中に電話を投げそれをまた受け取った)…もっと深い関係にある。

Sherlockはセキュリティーロックを外し「I AM _ _ _ _ Locked」の画面を出した。

SH: これは君の心…

彼女の目から視線を外さず、彼は四文字の最初を親指で入力した。

SH: …それに支配されてはならなかった。

Ireneは彼を見つめながら落ち着こうとしたが、パニックが目に現れ始めていた。

SH: 適当な数字を選んでおいて、今日ここから出ていくことも出来た、身を捧げたすべてのものと…

Sherlockは二番目の文字を入力した、彼の目はまだ彼女に合わせられたままだった。

SH: …でも抵抗できなかったんだろ?

Ireneの息遣いは荒くなった。Sherlockは少し誇らしげに微笑んだ。

SH: 僕は常に、愛とは危険で不利なことだと考えている…

彼は三番目の文字を打った、まだ彼女を見つめている。

SH: 最後の証拠に感謝するよ。

四番目の文字を入力する前にIreneは彼の手を掴み、激しい眼差しで見つめながらささやくような声で嘆願した。

IA: わたしが言ったことはみんな、あれは本当のことじゃないの。ゲームをしていただけなの。

SH: (ささやき声で)わかってる。

彼は優しく手を離し、最後の文字を入力した。

SH: そしてこれが負けるということだ。

そう言ってSherlockは画面が見えるようにゆっくりと電話を彼女に向けた。それを見たIreneの瞳から涙がこぼれ落ちる。その文字列は:

I AM

SHER

LOCKED

Ireneは数秒間絶望したまま画面を見つめた。そしてSherlockはアンロックされてメニュー表示をしている電話をMycroftに渡した。

SH: (視線はまだIreneに注がれている)それだろう、兄さん。その中身が今夜迷惑をかけた埋め合わせになるといいんだが。

MH: 彼らはやってくれるだろう。

Sherlockは向きを変え、ドアの方へと歩き出した。

SH: 思い遣る気があれば、彼女を保護してやるか、逃がしてやってくれ。自己防衛なしに長生きできるか疑わしい。

IreneはSherlockを見つめた、目は大きく開かれていた。

IA: わたしが懇願するとでも?

SH: (きっぱりと冷静に)ああ。

Sherlockはドアの近くで立ち止まり、横顔を向けた。Ireneはしばらく怒りを込めて彼を見つめていたが、やがて自分には選択肢がないことに気付いた。

IA: お願い。

彼は動かなかった。

IA: あなたは正しい。

Sherlockは顔を向けてIreneを見た。彼女は嘆願するように彼を見つめた。

IA: 半年だってもたない。

SH: 食事ができなくて悪かったな。

冷たく言い放つとSherlockは向きを変え、ドアに進み部屋を出て行った。彼が去っていくのを見つめていたIreneはドアが閉じられると恐怖に包まれた。

ベルグレビアの醜聞 9