夜になった。JohnとSarahはある建物へ向かってスロープを歩いている。

SS: サーカスに連れて行ってもらうなんて何年ぶりかしら。

JW: (ぎこちなく笑って)だろうね、うん!まあ、その…友人が勧めてくれてさ。電話で予約も。

SS: ああ、そう。どんな団体なの、旅回りの一座か何か?

JW: 僕もよく知らないんだ。

二人は立ち止まると、ホールの外にたくさん飾られている赤い色をした提灯(※提灯は英語で‘Chinese lantern’)を目にした。

SS: 中国から来た人たちみたいね!

JW: うん、僕も…そう思うよ、うん。(小声で)偶然の一致だよな(!)

二人は受付係がチケットを渡している窓口へ向かった。

客: おもしろそうね。ありがとう。

受付係: どうも。

チケットを受け取った客はそばにある階段を上がっていき、Johnもカウンターへ歩み寄った。

JW: どうも。僕は、えーと、今夜のチケットを二枚予約してあるんだけど。

受付係: お名前は?

JW: (上着から財布を取り出しながら)えーと、Holmes。

受付係は予約客のリストを確認すると、封筒をJohnに差し出した。

受付係: 三枚でご予約されているようですが。

JW: いや、そんなはずない。二枚だけのはずだよ。

SH: (画面外から)あの後、電話をかけ直して僕の分も一枚取っておいたんだ。

Johnが驚いて振り返るとSherlockが歩み寄ってきてSarahと握手をしようと手を差し出した。

SH: 僕はSherlock。

SarahはJohnへちょっと眉をひそめたが、Sherlockの方を向いて少しぎこちない握手を交わした。Johnは怒りのあまり顔を背けた。

SS: ああ、どうも。

SH: こんばんは。

Sherlockは偽りの笑みを見せた後、すぐに先へ歩いていってしまった。

 

 

それから間も無くしてSherlockとJohnは人々が通りすぎていく階段の少し上がったところに立っていた。Sarahはトイレに行ったのか、その場に今はいない。二人は声を抑えて話をしている。

JW: たった一晩くらい自由にさせてくれたっていいだろ?

SH: イエロー・ドラゴン・サーカス、ロンドンで一夜限り。符合する。組織はイギリスへ暗殺者を送り込んだ…

JW: …綱渡りの芸人を装って、か。おい、Sherlock、わかってくれよ!

SH: 僕らが捜しているのは登るのが得意で、ロープでもよじ登れる奴だ。そんな器用な奴を見つけるのに良い場所が他にあるか?中国で出国ビザを手に入れるのは困難だ。あの国から出るために何か格好な理由が必要だったんだよ。さて、まずはどんな場所なのかざっと見ておかないとな…

JW: そうか。好きにしろ。僕はSarahとビールでも飲むよ。

SH: (断固として)君の助けが必要だ。

JW: 僕は今夜、他にやることがあるんだ!

SH: どんなことだ?

Johnは瞬きをして、信じられないという顔つきでSherlockを見た。

JW: 冗談だろ。

SH: 何がそんなに大事なんだ?

JW: Sherlock、僕は今デートの真っ最中なんだ。殺人犯なんか追っかけられるわけないだろ、その…

Johnはその先を言い淀んだ。

SH: 何だ?

JW: (堪えきれなくなって声を荒げ)…Sarahをモノにしようとしてるってときに!

ちょうどその時Sarahが階段のある角へ戻ってきた。Johnはぎこちなく彼女へ笑いかけた。

JW: おかえりー。

Sherlockは呆れたように目を回して先に階段を上がっていった。

JW: (Sarahへ)だいじょうぶ?

SS: うん!

二人もSherlockに続いて階段を上がっていった。

 

 

パフォーマンスが行われる場所は大きなホールでステージがひとつだけあり、その前のカーテンは閉められていた。そのステージを使うつもりはないらしく、ホール中程の床の上におよそ直径30フィート(※約9メートル)の円を描くようにキャンドルを並べて置いていた。部屋はぼんやりと薄暗い。客たちは輪の周りに集まっていたが、椅子は置かれていなかった。見たところチケットの数は限られていたらしく、全員が輪の周りで演目をちゃんと見ることができそうだった。JohnとSarahが並んで立つ後ろでSherlockは部屋を見渡したり天井を見上げたりしていた。JohnはSarahに聞こえないよう顔を少し後ろに向けて、背後にいる同居人へ肩越しに小声で話しかけた。

JW: サーカスだって言ったよな。これサーカスじゃないぞ。見ろよ、これだけの客しかいない。Sherlock、これって…(部屋の離れた場所を見ながら顔をしかめて)…アート集団か。

SH: (小声でJohnの肩越しに)これは奴らの本業ではない。

JW: ああ、そうだな、忘れてたよ。サーカス団じゃない、国際的な密輸集団のギャングなんだもんな。

小さな太鼓を手で叩く音が響き、ショーが始まった。Sherlockが連れ達と同じ方向へ視線を戻すとJohnは顔を上げて背後の彼を見た。Sherlockは片眉を上げて見せた。豪華な衣装に身を包み、顔に厚化粧を施した中国人女性-かつてオペラ歌手として名を馳せていた-が輪の中央へ歩み寄り、もったいぶった様子で観客を見渡すと宙へ向かって手を伸ばした。太鼓の音は止まった。オペラ歌手は輪の外へと進み、大きな布が掛けられたオブジェへ歩み寄るとその布を取り払った。現れたのは台に設置された年季の入った様子のクロスボウ(※矢の方向を定めるために溝を掘ってある木製の台に横に固定された弓)だった。女は物騒な金属製の先端をし、反対側には白い羽根の付いている太く長い木製の矢を取り出し、それを客達に見せつけてからクロスボウへセットした。姿勢を正してから今度は頭の飾りにある小さな白い羽根を取ると再びそれを客に見せる。クロスボウの後部には小さな金属製のカップが装着されており、女はそこへそっと羽根を落とした。すると直ちに矢が放たれ、風を切って部屋の中を飛んでいった。JohnとSarahが矢が放たれる音を聞いて息を呑む間、Sherlockは素早く視線を合わせて矢が飛んでいくのを追っていた。客達が辺りを見渡すと、矢は輪の反対側にあるペイントが施された大きな板に突き刺さっていた。SarahはJohnへ向かって笑いかけると、少し大げさに心臓に手を当てて見せた。

音楽が鳴り響き、客達は輪にやって来た新たな出演者を拍手で迎え入れた。鎖帷子を纏い、顔に装飾的なマスクをした男性だった。男が腕を広げると別の二人の男達がやって来て重そうな鎖と紐を男に繋いでいき、男の腕を前に組ませた状態で縛り上げると先程の板の前へ背を向けて立たせ、鎖で板と固定し始めた。

SH: (小声で)中国の伝統的な脱出芸だ。

JohnとSarahは彼の方へ振り返った。

JW: ふーん?

SH: クロスボウはわずかな刺激で発射する。戦士は矢が放たれる前に縛りを解かなければならない。

オペラ歌手は新たな矢をクロスボウに設置した。男達は更に南京錠や鎖を繋ぎ、きつく縛り上げると戦士の頭を後ろへ引いて板へと押し付けた。戦士はたまらず叫び声を上げる。男達は板にしっかりと繋がっている丈夫な輪へ鎖を通して再び叫び声を上げる戦士を板へ縛り付けた。作業を終えると男達はどこかへ去っていった。音楽は猛烈さを増していき、いきなり大きなシンバルが鳴り響いたので、Sarahは驚いて飛び上がり、Johnの腕へしがみついた。

SS: ああ、もう!ごめんなさい!

Sarahは少し恥じらって笑いながら、もう一方の手でJohnの腕を取った。Johnも彼女へ笑いかけ、うれしそうな笑みを浮かべた。SarahはJohnから離れた方の手を戻したが、もう片方の手はJohnの腕から離さずにいた。オペラ歌手は新たに小さなナイフを取り出して客へ見せた。

SH: (小声で)砂の入った袋に穴を開ける、砂が落ちていく、重しが徐々に器の方へ下がっていく。

オペラ歌手はSherlockの予言通りに行った-腕を振り上げると長いケーブルで吊るされた小さな砂袋の下部へ向けてナイフを突き刺し、穴を開けた。砂が落ちていき、戦士は狂ったように叫びながら鎖を解こうともがいていた。砂袋を吊るすケーブルは滑車を経由し、反対側には金属の玉が繋がれていた。砂が袋から落ちてクロスボウの後部にある器へと重しが近寄っていく。戦士は片方の手を自由にすることに成功していた。Johnは重しが下がっていく様を眺め、Sarahも不安そうにそれを眺めていると、砂袋が重さを失って上へ上がっていった。二人が戦士へと視線を移すと、もう片方の手も自由にできたようで、今度は首へ巻かれた鎖を解こうとしていた。重しが器へ到達するまであとわずかとなり、Sarahは眉をひそめながらさらにしっかりとJohnの腕へすがりついた。戦士が再び叫び声を上げて鎖を解くと、重しはもう器へ達しようとしていた。器の縁にもう届きそうだが戦士はまだ首の鎖を緩め、逃げ出そうともがいている。重しが器に触れると矢は部屋の空気を裂いて飛んでいった。その隙に戦士は鎖を解き放って下へ倒れこみ、矢は音を立てて板に突き刺さった。戦士が勝ち誇ってわめき声を上げると観客達は拍手喝采した。Sarahはようやく安心して息を吸い込んだ。

SS: ああ良かった。

JW: やれやれ!

戦士は立ち上がり、拍手に応えていた。Johnも拍手をしながら後ろを振り返ってみるとSherlockは姿を消していた。部屋を見渡してみたが、彼がどこにいったのかわからなかった。

 

 

Sherlockはステージへと足を向けていた。そこは今、出演者用の楽屋として使われている。鏡のついたドレッサー、可動式の衣装掛けなどたくさんの物が所狭しと置かれていた。あらゆるものに目を向けていると、あたかも別の戦士がそこにいるかのように鎖帷子とマスクがスタンドに掛けられていた。

 

 

パフォーマンス・エリアではオペラ歌手が片手を上げて客達の拍手を制している。

オペラ歌手: それでは皆様、月の光が降り注ぐ長江の岸辺からはるばるやって参りました、見事な中国のバード・スパイダーをお目にかけましょう。

女が立ち去るとマスクをした曲芸師が腰に巻かれた赤く太い帯を解きながら空中を舞って天井から降りてきた。観客が拍手で迎えると男は身体を平行にした状態で床から少し離れた辺りで止まった。

JW: (Sarahへ)今の見た?!

床へ降りながら腰に巻いていた帯を解いて二本に分け、それぞれを両腕に巻きつけて体重を掛けると曲芸師の身体は再び上昇し、赤い帯をはためかせながら床から数メートル上を円を描いて舞い始めた。SarahとJohn-そして恐らく他の客達も口をあんぐり開けてその様子を見上げている。

 

 

ステージにいるSherlockは幕へ近付き、少し隙間を広げて外の様子を窺った。曲芸師が飛び回っているのを興味深そうに眺めている。

SH: (小声で)おやおや。

するとステージ右手にあるドアが開いた。Sherlockが身を潜めようと衣装掛けに駆け寄り、辺りのものをかき分けていると、オペラ歌手がステージにやって来た。女はドレッサーに歩み寄り携帯電話を手に取ってチェックしていたが、衣装掛けのハンガーのひとつが床に落ちた音を聞いて鋭く辺りを見渡した。Sherlockは屈み込んだ。オペラ歌手が衣装掛けへ近付いてきたのでSherlockは更に姿勢を低くしたが、女はそのまま先へ進んでステージを去っていってしまった。Sherlockが足元を見るとバッグが近くに置いてあり、中を開けて見てみるとスプレー缶がいくつか入っていた。そのひとつを手に取り、ラベルに“Michigan”とあるのを確認する。缶の下部には黄色い帯があり、ペンキの色を知ることができた。

SH: (小声で、少し歌うように)見つけたぞ。

立ち上がって衣装をかき分け、スプレーの缶を振りながらドレッサーの鏡へと近付いていった。そして鏡へ屈みこんでスプレーでほぼ水平の黄色い線を描いた。その間に彼の背後にある戦士の衣装が動き始めた。Sherlockは眉をひそめながら背後を振り返ると、それがただの衣装ではなく、何者かが中に入っていることに気付いた。そして戦士の衣装を纏った男は大きなナイフを振りかざしながら彼に向かって突撃してきた。男が向かってくるとSherlockは後ろへ屈んで攻撃をかわした。

 

 

外でJohnとSarahは曲芸師を見ていた。輪の向こう側でステージを隠している幕の一部分が波を立てた。Johnはそれを目にして少し眉をひそめたが、再び曲芸へ意識を戻した。

 

 

ステージではSherlockがスプレー缶を盾代わりにして戦士の攻撃をかわし、次のナイフが振りかざされる間に下へ屈むとスプレー缶で男の肘を攻撃した。すると男はSherlockの腹を強く蹴って応戦した。

 

 

外では曲芸師が帯を美しく巻き下ろしていった。観客達は拍手をしている。誰にも気づかれず幕は波を立てている。

 

 

戦士はSherlockの喉元を掴んだが、その過程でナイフを落としてしまった。Sherlockは男の手を首から引き剥がし、マスクをしている男の顔へ向かってスプレーを浴びせると男を力強く払いのけた。男は後ろへ倒れ込んだが、すぐに脚を振り上げるとその反動を使って前へ跳んで起き上がった。そしてSherlockへ向かってスピンしながら跳躍し、胸元へ蹴り込んできた。Sherlockは幕の後ろへ追いやられ、ステージの端を越えてその下にある床へと落とされてしまった。背中を打ちながらも起き上がろうともがいたが、息が切れてほとんど動けずにいると、幕の向こうから戦士が飛び込んできて彼の前に立ちはだかった。Johnは直ちに彼らの方へ駆け出していく。戦士はナイフを振り上げ、下へ向かって突き刺そうとしている。Johnが突進していって男をステージの方へと押しのけたが、戦士は片足で反撃し、部屋の方へと追いやられたJohnは倒れ込んだ。近くでは観客達が逃げ出していき、曲芸師はマスクを取って男達が闘っている様子を一目見たが、仲間に加わるつもりはないようで彼もその場から駆け出していった。ひとりだけ反対方向へ走っていく人物がいた-Sarahはどこかから頑丈なホウキを手に入れて男達が闘っている場所へ向かっていた。その間も依然として床へ倒れこんでいるJohnは起き上がろうともがいていたが、その隙に戦士は息を切らして床に倒れこんでいるSherlockの方へ再び向かっていった-今その手には幅広の刃をした剣が握られている。男がその腕を頭上へ振り上げ、足元に横たわる人物へ死の一撃を加えようと意識を集中させたその時、Sarahが駆け寄ってホウキの柄の端を男の脳天へ打ち下ろした。男が叫び声を上げ、反撃してくる前にSarahはホウキを横に振り上げ、今度は男の脇腹を攻撃した。再び同じ場所へ打撃を加えると男はうめき声を上げて床へ倒れこみ、半ば意識を失ったようだった。Sarahが息を切らしながら姿勢を正すと、ようやくSherlockは身体を起こし、戦士の右足へ近寄り、靴を脱がせて踵に組織の印があるのを確認した。Johnはようやく振り返ることができていたが、まだ痛みでちゃんと身体を起こすことができず、呼吸を取り戻そうと奮闘していた。Sherlockが急いで立ち上がるとJohnはSarahの手を掴んで出口へ向かい出した。

JW: (まだちゃんと声が出ない様子で)行こう。

Sherlockは二人の先を走っていく。

SH: 行くぞ!急いで!

 

 

スコットランド・ヤード。Dimmock警部補はSherlockとJohn、そしてかなり困惑した様子のSarahを連れてオフィスに入っていった。明らかに機嫌は良くないようだ。

Dimmock: 何台か車をやったよ。あの建物にはもう誰もいない。

SH: なあ、サーカスであの印を確認したんだ-二人の遺体にあったタトゥー、組織の印を。

Dimmockは自分の席に到着すると彼らの方へ顔を向けた。

JW: LukisとVan Coonは密輸業務の一端を担っていた。そしてひとりが中国にいるときに何かを盗んだ、何か高価なものを。

SH: あのサーカスの団員たちはそれを取り戻すためにここへ送られてきた組織のメンバーだ。

Dimmock: 取り戻す、って何を?

Sherlockは苛立ちながら唇を噛んで顔を背けた。

JW: (ためらいながら)わからない。

Dimmock: 「わからない」。

Sherlockはやはり目を合わせようとしない。

Dimmock: Holmesさん…

Dimmockは席に腰を下ろした。

Dimmock: 言われたことはみんなやった。Lestradeはあんたの助言を価値あるものとみなしているようだし。

Sherlockは顔を上げ、偽りでありながらも誇らしげな笑みを見せた。

Dimmock: 手入れの指示は出したよ。それに見合うだけの何かがあるんだよな-残業代の膨大な請求書以外に。

 

 

221B。SherlockはJohnとSarahを連れてリビングへ入ると、すぐに暖炉の上の写真を凝視しながらコートを脱いだ。

JW: 明日までに奴らは中国へ戻るだろうな。

SH: いや、目的を果たさないまま去ってはいかないだろう。奴らの隠れ家を探しださないと、溜まり場を。

Sherlockは写真を鋭い視線で見つめながら歩み寄った。Johnも同じく写真を眺めていて、二人に忘れ去られたSarahは戸惑うばかりだった。Sherlockはレンガの壁を写した、メインの写真へ指を走らせた。

SH: このメッセージのどこかに、それが隠されているはず。

SherlockとJohnは黙り込んでしまった。Sarahはそんな二人を眺めていたが、やがて自分は余計な存在だと悟ったようだった。

SS: あの、わたしはたぶん、御暇した方が良さそうね。

JW: いやいや、帰らなくっても…(Sherlockの方を見て)…いいよな?(Sarahの方へ戻って)いてくれていいんだよ。

SH: (同時に)ああ、今すぐ帰ってくれた方が仕事が捗る。

Sherlockが当てつけがましくSarahを見るとJohnは彼をにらみ、再びSarahをなだめた。

JW: 冗談のつもりなんだ。君さえ良ければいてくれよ。

Sarahは気まずそうにSherlockの方を見やったが、彼は既に写真の方へと背を向けてしまっていた。Sarahはぎこちなく笑い、場の空気を和ませようとした。

SS: お腹が空いてるのはわたしだけかな?

SH: (溜め息をこぼし、苛立って目を閉じながら)ああ、もう。

 

 

その後、Johnは冷蔵庫を開けてみたが中にはほとんど何も入っていなかった-少しのボトルと缶、もしかしたら棚の中に人間の目玉でも転がっていたかもしれない。なすすべもなくJohnは溜め息をついた。Sherlockはリビングでダイニング・テーブルに向かって座っていた。テーブルの上は写真やメモ、様々な図を描いたものでいっぱいになっており、Sherlockがそれを引っ掻き回していると、そばに立って暖炉の上の写真を眺めていたSarahが彼に話しかけた。

SS: じゃあこれが仕事なのね、あなたとJohnの。謎を解く仕事。

SH: (振り返らず、舌打ちしながら)顧問探偵だ。

SS: そう。

キッチンではJohnが棚の中を捜索していた。ピクルスの入った瓶の蓋を開けて中の匂いを嗅ぐと思わず顔を背けた。

JW: うわ!

Johnは瓶を戻し、捜索を続けた。SarahはSherlockのそばへ歩み寄り、背後から彼の眺めている紙を見て指を指す。

SS: この曲がりくねった線は何?

Sherlockは顔を上げたが、その表情は彼女への殺意を必死に抑えようとしているかのようだった。

SH: (振り返らず)これは数字。古い中国の方言。

SS: ああ、そうなの!まあ、その、もちろんそれくらい知っておくべきだったわね(!)。

キッチンではJohnがWotsits(※チーズ・スナックの菓子ブランド)の小さな袋を見つけ、それを皿に開けたところだった。そこへHudson夫人がやって来て小声で彼に話しかけた。

MrsH: あらあら!

夫人が何かに布巾をかぶせてトレイで運んできたのを見るとJohnの表情は明るくなり、喜びに包まれた。

MrsH: (ささやき声で)パンチ(※)を作ったわよ、あとおつまみも。 (※洋酒と果汁、炭酸水、砂糖などの混合飲料。フルーツ入りはフルーツ・パンチ)

夫人がトレイをテーブルに置き布巾を取ると、フルーツのスライスが浮かぶパンチと二つのグラス、クラッカー、それから恐らくクラッカー用のディップが入った器が並んでいた。

JW: (小声で)Hudsonさん!神様!

MrsH: (ささやき声で)これが月曜日だったらスーパーに行かなきゃならなかったわよ!

JW: (ささやき声で)いや、ありがとう!ありがとうございます!

リビングではSherlockがとうとう殺人を犯しそうな雰囲気となっている-SarahはDimmockが証拠品袋に入れて持ってきたレンガ壁の写真を手に取った。Sherlockは怒りに包まれながら彼女をにらみつけ、歯を食いしばりながら顔を背けた。

SS: (彼の怒りに気付かない様子で)で、この数字は-暗号なのね。

SH: (キツい口調で)その通り。

SS: そして数字の組はそれぞれ言葉になってる。

Sherlockはそれを聞くとゆっくり顔を上げた。

SH: どうしてそれがわかった?

そして初めて彼女の顔を見て目を合わせた。

SS: その、二つの言葉が既に解読されてるから、ここに。

Sarahは写真をテーブルに置き、指を指した。Sherlockは写真を取り上げるとそれを凝視した。

SH: John。

JW: うん?

Johnはキッチンから二人の方へ顔を向けた。

SH: (立ち上がりながら)John、これを見ろ。

Sherlockが袋から写真を取り出すとJohnがキッチンからやって来た。

SH: Soo Linは博物館で-僕らのために暗号を解読し始めてたんだ。見落としていた!

細いペンの文字で、写真の始めにある二組の記号の下にそれぞれ単語が書き記されていた。Sherlockはそれを読み上げた。

SH: “NINE” “MILL”。

JW: (目を細めて写真を見ながら)‘millions’ってことかな?

SH: Nine million(※)ポンド。何のための? (※900万ポンド=約14億円)

そしてSherlockは振り返ってコートとマフラーを置いた場所へ向かった。

SH: この文章を結末まで調べなくては。

JW: どこへ行くんだ?

SH: (コートを着ながら)博物館、修復作業室。

すると自分自身に苛ついたようにしかめっ面をした。

SH: ああ、僕らもちゃんと見てたに違いないのに!

JW: な、何を?

SH: 本だよ、John。本-暗号を解く鍵だ!

写真を得意げに振り回してみせながら続ける。

SH: Soo Linはこれを解くのにそれを使ったんだ!僕らがギャラリーを駆けずり回ってる間、暗号を解き始めていた。まだ机の上にあるはずだ。

そしてSherlockは急いでドアの外へ飛び出していった。

死を呼ぶ暗号 7