大いなるゲーム 10

プール。Sherlockは屋内プールへと通じるドアを開けた。照明は点いているが他には誰も見当たらない。そこへ来るまでのどこかでコートを脱いだらしく、スーツのみの姿だった。屋内プールなので暖房が入っているのかもしれない。反対側へ向かってプールサイドをゆっくりと歩いていく。恐らく上の階にある観覧者向けエリアが闇に包まれた状態であることに気付いたのだろう-途中で立ち止まり、振り返って頭上の観覧席を見上げてみる。やがてプールの方へ向き直し、片手にメモリースティックを持って頭上に掲げた。

SH: (大声で)お前が正体を明かしてくれるプレゼントを持ってきた。なあ、みんなこれのためだったんだよな?あのちょっとした謎解き、僕に『ダンス』をさせる-僕の注意をこれから逸らすために。

Sherlockはメモリースティックを掲げながら、反応を待ってその場で小さな円を描いて回り始めた。その背中がプールに向けられたとき、部屋の中程でドアの開く音が聞こえた。メモリースティックを掲げたまま肩越しに音のした方へ視線を向ける。厚手のフード付きジャケットに身を包み、そのポケットに両手を突っ込んだ人物がドアから入ってくる-それはJohn Watsonだった。自分の方へ身体を向けたJohnをSherlockは只々驚きながら見つめていた。

JW: こんばんは。

信じられないほどの衝撃を受けたSherlockは掲げた腕をゆっくりと下ろしながらも、その場から動かずに肩越しにJohnを見ている。

JW: びっくり(turn-up)だろ、Sherlock?

SH: (ショック状態、小声で)John。どうして…?

JW: こうなるとは予想してなかっただろうね。

ようやくSherlockは身体を振り返らせ、Johnへ向かってゆっくりと歩み寄っていった。動揺を隠しきれない彼はまるで12歳の少年のようにも見える。そして絶望の眼差しをSherlockに向けたJohnはポケットから両手を出してジャケットを開いて見せた-胸の辺りに爆弾が縛り付けられている。するとどこからかスナイパーが彼を狙っている印にレーザーポイントの赤い光を彼の身体の上に走らせた。

JW: 「次は…彼に何て…言わせたら…いいかな?」

Sherlockは前に進み始めたが、今度はJohnだけでなく部屋の中に誰かいないか辺り全体を見渡していた。

JW: (間違いなくイヤピースからの音声を復唱して)「Gottle o’ geer ... gottle o’ geer ... gottle o’ geer(※)。」

最後の方でJohnは思わず声を詰まらせた。

SH: やめろ。

JW: (復唱して)「いいアイデアだね、このプール、Carlが死んだ場所。あいつの息の根を止めてやった。(次の言葉を聞くと、怯まないよう努めながら)John Watsonも同じようにしてやるよ。(胸元のレーザーポイントの光を見下ろして)心臓を止めてやる。」

SH: (旋回しながらそこら中を見渡して)お前は誰なんだ?

プールの遠く離れた向こう側でドアが開き、アイルランド訛りの柔らかな男性の声が聞こえてきた。

男: 番号を教えたじゃないか。

スーツを着た男の姿がわずかに見えるが、部屋の柱のせいではっきりと姿を捉えることができない。

男: (悲しげに)電話くれると思ったのにな。

Sherlockが新たに入ってきた男の方へ身体を向けると、彼は開けた場所にゆっくりと歩み出てきた。それはJim、Mollyのボーイフレンドだった。だが彼はもうBarts病院の研究室でSherlockに電話番号を渡した、カジュアルな格好をしたドジなロンドンっ子ではなかった-細身のスーツに身を包み、髪を整えて殺意を滲ませた表情を浮かべている。ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま何気ない様子でSherlockとJohnが立っているのと逆の端へ向かって歩いていく。再び話し出した彼の声からは物悲しさは消え失せていた。

JM: ポケットからイギリス軍のL9A1(※)を出すのかな…

Sherlockはズボンのポケットからピストルを取り出す。

JM: …それとも僕に会えて喜んでる?

SH: (ピストルをJimに向けて)両方だ。

Jimは立ち止まり、まったく怖がっていない様子でSherlockたちを見た。

JM: Jim Moriartyだよ。やあ!(※)

SherlockはJimの様子を確認し易くするために少し首を傾けた。JimはSherlockに自分のことを思い出させようとするかのように小芝居をする。

JM: 『Jim?病院にいたJim?』

そして再びプールの端へ向かって歩き出す。Sherlockはピストルを持った手を補助するためにもう片方の手を添えた。Jimはがっかりしたように唇を噛む。

JM: ああ。ほんとに一瞬でもそんな印象を与えられたかな?でもさ、それこそが、狙いだったんだろうね。

JimがSherlockに身体を向けるとスナイパーはレーザーの光をJohnの胸元にちらつかせた。Sherlockはわずかに疑問を持った表情を浮かべてJohnへ視線を向ける。

JM: (再び歩き出しながら)バカなことするなよ。誰かがライフルで狙ってる。僕は自分の手を汚すのは好きじゃないもんでね。

プールの角へ着くとJimは立ち止まった。

JM: 見せてあげただろ、Sherlock、広大な闇の世界で僕がどんなことに携わっているのかっていうことをほんの少しだけ、そう…

そこでJimはまるで自分だけがその符合に気付いたかのように驚いた振りをして見せた。

JM: …君みたいに!

SH: 『ねえJim。お願いがあるの、わたしの彼氏の鬱陶しい妹をどっかにやっちゃってくれない?』

Jimは再び歩き出し、Sherlockがあるテレビ番組を引用していることに気付いて笑みを浮かべた。(※)

SH: 『ねえJim。お願いがあるんだ、僕を南米に失踪させてくれないか?』

JM: (立ち止まって)そんな感じ。

SH: Consulting criminal(犯罪コンサルタント)。(小声で)すばらしい。

JM: (誇らしげに笑みを浮かべ)だろ?誰も僕には触れられない-永久に誰も。

SH: (ピストルの打鉄を起こし)僕がいる。

JM: 君が一番近づいたね。今僕の前にいる。

SH: ありがとう。

JM: 褒め言葉じゃないけどね。

SH: いや、そうだね。

JM: (肩をすくめ)ああ、わかったよ、そうだね。でもお遊びはそこまでだ、Sherlock…(高い声で歌い出し)『父さんは満腹だ!』

Jimはぶらぶらと歩き、二人に近寄ってくる。

JM: (普通の声に戻って)僕に何が出来るか見せてあげただろ。あいつらをみんな解放してやった、些細な問題みんな、3000万(ポンド)だって君を遊びに来させるためだったんだ。

心労が限界に近付き始めたJohnは少し目を閉じる。SherlockはJimから目を離してはならないと思いつつもJohnの様子を気にして何度か視線を走らせた。

JM: だからこれは僕の親切心からの忠告だと受け止めてほしいんだ、友よ。手を引け。

そこでJimは笑みを浮かべた。

JM: 僕も楽しませてもらったけどね-僕らのちょっとしたゲーム。(ロンドン訛りに切り替えて)IT担当のJim。(アイルランド訛りに戻して)ゲイのフリもしてさ。あのパンツのチラ見せ気に入ってくれた?

SH: 人が死んだんだぞ。

JM: 人は死ぬもんなんだよ!!!!

言葉の最後は叫び声となり、彼の雰囲気は一変した。

SH: (落ち着いて)僕が阻止する。

JM: (平静を取り戻し)いや、無理だね。

SherlockはJohnへ視線を向ける。

SH: だいじょうぶか?

Johnは故意にゆっくりと視線を逸らした。恐らくJimから話をしてはならないと言われていたのだろう。JimはJohnに歩み寄ってそばに立った。

JM: 話していいんだよ、“Johnny-boy”、さあどうぞ。

Jimの指示にそのまま従うことを拒否してJohnはSherlockの目を見つめてただ一度だけうなずいた。Sherlockはピストルから片手を離し、メモリースティックをJimへ差し出した。

SH: 取れよ。

JM: はあ?ああ!それは!

ニヤニヤしながらJohnのそばを通り、メモリースティックへ手を伸ばす。

JM: ミサイルの計画書だ!

JimはSherlockの手からメモリースティックを取ると口元に近づけてキスをした。その背後でJohnは聞き取れないくらいの小さな声でブツブツと独り言をつぶやき、意識を集中させ、行動を起こす準備をしている。Jimはメモリースティックを口元から離して眺めている。

JM: (歌うように)つまんない!(不満そうに首を振り) こんなのどこだって手に入るし。

そう言うとどうでも良さそうにメモリースティックをプールに投げ捨ててしまった。チャンスが来たと判断したJohnは前に飛び出すとJimの背後に覆いかぶさり片腕で首を絞め、もう片方の腕で胴体を圧迫した。Sherlockは驚いて一歩下がったが、ピストルでJimに狙いを定めるのを忘れなかった。

JW: Sherlock、逃げろ!

Jimは喜びながら笑い出した。

JM: すごい!すごく良いよ。

Sherlockはその場から動かずにJimの頭部をピストルで狙っていたが、どこかに隠れているであろうスナイパーがどんな行動を取るか不安に感じ始めているようだった。

JW: (荒々しく)お前のスナイパーが引き鉄を引けば、Moriartyさん、一緒にお終いってことだな。

JM: (落ち着いてSherlockに)健気な奴だな?どうして君がこいつとつるんでいるのか僕にはわかるよ。でもさ、人ってペットに対して憐れみの感情を抱くもんだからね。

怒りに顔を歪ませながらJohnはJimの身体をより強く引き寄せ、爆弾は二人の間に挟まれている状態となった。Jimはしかめっ面をしてJohnを見る。

JM: すごく忠実で感動的だからね。でも、あれれ!

ニヤリとしてJohnを見た後、Sherlockへ視線を向ける。

JM: 君の手の内はお見通しだよ、Watson先生。

そう言ってJimがクスクス笑うと新たに別のレーザーポイントの光がSherlockの額の真ん中辺りに現れた。期待していたかのようにJimは更なる恐怖に襲われたJohnを眺めている。観覧席からのレーザーの道筋が見えたのか、もしくはJohnの表情から察したのか、Sherlockはわずかに首を動かした。

JM: (歌うように)捕まえた!

クスクス笑うJimからJohnは腕を離して後ろに下がり、もう何もする意志がないことをスナイパーに対して示すかのように両手を掲げた。Jimはそれを一瞥して、腹を立てた様子でスーツを払いながらSherlockの方へ向き直した。

JM: Westwood!(※)

手を下ろし、依然としてピストルで自分の頭に狙いを定めているSherlockの前に落ち着き払って立っている。

JM: もし僕を放っておかなければどうなるかわかってるのかな、Sherlock、君はどう?

SH: (つまらなさそうに)ああ、予想するに、僕は殺される。

JM: 殺す?(眉をひそめて)いや、いや、そんなあからさまな。まあね、とにかくいつか君を殺すつもりだよ。でも焦りたくないんだ。特別なことのために取っておいてる。だめ、だめ、だめ、だめ、だめ。詮索をやめてくれないと、燃やしちゃうよ。

そう言うとJimはSherlockの身体をわずかに見下ろし、再び目を合わせるとより悪意のある声で告げた。

JM: 君の『ハート』を燃き尽くしてやる。

Jimは歯をむき出しにしてうなるように『ハート』という言葉を口にしたが、最後には名残惜しそうな表情を見せた。

SH: (穏やかに)確かな筋によれば僕はそれを持ちあわせていないそうだ。

JM: でもお互いそれが真実とは言いかねることをわかってる。

Sherlockは思わず瞬きをした。Jimは笑みを浮かべながらうつむき、顔を上げて肩をすくめる。

JM: さて、お暇した方が良さそうだな。

何気ない様子で辺りを見回し、帰りの道筋を確認してからSherlockへ顔を向ける。

JM: まあ、ちゃんとお話できて良かったよ。

Sherlockはピストルをより上に掲げ、Jimの頭へ近づける。

SH: もし今お前を撃とうとしているところだったら?-今すぐに。

JM: (まったく動じずに)そしたら僕の驚いた顔を拝めるんじゃないかな。

そう言うと目と口を大きく開いて驚いた顔をして見せ、Sherlockへ向かってニヤリとした。

JM: だって驚くだろうからね、Sherlock、ほんとにそうだよ。

鼻にシワを寄せて続ける。

JM: それからほんのちょっとだけがっかりするかな。だってもちろん君はそう長いこと拝めないだろうからね。

ゆっくりと身体を振り向かせる。

JM: “Ciao”、Sherlock Holmes。

いくらか憎悪を滲ませた顔でSherlockを見返しながらJimは静かに来た道を戻り、先程Johnが入ってきたプールサイドのドアへ向かっていく。Sherlockは視界から逃さないよう慎重に前に歩み出る。

SH: 後で…お前を…捕まえる。

ドアの開く音の後、Jimの高い音程で歌うような声が聞こえた。

JM: いいや無理だね!

ドアは閉じられた。Sherlockは数秒の間その場から動かずにドアの方向をピストルで狙い続けていたが、Johnへ視線を向けると直ちに屈み込んで床にピストルを置きながら彼の足元にひざまずき、爆弾が装着されているベストの縛りを解き始めた。

SH: だいじょうぶ?

Johnは重々しく呼吸をしながらのけぞった。

SH: (追い詰められた様子で)だいじょうぶか?

JW: あ、ああ、だいじょうぶ。

ベストの縛りを緩めながらSherlockは飛び上がるように立ち上がってJohnの背後に回り、ジャケットを脱がせながら一緒にベストを彼の身体から外そうとした。

JW: だいじょうぶだよ。

Sherlockも息を乱しながらジャケットとベストを脱がせようと奮闘している。

JW: Sherlock。

ようやくジャケットとベストがJohnの身体から引き離されていく。

JW: Sh-Sherlock!

Sherlockは屈み込み、ジャケットとベストを出来るだけ遠くへ向かって床すれすれに投げた。解放されたJohnは友人の方へよろめきながら歩み寄る。

JW: (小声で)なんてこった。

耳からイヤピースを外すと衝撃的な体験の恐怖が蘇ってきたJohnは再び呼吸が乱れた。Sherlockはしばしその様子を眺めた後で急いでピストルを手に取り、Jimが出ていったドアの方向へ駆け寄った。Johnは膝から崩れ落ち、そばにあった脱衣所の方へよろめいた。

JW: ああ、なんてことを。

身体の向きを少し変えて屈み込み、脱衣所の柱に寄り掛かって深呼吸しながら落ち着こうと努力している。Moriartyの気配を掴めなかったらしくSherlockはプールサイドへ戻ってきた。Johnのそばを落ち着かない様子で歩き回る彼は相当取り乱しているらしく、打鉄を起こしすぐ発砲できる状態になったままのピストルで頭を掻いていた。

JW: (息を切らしながら)だいじょうぶか?

SH: (歩くのをやめずピストルで頭を掻きながら矢継ぎ早に)僕?ああ、僕はだいじょうぶだ、だいじょうぶだよ、だいじょうぶ。

そして息を切らして目を見開きながらJohnの方を向く。

SH: さっきの、その…君がやった、ええ、君がしたこと、その、うん…(咳払いをして)…してくれたこと。あれは、その…良かったよ。

JW: (呆然と前方を見ながら)誰も見てなくて良かった。

Sherlockは一時的にピストルを持つ手を頭を撃ち抜かない程度まで下ろしていたが、それより下まで下ろすのは落ち着かないようだった。そして困惑しながらJohnを見下ろし、再びピストルを掲げて顎を掻いた。

SH: うん?

JW: (依然として目を合わせようとせず)君が、薄暗いプールで僕の服を脱がせるなんて。噂になっちゃう。

Sherlockは肩をすくめる。

SH: そいつらだってもうちょっと他にやることがあるだろ。

そう言ってJohnを見下ろしてニヤリとした。Johnは鼻を鳴らして笑うと前に身体を動かして立ち上がろうとした。だがその前にレーザーポイントの光が再び彼の胸元で光り出した。それを見たJohnは再び恐怖に陥った。

JW: (苦悩に満ちた声で)ああ…

プールの端に近い場所にあるドアが開き、Jimが手を叩きながら中へ戻ってきて二人を見た。

JM: (楽しそうに)ごめんよ、お二人さん!僕ってほんとーーに気が変わり易いもんだから!

Johnは信じられずに顔を歪ませた。SherlockはJimに背中を向けたままで観覧席を見上げ、一体何人のスナイパーがいるのかを見極めようとしていた。それは段々明らかになってきた-少なくとも二つのレーザーポイントがJohnに向けられ、それから三つがSherlockの身体に注がれていた。Jimは笑いながら両腕を広げる。

JM: 僕の悪いところでね、でも正直言わせてもらえば、それが唯一の欠点なんだ。

腕を下ろしズボンのポケットに手を突っ込む。SherlockがJohnを見下ろすと彼も顔を上げて視線を合わせた。

JM: 君は続けていくことを許されない。できないんだ。納得させてあげようかな、でも…(笑い出しながら、歌うように続ける)…僕が言うべきことはもうすべて君の心に浮かんでるよな!

Sherlockはしばし視線を外したが再びJohnを見下ろした。その顔に感情は出さないが、目には無言の要求が込められていた。Johnはすぐに小さくうなずいて彼が必要とするならば何をしようと許可する意志を示した。

SH: (Jimへ顔を向けて)恐らく僕の答えもお前の心にある。(※)

そしてピストルを掲げJimに狙いを定めた。Jimはまったく怖れずに堂々と笑みを浮かべていた。するとSherlockはゆっくりとピストルを下ろし、狙いを爆弾を装着したジャケットへ向けていった。三人の視線はジャケットへ向けられ、Johnは呼吸を乱し、Sherlockは落ち着いた様子でいる。Jimは首を動かして初めて少しだけ不安そうな表情を見せた。Sherlockのピストルの照準がジャケットへと固定されるとJimは顔を上げて彼の宿敵へ目を向ける。Sherlockが視線を返すと彼は微笑み出した。Sherlockは少し目を細めてその不気味な微笑を見つめていた。

 

※「Gottle o’ geer ... gottle o’ geer ... gottle o’ geer」

…腹話術師を元にした古いジョーク。“bottle of beer”と言いたいのだが腹話術では“B”の発音が難しいため、“G”になってしまう。

 

※イギリス軍のL9A1

…L9A1はBrowning社製ピストルの型名。だがJohnのピストルは恐らくSig Sauer社のP226R(イギリス軍指定型名L106A1)。退役しているJohnは不法所持をしていると思われる。劇中で使用されているピストルはもちろん本物ではなく、日本製のレプリカ。

 

※Jim Moriarty

…原作「最後の事件」、「空き家の冒険」、「恐怖の谷」に登場するJames Moriarty(JimはJamesの愛称)は21歳にして優れた科学論文を書くほどの高い知的能力をもった元数学教授という表の顔と、ロンドンに暗躍する悪党一味の統領として機智を振るい、狙った獲物は必ずしとめる犯罪者という裏の顔を持つ男。Holmesは彼の風貌を「すこぶる背が高く痩せていて、白くカーブを描く突き出た額を持ち、深く窪んだ眼をしている。ひげは綺麗に剃られ、青白く、苦行者のようであり、顔立ちにおよそ教授らしきものを漂わせている。彼の背は長年の研究から曲がり、顔は前へ突き出て、爬虫類のように奇妙に、いつでもゆらゆらと左右に動いている」と語る。このドラマでのMoriartyの職業は特に明らかになっていない。Moriartyという姓からアイルランド出身とされており、彼を演じるAndrew Scottはアイルランド出身。

 

※『ねえ、Jim。お願い…』

…Sherlockが引用しているのは1975~1994年までBBCで放送されていた“Jim’ll Fix It”という番組の決まりセリフ。司会はJimmy Savile。視聴者、主に子供たちが番組へ“Dear Jim. Please will you fix it for me to …”という書き出しで願いを叶えてもらうようにリクエストをする。例えば「将来、電車の運転手になりたい」とか「あこがれのスポーツ選手に会いたい」といったようなもの。Jimmy Savileは2011年に亡くなったがその翌年、過去何十年にも渡って番組やイベントで関わった未成年の少女たちに性的暴行を繰り返していた事実が明るみとなり、BBCもそれを知っていながら隠蔽した疑いをもたれ、大きなスキャンダルとなった。(※このドラマが放送されたのはその前)

 

※Westwood

…Jimが着ているのはヴィヴィアン・ウエストウッドのスーツ。「高価なスーツを汚れた手で触るな」

 

※答えは心の中に

…JM『僕が言うべきことはもうすべて君の心に浮かんでるよな!(everything I have to say has already crossed your mind!)』SH『恐らく僕の答えもお前の心にある(Probably my answer has crossed yours.)』-原作「最後の事件」でのHolmesとMoriarty教授の会話。M『私が言いたいことはすべて君の心に浮かんでいるはずだ(All that I have to say has already crossed your mind)』 H『では恐らく私の答えはあなたの心に浮かんでいるでしょう(Then possibly my answer has crossed yours)』