その後、アパートの外でLestrade警部が近くに駐まっている救急車へ歩み寄った。サイレンを鳴らすパトカーに顔を向けて一時的に足を止めたが、その車を通過させると再び進み、救急車の後部にあるステップに腰を下ろしてコップから水を飲むSherlockへと向かった。赤いブランケットを掛けられている彼は救急隊員に空いている手の指先にクリップを留められ、バイタルチェックをされたところだった。クリップを外す隊員を憮然とした様子で見ている。

SH: どうして僕にブランケットなんか?

Lestradeに顔を向けると救急隊員は質問を無視して離れていった。

SH: こいつら僕にブランケットをくれるんだ。

GL: 弱ってるだろうからな。

SH: (コップを置きながら)弱ってなんかない。

GL: ああ、だが写真を撮りたがる奴もいるだろう。

警部がクスクス笑うとSherlockは忌々しい様子で顔を背けた。

SH: で、撃った奴はあんたんとこの人間じゃなかったんだな。

GL: まさか。そんな余裕は無かったよ。でもああいう奴には敵がいただろうからな。その内のひとりが後をつけてたのかもしれんな。それが誰にせよ、俺達が着いたときにはいなくなってたし、為す術がなかった。

SH: ああ、僕だったらそんな風には。

鋭い視線で警部を見上げる。

GL: そうか、言ってみろ。

コートの中から手帳を取り出す。

GL: 今度は書き留めてやろう。

SH: 僕の部屋の壁から見つかった銃弾は拳銃で撃たれたものだ。その類の武器であの距離から心臓を撃ち抜いた-それがあんたの探している鋭い一撃だが、ただの射撃の名手じゃない、闘っている。手がまったくぶれてないんだ、明らかに戦闘行為の経験がある。

ステップから立ち上がる。

SH: だが僕が危険に直面するまでは撃たなかった、だから強い道徳的観念の持ち主だ。あんたが探しているその男は恐らく軍人の経験があって、鋼の精神を持ち…

すると少し離れた舗道に立って彼の方を見ているJohnの姿を見つけて声が小さくなっていった。Sherlockは真相を悟り始めるとLestradeの方へ振り返った。

SH: ほんと、そんなのいるもんかな?うん、なんでもない。

GL: 何だって?

SH: 今言ったことは気にしないでくれ。動揺してるもんだから。

そう言うとブランケットを身体に引き寄せてJohnの方へ進み出した。

SH: たぶんブランケットも必要だな。

GL: (後を追いながら)どこ行くんだよ?

SH: 家のことで相談しないと。

GL: Sherlock…

Sherlockは振り返って警部を見る。

GL: (手帳をポケットにしまいながら)合ってたのか?

SH: 何が?

GL: 合ってる方の薬を選んだのか?

SH: さあね。意識が混乱して判断力を失ってた。どっちを選んだのかわからない。

再び進みだそうとして振り返る。

GL: あいつが勝ったのかもしれんぞ。

SH: (再び顔を向けて腹立たしげに)かもな。でもあいつは死んだ。

そう言って離れていった。Lestradeは静かに含み笑いをしながら視線を外す。SherlockはJohnへ歩み寄った。

JW: Donovan巡査部長がみんな説明してくれたよ…二つの薬だって?まったくひどい事件だな。おそろしい。

SH: 何処なんだ?

JW: (何もわからないふりを装おうとして失敗しながら)何のことかな?

SH: いいんだ。いいから。銃は何処にやったんだ?

JW: ああ、えっと、テムズ川の底かな。

Sherlockはうなずいた。

SH: 指についてる火薬を取り除いてしまわないとな。これで服役させられることはないだろうけど、裁判は回避しよう。

誰の耳にも入っていないかあたりを見渡す。

JW: タクシーの後を追っかけて、警察を呼んだよ、もちろん。それにさ、君から目を離さない方がいいと思ったから。

SherlockはじっとJohnを見つめる。

SH: だいじょうぶか?

JW: もちろんだいじょうぶだよ。

SH: 人をひとり殺したんだぞ。

JW: (考え込みながら視線を外して)死んでいく人間を何度も見てきた-良い奴も、友達も。もう眠れないだろうと思ってた。

再びSherlockの目を見るJohnの表情は穏やかだった。

JW: 今夜はよく眠れそうだ。

Johnが本当にだいじょうぶだということを理解したSherlockは微笑んだ。

SH: (そっと)きっとそうだな。

JW: 君はあの恐ろしい薬を飲もうとしてたんじゃないか?

SH: そんなわけない。時間を潰してた。

JW: いいや、違うね。そうやって刺激を得てるんじゃないのか?命をかけて自分の賢さを証明するなんて。

SH: なんでそんなことする?

JW: 君がバカだからだろ。

Sherlockはしばし彼に向かって眉をひそめたが、やがて笑みを浮かべた。ようやく自分を理解してくれる存在を見つけて喜んでいるようだ。Johnも彼に微笑み返す。

SH: 食事は?

JW: 腹ペコだ。

二人は振り返ってその場を離れ始める。

SH: 道の端にさ、二時までやってるいい中華料理屋があるんだ。いい中華料理屋っていうのは、三つ目のドアハンドルの下を調べればわかるもんなんだよ。

GL: おい!Sherlock!

目を回してSherlockは立ち止まり、歩み寄ってくるLestradeの方へ振り返る。

GL: まだ訊いておきたいことがある。

JW: えーと、Lestrade警部、僕が知るかぎりでは、こいつここ数日何にも食べてないんです。

Sherlockは驚いて彼を見つめる。

JW: (Lestradeに)ですから、もし次の案件までこいつを生かしておきたかったら、今させるべきなのは食事を摂ることですよ。

GL: そんであんたは一体何なんだ?

JW: (Sherlockを一瞥して)こいつの主治医です。

SH: (Lestradeに)「主治医に逆らうのはバカだけ(※)」だろ。

GL: わかったよ、明日は話を聞くからな。もう行け。

JW: どうも。

二人は振り返って歩き出した。Sherlockは新しく出来た友人へ誇らしげに微笑みかけ、Johnは安堵の溜め息を漏らす。Sherlockは肩からブランケットを外した。

SH: で、タクシーの後を追っかけたんだよな。足が悪いのは心因性によるものだって言っただろ。

JW: 僕だってわかってた。

道路に張り渡されている警察の現場保護テープへ辿り着くとSherlockが持ち上げて二人は下をくぐり抜けた。

SH: でも撃たれたんだよな。

JW: ああ、そうだよ。肩をね。

SH: ああ!

その後ろでLestradeは去っていく二人を眺めていた。再び取り出していた手帳を見下ろすと書き込んだページを破り、丸めてしまった。そこへ家に戻ってきたらしいHudson夫人が腹を立てながら二人へ駆け寄っていった。

MrsH: Sherlock!あたしの家に何をしてくれたの?

SH: あなたの家はどうにもなってないよ、Hudsonさん。二階に死んだ連続殺人犯がいるってことぐらいかな。

MrsH: 死んでるって?!

SH: ロンドンには良い知らせ、カーペットには悪い知らせ。

夫人の腕にブランケットを押し付けてJohnと共に歩き出す。

SH: おやすみ、Hudsonさん。

夫人はブランケットを見下ろして二人へ呼び掛ける。

MrsH: 家政婦じゃないってば!

JW: おやすみ、Hudsonさん!

ニヤつきながら二人は道を進んでいく。夫人は現場保護のテープを張る警察官へ振り返った。

MrsH: (腹を立てながら)中に入ります。

救急車のそばにいたDonovanがLestradeに歩み寄った。

GL: Donovan巡査部長。

SD: はい?

GL: (立ち去っていく二人を見ながら)明日はあの二人が必要だ。

SD: あの二人って?

GL: (再び道を見下ろして)Sherlock HolmesとDoctor Watson。

Sherlock HolmesとDoctor Watson-二人は互いに笑みを向けながら、誇らしげに現場を後にしていった。

 

※主治医に逆らうのはバカだけ…only a fool argues with his doctor。“Never Argue With A Fool(バカと言い争いをするな)”から?

[パイロット版] ピンク色の研究 5

※主な注釈は[放送版]ピンク色の研究をご覧ください※