場面は「大いなるゲーム」の後から始まる。薄暗いプール。

Sherlockは爆弾の仕掛けられたジャケットに銃を向け、Jimと対峙している。そこへ出し抜けにThe Bee Geesの“Stayin' Alive”が流れ出した。SherlockとJohnが混乱して周囲を見渡すと、Jimは突然の邪魔が入って心底うっとうしそうな顔をした。それは彼への電話だった。

JM: 電話に出てもいいかな?

Sherlockは屈託のない様子で応じる。

SH: はい、はい、どうぞ。君にも生活がある。

Jimはポケットから電話を取り出し、嫌々ながら話し始めた。

JM: もしもし?…ああ、もちろんそうだ。用件は何だ?

Jimは相手の話を聞きながらSherlockに顔を向けて声を出さずに詫びを言った。Sherlockも声を出さずにあてつけがましく鼻にシワを寄せて『ああ、いいよ』と返す。それでも銃は下ろされていない。Jimは再び電話の声に意識を向けたが、突然大声で叫んだ。

JM: もう一度言ってみろ!!!

プールにその声が響き渡り、SherlockとJohnは驚いて彼を見た。Jimは声を抑えたものの怒りに満ちた様子で話を続ける。

JM: もう一度言ってみろ、もし嘘をついてるなら、お前を見つけだして皮ごとひんむいてやる。

ただならないJimの様子にSherlockとJohnは困惑し、視線を交わした。Jimは通話相手に待つように言って電話を下ろし、Sherlockを見つめながらゆっくりと前へ歩み寄り、二人の間にある爆弾ジャケットを見下ろした。SherlockはJimが何をしようとしているかわからず緊張して銃を握り直す。するとJimは残念そうにSherlockへ切り出した。

JM: ごめん。今日はだめだ、死ねない。

SH: へぇ、良い誘いでもあったのか?

Jimは電話に目をやった。

JM: また連絡するよ、Sherlock。

彼は最初に入って来たプールの入口へ向かって歩き出した。そしてSherlockが銃で狙っているのを全く気にせずに再び電話で話し始めた。

JM: じゃあ、あんたが言う通りのものを持ってるんだったら、金持ちにしてやるよ。そうじゃなければ、酷い目に遭わせてやるからな。

その間も依然としてSherlockとJohnにはライフルの照準を表す赤いレーザーが当てられていたが、Jimが入口に着いて少し立ち止まり、電話を持っていない方の手を上げて指をパチンと鳴らすと、それは消えた。彼は前を向いたままだったので、一体どこに、誰に向けて“指示”をしたのかわからなかった。Jimが出ていき視界から消えるとSherlockはあたりを見回したが、スナイパーからの攻撃はないようだった。Johnは安堵し、ため息をついた。

JW: 何が起こったんだ?

SH: 誰かがあいつの気を変えたんだ。…問題は『誰が?』

 

 

どこかの家で女が携帯電話の通話を切った。赤いマニキュアをして、透き通るレースのローブの下に黒の下着を身につけている。寝室へ入っていきながら手にしていた鞭を柱に激しく打ち当てた。

女: さてと。いい子にしてたかしら、殿下?

寝室のベッドには別の若い女が横たわっていて、裸の脚が見えた。

若い女の声: ええ、Miss Adler。

 

 

---------オープニング----------

 

 

ベイカーストリート221B。5月30日。Johnはリビングでパソコンに向かっていた。Sherlockは同じテーブルの向かい側に立ち、新聞を見ながらマグで何か飲んでいる。シャツとズボンの上に赤いガウンを纏っていた。

『Life goes on(人生は続く※)

最近の出来事を少しまとめておこう。僕達が関わった二、三の小さな事件について話そうかな。Tilly Briggsの楽しい船旅で実際に起こったことは何だったのか。それは本当に奇妙な事件で、ラップトップが溶けたり、Sherlockはバスを盗んだり。

ただのありふれた一週間をベイカーストリート221Bで!』

Sherlockは新聞から目を離さずに話しかけた。

SH: 何を書き込んでるんだ?

Johnもパソコンの画面から目を離さずに返事をする。

JW: ブログ。

SH: 何の?

JW: 僕達の。

SH: 僕のことだろう。

JW: なんで?

SH: (咳払いをして)だって、たくさん書き込んでる。

そこでドアベルが鳴り、Sherlockはマグを置いてドアに向かった。

SH: さて、と。何が引っかかったかな?

 

※Johnのブログ…5月30日: 人生は続く

 

 

多くの人がSherlockに様々な相談を持ち込んでいた。Johnも一緒に依頼人たちの話を聞いている。まずは中年の気の弱そうな男。

男: 妻は長時間オフィスで過ごしているようなんです。

SH: つまらん。

次は太った中年女性。

女: 夫は浮気してると思うんです。

SH: そうだね。

ちょっと気味の悪い感じの男が骨壷を抱えながら訴えた。

男: あの人は本当の叔母ではないんです。すり替えられたんです-私はかつての叔母も、人間の遺灰がどんなものかも知ってるんです。

SH: (ドアを指し示し)お帰りを。

ビジネスマン風の男、後ろに二人の部下を従えて。

男: このファイルを復旧していただけるのであれば多くのお礼をする用意ができています。

SH: 興味なし。

オタク風の若い男、三人組。

男: このサイトを運営してるんだ。漫画の本当の意味を解説してる、みんなテーマを見失ってるからね。

Sherlockは既に興味を失い、その場を離れようとした。しかしめげずに青年は話を続けた。

男: でも漫画がみんな現実になり始めた。

Sherlockは戻ってきて言った。

SH: へえ、おもしろいね。

 

 

その後、Johnは肘掛け椅子に座って膝にパソコンを載せ、再びブログの更新をしていた。タイトルは“The Geek Interpreter”。Sherlockは背後から覗き込んだ。

SH: 「オタクの通訳」。何だそれは?

JW: タイトルだよ。

SH: どうしてタイトルが要るんだ?

Johnはただ微笑むだけで答えず、Sherlockは起き直ってその場を離れた。

 

※Johnのブログ…6月16日: オタクの代弁者

 

 

そして彼らはBarts病院の死体安置室にやってきていた。Sherlockはルーペを使って、台に横たわる金髪の女性の遺体を確認していた。身体には無数の赤い斑点がある。向かい側に立つJohnも一緒に覗き込んでいた。Lestrade警部が後ろでその様子を見ている。遺体を確認しながら二人は会話をし始めた。

SH: ほんとにみんな君のブログを見てるのかな?

JW: 依頼がどこから来ると思ってるんだい?

SH: 僕のサイトがある。

JW: 240種類の煙草の灰の違いを列挙したやつだろ。誰も見てないよ。(※)

それを聞いてSherlockは起き上がり、少し口を尖らせて不服そうにJohnをにらんだが、Johnは構わず遺体を調べ続けた。

JW: よし、さて、死んだ金髪の女、斑点がある以外には明らかな死因がないな、これが何であるにしろ。

彼は女の遺体の小さな赤い点を指したが、Sherlockはさっさと部屋を出て行ってしまった。

 

※240種類の煙草の灰の違いを列挙…詳細は「SherlockのWebサイト」で。

 

 

それから家に戻り、Johnはまたブログを更新していた。Sherlockは新聞を片手にパイか何かを頬張りながらやってきて、それを見ると文句をつけた。

SH: おい、勘弁してくれよ!「The Speckled Blonde(斑点のあるブロンド)」?!

Johnは口をすぼめて手を止めたが、Sherlockはそのまま行ってしまった。

 

※Johnのブログ…6月13日: 斑点のあるブロンド

 

 

今度は二人の少女がSherlockのもとを訪れ、ダイニングチェアに並んで座っていた。

少女: おじいちゃんが死んだときに会わせてくれなかったの。天国に行ったってこと?

SH: 本当は人は死ぬときに天国へは行かないんだ。特別な部屋へ連れていかれ、焼かれるんだよ。

少女たちはがっかりして顔を見合わせた。

JW: Sherlock…

 

 

SherlockとJohnはLestradeに連れられて空き地を歩いていた。

GL: 昨日デュッセルドルフで飛行機事故があった。全員死亡だ。 

SH: テロの疑い。僕らもニュースで見た。

JW: 『つまらない』って言って(チャンネルを)変えたじゃないか。

そしてLestradeは空き地に駐められているトランクが開けられたままの車に二人を案内した。そこには遺体が載せられていた。Lestradeは透明なビニール袋に入れられたいくつかの遺留品を見せながら話を続け、その間にSherlockは車の後部を確認していた。

GL: フライトを詳細に調べた結果、この男が搭乗した記録があった。コートの中には飛行機チケットの半券、航空会社の紙ナプキン、それにあのおなじみのビスケットも。これがベルリン空港のスタンプが押されたパスポート。つまりこの男は昨日ドイツにいて飛行機事故で死ぬはずだったが、その代わりにサザーク(※)の車のトランクにいるというわけだ。

JW: Lucky Escape(!)(※幸運な回避)

二人が話している間、Sherlockはルーペを取り出し、車へ屈み込んでトランクから半ばはみ出した遺体の手を見ていた。

GL: 何かわかったか?

SH: 八つ、今のところ。

彼は起き上がり遺体を眺めたが、少し顔をしかめた。

SH: いいだろう、四つだな。

それからLestradeが持っているパスポートと搭乗券の半券を確認した。John Coniston、Flyaway Airways。Sherlockは少し困った様子で空を見上げた。

SH: 二つかもしれない。

飛行機が上を飛んで行き、彼らは空を見上げた。

 

※サザーク

…ロンドンの自治区でテムズ川の南岸地域

 

 

221B。Sherlockは何かの実験中らしく、厚手の防御手袋をして顔には防御メガネを掛け、右手にはガスバーナー、左手には緑色の液体が入ったフラスコを持っていた。リビングではJohnがブログを書いている。

『Sherlock Holmes Baffled(困惑するSherlock Holmes※)

サリー州の空き地で45歳の男性の遺体が車から発見された。

僕はこんな日が来ようとは夢にも思わなかった。Sherlockが困ってるんだ!

手がかりを得られなかった!立ち往生だ!惑わされてる!彼は行き詰まってる。…』

するとそれを見ていたSherlockは怒り出した。

SH: だめ、だめ、だめ、解決してないことを話題にするなよ。

それに負けずJohnは言い返した。

JW: みんな君が人間だって知りたがってるんだ。

SH: どうして?

JW: だってみんな興味を持ってるよ。

SH: いやそんなことない。どうして?

Johnはうれしそうにブログのトップページにある、閲覧数を示すカウンターを見せる。Sherlockは防御メガネを外し覗き込んだ。

JW: ほら、1895(※)だ。

SH: ん、何だ?。

JW: 昨日の夜にカウンターをリセットしたんだ。このブログは最近八時間の間に2000近くもヒットしてる。これが君の生き様なんだ、Sherlock。…240種類の煙草の灰の違いじゃないよ。

SH: 243だ。

Sherlockは不機嫌になって、ガスバーナーを点火させるとまた作業へ戻っていった。

 

※Johnのブログ…8月1日: 困惑するSherlock Holmes

 

※1895

…原作のホームズが最も活躍していたとされているのは1895年頃…その他については後述。

 

 

劇場の事件現場。SherlockとJohnは舞台を横切っていった。周りでは警察官たちが歩き回っている。

SH: で、今回は何だ?『腹ボタン殺人(The belly button murders)』?

JW: 『へそ治療(The Navel Treatment)』かな? (※)

SH: うへぇ。

二人は裏へ入っていき、外への出口へ向かう途中でLestradeと一緒になった。

GL: 外には記者がいっぱいだよ、お二人さん。

SH: 僕らに興味があるわけじゃないだろう。

GL: ああ、君がネットで広まる前はね。奴らは特に二人の写真を欲しがってるぞ。

Johnのブログが評判になっているらしい。SherlockはJohnをにらみつけた。

SH: いい加減にしてくれよ!

Johnは苦笑いするだけで何も答えなかった。通路の途中でSherlockは衣装部屋を見つけて中に入る。

SH: John。

Sherlockはラックから帽子を掴みJohnに投げた。

SH: 顔を覆って早く歩け。

GL: でもウケがいいんじゃないか、こういう大きな事件はさ。

SH: 僕は私立探偵なんだ、ウケなんてどうでもいい。

そして彼は自分も衣装部屋から取った帽子-それは鹿撃ち帽だった-を目深にかぶりコートの襟を立てて外へ出た。そこにはカメラマンが待ち構えていて彼とJohnの写真を撮り、それは様々な新聞に使われた

『Hat-man and Robin(※Batman & Robinのパロディ): The web detectives(web探偵)』

『Sherlockネット探偵』『SherlockとJohn:ブロガー探偵』『Sherlock Holmes: ネットで話題』。

 

※へそ治療(The Naval Treatment)

…原作にThe Naval Treaty(海軍条約文書)という事件がある。

 

 

新聞に載ったSherlockの写真を、赤いマニキュアをした手が撫で回す。その手は鞭をしならせた後で新聞の上に置いた。新聞は鏡台の上に置かれてあり、鏡には黒い下着の上に透けるローブを纏った女が映っている。彼女は携帯電話でどこかへ掛け、色っぽい声で話し始めた。

女: もしもし。時期がきたようね、どう?

ベルグレビアの醜聞 1