二人はしばらく黙って座っていた。Sherlockは携帯電話で何かを見ていて、Johnは少し緊張した様子で彼を盗み見ている。ようやくSherlockは電話を下ろしてJohnに話しかけた。

SH: いいよ、質問があるんだろう。

JW: うん、どこに行くんだ?

SH: 事件現場。次は?

JW: 仕事は何だ?何をしてるんだい?

SH: 何だと思う?

JW: (ゆっくりとためらいながら)私立探偵とかかな…

SH: でも?

JW: でも警察は私立探偵のとこに来たりしないだろ。

SH: 僕は顧問探偵(consulting detective)なんだ。世界でただ一人の。そういう仕事を創ったんだ。(※)

JW: どういうことだ?

SH: 手に負えないような事件があったとき、まあいつものことだけど、警察は僕に相談するんだ。

JW: 警察はアマチュアに相談したりしないだろ。

SherlockはちらっとJohnを見た。

SH: 昨日僕らが初めて会ったとき、僕が「アフガニスタンかイラク」って言ったら君は驚いたよな。

JW: ああ、どうして知ってた?

SH: 知らなかった、観察したんだ。君の髪型、それが軍人であることを物語っている。しかし部屋に入ってきたときの会話は…

フラッシュバック-Barts病院の研究室に入ってきたJohn。

JW: ああ、僕がいた頃とはちょっと変わったな。

SH: …Bartsで学んだと言った、だから軍医だ-明らかに。顔は日に焼けているが手首から上は焼けてない。海外に行っていたが日光浴のためじゃなかった。歩くときにはひどく脚を引きずっているが、立ったままで椅子にかけようとしない、まるで忘れてしまったかのように。だから少なくともある程度は精神的なことが関係してる。それは負傷したときの状況をトラウマとして抱えていることを示唆する。だから戦闘中に負った傷だ。戦闘による負傷、日焼け-アフガニスタンかイラクだ。

JW: セラピストのことも言ってたな。

SH: 心身症で脚を悪くしてる-なら当然セラピストに相談してるはずだ。それから兄弟について。

JW: ふむ?

SH: (手を差し出しながら)携帯電話。高価な機種だ、e-mailも送れてMP3プレイヤーも付いてる。でも君はルームシェアをしたがってる-電話に金を費やしたりしないだろう。だから貰い物だ。

SherlockはJohnから電話を受け取ると、それをひっくり返して眺めながら話を続けた。

SH: 引っかき傷。ひとつどころじゃない、いくつもある。鍵や小銭と一緒にポケットに入れられてたんだ。僕の隣に座っている男はこういう高級品をそんな風に扱ったりしない、だから前に別の持ち主がいたはず。次は少し簡単だ。もうわかってるだろ。

JW: 文字が彫ってある。

Johnの電話にはこのような文字が彫ってあった。

Harry Watson

From Clara

xxx

SH: Harry Watson。明らかに君の家族で古い電話を与えた人物だ。父親じゃない、これは若い男が使うガジェットだ。従兄弟かもしれない-でも君は戦争帰りの英雄だっていうのに生活する場所を見つけられずにいる。親しくしている親戚がいるとは考えにくい。だから兄弟だ。さて、Clara。Claraとは何者か?三つのキス(x)には愛が込められている。電話の値段からして妻だ、ガールフレンドじゃない。そして最近贈られたものに違いない、この機種は半年前に発売になったものだからな。もし妻が夫の元を去ったのなら、夫はこれを手放さないだろう。人は皆-感傷的だ。でも今回、夫はこれを手元に残したくなかった。離れたのは夫だ。そして電話を君にやった、君に連絡が取れる状態でいてほしかったんだろう。君は手頃な住まいを探しているが、兄弟に援助を求める気はない、つまり何か問題を抱えているんだ。たぶん君は兄弟の妻に好感を持っているが、兄弟の酒癖を好ましく思っていない。

JW: どうして飲酒癖のことがわかったんだ?

SH: (微笑んで)当てずっぽう。でも合ってたみたいだな。電源を繋ぐところ、コネクタの周りに小さな引っかき傷がいくつもある。毎晩充電するために繋ごうとするが、手が震えてるんだ。しらふの男の電話には見られない、酔っぱらいには付き物の傷。

そしてSherlockは電話をJohnに返した。

SH: そんなところだ-君は正しかったな。

JW: 正しいって?いったい何が?

SH: 警察はアマチュアに相談しない。

Sherlockは唇を噛んで窓の外を眺めた。Johnがどういう反応を示すか少し不安に思っているらしかった。

JW: そりゃ…見事だった。

それを聞いてSherlockはJohnへ振り返った。驚いてしまって、どう答えればいいのかすぐに言葉が出てこないようだった。

SH: ほんとうにそう思う?

JW: もちろんだよ。並外れてる。まったくもってすばらしい。

SH: みんな普通はそんな風に言ったりしない。

JW: みんな普通はなんて言う?

SH: 「失せろ」!

SherlockはJohnへ少し微笑んでみせた。Johnはニヤリとして窓の外を眺めた。車は犯行現場へ向かって走り続けた。

 

※顧問探偵

…原作「四つの署名」でHolmesが語った。「(…)僕は精神的高揚を渇望している。僕がこの特殊な職業を選んだのも、それが理由だ。というよりも作り上げた理由というべきかな。これは僕ただ一人だからな。」…「ただ一人の私立顧問探偵だ。グレッグソンやレストレードやアセルニー・ジョーンズが手に負えなくなった時-ついでに言えばそれはごく普通の状態だが-事件は僕の所に来る。僕は専門家としてデータを調べる。そして専門家としての意見を述べる」

また、Sherlockが携帯電話からJohnの境遇を推察するアイデアは、同じく「四つの署名」から。HolmesはWatsonの懐中時計から彼に酒癖の悪い兄がいることを見事に言い当ててWatsonを驚かせる。そしてWatsonに「当て推量ではないのか」と訊かれると「僕は当て推量など絶対にしない」と主張する。

 

 

ブリクストン。タクシーはローリストン・ガーデンへ乗り付け、SherlockとJohnは車から降りて警察によって「立ち入り禁止」のテープが張り渡された道路へ向かって歩いていった。

SH: 何か間違いはあったかな?

JW: Harryと僕はうまくいってない-いってなかった。ClaraとHarryは三ヶ月前にダメになって離婚手続き中、そしてHarryは飲酒癖がある。

SH: (自分のやったことに感動して)言った通りだ。まさか全部当ててしまうとは思わなかった。

JW: そして、HarryはHarrietの愛称なんだ。 

(※Harrietは女性の名前。通常はHattyという愛称になる。Harryは一般的に男性の愛称として使われる)

Sherlockはそれを聞いて急に立ち止まった。

SH: Harryは女兄弟。

JW: (前へ進みながら)なあ、僕はいったいここで何をしたらいいんだ?

SH: (悔しそうに、歯を食いしばりながら)女だった!

JW: いや、まじめに、僕はいったいここで何をする?

SH: (憤慨したまま歩き出しながら)いつも何かしらある。

二人がテープが張られたエリアへ辿り着くと、Donovan巡査部長が立っていた。

SD: どうも、変人さん。

SH: Lestrade警部に会いに来たんだ。

SD: どうして?

SH: 呼ばれたからだ。

SD: どうして?

SH: (皮肉を混じえて)僕に現場を見てほしいんだろ。

SD: ふうん、わたしが考えてることはわかってるわよね?

SH: (テープを持ち上げ、下をくぐりながら)いつもね、Sally。(鼻から息を吸い込んで)君が昨日の夜、家に帰らなかったことだって知ってる。

SD: そんな…(Johnの方を見て)えっと、こちらはどなた?

SH: 仕事仲間だ、Doctor Watson。

そしてSherlockはJohnの方へ振り返って、Donovanを紹介した。

SH: Doctor Watson、Sally Donovan巡査部長だ。(また皮肉を混じえて)旧い友人なんだ。

SD: 仕事仲間?あんたが仲間なんてどうしたの?!

驚いたDonovanはJohnへ問いかけた。

SD: あなた、この人のことちゃんとわかってるの?

JW: もし待ってた方がいいんだったら僕は…

SH: (Johnのためにテープを持ち上げてやりながら)だめだ。

Johnがテープをくぐり抜けると、Donovanは無線を取り上げて話し出した。

SD: (無線へ)変人が来ました。中に案内します。

そして彼女は二人を現場の家へ案内した。Sherlockはあたりを隈なく見渡し、家に着くと地面も眺めた。そこへ家から現場保護のためのカバーオールを来た男性が出てきた。

SH: ああ、Anderson。また会ったな。

Andersonは嫌悪感を露わにしてSherlockを見た。

Anderson: 事件現場なんだ。汚れを持ち込んで欲しくない。やましいところはないだろうな(clear)?

SH: (また鼻で深く息を吸い込みながら)ちっともない(clear)。ところで奥さんは長く家を空けてるのか?

Anderson: おい、自分でそれを見破ったなんて言うつもりか。誰かが告げ口したんだろ。

SH: 君のデオドラントが物語ってる。

Anderson: デオドラント?

SH: (妙だと言いたげな表情を浮かべ)男性用だな。

Anderson: なんだよ、当たり前だろ、俺は男なんだから!

SH: それにDonovan巡査部長も。

AndersonはぎくりとしてDonovanの方を見やった。Sherlockは鋭く匂いを嗅いだ。

SH: ああ、ただそんな匂いがしたもんだから。入ってもいいかな?

Anderson: (振り返って、怒りながらSherlockを指さし)おい待て、どんなにお前がほのめ…

SH: 僕は何もほのめかしてなんかいない。

SherlockはDonovanの前を通り過ぎて玄関へ向かった。

SH: Sallyは楽しくおしゃべりでもしようとやってきたんだろう、それから泊まることになった。

そして振り返って続きを明らかにしてみせた。

SH: 彼女は君の家の床を拭いたんだろう、膝の様子からそれがわかるんだよ。

AndersonとDonovanは恐怖に包まれながらSherlockを眺めた。Sherlockは取り澄まして微笑むと家の中に入っていった。Johnも彼の後についていったが、Donovanの前を通るときにわずかに、でも鋭く彼女の膝を見た。

 

 

Sherlockが先に立って玄関を進むと、Lestradeがカバーオールを身につけているところだった。SherlockはそれをJohnに示した。

SH: 君もこれを着るんだ。

GL: そいつは誰だ?

SH: (手袋を取りながら)一緒に行動する。

GL: でも誰なんだ?

SH: 一緒に行動すると言ったんだ。

Johnは上着を脱いでカバーオールを手に取る。Sherlockの方に目をやると、彼はゴム手袋を取り出していた。

JW: 君は着ないつもりか?

Sherlockは僕がそんなことをするわけがないだろうと言いたげな顔でJohnを見た。Johnは自分が馬鹿げた質問をしたような気分になって頭を振った。

SH: (Lestradeに)で、どこなんだ?

GL: (ゴム手袋を手に取りながら)上の階だ。

 

ピンク色の研究 3