昼間。ST BART’S。Sherlockは研究室のパソコンでレントゲン写真を見ている。電話の内部を写したものだ。Mollyがそばにいる。彼は画面に近寄り、四つの丸く暗くなった部分が電話の内部に写っているのを確認した。悩んでいるようだ。

MoH: それ、電話?

SH: カメラ付き電話。

MoH: そしてそれをレントゲンに?

SH: ああ、そうだ。

MoH: 誰の電話?

SH: ある女性の。

MoH: あなたのガールフレンド?

SH: 持ち物をレントゲンしているから、ガールフレンドだと思うのか?

MoH: (緊張した様子で笑いながら)んー、みんなばかなことをするでしょ。

SH: ああ。

彼は画面から顔を離すと突然ひらめき、Mollyを眺めた。

SH: 彼らもだろうな?すごくばかげてる。

Mollyは困惑して彼を見た。Sherlockは立ち上がり、電話をレントゲン機械から取り出して掲げた。

SH: 彼女はこれを僕の住所に送った、そして彼女はゲームが好きだ。

MoH: 彼女が?

Sherlockは「I AM _ _ _ _ Locked」の画面を出し、「221B」と入力した。電話は警告音を鳴らし、メッセージが表示された-「パスコードが間違っています。二つ違います」

彼はイライラしながらまた座った。

 

 

数ヵ月後。221B。二人は買い物から帰ってきたところだった。Sherlockは先にひとりで階段の頂上に着くと不意に違和感を感じてキッチンのドアの外に立ち止まり、深く匂いを嗅いだ。さらに深く呼吸すると向きを変え、キッチンへ入って窓へ歩み寄り、それが開いているのに気付いた。向きを変えて再び匂いを嗅ぎながらゆっくりと寝室へ向かうと、下の階でドアがバタンと閉じられ階段を上がってくる音が聞こえた。自分の部屋に着くとSherlockはドアを押し開けた。Johnが買い物袋を提げてキッチンへやってくる。Sherlockは寝室へ入りベッドを見下ろした。Johnが彼に呼びかけた。

JW: Sherlock…

SH: 依頼人が来た。

JW: え、寝室に?!

Johnは通路を歩いて寝室に入った。そしてベッドを見てぽかんと口を開けた。

JW: あああ。

Irene-服を着ている-がSherlockのベッドで寝ていた。

 

 

しばらくしてIreneはSherlockの青いガウンを羽織り、リビングで彼の椅子に座っていた。今日は髪を下ろしている。男たちはテーブルの前に座り、彼女を見ていた。

SH: で、誰が君の後を?

IA: わたしを殺したがってる連中。

SH: それは誰だ?

IA: 殺し屋。

JW: もうちょっと具体的にしてくれると助かるんだけど。

SH: それで君は奴らから逃げるために死んだと偽装したわけだ。

IA: しばらくは通用したんだけど。

SH: Johnに生きていると知らせたのを除いて。結果的に僕にもだが。

IA: あなたが秘密を守ってくれてるってわかってた。

SH: 君はできなかった。

IA: でもあなたはそうしてくれたでしょう?わたしの電話はどこ?

JW: ここにはない。僕らはバカじゃない。

IA: それであなたは何をしたの?もしあなたが手に入れたと奴らが考えたら、あなたを監視するでしょう。

SH: もしあいつらが僕を監視してたとしても、僕がそれを数ヶ月前、ストランドにある銀行の保管金庫に入れたとわかるだろう。

   (※ストランド…ロンドン中央のウェストミンスターにある街、バッキンガム宮殿や国会議事堂などがある)

IA: あれが必要なの。

JW: んん、そのまま行って取り出すことなんてできないよな?

JohnはSherlockの方を見て、ひらめいた。

JW: Molly Hooper。彼女なら回収してBart'sに持ち出せる、そして君のホームレスネットワークがここに持ってくる、カフェに置かせたら下の階にいる男の子のひとりが持ち帰ってくるんだ。

SH: とてもいいね、John。すばらしい考えだ、知的な予防策だな。

Sherlockはわざとらしく微笑んだ。Johnはそのすばらしい考えを実行に移そうと自分の電話を取り出した。

JW: どうも。で、なんで…ああ、その…

JohnはSherlockが上着のポケットから「あの電話」を取り出すのを見て驚き、自分がさっきまで真面目に考えていたことがばからしくなった。Sherlockが電話を間近に眺めると、Ireneは思わず立ち上がった。

SH: で、君はここに何を保管してるんだ-大まかには?

IA: 写真、情報、役に立つかもしれないもの何でも。

JW: 何に、恐喝に?

IA: 自己防衛よ。わたしは自分で世界を切り開くの、悪いこともする。必要とするときにはみんなちゃんとわたしのそばにいる、それを知っていたいの。

SH: で、どうやってこの情報を手に入れた?

IA: 言ったでしょ、悪いこともする。

SH: だが防衛することよりも危険な何かを手に入れた。それが何か知ってるのか?

IA: ええ、でも理解はできない。

SH: そうだろうな。見せてくれ。

Ireneは電話に手を伸ばした。Sherlockは彼女の手の届く範囲から離した。

SH: パスコードを。

それでも彼女は手を伸ばし続けていたので、やがてSherlockは前へ寄って彼女に電話を渡した。受け取って彼に画面と文字盤が見えないように持つとIreneは四文字の入力をした。電話は警告音を鳴らした。

IA: 動かない。

SH: (立ち上がって彼女から電話を取り)いや、それは僕が作った複製だからだ、君が入力した番号が入ってる、1058か。

彼は彼女が座っていた椅子へ歩み寄り、クッションの下から本物の電話を回収した。Johnはほくそ笑んだ。

SH: 君はもっと特殊なものを選んでいると思っていたんだが、うん、とにかくありがとう。

Sherlockは「I AM _ _ _ _ LOCKED」の画面を出し「1058」と入力した。そして満足気にIreneを見たが、電話は警告音を鳴らし、「パスコードが間違っています、1つ違います」とメッセージが表れた。彼は信じられず画面を凝視した。

IA: その電話はわたしの命だって言ったでしょう。わたしの手にあるときはわかるわ。

SH: ああ、君は随分賢いんだな。

IA: (彼に微笑み)あなたも悪くないわよ。

Ireneはまた手を伸ばしてSherlockから電話を受け取った。Johnは激しく視線を絡ませる二人を見て顔をしかめ、出し抜けに言った。

JW: Hamish。

見つめ合っていた二人はJohnの方を向いた。

JW: John Hamish Watson-もし赤ん坊の名前を探してるんだったら。(※)

Sherlockは困惑して眉をひそめた。

IA: 男がいた-MOD(防衛省)の。彼が好きなものを知ってたの。

男たちから少し距離を取って歩くので、彼らは画面と文字盤を見ることができなかった。彼女は本当のパスコードを入力し写真を呼び出した。

IA: 彼が好きだったもののひとつはひけらかすこと。わたしにこのメールが世界を救うことになるだろうって言ってた。彼は知らなかっただろうけど、わたしそれを写真にしたの。(Sherlockに電話を渡し)彼はちょっと時間に追われてた、その画面のはちょっと小さいわね-読める?

SherlockはJohnの向かいの椅子に座り、写真に目を凝らした。メールの冒頭は-たぶん件名-「007 配置確定」小さな印刷の下に数字の列がある。

4C12C45F13E13G60A60B61F34G34J60D12H33K34K

SH: なるほど。

IA: 暗号ね、明らかに。国内で一番の暗号の専門家にそれを見せたの-でもほとんど混乱してたわね、憶えてる限りでは。解読できなかった。

Sherlockは前に屈み、画面に集中していた。

IA: あなたができることは何、Holmesさん?

彼女は彼の肩に屈み込んだ。

IA: やってみて。女の子を感動させて。

IreneがSherlockに屈み込み始めると、時間の進みがゆっくりになった。彼女の交渉-暗号の数字がSherlockの心を明らかに掻き立てて形を成し始めた。彼女が屈み込んで彼の頬にキスするまでに彼は数字とアルファベットの組み合わせを一瞬の内に頭に描き、既に解読していた。Sherlockの目は微笑みながら顔を引くIreneの方へ一瞬泳いだが、再び画面に集中した。

SH: (早口で)誤差はあるが明日の午後六時にヒースロー(※ロンドン西部の空港)からボルチモア(※アメリカ、メリーランド州の都市)へ発つ747機だというのはかなり確実だな。これが世界を救うらしい。どうやって実現するのか不明だが、ちょっと待ってくれ、八秒間事件だけに没頭する。

彼は呆気にとられているJohnの顔を見て、まだ完全に立ち上がっていないIreneをちらっと見た。二人はまだ何だかわかっていなかった。

SH: ああ、ほら。暗号じゃないんだ。旅客機の座席表だ。見ろ、「I」の文字がない、「1」の間違いになり得るからだ、「K」の後の文字はない-飛行機の幅に限度があるんだ。数字は常にランダムで連続していないが文字は全ての飛行機で若干連続するものだ-家族やカップルが一緒に座るからな。ジャンボ機だけは「K」か55を超える文字を必要とする、常に上の階もあるからだ、13の列がある、このことから迷信を信じる航空会社は除かれる。それからフライト番号の型-007(ゼロ・ゼロ・セブン)-それでさらに対象は除外される、情報の出典元を論理的に考慮して当然イギリス本土の地点だ、そして最近君への圧力が高まったことから重大な局面が迫っていることがわかる、すべての基準を満たし今週の内に出発するフライトは明日の午後6:30にヒースロー空港からボルチモアへ発つ便だけだ。

Sherlockは今では立ち上がっていた。電話を下ろしてIreneを見る。彼女は称賛の眼差しで彼を見つめていた。

SH: 「すばらしい」とか「すごい」とか言おうとしなくていい。同じ感想をJohnが思いつく限り、ありとあらゆる言葉で表現した。

IA: (熱烈に)二回懇願するまでこの机にいさせるつもりだったのに。

二人はSherlockが再び話し出すまでしばらく見つめ合っていた。

SH: (Ireneへ視線を固定したまま)John、フライトの予定を確認してくれないか、僕が合っているかどうか?

ずっと熱烈な視線を絡み合わせている二人に圧倒されて、Johnはぼんやりしていた。

JW: あ、はあ。やるよ、ああ。

咳払いをして、Johnはラップトップに入力し始めた。SherlockとIreneはまだ見つめ合っている。

SH: 僕は人生で懇願などしたことはない。

IA: (力強く)二回よ。

JW: (画面を見ながら)ああ、やった、間違いないぞ。ああ、007(ダブル・オー・セブン)便。

それを聞いてSherlockの表情が少し変わり、Johnの方へ顔を向けた。

SH: 何て言った?

JW: 間違いないって。

SH: いや、いや、違う、その後だ。その後に何て言った?

JW: ダブル・オー・セブン。007(ダブル・オー・セブン)便。

その言葉が何か訴えかけてきたらしく、Sherlockは小声で独り言をつぶやき出した。

SH: ダブル・オー・セブン、ダブル・オー・セブン、ダブル・オー・セブン、ダブル・オー・セブン...

そしてIreneを押しのけると、彼は歩き回り始めた。

SH: …何か…「ダブル・オー・セブン」と繋がる何か…何だ?

彼は歩き回り続け、数字を自分につぶやき続けた。Ireneはその様子を見ながら、電話を背中に隠して画面を見ずに入力した。

747 TOMORROW 6:30PM HEATHROW [747 明日 午後6:30 ヒースロー]

 

そのメッセージはJim Moriartyに送られていた。黒いコートにサングラス。国会議事堂にとても近いウエストミンスターにいる彼は電話を取り出しメッセージを読んだ。

 

 

場面は221Bへ。Sherlockは暖炉へ歩み寄り、目を閉じて鏡の前に立っていた。

SH: (小声で)ダブル・オー・セブン、ダブル・オー・セブン、何だ、何だ、何か、何だ?

するとある光景が浮かんで、彼は目を見開いた。向きを変えてリビングのドアを眺めながら、Mycroftがその踊り場に立ち、電話で話している様子を思い出していた。それはSherlockとJohnがIreneの家から戻った翌朝、Mycroftが221Bにやってきているときにどこからか連絡を受けているところだった。

MH: Bond Airは行う。

Sherlockはドアへ歩み寄った。

MH: Bond Airは行う…Bond Airは行う。

 

 

Sherlockの心の中で言葉が反響すると、ウエストミンスターのJimは電話にメッセージを入力していた。

Jumbo Jet. Dear me Mr Holmes, dear me. [ジャンボジェットか。あらあらHolmesさん、どうする?]

彼は送信ボタンを押し、メッセージは空中に飛び出した。その文字が見えているかのようにJimは顔をBig Ben(それはまさにイギリス政府の地位を連想させる)の方に向け、不快な音を立てて吹き飛ばした。

 

 

Mycroftの家・邸宅・装飾的な仕事場で彼はダイニングテーブルから電話を取り、新しく届いたメッセージを見た。それは先程Jimが送った「Jumbo Jet. Dear me Mr Holmes, dear me.」だった。

 

時は経ち、Mycroftはダイニングテーブルの端の椅子に戻りそこに沈み込んでいた、顔を手で覆い、明らかに事の成り行きにショックを隠しきれていなかった。

 

さらに時は過ぎ、Mycroftは上着を脱いで前にブランデーのグラスを置いていた。手を口にあてがい、目を見開き、不安そうに考えをめぐらせていた。

 

さらに後、夜になり始めていた。Mycroftは怒りで顔を歪め、目はまだ彼だけが知っている恐怖により大きく開かれていた。そばにあるグラスは空になっていた。ゆっくりと目を閉じ、絶望した様子で顔を手に埋め、頭を抱えた。

 

 

夜。221B。Sherlockは肘掛け椅子に座り、そっとバイオリンの弦を爪弾いていた。部屋は薄暗く、暖炉の火だけがあたりを照らしていた。彼の心の中にはまだMycroftが電話に話す声が響いている。

MH: Bond Airは行う、決まったことだ。コベントリーについてよく確認しておけ。

Sherlockはようやく、少しだが奮起して顔を上げた。

SH: コベントリー。

IreneはまだSherlockのガウンを着ていて、Johnの椅子に座って彼をそばで見ていた。

IA: 行ったことない。いいところ?

SH: Johnはどこに行った?

IA: ちょっと出掛けるって。

SH: あいつに話していたのに。

IA: (微笑んで)あなたがそれをやるって彼も言ってた。コベントリーで何かあったの?

SH: 物語だ、たぶん事実ではない。第二次世界大戦中、同盟国はコベントリーが爆撃されると知っていた、ドイツの暗号を解読したからだ、だが彼らはドイツに暗号を解読したことを知らせたくなかった、だから結局それは起こった。

IA: 今まで誰かとしたことある?

Sherlockはぽかんとして彼女に顔をしかめた。

SH: …何を?

IA: わたしが「した」と言うときはみだらな気分なの。

SH: 意味がわからないな。

IA: わたし美味しくなるわよ。

椅子から離れ、彼女はひざまずいてSherlockの前に近づいた、左手を彼の右手の上に載せ、指を周りに絡ませた。

IA: 食事をしましょう。

SH: なぜ?

IA: お腹空いてるかも。

SH: 空いてない。

IA: いいわ。

躊躇しながら、Sherlockは少し前に寄るとゆっくりと右手を伸ばし、指を彼女の手首に絡ませた。

SH: 空腹でもないのに、なぜ食事をしたがるだろう?

Ireneはゆっくり前へ屈み込んだ、彼女は彼のくちびるを見つめた。

IA: ああ、Holmesさん…

Sherlockの指はやさしく彼女の手首をなでていた。

IA: …もし世界が終わるなら、もしそれがまさに今夜なら、わたしと一緒に食事をしてくれる?

そこへ突然、部屋の外から声がした。

MrsH: Sherlock!

Sherlockの視線はドアへ移った。

IA: (悲しそうに)遅かった。

SH: 世界の終わりじゃない、Hudsonさんだ。

Hudson夫人がやってくる前にIreneは手を離して立ち上がると彼から離れ、彼も椅子に座り直した。Hudson夫人はほかならぬ宮殿の使い、Plummerと入ってきた。

MrsH: Sherlock、この人ドアのとこにいたのよ。ベルはまだ動かないの?

夫人はPlummerの方を向き、Sherlockを指した。

MrsH: この人ったら銃で撃ったのよ。

SH: (イライラしてPlummerに)また僕を連れていこうとしてるのか?

Plummer: そうです、Holmesさん。

SH: お断りだ。

Plummer: (上着から封筒を出し彼に差し出しながら)そうなさるとは思いません。

Sherlockは彼からひったくるように封筒を取って中を開けた。それはFlyaway Airwaysビジネスクラスの搭乗券でSherlock Holmesの名前があり、007便ボルチモア行き、18:30発の予定だった。

 

 

すぐ後で、Sherlockはコートを着てアパートの外で車の後部座席に乗り込んでいた。Plummerが助手席に座ると車は走り出し、Ireneは221Bの窓辺に立って彼らが出発するのを眺めていた。

 

※Hamish

…原作ではWatsonのミドルネームは“H”としか明らかになっていないが、シャーロック・ホームズ研究家やファンの間ではHamishだと考えられている。妻のMaryがWatsonのことを“James”と呼ぶ場面があり謎とされているが、Jamesとはスコットランド・ゲール語のHamishを英語化したものであり、Maryはかつてスコットランドで暮らしていたため、そう呼んだのではないかという説がある。(Steven Moffatがこの説を採用したらしい)

詳しくはWikipedia「ジョン・H・ワトスン

ベルグレビアの醜聞 8