朝。Hickmanギャラリー。Sherlockはフェルメールの絵の前に立ち、携帯電話で情報を見ている。調べている項目は「フェルメール 筆遣い」「顔料 分析」「キャンバス 劣化」「紫外線 ダメージ」「Delft(※オランダの都市、フェルメールの出身地) 地平線 1600」「フェルメール 影響」などだった。John、LestradeそしてWenceslas女史が背後で様子を窺っている。

SH: 贋作だ。そのはずなんだ。

Wenceslas女史: その絵は科学的とされる、あらゆるテストにかけられたのよ。

SH: では非常に良くできた贋作なんだろう。

Sherlockはスピンするように振り向いて女史を見る。

SH: あんたは知ってるんだよな?これはあんたなんだろ?

Wenceslas女史は苛立ちながらLestradeに告げた。

Wenceslas女史: 刑事さん、時間の無駄よ。お知り合いに出て行ってもらうようにしてくださる?

すると出し抜けにピンクのiPhoneが鳴り出した。Sherlockはすぐにポケットから取り出して電話のスピーカーをオンにした。

SH: 絵は贋作だ。

電話の向こうからは弱々しい息遣いが聞こえるのみで他の反応は無い。

SH: 偽物だ。だからWoodbridgeとCairnsは殺されたんだ。

やはり息遣い以外には何も反応が無い。

SH: おい、頼むよ。後は詳細を検証するだけなんだ。絵は贋作。解決した。謎は解いた。偽物だ!それが答えだ。だから彼らは殺された。

電話の向こうで沈黙が続く間、Sherlockは自らを落ち着かせるために深呼吸した。

SH: わかった。証明してやる。時間をくれ。時間をくれるよな?

少し間を置いて非常に幼い少年の震える声が電話の向こうから聞こえてきた。

少年: 「10…」

Sherlockはすぐに振り返って絵を間近に眺めた。

GL: (ショックを受けて)子供だ。おい、なんてこった、子供だぞ!

JW: 何て言ったんだ?

SH: 『10』。

少年: 「9…」

SH: (目を凝らして絵の隅々を見ながら)カウントダウンだ。時間を与えてくれている。

GL: 何だと!

SH: 絵は贋作だ、だがどうすればそれを証明できる?どうすれば?どうやって?

少年: 「8…」

SH: (振り返ってWenceslas女史をにらみつけ)この子が死んでしまう。どうして絵が贋作なのか言え。言うんだ!

Wenceslas女史は怯んで口を開きかけたが、Sherlockはすぐに手を掲げてそれを制した。

少年: 「7…」

SH: だめだ、黙ってろ。何も言うんじゃない。僕が解かなかれば受け入れられない。

そう言って再び絵の方へ振り返った。緊迫した状況に耐えられず、Johnは振り返って少し離れた場所へ歩いていった。Lestradeは自分もついていきたそうに彼の様子を見ている。

SH: (絵を観察しながら自分自身へ)あるはずだ。目の前にあるはずなんだ。

少年: 「6…」

JW: (切迫した様子で振り返り)頼むよ。

SH: Woodbridgeにはわかった、どうしてだ?

少年: 「5…」

GL: スピードが上がってる!

JW: (追い詰められた様子で)Sherlock。

不意にSherlockは絵の中の夜空に浮かぶ三つの小さな点に視線を注いだ。ようやく何かを発見して思わず口を開く。

SH: ああ!

少年: 「4…」

SH: プラネタリウムで!君も聞いただろ。ああ、あれは見事だ!あれはすばらしい!

そう言うとSherlockはピンクのiPhoneを無理矢理Johnに手渡して絵から離れていき、ニヤニヤしながら自分の電話をポケットから取り出した。

少年: 「3…」

JW: 見事って何が?何がだよ?

Sherlockはすばやく“Astronomers(※天文学者)” “Supernovas(※超新星)”と電話に入力し、振り返って喜びのあまり笑いながら他の者たちへ歩み寄ってきた。

SH: これはすばらしい。気に入ったよ!

少年: 「2…」

GL: (激昂して)Sherlock!

SherlockはJohnの手からピンクのiPhoneを掴み取り、それに向かって叫んだ。

SH: The Van Buren Supernova!

一瞬の間を置いて、悲しげな少年の声が電話から聞こえた。

少年: お願い。誰かいるの?

Sherlockは安堵の溜め息をこぼした。

SH: (Lestradeに電話を手渡しながら)君の番だ。どこにいるか探して助けてやってくれ。

そしてSherlockはしばらくJohnを見つめた後で、絵の夜空に描かれた点のひとつを指差した。

SH: The Van Buren Supernovaと呼ばれている。(肩越しにWenceslas女史にも画面が見えるよう自分の電話を掲げ)星の爆発現象、空に現れたのは1858年なんだ(※)。

Wenceslas女史に勝ち誇った顔を見せてその場を離れていった。Johnも安堵の息を漏らし、絵に歩み寄る。

JW: じゃあどうやってこの絵は1640年代に描かれたんだろうね?

JohnもニヤリとしながらWenceslas女史を見やって再び絵に視線を向けた。そこでJohnの電話にメールが届いた。

JW: ああ。

まだ少し呼吸を乱しながら自分の電話を取り出してメッセージを確認する。

My patience is 

wearing thin.

Mycroft Holmes

[堪忍袋の 緒が切れそうだ。Mycroft Holmes]

Johnは不満そうに小さくうなり声を出し、もう一度だけ絵を眺めた。

JW: おい、Sherl…

電話のスイッチを切ってJohnはSherlockの後を追いかけていった。Wenceslas女史はショックに陥りながら絵を見つめていた。

 

※The Van Buren Supernova

…「超新星(ちょうしんせい、英: supernova)は、大質量の恒星が、その一生を終えるときに起こす大規模な爆発現象である」「超新星そのものは、古くは2世紀に中国で記録されており、ティコ・ブラーエやヨハネス・ケプラーも観測記録を残しているが(本稿末尾参照)、実態が知られるようになったのは19世紀後半になってからである。「超新星」という名称は新星(ラテン語の nova の訳語)に由来する。新星とは、夜空に明るい星が突如輝き出し、まるで星が新しく生まれたように見えるもので(詳細は「新星」の項を参照)、ルネサンス期には既に認識されていたが、1885年、アンドロメダ銀河中にそれまで知られていた新星よりはるかに明るく輝く星が現われ、新星を超える天体の存在が確認されたため、supernova (「超」新星)の語が生まれた」-Wikipedia「超新星」より

このドラマで登場する『1858年のThe Van Buren Supernova』はフィクション。実在する(現在の)天文学者、David Van Burenから名前を取ったと思われる。

 

 

スコットランド・ヤード。自分の席に座っているLestrade、その机の向かい側にSherlockとWenceslas女史が並んで腰を掛けていた。Sherlockは祈るように両手を顎の下で合わせている。

SH: 興味深いよな。ボヘミア製の文房具、プラハの言い伝えから名前を取った殺し屋、そしてあなた、Wenceslasさん。事件全体が明白にチェコの関係を匂わせている。これを引き起こしたのはそれか?

Wenceslas女史はうつむいて何も答えなかった。

SH: 僕らが向き合っているものは、警部?

GL: (考え込みながら)ええ、うむ、犯罪の陰謀、詐欺、事後従犯だな、少なくとも。あの婆さんやアパートにいた人たちの殺害…

Wenceslas女史: (パニックに陥ってLestradeに)わたしは何も知らなかったのよ!みんな知らなかった!お願いだから信じて。

Wenceslas女史がLestradeを見つめている間、Sherlockは警部へ向かって小さくうなずいて見せ、彼女が真実を話していることを裏付けた。

Wenceslas女史: 自分の取り分が欲しかっただけなの-3000万。

Sherlockを見やってWenceslas女史は溜め息をつき、再びうつむいた。

Wenceslas女史: アルゼンチンである年老いた男を見つけたの。天才よ。その、本当に完璧な筆遣いで、誰でも騙される。

SH: (皮肉を込めて)ふーん!

Wenceslas女史: (Sherlockを一瞥して)まあ、騙されるような、ね。(Lestradeの方へ向き直って)でもわからなかったの、あの絵を本物だと言ってどうやって世界を欺くか。ただの思いつきだった-それをあの人が燃え上がらせたのよ。

SH: (すばやく)誰が?

Wenceslas女史: (首を振り)知らない。

Lestradeは信じられない様子で笑い出した。

Wenceslas女史: 本当よ!その、時間が掛かったけど、ようやく接触することができて…あの人の関係者に。

Sherlockはより集中した顔付きになり始め、ゆっくりと起き上がった。

Wenceslas女史: まあ、実際の繋がりはなかったけれど、ただのメッセージで…『ささやき』を。

SH: それでその『ささやき』をした人物に名前は?

Wenceslas女史は前方をしばらく見つめた後、Lestradeへ向かってうなずいた。そしてSherlockへ告げる。

Wenceslas女史: Moriarty。

Sherlockはゆっくりと椅子に沈み込み、Wenceslas女史が不安気にLestradeを見やっている中、深く考え込みながら遠くを見つめた。そして再び両手を口の前で祈るように合わせて笑みを浮かべた。

 

 

バタシー。Johnは上着の上に高射程のジャケットを羽織り、Andrew Westの遺体を発見した鉄道の警備員と共に線路沿いを歩いていた。

JW: ではここでWestを見つけたんですね?

警備員: ええ。

JW: なるほどね。

警備員: 長くなりそうですかね?

JW: 恐らくは。

警備員: 警察の方なんですよね?

JW: まあそんなところです。

警備員: あいつら大嫌いだ。

JW: 警察が?

警備員: いえ、飛び込む奴らですよ。電車の前に身投げする人間。自分のことしか考えてない。

JW: まあ、そういう見方もありますけどね。

そう言いながらJohnは屈み込んで線路の様子を眺めた。

警備員: だってね。そいつらはいいでしょうよ。一瞬で終わりですもんね-線路に飛び散る『イチゴのジャム』ですよ。じゃあ運転手はどうなるんです、ええ?そんなのと一緒にやっていかなきゃならないんですよ?

Johnは線路を指でなぞって、その指を眺めた。

JW: ええ、その『イチゴのジャム』ですがね、線路に血は見当たらないですね。(立ち上がって)もう掃除を済ませたんですか?

警備員: いえ、そんなに無かったもんですから。

JW: でも頭が潰れてたと言ってましたよね。

警備員: うーん、そうでしたけど、でもそんなに血は付いてなかったんです。

JW: そうですか。

Johnは振り返り、考え込みながら線路を眺めた。

警備員: では、私は失礼させてもらいますよ。

少し離れたところへ歩いていったJohnは再び屈み込んだ。

警備員: お帰りになるときに声を掛けてくださいよ。

JW: わかりました。

警備員はその場を離れていった。Johnは立ち上がり、自らに話しかける。

JW: よし、そうか、えーと、Andrew Westはどこかで電車に乗った-そうかな?遺体に切符は無かった。じゃあどうやってここで終わりを迎えた?

背後でポイントの変更が行われ、線路のひとつがスライドして新しい配置になった。Johnは再び屈み込んで考え込みながら線路を眺めている。

SH: (Johnの背後から)ポイント。

JW: それだ!

Johnが飛び上がって振り返ると、すぐ後ろにSherlockが立っていた。

SH: 君もやがてそこに到達することはわかっていたよ。Westはここで殺されたのではない、だから少ししか血が残っていなかった。

JW: いつから後を尾けてたんだ?

SH: 始めから。君だって僕が兄に嫌がらせをするために事件を諦めるなんて思いやしないだろ?

そう言うとSherlockは振り返って先に歩き出した。

SH: 行くぞ。ちょっと不法侵入をしないとな。

 

 

しばらくして二人はある通りを歩いていた。

SH: ミサイル防衛計画は国外に渡っていない、そうであればMycroftのところの人間が耳にしているはず。人がどう思うかは別として、やはりシークレット・サービスもいるんだからな。

JW: そうだな、知ってる。会ったことあるよ。

SH: ということは誰にせよ、盗んだ奴はメモリースティックを売ることができないでいる、もしくはどう扱うべきか知らないということだ。僕は後者に賭けるね。よし、ここだ。

JW: どこだ?

Sherlockは一軒のアパートへ通じる道へ入っていき、速足で建物の脇にある階段を上がっていった。それは二階にある21Aという部屋の玄関ドアに繋がっている。ポケットを探るSherlockにJohnは小声で慌てて注意した。

JW: Sherlock!中に誰かいるかもしれないぞ?

SH: いないよ。

Sherlockは鍵を開けてしまい、中に入っていった。

JW: (小声で)まったくもう!

Johnは仕方なく急いで中に入りドアを閉めた。Sherlockは中の短い階段を速足で上がり、リビングへ入っていく。

JW: ここはどこなんだ?

SH: ああ、すまない、言ってなかったか?Joe Harrisonの部屋だ。

JW: Joe…?

Sherlockはまっすぐに窓へ歩み寄りレースのカーテンを引き開けた。窓の外に見える景色を見て満足そうに笑みを浮かべる。

SH: Westのフィアンセの兄だ。

窓の外には一階部分の延長が見え、その屋根には窓から容易に上がれそうだった。延長部分は庭に囲まれていて、庭の端にある壁の反対側には線路が走っている。

SH: そいつがメモリースティックを盗み、将来の義理の弟を殺害した。

Sherlockはひざまずきながら拡大鏡を取り出し、ゆっくりと窓枠に沿って観察した。Johnが歩み寄って肩越しに見てみると、窓枠の塗装にいくつかの小さな血痕が残されていた。

JW: で、なぜそんなことを?

すると誰かが玄関のドアの鍵を開ける音が聞こえ、Johnは起き上がって振り返った。Sherlockも立ち上がる。

SH: 本人に訊いてみよう。

Johnがそっとリビングのドアへ向かうと玄関のドアが閉じる音がした。階段へ出ると、ちょうどメッセンジャーの格好をしたJoeが自転車を壁に立てかけているところだった。そしてJohnを見ると武器の代わりかもしくは投げつけるかのように自転車を持ち上げた。Johnはすぐに右手でピストルを持って彼に狙いを定める。

JW: (しっかりとした口調で)やめろ。

それでもJoeは前に出ようとするのでJohnは首を振った。

JW: やめるんだ。

Joeは自転車を下ろし、怒りと怖れの入り混じった溜め息を漏らした。

 

 

しばらくしてJoeは立っている二人を前にしてソファに座らされていた。非常に困窮した様子でいる。

Joe: こんなことになるはずじゃ…

Sherlockは苛立って顔を背けた。

Joe: どうしよう。(顔を手に埋め)Lucyは何て言うだろう?ああ。

Joeはソファに沈み込んだ。

JW: 何故彼を殺した?

Joe: あれは事故だった。

Sherlockはフンと鼻を鳴らした。

Joe: 誓って、そうなんだって。

SH: (厳しい口調で)だがミサイル防衛計画の設計書を盗んだのは事故じゃなかっただろう?

Joe: 麻薬の売人を始めて。ねえ、自転車ってのはいいカムフラージュだろ?わからない-どうやって始めたのか、深みにハマっちまって。何千も借金があって-ヤバイ奴らに。そしたらWestieが婚約パーティーで仕事の話をし出して。

-JoeとWestieがパブにいる。

Joe: その、あいつもいつもは慎重な奴なんだ、でもあの夜は何杯が呑んだ後でかなり開放的になってた。俺にミサイルの設計書のことを話して-トップシークレットをさ。メモリースティックをこう、俺の目の前で振って見せたよ。もしそれが失くなって最終的に悪い奴の手に渡ったら、とかそういうことを聞かされてさ。それがそこにあるんだよ、で、俺はつい…その、運が巡ってきたなんて思っちまって。

-Joeは酔い潰れてしまったWestieに上着を着せてやる時に彼のシャツのポケットからメモリースティックを抜き取った。

Joe: 取るのは割と簡単だった、あいつはすごい酔ってたからさ。でも次に会った時、俺の仕業だと気付いてるのがあいつの顔を見てわかった。

-夜、Westieが階段を駆け上がってきて部屋に入ろうとしているJoeを掴んだ。

Westie: お前がやったのはわかってる。

Joe: 何しに来たんだよ?

Westie: あれをどうした?

Joe: 一体何のことだよ?

Westie: 計画書をどうしたんだ?

Joeは罪に苛まれた様子でJohnを見上げた。

JW: 何が起きた?

-WestieとJoeが玄関の前で取っ組み合いをしている。Joeが怒りに任せてWestieを突き飛ばすと、彼はバランスを失って階段を転げ落ちて地面に激しく身体を打ち付けた。

Joe: 救急車を呼ぼうとしたけど、もう手遅れだった。

-Joeは苦悩に満ちた表情で動かなくなったWestieの身体をリビングに引きずり入れている。

Joe: どうすればいいかわからなくなって、とにかくここに引きずってきて、暗い部屋で座って考えてたんだ。

SH: そこでちょっとうまい思いつきが頭に閃いた。

-JoeがWestieを窓へ引きずっていくと、そばにある線路へ乗り入れてきた電車が音を立てて停まった。間もなくJoeはWestieを窓から引きずり下ろし、一階の延長部分の屋根へと運んでいった。壁の上にWestieを引っ張りあげ、Joeは電車の屋根の上に乗って遺体を引きずると、少しカーブしていて簡単に落ちそうにない部分へ載せた。Joeが作業を終えて壁の上に戻ると電車は警笛を鳴らして再び線路の上を走っていった。

SH: (レースのカーテンを引いて窓の外を見ながら)ここからAndrew Westは運ばれていった。遺体は線路がカーブして車体が傾くまでどこまでも運ばれていっただろう。

-電車はJohnが調査をしていた辺りに差し掛かった。ポイントを通過する際、線路のカーブと車体の揺れが作用してWestieの遺体は線路の脇へと落下した。

JW: ポイントもだな。

SH: その通り。

そして翌朝、鉄道の警備員が線路沿いを歩いている途中で遺体を発見した。

JW: で、まだ持ってるのか?そのメモリースティックを?

Joeはうなずいた。

SH: 持ってきてくれ-差し支えなければ。

惨めな様子で溜め息をこぼし、Joeは立ち上がって別の部屋へ向かっていった。SherlockはJohnへ歩み寄る。

SH: (小声で)気晴らしは終わった、ゲームは続く。

JW: まあ、それも終わりかもしれないけど。爆弾魔は何も連絡を寄越さない。

SH: 『五つの種』、憶えてるか、John?カウントダウンだ。まだ四つまでしか来ていない。

 

 

夜。221B。SherlockとJohnはまだ窓が修復されていないのでコートを着たまま部屋にいる。Sherlockは肘掛け椅子の上に脚を抱え込んで座り、寒さを紛らわすように身体を小さく丸めていた。ピンクのiPhoneは肘掛け部分に置かれている。Johnはダイニングテーブルに向かい、ラップトップへ何か入力している。テレビではワイドショーのような番組が放送されていた。テレビの中の観客が騒々しくブーイングをするとSherlockは憤然としてテレビに向かって叫んだ。

SH: いや、いや、いや!少年の父親じゃないに決まってる!(テレビに向かって手を差し出して)ジーンズの折り返し(turn-up)を見ろ!

Sherlockは溜め息をついて手を戻した。Johnはその様子を見ていたが再びラップトップへ顔を戻した。

JW: 危険だってのはわかってたよ。

SH: ふむ?

JW: 君をテレビに夢中にさせるなんて。

SH: ふん。Connie Princeほどじゃないさ。

JW: もうMycroftにメモリースティックを返したのか?

SH: ああ。大喜びだ。爵位を授けるとか言ってきたよ-また。(※)

JW: なあ、まだなのかい。

SH: ふむ?

JW: 僕が太陽系についてのちょっとした知識を与えたから君はあの絵が偽物だっていうことをより早く明らかにできたんじゃないか。

SH: それで君は何か良い仕事ができたか?

JW: いや、だって僕は『世界で唯一の顧問探偵(consulting detective)』ではないからね。

SH: (笑みを浮かべ)そうだな。

Johnはラップトップを閉じて立ち上がった。

JW: お茶の時間にはいないよ。Sarahのとこに行ってくる。冷蔵庫にリゾットがあるから。

SH: (テレビを観たまま)むむ!

Johnは出ていこうとしたがドアの辺りで立ち止まった。

JW: ああ、牛乳。牛乳を切らしてたんだった。

SH: 僕が買ってくるよ。

JW: (信じられない様子で振り返り)本当か?!

SH: 本当。

JW: じゃあ他に豆なんかも?

SH: (テレビから目を離さず)うーん。

Johnは驚きを隠せない様子で少し躊躇ったが、うなずいて部屋を後にした。テレビを観ていたSherlockは下の階でJohnの出て行く音が聞こえると、椅子のシートの上に押し込んでおいたノートパソコンを取り出した。腿の上に載せてそれを開くとThe Science of Deductionのメッセージ欄を見つめてから入力を始める。

Found. The Bruce-Partington plans. Please collect.

[見つけた。ブルース・パーティントン計画書。受け取れ。]

そこで少し視線を上げて考え込んだが、やがてわずかに笑みを浮かべて続きを入力した。

The Pool. Midnight.

[あのプールで。深夜0時。]

メッセージを送信してパソコンを閉じると、考え込みながら遠くを見つめた。

 

※爵位を断る

…原作「三人ガリデブ」などでHolmesがナイト爵位を断るという記述が見受けられる。

 

大いなるゲーム 9