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    BBC SHERLOCK

    日本語訳

    <非公式>

    サイト内は過去掲載分も含め、日々更新していますので

    こまめにリロード(再読み込み)をして最新の状態でご覧ください

    少し経ち、服を着たSherlockは再びJohnと並んでソファに座っていた。侍従と向かいのソファに座ったMycroftはティーポットからお茶を注いでいる。ひとりの人物だけがお茶を注ぎ、その人物は「mother(母)である」という王室の古い習慣に従って。Mycroftは侍従へ笑顔を向けた。

    MH: 私がmother(母)に。

    すかさずSherlockがあてつけがましく付け加えた。

    SH: つまり僕らはみんな子供ということだ。

    Mycroftは渋い顔をしてにらみながらティーポットを置いた。侍従は知らん振りをしているSherlockへ話をし始めた。

    侍従: 私の主人は問題を抱えています。

    MH: 案件は極めてデリケートな上に犯罪の性質を秘めていることが露見された。それから費やされたこの一時間で、親愛なる弟、君の名前が挙がった。

    Mycroftは愛想よく微笑みかけたが、Sherlockは表情を変えず警戒を続けた。

    SH: どうして?「頼りになる」警察はいるし、少しはシークレット・サービスも使えるだろう。なぜ僕のところに?

    侍従: 人々は助けを求めてあなたのところへやってくるのではありませんか、Holmesさん?

    SH: (ちょっと考えるフリをして)いや、今まで、海軍を従えてる奴はいなかった。

    MH: これは高度な安全保障の問題なんだ、そして信頼に関わる。

    JW: ご自分のシークレット・サービスを信用しないんですか?

    MH: するわけがない。奴らは金のために人々をスパイするんだ。

    MycroftとJohnは少し皮肉っぽい笑みを交わした。侍従は構わず話を進める。

    侍従: 我々は『予定表』を持っていますよね。

    MH: ああ、もちろん。うむ…

    Mycroftは咳払いをしながら傍らに置いてあったブリーフケースを取り出して開き、中から光沢のある紙に印刷されたIrene Adlerの写真を取り出してSherlockに渡した。

    MH: この女性について知ってるか?

    SH: 何ひとつ知らない。

    MH: それならより注意するべきだ。

     

    Mycroftは話し続けていたが、場面は宮殿からIreneの映像へ。彼女はロンドンへ向かう車に乗っている。電話がメールの受信を知らせたのでメッセージを見ると、『I’m sending you a treat(いいものを送る)』とあった。

     

    MH: 彼女は昨年二つの政治スキャンダルの中心にいた、そして最近は有名な作家の結婚生活を終わらせた、両方の関係者とそれぞれ関係を持つことによって。

    SH: 下らないことに関わる気がないのは知ってるだろう。何者なんだ?

    MH: Irene Adler、職業的に知られているのは「女」だ。

     

    ロンドンの優雅な構えの家に着くと、Ireneの女運転手は彼女のために車のドアを開け、家の中へと先導した。Ireneは電話で画像をダウンロードしながら、中へと進む。

     

    JW: 職業的に?

    MH: 彼女のやることには多くの名前があるのだ。「dominatrix(サド役の女性、女王様)」を好む。

    SH: (考え込みながら)dominatrixね。

    MH: そう恐れるな。Sexでのことだ。

    SH: Sexに恐れなどない。

    MH: どうしてわかる?

    Mycroftは嘲笑うかのように問いかけたが、Sherlockは何も答えることができなかった。

    MH: 彼女が提供するのは-我々から言わせてもらえば-娯楽的なお仕置きだ、そういったものを楽しんだり金を払う輩向けの。(ブリーフケースからさらに写真を取り出してSherlockに渡す)これらはすべて彼女のWebサイトからだ。

    Sherlockは写真を受け取りパラパラとめくった。それはIreneが行うサービスのプロ仕様の宣伝写真で、彼女を魅惑的でセクシーに見せていた。

     

    同じ頃、自宅の階段を昇りながらIreneは携帯電話を見ていた。Sherlockがシーツにくるまり221Bを出てPlummerの車に乗り込むところを誰かが写真に撮ったものが画面に表示されている。SherlockがIreneの写真とめくるのと同様にIreneもSherlockの写真を次々に眺め、うれしそうな表情を浮かべた。

     

    SH: そしてこのAdlerという女が名誉を傷つけるような写真を持っているんだな。

    侍従: さすが話が早いですな、Holmesさん。

    SH: 推測するのは然程難しくない。誰の写真なんだ?

    それを問われると侍従とMycroftは返答に困り、一瞬お互いの顔を見合わせた。

    侍従: 私の主人に重要な関わりのある御方です。これ以上申し上げることはできません。

    苛立ちながら侍従をにらんで、Sherlockは写真をテーブルに投げるように置いた。見かねてJohnが尋ねた。

    JW: 僕らには何も言えないと?

    Mycroftは少し考え込んで、重い口を開いた。

    MH: 若い人物だということは申し上げよう。

    Johnはお茶を飲んだ。更にMycroftは続ける。

    MH: 若い女性だ。

    Johnは目を見開いてカップを口から離し、Sherlockはニヤリと笑った。侍従は不安そうな表情を浮かべ、Mycroftはため息をついた。

    SH: 写真は何枚ある?

    MH: かなりの枚数らしい。

    SH: Miss Adlerとその若い女性は一緒に写真に写ってるのか?

    MH: ああ、そうだ。

    SH: そしてかなり名誉を傷つけるような状況なんだろうな。

    MH: 想定の範囲内だと確信している。

    SherlockはJohnの方を見ていなかったが、彼がティーカップを持ち上げたままMycroftをぽかんと見ているのがわかっていた。

    SH: John、君はカップを皿に置きたいんじゃないのか。

    Johnは言われるとあわててカップを皿に置いた。

    侍従: 力になっていただけますか、Holmesさん?

    SH: どういう?

    侍従: 事件を扱っていただけますか?

    SH: 何が事件だ?金を払えばいい、すぐ全額を。Miss Adlerはタイトルで述べている、『打たれる時を知れ』と。

    そう言うとSherlockは振り返ってソファの背もたれにあるコートを手にしようとしたが、Mycroftが更なる事情を打ち明けた。

    MH: 彼女は何も要求していないのだ。

    Sherlockは再びMycroftの方へ顔を向けた。

    MH: 彼女は接触してきて我々に写真の存在を知らせ、金や寵愛を強要する意図はないということを表明した。

    そこでようやくSherlockは興味を持ち始めた。

    SH: おお、パワープレイ。イギリスでもっとも力を持った一族とのパワープレイ。それこそdominatrixだ。ああ、これはおもしろくなってきたんじゃないか?

    またも不謹慎な態度を取り始めたSherlockをJohnは窘めた。

    JW: Sherlock…

    SH: ふん。

    そして彼は振り返って再びコートを手にしながら尋ねた。

    SH: 彼女はどこにいる?

    MH: ああ、今はロンドンに。彼女がいるのは…

    Mycroftが言い終えるのを待たずにSherlockはコートを持ち、さっさと立って歩き出した。

    SH: 詳細をメールで送ってくれ。その日の内に取り掛かる。

    他の三人もその場に立ち上がった。

    侍従: あなたは本当にそれで新しい知らせを得られると思っているんですか?

    SH: (彼の方へ振り返って)いや、写真を手に入れられると思っている。

    侍従: あなたが考えているようにうまくいけばいいのですが。

    Sherlockは疑われていることに不満を感じて、侍従を眺めて推理し始めた。

    愛犬家

    パブリックスクール

    馬乗り

    早起き

    ベッドの左側に寝る

    Sherlockの目は身体の上へ上っていき推理を続けた。

    非喫煙者

    父親はウェールズ人

    読書を好む

    お茶を飲む

    ひと通りの観察をすばやく終えるとSherlockはMycroftの方を見た。

    SH: 道具が要る、もちろん。

    MH: 必要なら何でも。私が送ろう…

    SH: (遮って)マッチを一箱もらえるか?

    それを聞いて侍従は少し驚いてSherlockを見た。Sherlockは話しながら彼を見ていた。

    侍従: なんです?

    SH: それかあなたのライター。どちらでもいい。

    そして受け取ろうと手を差し出したが、侍従はまだ理解できていなかった。

    侍従: 私は煙草を吸いません。

    SH: いや、あなたが吸わないのは知ってる、だが主人は吸う。

    Johnは当惑して顔をしかめたが、侍従は観念してポケットを探り、ライターを取り出してSherlockに渡した。

    侍従: 我々はこの些細な事実の闇から何としてでも多くの人々を守らねばなりません、Holmesさん。

    SH: 僕は(イギリス)連邦ではないので。

    そう言うとライターを受け取りズボンのポケットに入れて立ち去った。Johnは侍従へ詫びるように言った。

    JW: あれが精一杯控えめな態度なんです。お会いできて光栄でした。

    そして部屋を出るSherlockの後を追いかける。Sherlockは河口域英語(※)のアクセントで単語の中の「t」の音を出さずに陽気に言った。

    SH: またな(Laters)!

    Johnは立ち去り際にちょっと振り返って、謝罪の一瞥を肩越しに投げた。

     

    ※河口域英語

    …「1980年前後からイギリス・ロンドンとその周辺=テムズ川の(広義の)河口周辺で使われるようになった英語で、イギリス英語の一種」「イギリスでは、上流階級の英語として容認発音(Received Pronunciation, RP)が19世紀から広く使われている。一方、ロンドンの労働者階級の間ではコックニー(Cockney)と呼ばれる言語が使われてきた」「これらの言語の話者とはまた違った層の人々が、“自分たちの言語”として作り上げてきたのが河口域英語だといえる。以前はRPだけで放送を行っていたBBCでも、現在では河口域英語を含む多様な英語の話者を採用しており、また社会の名士と見なされる層の中にも、河口域英語の特徴を取り入れた表現を行う人も少なくない。例えば故ダイアナ元皇太子妃や前首相のトニー・ブレアの英語は河口域英語の特徴が多少あり、ザラ・フィリップス(第一王女であるアン王女の長女)の発音は河口域英語の影響が強い」-Wikipedia「河口域英語」より

     

     

    程なくして、彼らはタクシーにいた。

    JW: よし、煙草。どうしてわかった?

    Sherlockはちょっと微笑んで、わずかに頭を振った。

    SH: 君が嗅ぎつけた証拠は正しかったな、John。相変わらず見ているだけで観察になっていないが。

    JW: 観察だって?

    するとSherlockはコートの中を探った。

    SH: 灰皿。

    彼はガラスの灰皿を取り出した。Johnは喜んで笑った。Sherlockは灰皿を空中に投げて受け取ると、それをコートのポケットに押し込んでくすくす笑った。彼らはどちらも気づいていなかった-恐らく彼らの車に並行して走っている-彼らの写真を撮っている存在に。

     

     

    少し経って、写真はIreneの電話に送られていた。ベッドの端に座って彼女はそれを見て微笑み、部屋の外へ声を掛けた。

    IA: Kate!

    Kate、さっき彼女を車に乗せていた女性が部屋にやってきた。

    IA: お客様が来るの。準備にちょっと時間が要るわね。

    彼女はドレッサーへ向かい、Kateは床に脱ぎ捨ててあったストッキングを拾った。

    Kate: 何時間?

    IA: 年単位ね!

    その後、下着とストッキングの上に透けたネグリジェを着たIreneは大きなウォークインクローゼットのドアを開けて中に入った。クローゼットにはたくさんの衣装があり、それらを指で滑らせると何を着るか決めたようだった。

     

    221B、Johnはリビングで自分の椅子に座って本を読んでいた。Sherlockは寝室で次々と服を投げるようにして何かを探している。ドアが開いていると騒音で気が散るのでとうとうJohnは読んでいるものから顔を上げた。

    JW: 何をやってんだ?

    SH: 闘いに出掛けるんだ、John。ちょうどいい防護服が要る。

    視界に入ってきたSherlockは警官が着る大きな黄色い高視程の上着を着ていた。

    SH: 違うな。

    彼は慌ただしくまたそれを脱ぎ捨てた。

     

    Ireneの家、彼女は全身鏡の前で斜に構えて立ち、ダーク・パープルのきらめくカクテルドレスを身に付けた自分の姿を眺めていた。

    IA: はぁ。

    Kateはドアの柱に寄りかかってそれを見ていた。

    Kate: すてきよ。

    IA: あなたは何でも気に入るんだから。

     

    タクシー。SherlockとJohnは移動していた。Sherlockはいつものコートを着てマフラーをしている。

    JW: で、どんな計画なんだ?

    SH: 僕らは彼女の居所を知ってる。

    JW: え、ドアベルを鳴らすだけか?

    SH: そのとおり。

    彼は運転手に呼びかけた。

    SH: ここでいい。

    JW: 結局服装を変えなかったな。

    SH: それじゃ、ちょっと『色』を加えるか。

     

    Ireneの家、彼女は彼らが話していたことと同じく、自分に『色』を加えていた。明るいブルーのアイライン。Kateは注意深くIreneの目にアイシャドウを塗っていた。

     

    その近くでタクシーを降りたSherlockはJohnを細い路地に連れていった。マフラーを取りながら少し歩くとやがて彼は立ち止まり、振り返ってJohnへ顔を向ける。

    JW: ここか?

    SH: 通り二つ向こうだ。だがここでやる。

    JW: 何を?

    怪訝そうにしているJohnへ向かって、Sherlockは自分の左の頬を手で示すと奇妙な指示をした。

    SH: 僕の顔を殴れ。

     

    Kateは親指でIreneの口をなぞった、何の色を塗ろうか考えながら。

    Kate: 色合いは?

    Ireneは微笑んだ。

    IA: 血。

     

    Sherlockのわけのわからない指示にJohnは困惑していた。

    JW: 君を殴る?

    SH: そうだ、僕を殴れ、顔を。(再び左の頬を示して)聞いてなかったのか?

    JW: 僕はいつも君が話しているとき『僕の顔を殴れ』っていうのを聞いてるよ、でも普段は背後にあるもので。

    SH: ああ、まったくもう。

    Johnがモタモタしているのに苛立ったSherlockは自分からJohnの顔を殴った。するとJohnは殴打の衝撃によろめきながらうめき声を上げた。Sherlockはその後の反撃に備え、大きく息を吐いた。Johnは起き上がるとすぐにSherlockを殴り返した。どういうわけか、怒りにも関わらず-彼は左利きなのに-右手で殴ったので、Sherlockが指示した通り左の頬に当たった。

    JW: ああ!

    Sherlockが起き上がる間にJohnは痛そうに指を曲げて、関節を調べた。Sherlockはやっと起き上がって指を頬の切り傷に当てた。

    SH: ありがとう。それは-それは…

    Sherlockはもう満足していたが、闘志に火がついたJohnに腹を殴られて地面に倒れこんだ。

     

    Kateはゆっくりと赤い血の色をした口紅をIreneの唇に塗っていく。

     

    通りでは、屈み込んでいるSherlockの背後からJohnが覆い被さり、ほとんどSherlockの首を絞めているような状態だった。Johnの顔は鬱積した怒りと闘い足りない欲求不満により歪んでいた。Sherlockは半ば窒息させられながら彼の腕を引き離そうともがいていた。

    SH: もういい!もう終わったよ、John。

    JW: (野性的に)思い出せ、Sherlock。僕は兵士だった。人を殺したんだぞ。

    SH: 君は医者だろう!

    JW: 最悪な日々だったからな!

     

    KateはIreneの口紅を塗り終えた。

    Kate: 何を着るの?

    IA: わたしの勝負ドレス。

    Kate: あら!ラッキーな男ね!

    下の階でインターホンが鳴った。Kateは下の階へ行ってインターホンを操作し、カメラに映るドアの前の映像を見た。

    Kate: (インターホンへ)もしもし?

    そこではSherlockが目を見開いておどおどした様子でカメラを見つめていた。彼は不安そうに、涙声でしきりに背後を気にしながらカメラに近寄って話した。

    SH: ああ!あの、お邪魔してすみません。あの。私は襲われてしまって、あの、それで、あの、彼らに…彼らに財布とそれから、あの、それと電話を盗られてしまったみたいなんです。あのう、助けてもらえないでしょうか?

    Kateは笑いをこらえながら彼の話を聞いていた。

    Kate: もし良かったら警察へ連絡しますけど。

    SH: (涙ながらに)ありがとうございます。ありがとうございます!お願いできますか?

    さり気なく少し後ろへ下がったSherlockは一番上までボタンを留めた黒いシャツの襟の下に白いプラスチックを装着していて、その姿はまるで首輪式カラーを身につけている牧師のようだった。

    SH: ああ、あの…警察が来るまでここにいてもいいでしょうか?ありがとうございます、感謝します。

    ハンカチを頬にあて、哀れっぽくぐずりだした。Kateはニヤニヤしながら中に入るよう勧めた。SherlockはJohnを連れて中に入る。

    SH: (まだ演じながら)ありがとうございます。(大きな玄関ホールを見渡して)え、まあ!

    JW: (ドアを閉めながら)私は-私は一部始終を見ていました。ご心配なく、私は医者です。

    Kateはうなずいた。

    JW: さて、応急処置セットはありますか?

    Kate: キッチンに。

    彼女はSherlockへ居間で待つように身振りで合図した。

    Kate: どうぞ。

    SH: ああ!ありがとうございます!

    JW: どうも。

    Johnはキッチンへ行くKateについていった。

     

    ベルグレビアの醜聞 3

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    original transcripts by Ariane DeVere