そして今 、窓辺にはかわいらしいライトが色とりどりに輝いていた。時は過ぎ、今日はクリスマス。外では雪が降っている。221Bのリビングもデコレーションとカードでクリスマスらしく飾り付けされていた。Sherlockは「We Wish You A Merry Christmas」をバイオリンで弾きながら部屋の中を歩いている。Hudson夫人はグラスを持ってSherlockの椅子に座り、楽しそうにそれを眺めていた。Lestradeはグラスを持ってキッチンの入口に立っている。Johnは-とてもかわいらしいクリスマスのセーターを着て-片手にカップを、もう片方にはビールの瓶を持って歩いていた。Sherlockが仰々しく曲を終えると、Lestradeは感謝を示す口笛を吹いた。
MrsH: すてき!Sherlock、すてきだったわ!
JW: すばらしいね!
Hudson夫人はどうも少し酔っているらしく、Sherlockへくすくすと笑いかけた。
MrsH: トナカイの角をつけてくれたら良かったのに!
SH: 想像に留めておく方が良いこともあるんだよ、Hudsonさん。
JohnはHudson夫人の酔いを冷まそうとお茶を渡した。
JW: はい。
30代と見られる女性がトレイにひき肉のパイとケーキの切れ端を載せて持ってきてSherlockに勧めたが、彼は丁重に断った。
SH: 僕は結構、Sarah。(※SarahはS1に出てきた、Johnの彼女)
彼女の表情は暗くなった。Johnは急いで彼女の元へ行き腕を回して彼女を振り向かせた。
JW: ああ、違う、違う、違う、違う、違うんだ。彼は名前が覚えるのが苦手で。
SH: いや、いや、いや、僕はわかるぞ。
女性がトレイを置いて姿勢を正し、腕を組んでSherlockを見ると、彼は考え始めた。
SH: 違う、Sarahは医者だったな、それからほくろがあるのがいて、それから詮索好きなのがいて、それから…退屈な教師の後は誰だったかな?
Jeanette: 知りません。
SH: Jeanetteだ!(愛想笑いをして)ああ、消去法の過程だよ。
Johnはきまり悪そうにJeanetteに離れるよう誘導した。新しい訪問者が来てSherlockはドアの方を見た。
SH: おや、まあ。
Molly Hooperがやってきた。照れ笑いをしながらプレゼントがいっぱいのバッグを二つ持っている。
MoH: どうも、みなさん。すみません、どうも。
Johnは微笑みながら彼女を歓迎しに行った。
MoH: あの、入っていいってドアにあったから。
みんなは彼女を楽しげに迎えた。Sherlockは目を回して皮肉混じりに言った。
SH: みんなが互いに挨拶を交わす、すばらしいね!
緊張した面持ちでSherlockに向けて微笑みながら、Mollyはコートとマフラーを取り始める。Johnはそれを受け取ろうとそばに立った。
JW: 僕が、え…すごいな!
Lestradeも同じく驚きながら彼女に見惚れた。Mollyは普段着ないような、とても魅力的でちょっとセクシーな黒いドレスを着ていたのだ。
GL: わお!
MoH: クリスマスの乾杯は、もう?
Sherlockは飽きてきたのかテーブルの前に座り始めた。
SH: まだまだ終わらないみたいだな。
Hudson夫人はまだ上機嫌のようだった。
MrsH: 一年の内で一日くらい二人ともわたしに良くしてくれなくちゃ、まさにそんな日ね!
もじもじしながら含み笑いをするMollyの視線は、Johnのラップトップを見ているSherlockに向けられていた。Johnは彼女へ椅子を運んだ。
JW: どうぞ座って。
SH: John?
JW: ん?
Sherlockが見ているものを見ようとJohnが歩み寄ると、LestradeはMollyの腕に触れて注意を引いた。
GL: Molly?(Mollyは彼の方を向いた)何を飲む?
Mollyが彼に応じているとJohnはSherlockの肩越しに画面を眺めた。
SH: 君のブログのカウンター、まだ1895だなんて言ってる。
JW: (ふざけて怒ったような顔で)ああ、だめだ!クリスマスは中止だな!
Sherlockが指したブログのサイドバーには、彼が鹿撃ち帽を被っている新聞の写真があった。
SH: それにあの帽子を被ってる写真を載せたな!
JW: みんなその帽子が好きなんだよ。
SH: そんなことはない。みんなって何だ?
Sherlockはパソコンを見続けていたが、Johnは離れた。MollyはHudson夫人の方を向いた。
MoH: 最近、腰はどうです?
MrsH: ああ、もう大変。心配してくれてありがとうね。
MoH: もっとひどい方もいますし、わたしが検死解剖をしますから。
ぎこちない沈黙が起こった。Mollyはきまり悪そうになった。
MoH: あ、いやだ、ごめんなさい。
SH: 冗談は止してくれ、Molly。
MoH: 違うの、ごめんなさい。
Lestradeは彼女に赤ワインのグラスを渡した。
MoH: どうも。あなたにお会いすると思いませんでした。クリスマスはドーセット(※イングランド南部の州)にいらっしゃるかと。
GL: 朝いちばんにね。僕と妻で-帰るんだ一緒に。万事うまくいってる。
彼はにこりと笑った。
SH: (ラップトップから目を離さず)いや、奥さんは体育教師と寝てる。
Lestradeの笑顔は固まった。MollyはJeanetteが座る肘掛け椅子に寄り添っているJohnの方を向いた。
MoH: それとJohn。妹さんに会いに行くって聞いたんですけど、本当?
JW: うん。
MoH: Sherlockが文句を。
Sherlockか憮然として眉を上げたのでMollyは訂正した。
MoH: …言ってなかった。
JW: 初めて妹は習慣を改めたんだ。酒を止めたって。
SH: 違うね。
JW: うるさい、Sherlock。
Sherlockはそれには構わず得意気に新しい話題を持ち出した。
SH: 新しい彼氏ができたみたいだな、Molly。そして彼に本気だ。
MoH: え、何?
SH: もっと言えば、君はこの特別な夜に彼に会っている、そして彼にプレゼントを。
JW: (静かに、だが怒りながら)今日は止めておけ。
GL: (テーブルからグラスを取りSherlockのそばに置きながら)黙って飲めよ。
SH: ああ、ほら。たしかに君はプレゼントをバッグの一番上に見せて-リボンで完璧にラッピングされてるよ。他のはそれなりなのに。
彼は立ち上がってMollyへ歩み寄り、他のプレゼントがそれほど心を込めた包装ではないことを示した。
SH: 特別な誰かのためだ、そう。
彼は意気揚々と、特別に包まれたプレゼントを取り上げた。
SH: 赤い色合いは君の口紅の色を反映している-無意識に連想したのか、わざと元気づけようとしたのか-両方だろう。どちらにしろMiss Hooperは恋をしている。彼女が彼に真剣なのは、プレゼントを渡すことから明らかだ。
Johnが心配そうにMollyの様子を窺うと彼女はSherlockの前で不安そうにモジモジしていた。Sherlockは構わず「得意の推理」を続ける。
SH: それは長い間の願いだった、どんなにみじめでも。そして彼女が今夜彼に会っていることは化粧と服装から明らかだ。
自己満足してJohnとJeanetteに笑みを向け、プレゼントに添えられているギフトカードを開き始めた。
SH: 明らかに口のサイズと心情を補おうとしている…
だがカードを開いてそこに書かれていることを見ると彼の声は次第に小さくなった。中には赤いインクでメッセージが書かれている。
Dearest Sherlock Love Molly xxx
Sherlockはショックを受けてその言葉を見つめ、恐ろしいことをしてしまったことに気付いた。Mollyは静かにあえぎながら言った。
MoH: いつもそうやってひどいことを言うわよね。毎回。いつも、いつも。
彼女が涙をこらえているとSherlockは立ち去ろうとした…が立ち止まって彼女のところへ戻った。
SH: 悪かった、許してくれ。
Johnは友人がそんな『人間らしい』リアクションをしたことに驚き、呆気に取られて顔を上げた。SherlockはMollyに歩み寄りそっとささやいた。
SH: Merry Christmas、Molly Hooper。
彼は前へ屈み、彼女の頬に優しくキスをした。それは甘く美しい瞬間だったが、直後にあの色っぽい吐息が鳴って台無しになった。Mollyは驚いてはっと息を呑む。
MoH: 違う!それは…わたしじゃ…
SH: いや、僕だ。
GL: なんだって、ほんとか?
MoH: え?
SH: 電話だ。
彼は上着のポケットを探り電話を取り出した。Johnはうっとうしいものを見るかのように目を細めた。
JW: 57?
SH: ん、何だ?
JW: 57通のメール-僕はその音を聞いたことがある。
Sherlockはメッセージを見た、それは簡潔だった。
「マントルピース」
SH: (マントルピースへ歩み寄りながら)数えていたとは恐ろしいな。
Sherlockは赤い血の色の紙と黒い縄のような紐でラッピングされた小さな箱を取り上げた。すぐに彼はIreneの口紅の色を思い出した、それはこの紙の色と同じだった。
SH: 失礼。
彼はキッチンの方へ去った。
JW: 何だ-どうしたんだ、Sherlock?
SH: (歩き続けながら)ちょっと失礼すると言ったんだ。
JW: (後ろから呼びかけながら)返信してたのか?
Johnを無視してSherlockは寝室へ入り、ベッドに座って箱を開けた。中にはIreneの電話があった。箱から取り出して間近に眺め、考え込みながら遠くを見つめた。
自宅-もしくは首相官邸か、ただの上等な雰囲気のオフィス-Mycroftは暖炉のそばに座っていた。電話が鳴ったので上着から取り出して発信者を見ると、「これは大変だ!」という表情になって、電話を耳に当てた。
MH: おお、どうした。クリスマスに電話で話をするつもりなんてなかっただろう?新しい法律でも出来たか?
SH: あんたは今夜Irene Adlerを見つけられる。
Johnは寝室の入口にやってきてそこで会話を聞いていた。
MH: 我々は既に彼女がどこにいるか知っている。お前が充分親切に指摘してくれたおかげで大した問題ではなかった。
SH: 違う、死んでいるのを発見するという意味だ。
突然通話を切り、彼は立ち上がって寝室のドアに向かった。
JW: だいじょうぶか?
SH: ああ。
彼はドアを締め、Johnを避けた。Mycroftは雪が降っている窓の外を見つめていた。
ST BARTHOLOMEW病院。SherlockとMycroftは遺体安置室に入っていった。Mollyが白衣を来て(下はもうドレスではない)、中で待っていた。三人の前のテーブルにはシートに包まれた遺体が横たわっている。
MH: 説明に合致するただひとつの遺体だ。運ばれてきた-お前の家のようなこの場所に。
SH: 君は来なくても良かったのに、Molly。
MoH: いいの。他の人は忙しくて…クリスマスで。
ぎこちなく眺めながらMollyは遺体に手を伸ばした。
MoH: 顔はちょっと、いくらかつぶれていて、だから難しいと思いますけど。
顔が見えるようにシートを剥ぐ。
MH: 彼女なんだろう?
SH: (Mollyに)他の部分も見せてくれ。
顔をしかめながらMollyはテーブルに沿って歩き、シートを引いていった。Sherlockは遺体の全体を見て、振り返って立ち去り出した。
SH: 彼女だ。
MH: ありがとう、Hooperさん。
MoH: 誰なんです?どうやってSherlockは彼女だってわかったんです…顔でなく?
Mycroftは慇懃に彼女に微笑んだ、そして向きを変えて弟についていった。
Mycroftは外の廊下で弟を見つけた。Sherlockは窓の外を眺めていた。そばに寄ると、煙草を取り出した。
MH: 一本だけ。
SH: なぜ?
MH: Merry Christmas。
Sherlockは煙草を取り、Mycroftはライターを出そうとコートのポケットを探った。
SH: 屋内での喫煙-禁じられてるんじゃないか…法律とやらで?
Mycroftは煙草に火を点けてやった。
MH: 遺体安置室にいるんだ。ダメージは大したことなかろう。
Sherlockは深く吸い込んで煙を吐き出した。
MH: どうやって彼女が死んだことを知ったんだ?
SH: 彼女は道具を持っていた、命がかかっていると言っていたものを。諦めることを選んだんだ。
彼は煙草をまた吸い込んだ。
MH: その道具は今どこに?
Sherlockはすすり泣く音を聞き、あたりを見渡した。廊下の端のドアの向こうに家族と思われる三人の人物が立っていて、互いに寄り添いながら親しい誰かの死を深く悲しんでいた。Sherlockと兄は振り返ってその家族を見つめる。
SH: 見ろよ。大いにいたわり合っている。僕らはおかしいかもしれないなんて考えたことは?
MH: すべての命は尽きる。すべての心は傷つけられる。(弟を見て)いたわりは強みではない、Sherlock。
Sherlockは大きく煙を吐き出し、うんざりして煙草を見た。
SH: これはタールが少ない。
MH: まあ、お前はほとんど彼女を知らなかったからな。
SH: ハ!
Sherlockは廊下を歩き去った。
SH: Merry Christmas、Mycroft。
MH: And a happy new year。
弟が廊下の端のドアから出ていくとMycroftは電話を取り出してスピードダイヤルを押した。相手はJohnだった。
MH: あいつは帰り道だ。何か見つけたか?
JW: いえ。煙草を受け取りましたか?
MH: ああ。
JW: くそ。(Hudson夫人の方を見た)帰ってくる。10分だ。
MrsH: 寝室には何もないわよ。
JW: (電話へ)あいつは何ともないようですがね。僕らは通常見る場所は探しましたよ。今夜が危ないってのはたしかなんですか?
MH: いや、だが私が間違ったことはないのだ。そばにいてやってくれ、John。
JW: 予定があるんです。
MH: だめだ。
冷たく言い放ち、Mycroftは通話を切った。
JW: Mycroft。M…
電話は切れていた。舌打ちをしてJohnはソファに座っているJeanetteの方へ行き、そばに座った。
JW: ほんとにごめん。
Jeanette: ねえ、わたしの友達はあなたについて誤解してるの。
JW: ん?
Jeanette: あなたはすばらしいボーイフレンドだって。
JW: うん、いいね、ほら、いつもそうありたいからさ。
Jeanette: そしてSherlockはすっごくラッキーな男。
Johnはうめき声をあげた。
JW: Jeanette、たのむよ。
Jeanette: (苦々しく靴を履きながら)いいえ、そういうこと。心が温まるわよね。あなたはあの人のために何でもしてあげる-そして彼はあなたのガールフレンドさえ容赦しない。
Jeanetteはソファを離れてドアへ向かった。Johnは飛び上がってコートを着る彼女についていく。
JW: 違う、僕は君のためになんでもするよ。何ができていないか言ってくれよ。言えって!
Jeanette: Sherlock Holmesとわたしを競わせないで。
JW: 犬を散歩させてあげるよ。ほら、言ってただろ。犬の散歩をしてあげるってば…
Jeanette: 犬なんて飼ってません!
JW: いや、それは…前の(彼女)だ。うん。
Jeanette: なんなの!
バッグを取り上げ、彼女は飛び出していった。
JW: 連絡するよ。
Jeanette: 結構よ!
JW: わかった。
彼女が階段を掛け降りていくと、Johnは憤慨して部屋に戻っていった。Hudson夫人が同情して彼を見た。
MrsH: 今のはちょっとまずかったんじゃない?
少し経って。Johnが彼の椅子に座って本を読んでいると、Sherlockが階段を昇ってきてリビングの入口で立ち止まった。Johnは彼の方を見る。
JW: ああ、やあ。
Sherlockはそこに立ってリビングをあてもなく見回していた。
JW: だいじょうぶか?
Sherlockはしばらく部屋をじろじろと眺めると、振り返ってキッチンのドアの方へ行き、寝室へ向かった。
SH: 今回は靴下の引き出しが荒らされてないといいな。
寝室の扉がバタンと閉じられた。Johnは本を置いて深くため息をついた。