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    BBC SHERLOCK

    日本語訳

    <非公式>

    サイト内は過去掲載分も含め、日々更新していますので

    こまめにリロード(再読み込み)をして最新の状態でご覧ください

    死を呼ぶ暗号 6

    スコットランド・ヤード。JohnとSherlockが立っているところから少し離れた場所で、Dimmock警部は二人を無視するかのように背を向けて書類を漁っている。

    JW: 狂った殺人犯が野放しになってるとあんたが認めるまでにいったい何件の事件が起きるかね?

    Dimmockは二人の間を通り抜けて別の机へ向かっていく。Johnは彼の後へついていった。

    JW: 今夜は若い女性が撃たれて亡くなった。この三日で三人の犠牲者だぞ。あんたは奴を追うべきだろ。

    SherlockはDimmockに近寄るためJohnの前に進んだ。Johnは少し後ろに下がってイライラしながら辺りを歩き回った。

    SH: Brian LukisとEddie Van Coonは国際的な密輸集団の下で働いていた-ブラック・ロータスという組織、このロンドンの、君の目と鼻の先に潜んでいるんだ。

    Sherlockは特に最後の部分を強調しながらDimmockへ迫った。Dimmockはようやく彼の方へ顔を向けた。

    Dimmock: それを証明できるのか?

    Sherlockは起き上がって考えを巡らせた。

     

     

    ST BARTHOLOMEW病院。死体安置室の助手を務めるMolly Hooper(以下セリフ: MoH)は職員向け食堂でセルフサービスのディスプレイを覗き込んでいた。

    SH: 何を考えてる。ポークかな、パスタかな。

    背後から彼の声がしたのでMollyは驚いて振り返った。

    MoH: あら、あなただったの!

    SH: ここはEgon Ronay(※)の厄介になりそうもないよな、だろ?

    SherlockはMollyに微笑みかけるとディスプレイへ注意を促した。

    SH: 僕だったらパスタにしとくかな。ポーク・ソテーはゴメンだね-君は遺体を切り刻んでるんだもんな。

    そう言って再び彼女に微笑んで見せた。Mollyは落ち着かない様子で顔をしかめる。

    MoH: あなたは何を食べるの?

    SH: 仕事中は食べない。消化は思考を鈍くする。(※)

    MoH: 今夜はここで作業をするつもりなの?

    SH: 遺体をいくつか調べたい。

    MoH: 『いくつか』?

    SH: Eddie Van CoonとBrian Lukis。

    MoH: (持っていたクリップボードを眺めて)わたしのリストにある。

    するとSherlockは子犬のような瞳をして彼女を見つめた。

    SH: 僕のためにまた手配してくれないかな?

    MoH: (申し訳なさそうに)うーん…でも書類の処理はもう済んじゃったから。

    Sherlockは視線を上げて彼女の髪について何か気付いた様子を見せた。

    SH: 髪型…変えたんだね。

    MoH: (不安気に)え?

    SH: 髪、髪型。いつもは真ん中で分けてるだろ。 (※この日のMollyはサイドで髪を分けていた)

    MoH: ああ、そうね…

    SH: うん、いいよ、それ、うん、そっちの方が似合ってる。

    そしてまたSherlockはMollyに微笑みかけた。Mollyは喜びと混乱が綯い交ぜになり、ディスプレイの方へ目を逸らす。するとSherlockの笑みは瞬時に消え、苛立たしげな視線が腕時計へと向けられた。

     

    ※Egon Ronay

    …ハンガリー出身の料理研究家、批評家。1950・60年代にイギリスとアイルランドのレストランおよびホテルを格付けする有名なガイドブックを出版した。

     

    ※「仕事中は食べない。消化は思考を鈍くする」

    …仕事中のHolmesが、食事を疎かにする、または敢えて食事を摂らないという記述は度々ある。原作「ノーウッドの建築業者」でWatsonは「極度に緊迫した時には、自分自身に食事を許さないという変わった習性のためだ。私は彼が自分の鉄のような強さを頼みして、完全な栄養失調でよろよろになったのを知っている。「今はエネルギーと神経の力を消化に使うのを容認できない」彼は、私の医学的抗議にそう答えたものだ」と記している。また「マザリンの宝石」でHolmesは「空腹だと頭の働きが冴える。(…)消化に血液の供給をしなければならないことは、頭脳にとっては非常な損失になるんだ。僕は頭脳だ、ワトソン。それ以外の僕はただのおまけだ。だから僕が考えなければならないのは頭脳だ」と語っている。

     

     

    死体安置室。あれからしばらくして、二つの遺体が並んで台の上に置かれていた。ゴム手袋をしたMollyがひとつの遺体を包む袋のジッパーを開けると、Lukisの顔が現れた。SherlockがDimmockを連れて部屋に入ってきた。

    SH: 見たいのは足だけだ。

    MoH: (眉をひそめて)足?

    SH: そう。良ければ見せてもらえるかな?

    そう言ってMollyに微笑みかけるとDimmockを連れて遺体の反対側へ移動した。後に続いて移動したMollyは遺体袋の下の部分を開けてLukisの脚を引っ張り出した。右の踵の下の方にはSoo LinがSherlockたちに見せたのと同じものとわかるタトゥーが刻まれていた。Sherlockは顔を上げると満足そうな表情をしてもう片方の遺体へ歩み寄った。

    SH: 次はVan Coon。

    MollyとDimmockも彼に続いて台を移動し、Mollyがもうひとつの遺体の袋を開けてみるとVan Coonの右足の踵にも同様のタトゥーが確認できた。Dimmockは静かにため息をついた。

    SH: おお(!)

    Dimmock: (気まずそうに)では…

    SH: ではこの二人の男性は中国のたまたま同じ場所でタトゥーを入れたのか、あるいは僕が真実を言っているか。

    Dimmock: (観念してため息をつき)何が必要なんだ?

    SH: LukisとVan Coonの部屋にある本、全部。

    Dimmock: 本を?

     

     

    221B。SherlockとJohnはコートを脱ぎながら居間に入っていった。Johnは椅子に腰を下ろしたがSherlockは立ったままでいる。

    SH: ただの犯罪組織じゃない。カルト集団だ。兄の方は幹部のひとりに洗脳されてしまったんだ。

    JW: Soo Linが名前を言ってたな。

    SH: ああ、Shan。Shan総裁。

    JW: どう捜せばいいのか見当もつかないぞ。

    SH: 違うね。知るべきことはもうほとんど手に入れている。彼女は欠けているピースの大部分を提供してくれた。

    Sherlockはそう言うとJohnが同意してくれると予期して彼の顔を見た。しかしそれに反して何も言わないJohnに耐えかねて説明を始めた。

    SH: なぜ兄は妹を訪ねなければならなかったのか?なぜ兄は妹の専門知識を必要としたのか?

    JW: 妹は博物館で働いていた。

    SH: そうだ。

    JW: (ようやく悟り始めて)骨董品の専門家。むむ。そうか。わかったぞ。

    SH: 高価な骨董品だ、John。闇市場で取引される中国の古代遺物。中国には毛沢東の革命(※文化大革命)後、隠されていた千の財宝がある。

    JW: そしてブラック・ロータスはそれを売り捌いてるんだ。

    するとSherlockは何か考えが浮かんだのか首をかしげた。

     

     

    しばらくしてSherlockはダイニングの机に向かい、CrispianのWebサイトで最近の取引、特に中国やアジアの作品が扱われているものをピックアップしていた。Johnは後ろに立って肩越しに画面を眺めている。

    SH: (リストに目を通しながら自分に向かって)日付をチェックするんだ…

    するとある取引を見つけて指差した-品目は明朝の二つの壺。

    SH: これだ、John。

    JW: むむ。

    SH: 四日前に中国から入荷。

    リストを指す指を品物の詳細が記されている部分まで下げていき、取引情報の欄を見ると、“Source - Anonymous(※出処 - 匿名)”とあった。

    SH: 匿名。売主は名前を明かしていない。東洋の未知なる宝が二つ、か。

    JW: ひとつはLukisのスーツケース、もうひとつはVan Voonの。

    Sherlockは検索サイト“Quest”へ移動し、新たな検索を始めた。読み上げながら最初に入力した単語は‘Chinese’。

    SH: …antiquities sold at auction [オークションで落札された骨董品]。

    画面に検索結果が表示された。

    SH: 見ろ、ここにもうひとつあるぞ。

    JW: むむ。

    SH: 中国から一ヶ月前に入荷、中国の陶器の像、400,000(※ポンド=約6000万円)で落札。

    JW: (Lukisの日記を参照しながら別の取引を指して)ああ、見ろ、その一ヶ月前-中国の絵画、50万(※ポンド=約7500万円)。

    SH: どれもみんな売主は匿名。中国の奥地で盗んでひとつひとつイギリスに運び込んでいるんだ。

    JW: はあ。

    Johnは再びLukisの日記を眺め、そしてプリントアウトしてあったVan Coonのカレンダーに目をやった。

    JW: そしてオークションの取引はみんなLukisやVan Coonの中国行きと一致している。

    SH: ではその内のひとりが中国に滞在中、欲を持ってしまったとしたら?その内のひとりが何かを盗んでしまったとしたら?

    JW: それでZhi Zhuが現れたってワケだな。

    そこへHudson夫人がやってきて開けっ放しにしてあったリビングのドアをノックした。

    MrsH: あらあら!

    二人は夫人の方へ振り返った。

    MrsH: 失礼するわね。チャリティのために用意でもしているの?

    SH: え?

    MrsH: 若い男の人がたくさんの本を箱に詰めて外に持ってきてるわよ。

     

     

    しばらくして、制服を着た二人の警察官がプラスチックの箱に入った本をリビングルームに運び込んでいた。部屋はもういっぱいだがまだ他にもあるようだ。

    SH: そう、数字を参照に。

    JW: 本の中の。

    SH: 特定のページとそのページにある特定の言葉だ。

    JW: だな、で…15と1、ってことは…

    SH: 15ページを開いてそこにある一番最初に見つかる単語。

    JW: わかった。で、どんなメッセージなんだろう?

    SH: (嘲笑的に)それは本次第だな。本を暗号に利用した悪知恵だ。二人とも所有していたものでないと。

    Johnは部屋いっぱいに置かれた山積みの本を絶望的に眺めた。箱にはそれぞれ「Lukis」「Van Coon」のラベルが貼られている。

    JW: そうか、わかったよ。まあ、そんなに長くは掛からないよな?(!)

    Johnは近くに置いてある箱へ歩み寄り、蓋を開けて中に詰まったたくさんの本を見ると、早くもうんざりした様子で溜め息をこぼした。Sherlockも別の箱を開け、それぞれ表紙を確認しながら本を取り出し始める。箱から抱えきれるだけの本を持ってJohnはダイニング・テーブルに向かい、腰を掛けた。そこへDimmockが証拠品袋を掲げながら入ってきた。

    Dimmock: これを見つけたぞ、博物館で。

    DimmockがJohnに見せた袋の中にはSherlockがSoo Linに見せていた暗号を撮影した写真が入っていた。

    Dimmock: 君たちが書いたのか?

    JW: (袋を手に取り)あの、Soo Linならこれを解読できるかなと思ってさ。どうも。

    Dimmockはうなずきながらまだ本を取り出しているSherlockへ問いかけた。

    Dimmock: 何か他にできることは?手伝うことがあれば、と思ってさ。

    SH: (見向きもせず)今すぐ静かにしてくれればそれが一番いい。

    Dimmockは言葉を失いJohnの方を見てみたが、彼もただ申し訳なさそうに首を振るのみだった。唇を噛んで悔しさを堪え、Dimmockは部屋を去っていった。

    Sherlockはある本を手に取ると、それが先程別の箱から取り出したものと同じであるのに気付き、それらを並べてみた-Iain Banks著「Transition(変遷)」。一冊を開き15ページへ進み、最初の単語を見つけるとがっかりしながらイラついた調子で読み上げた。

    SH: “Cigarette(煙草)”。

    音を立てて本を閉じ、二冊とも机の上で山積みになっている本の上に置いてしまった。

    JW: ああ。

    Johnは本の山を床の上に置くと、また別の本を取りに行き、Sherlockもまた箱の中を漁り始めた。

    時は過ぎ、Sherlockは再び二人のコレクションから「Freakonomics(ヤバい経済学)」という本を見つけ出していた。15ページを見ると“What Do Schoolteachers And Sumo Wrestlers Have in Common?(教師と相撲力士の共通点は何か)”と題された章で、最初の単語を見つけるとSherlockはまたも苛立ちながら読み上げて天を仰いだ。

    SH: “Imagine(想像する)”。

    そしてその二冊もJohnが作った本の山の上に置かれた。

    再び時は過ぎ、外では日が出ていた。Sherlockはジャケットを脱ぎ、Johnもカーディガンを脱いでいたが先程と同じ位置にいた。

    更に時は経ち、外はもっと明るくなっていた。本は床や机の上、あらゆるところに散らかっており、箱の位置もいくらか変わっていた。Sherlockが頭を掻きむしり、箱を眺めて溜め息をついていると、Johnの腕時計のアラームが鳴った。それを見て窓の外を眺めると既に朝になっていることにようやく気付いたようだった。そして疲れきって溜め息をこぼしながら再び頭を抱えた。

     

     

    病院の待合室。受付係は診察を待つ列の先頭にいる、何か言いたげにしている患者へ申し訳なさそうに顔を向けた。

    受付係: お待たせして申し訳ありません。

    患者のひとりが当てつけがましく溜め息をこぼした。

    受付係: でも次の木曜日まで何もないはずなんです。

    先頭にいる女性は苛ついた表情で顔を背けた。

    女性患者: (画面外)何十年かかるのよ。

    受付係: ああ、申し訳ありません。

    ちょうどそこを通りがかったSarah Sawyerが戻ってきて受付係へ歩み寄っていった。

    女性患者: (画面外)時間が守れないならどうして予約なんか取るわけ?

    SS: (受付係に)あの、どうかしたの?

    受付係: (小声で)新しく入った先生が-ずっと内線に出ないんです。

    SS: 行ってちょっと見てくるわね。

    受付係: ああ、ありがとうございます。

    SS: (列へ向かって)少々お待ちを。

    受付係: すみません。

    女性患者: (画面外)あの人何て言ったの?

    SarahはJohnの診察室へ行きドアをノックした。

    SS: John?

    少し待ってみたが何の返事もない。

    SS: John?

    やはり返事がないので、ドアを開けて中を覗いてみた。Johnは机に向かって座っていたが、頬杖をついて軽くいびきを立てながらすっかり眠ってしまっていたのだった。

     

     

    それからかなり経ってからJohnは上着を持って診察室から出てきて、受付に立っているSarahへ歩み寄った。気まずそうに咳払いをする。

    JW: うん、もう診終わったみたいだな。もう少しいるかと思ったんだけど。

    SS: ああ、わたしが一人か二人診たの。

    JW: 一人か二人?

    SS: えーと、五、六人だったかな。

    JW: 申し訳ない。仕事中にあんなことをしてしまって。

    SS: そんな。気にしなくていいわよ。

    JW: ちょっと、その、夜更かしをしちゃってさ。

    SS: ああ、そうだったの。

    JW: それじゃ、また。

    そう言って帰ろうとしたJohnをSarahが引き留めた。

    SS: それで、あの、何でそんな夜更かしをしちゃったの?

    JW: (彼女の方へ振り返って)ああ、そうだな、えーと、本を読むのに付き合わされたっていうか。

    SS: ああ、そう、本が好きなのね、その、あなたの…恋人かしら?

    気にしないフリをしてSarahは視線を落とした。

    JW: うん?デートなんかじゃないよ。

    SS: (すばやく)良かった。(すぐに補足しようとして)つまり、その…

    JW: ちなみに今夜もそういう用事はないよ。

    二人は微笑みを交わした。少しうつむいたJohnの表情は驚きと喜びが入り混じり、『やった!うまくいったぞ!』と思っているかのようだった。

     

     

    221B。Sherlockはまだ本の山と奮闘中だが、少し方策を変えたようだった。

    SH: 本、誰でも持っているような本だ。

    そう言うと自分の本棚を見てコンサイス・オックスフォード英語辞書と聖書、それから何かの本を一冊取り出した。それらをそばにある箱の上に置き、まずは英語辞書を開いた。

    SH: 15。一番目。

    その言葉は“add(加える)”だった。そして三冊目に取り出した本を開き、“Syphilis(※梅毒)”についての章、15ページの最初の言葉は“nostrils(※鼻の穴)”。その本を脇に置き、聖書の15ページを開いてみると創世記の途中で、最初の言葉は“I”だった。それを閉じたところでJohnの寝室のドアが閉められる音が聞こえた。Sherlockは箱の上に両肘をつき頭を抱えると、イライラしながら髪をクシャクシャとかき乱した。そこへ小綺麗な服に着替えたJohnがやってきた。

    SH: 気分転換でもしないと。今夜は出掛けよう。

    JW: 実は、僕は、その、デートの約束が。

    Johnはニヤついた笑みを浮かべた。

    SH: 何?

    JW: お互いに好意を抱いている二人の人間が一緒に出かけて楽しく過ごすこと。

    SH: それは僕が提案したことじゃないか。

    JW: いや、違うね…少なくともそうあってほしくない。

    SH: (いじけた様子で)どこへ連れて行くんだ?

    JW: ああ、映画でも。

    SH: ああ、退屈、つまんない、ありきたりだな。

    するとSherlockはズボンのポケットから何かの紙切れを取り出すと、Johnへ歩み寄り、少しうつむいてニヤついた顔を隠しながら手渡した。

    SH: これなんかどうだ?

    Johnが手にした紙は、駅の停車場で黄色いペンキを探しているときにSherlockが一枚のポスターから切り取って持ち帰ったものだった。そのポスターはイエロー・ドラゴン・サーカスの案内で、問い合わせ用の電話番号が載っていた。

    SH: ロンドンで一夜限り。

    Johnは笑ったが、紙をSherlockに返した。

    JW: ありがとう、でも君からデートのアドバイスを受ける気にはなれないな。

     

     

     

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    original transcripts by Ariane DeVere